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第63話 プライドと焦り
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Bランクへの降格勧告は、【熾天の剣】のメンバーたちに最後の選択を迫るものだった。しかし、彼らが選んだのは現実を受け入れ、地道に再起を図る道ではなかった。ガリウスが提示した、一発逆転の危険な賭け。その誘惑に、ティナとジェイクも抗うことはできなかった。
「《奈落の口》の最深部には古代文明の遺産が眠っているという伝説がある。それを手に入れれば金貨数万枚は下らない。それだけの金があれば、Bランクに降格しようが一生遊んで暮らせる」
ガリウスは二人の欲望を巧みに煽った。彼の言葉はもはやリーダーとしてのそれではなく、悪魔の囁きに近かった。
「……だが、リリアはどうするんだ?」
ジェイクが唯一の懸念点を口にした。
「あいつがいなきゃ回復役がいない。ポーションだけで、あのダンジョンの最深部まで行けるとは思えねえ」
「案ずるな」
ガリウスは不気味な笑みを浮かべた。
「リリアは連れていく」
「なっ……!? 正気か! 彼女はまだ意識が戻らないんだぞ!」
ティナがさすがに驚きの声を上げた。
「眠ったままの人間を、どうやって連れていくというのです!」
「簡単なことだ」
ガリウスは宿屋の隅に置いてあった大きな麻袋を指さした。
「この中に入れて、俺が担いでいく」
その言葉に、ティナとジェイクは絶句した。
それはもはや仲間にすることではない。リリアをただの『物』として扱うという宣言だった。
彼女が目を覚ました時、もし魔力が必要になれば無理やりにでも使わせる。そのための道具として。
「……お前、本当に人間かよ」
ジェイクが絞り出すように言った。
ガリウスは、その言葉を鼻で笑った。
「感傷に浸っている場合か? 俺たちは崖っぷちなんだ。使えるものは何でも使う。それが生き残るための唯一の道だ」
その狂気に満ちた論理に、もはや誰も反論できなかった。
彼らの心はプライドと焦り、そして金への欲望によって完全に麻痺していた。
彼らは人目を忍び、夜の闇に紛れて宿屋を抜け出した。ガリウスの背中には眠るリリアが入った大きな麻袋が担がれている。その姿はまるで人さらいのようだった。
彼らはギルドに何の届け出も出さず、誰にも告げることなくアークライトの街を後にした。
目指すは因縁のダンジョン、《奈落の口》。
かつてアレンを追放し、そして自分たちの凋落が始まった、全ての元凶とも言える場所。
道中、三人の間に会話はほとんどなかった。
ティナとジェイクは、自分たちがとんでもない過ちを犯しているのではないかという漠然とした不安に苛まれていた。だが、今更後戻りはできない。彼らはガリウスという狂気の機関車に乗ってしまったのだ。
ガリウスだけが異様な高揚感に包まれていた。
彼の頭の中ではすでに成功の光景が描かれていた。
最深部を攻略し、莫大な富と名声を手に入れる。そして、自分たちの力を世に示し、アレンという紛い物の英雄をその座から引きずり下ろす。
その甘美な妄想だけが彼の心を支えていた。
数日後、彼らは再び《奈落の口》の前に立っていた。
大地が大きく裂けたような不気味な入り口。そこから吹き出す冷たい風が彼らの頬を撫でる。
それはまるで地獄からの誘いのようだった。
「……本当に、行くのか」
ジェイクが最後の抵抗のように呟いた。
「もちろんだ」
ガリウスは振り返りもせずに答えた。
「行くぞ。俺たちの真の栄光を取り戻すために」
彼は何の躊躇もなく、ダンジョンの暗闇へと足を踏み入れた。
ティナとジェイクは一瞬だけ顔を見合わせたが、やがて諦めたようにその後ろに続いた。
彼らはまだ、この挑戦が自分たちのプライドを回復させるためのものではなく、完全に粉砕するための最後の舞台となることを知らなかった。
彼らを待っているのは栄光でも富でもない。
ただ、絶対的な、そして救いのない絶望だけだった。
プライドと焦りに駆られた英雄たちの、最後の、そして最も愚かな挑戦が、今、静かに始まろうとしていた。
「《奈落の口》の最深部には古代文明の遺産が眠っているという伝説がある。それを手に入れれば金貨数万枚は下らない。それだけの金があれば、Bランクに降格しようが一生遊んで暮らせる」
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「……だが、リリアはどうするんだ?」
ジェイクが唯一の懸念点を口にした。
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「案ずるな」
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「リリアは連れていく」
「なっ……!? 正気か! 彼女はまだ意識が戻らないんだぞ!」
ティナがさすがに驚きの声を上げた。
「眠ったままの人間を、どうやって連れていくというのです!」
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「……お前、本当に人間かよ」
ジェイクが絞り出すように言った。
ガリウスは、その言葉を鼻で笑った。
「感傷に浸っている場合か? 俺たちは崖っぷちなんだ。使えるものは何でも使う。それが生き残るための唯一の道だ」
その狂気に満ちた論理に、もはや誰も反論できなかった。
彼らの心はプライドと焦り、そして金への欲望によって完全に麻痺していた。
彼らは人目を忍び、夜の闇に紛れて宿屋を抜け出した。ガリウスの背中には眠るリリアが入った大きな麻袋が担がれている。その姿はまるで人さらいのようだった。
彼らはギルドに何の届け出も出さず、誰にも告げることなくアークライトの街を後にした。
目指すは因縁のダンジョン、《奈落の口》。
かつてアレンを追放し、そして自分たちの凋落が始まった、全ての元凶とも言える場所。
道中、三人の間に会話はほとんどなかった。
ティナとジェイクは、自分たちがとんでもない過ちを犯しているのではないかという漠然とした不安に苛まれていた。だが、今更後戻りはできない。彼らはガリウスという狂気の機関車に乗ってしまったのだ。
ガリウスだけが異様な高揚感に包まれていた。
彼の頭の中ではすでに成功の光景が描かれていた。
最深部を攻略し、莫大な富と名声を手に入れる。そして、自分たちの力を世に示し、アレンという紛い物の英雄をその座から引きずり下ろす。
その甘美な妄想だけが彼の心を支えていた。
数日後、彼らは再び《奈落の口》の前に立っていた。
大地が大きく裂けたような不気味な入り口。そこから吹き出す冷たい風が彼らの頬を撫でる。
それはまるで地獄からの誘いのようだった。
「……本当に、行くのか」
ジェイクが最後の抵抗のように呟いた。
「もちろんだ」
ガリウスは振り返りもせずに答えた。
「行くぞ。俺たちの真の栄光を取り戻すために」
彼は何の躊躇もなく、ダンジョンの暗闇へと足を踏み入れた。
ティナとジェイクは一瞬だけ顔を見合わせたが、やがて諦めたようにその後ろに続いた。
彼らはまだ、この挑戦が自分たちのプライドを回復させるためのものではなく、完全に粉砕するための最後の舞台となることを知らなかった。
彼らを待っているのは栄光でも富でもない。
ただ、絶対的な、そして救いのない絶望だけだった。
プライドと焦りに駆られた英雄たちの、最後の、そして最も愚かな挑戦が、今、静かに始まろうとしていた。
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