Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第62話 Bランク降格勧告

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ガリウスが《奈落の口》最深部への挑戦を宣言した翌日、彼はパーティの現状をギルドに報告し、攻略のための準備金を前借りしようとギルドマスターのダリウスの元を訪れた。リリアが倒れていることは伏せ、あくまでSランクパーティとしての当然の権利を主張するつもりだった。

しかし、執務室で彼を待っていたダリウスの表情はいつになく厳しかった。

「……よく来たな、ガリウス」
ダリウスは、アレンたちに見せるような穏やかさとは無縁の、冷徹な目でガリウスを見据えた。
「ちょうど、お前さんたちに渡すものがあったところだ」

彼はデスクの引き出しから一枚の羊皮紙を取り出し、ガリウスの前に置いた。それはギルドの正式な印が押された公式の通達書だった。

「これは……?」
ガリウスが訝しげに尋ねる。
「読んでみろ」

ガリウスは、その羊皮紙を手に取った。そこに書かれていた見出しを見て、彼の顔から血の気が引いた。

『Sランクパーティ【熾天の剣】に対する、Bランクへの降格勧告』

「……な……んだと……?」
ガリウスの声が震えた。
「降格……勧告? どういうことだ、これは! 何かの間違いではないのか!」

「間違いではない」
ダリウスは静かに、しかしきっぱりと言い切った。
「ギルドは、お前さんたちのここ数ヶ月の活動記録を総合的に判断した。依頼の成功率の著しい低下。度重なる依頼の失敗と敗走。そして、パーティ内の不和に関する数々の報告。それら全てを鑑みた結果、現在の【熾天の剣】にはSランクを名乗る資格なし、と判断した」

その言葉の一つ一つが、ガリウスのプライドを容赦なく打ち砕いていく。

「馬鹿な! 俺たちは大陸最強の【熾天の剣】だぞ! たまたま少し調子を落としているだけだ! すぐに、元の…!」

「元には戻らん」
ダリウスはガリウスの言葉を冷たく遮った。
「お前は、まだ分かっていない。お前さんたちはパーティの心臓を、自らの手で抉り出したのだ。もう元に戻ることなどできん」
彼が言う『心臓』が、アレンのことであるのは明らかだった。

「これはあくまで『勧告』だ。強制ではない。だが、もしこの勧告を無視し、今後もSランクとして相応しくない失態を続けるようであれば、ギルドは強制的に、お前さんたちのライセンスを剥奪することになる。そうなれば、お前さんたちはただの人だ。冒険者として二度と活動することはできん」

それは最後通告だった。
Sランクとしての栄光にしがみつくか。それとも屈辱を受け入れ、Bランクからやり直すか。
ギルドは彼らに選択を迫っていた。

「……ふざけるな」
ガリウスの口から低い声が漏れた。彼は勧告書を握る手に力を込め、それをぐしゃぐしゃに握り潰した。
「俺が……この俺が、Bランクだと? あのアレンとかいう小僧どもと、同じランクに落ちろというのか!」

その瞳にはもはや理性のかけらもなかった。
自分を追い詰める全てのものが、アレンという存在に繋がっている。彼の歪んだ思考はそう結論づけていた。

「俺は、認めん! 断じて、認めんぞ!」
ガリウスはそう叫ぶと、握り潰した羊皮紙をダリウスの顔に叩きつけ、執務室を飛び出した。

「……愚かな奴め」
ダリウスは床に落ちた紙くずを冷ややかに見下ろし、深くため息をついた。
もはや、何を言っても無駄だろう。あの男は破滅の道しか見えていない。

ギルドを飛び出したガリウスは、怒りに任せて街をさまよった。
道行く人々が自分を指差して笑っているような気がした。「Sランクから落ちた、哀れな男だ」と。
かつては羨望と尊敬の眼差しを一身に浴びていた。それが今や、憐れみと嘲笑の対象になっている。その落差が彼には耐えられなかった。

(こうなったのも、全てアレンのせいだ!)
(あいつさえいなければ、俺は……俺たちは、今も最強だったはずだ!)

彼の憎悪は、もはや制御不能なレベルにまで膨れ上がっていた。
彼は宿屋へと駆け戻ると、ティナとジェイクにギルドからの降格勧告について、怒りに任せてまくし立てた。

「……なんだと? Bランクに降格?」
ジェイクは信じられないといった顔をした。
「そりゃ、まずいぜ……。Bランクになっちまったら、報酬も受けられる依頼も、今の半分以下になっちまう」

「だからこそ、だ!」
ガリウスは血走った目で叫んだ。
「だからこそ、我々は《奈落の口》の最深部を攻略し、世間を見返してやらねばならんのだ! 誰も成し遂げたことのない偉業を達成すれば、ギルドも世間も、俺たちを認めざるを得なくなる! 俺たちが真の最強であることを!」

もはや彼の挑戦はアレンへの対抗心だけではなかった。
失墜した名誉と、地に落ちたプライドを取り戻すための最後の、そして唯一の手段。
それがあのダンジョン攻略なのだと、彼は信じて疑わなかった。

ティナとジェイクは顔を見合わせた。
ガリウスの狂気は理解しがたい。だが、Bランクに降格するという現実は彼らにとっても死活問題だった。
一度手にした贅沢な暮らし。それを手放すことなど考えられない。
そのためには、この狂気の賭けに乗るしかないのか。

「……分かりましたわ」
ティナが諦めたように言った。
「やりましょう。その代わり、手に入れた秘宝は山分けではなく、貢献度に応じて……」

「ああ、分かっている! 成功すれば貴様らには望むだけの富を与えてやる!」

金。
もはや彼らを繋ぎ止めているのはそれだけだった。
彼らは互いの顔に浮かぶ醜い欲望の色に気づかないふりをしながら、無謀な挑戦への準備を始めた。
ベッドで眠るリリアの存在など、もはや彼らの頭の中にはなかった。

降格勧告は、彼らを思いとどまらせるどころか、むしろ破滅へのアクセルを踏ませる最悪の引き金となってしまった。
彼らは自分たちが破滅の瀬戸際に立っていることに気づかず、ただ目の前の栄光という名の蜃気楼に向かって突き進んでいく。
その先が断崖絶壁であることも知らずに。
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