Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

文字の大きさ
61 / 98

第61話 亀裂

しおりを挟む
宿屋の一室に、重苦しい沈黙が満ちていた。ベッドではリリアが人形のように眠り続け、そのか細い寝息だけが、彼女がまだ生きていることを示している。ガリウス、ティナ、ジェイクの三人はテーブルを囲んで座っていたが、互いに視線を合わせようともしなかった。

「――我々は再び、あのダンジョンへ挑む」

その沈黙を破ったのは、ガリウスの低い声だった。
「かつてアレンを追放した、あの《奈落の口》だ。そして今度こそ、その最深部を我々だけで攻略してみせる!」

その狂気に満ちた宣言に、ティナとジェイクは呆気にとられた顔を上げた。

「……正気ですの、ガリウス様」
最初に口を開いたのはティナだった。その声にはもはや以前のような媚びる響きはなく、冷たい侮蔑の色が滲んでいる。
「リリアがこの状態で? ヒーラーもいない、ただでさえ満身創痍の私たちが、あの高難易度ダンジョンに、それも最深部まで挑むと? 自殺しに行くようなものですわ」

「まったくだ」
ジェイクも腕を組んで嘲るように言った。
「あんた、ついに頭がおかしくなっちまったんじゃねえか? 俺はごめんだぜ。あんな無謀な自殺行に付き合う気はねえ」

二人の公然とした反発。それはこれまでガリウスの独裁下にあったこのパーティではありえなかったことだ。だが、度重なる失敗と報酬の減少、そしてリリアの離脱は、彼らからガリウスへの畏怖を完全に奪い去っていた。

しかし、ガリウスは彼らの反発など意にも介さなかった。彼の目は正常ではない光を宿して、虚空を見つめている。
「黙れ。これは決定だ」

「決定ですって? 誰が決めたのです? 私たちはあなたの駒ではありませんわ!」
ティナが声を荒らげて立ち上がった。

「そうだそうだ! 俺たちにも意見を言う権利くらいあるはずだぜ!」
ジェイクも続く。

ガリウスは、ゆっくりと二人を交互に見た。その瞳は、まるで泥沼の底のように暗く淀んでいた。
「……貴様ら、俺に逆らうというのか。この、Sランクパーティ【熾天の剣】のリーダーである、この俺に」

「Sランク? 笑わせるな」
ジェイクは吐き捨てるように言った。
「今の俺たちが本当にSランクの実力を持っているとでも思ってんのか? Bランクの依頼にさえヒーヒー言いながら逃げ帰ってくるような俺たちが、か?」

その言葉は、ガリウスの最も痛いところを正確に突き刺した。彼の顔が屈辱に歪む。

「……なぜ、そこまで《奈落の口》にこだわるのです?」
ティナが少しだけ冷静さを取り戻し、尋ねた。
「何か理由があるのでしょう?」

「理由……?」
ガリウスは虚ろにその言葉を繰り返した。
「理由だと? 決まっているだろう。証明するのだ」

「何をです?」

「俺たちが、あの男……アレンなどいなくとも、最強であることをだ!」

ガリウスはテーブルを拳で強く叩きつけた。その声はもはや怒りというより、悲痛な叫びに近かった。
「あの男を追い出した場所で、あの男がたどり着けなかった最深部を、俺たちだけで攻略する。それこそが奴の紛い物の名声を打ち砕き、俺たちの真の力を世に示す唯一の方法なのだ!」

その言葉を聞き、ティナとジェイクは全てを察した。
これは合理的な作戦などではない。ただの、嫉妬と憎悪に狂った男の自己満足のための狂言なのだと。

「……馬鹿馬鹿しい」
ティナは心底うんざりしたようにため息をついた。
「あなたのプライドのために、私たちが命を懸ける義理はありませんわ。私はこの依頼には参加しません」

「俺もパスだ。死ぬのはごめんだからな」
ジェイクもはっきりと拒絶の意を示した。

二人の明確な反逆に、ガリウスの顔から血の気が引いた。彼はわなわなと唇を震わせ、絞り出すように言った。
「……貴様ら、このパーティを抜けるというのか。俺を、裏切るというのか!」

「裏切ったのは、どっちですの?」
ティナの冷たい声が部屋に響いた。
「仲間を便利な道具としか見ず、自分の過ちを認めず、全てを私たちのせいにしてきたのは、あなたの方ではありませんか」

「……」
ガリウスは何も言い返せなかった。

パーティの亀裂はもはや修復不可能なレベルにまで達していた。誰もがこの場で解散を宣言してもおかしくない。そんな雰囲気だった。
だが、ガリウスは最後の切り札を切った。

「……いいだろう。ならば、今回の依頼で手に入れた報酬は全て俺が独り占めする。貴様らには銅貨一枚くれてやらん。それでもいいのだな?」

その言葉に、ティナとジェイクの顔色が変わった。
彼らはこの数ヶ月、まともな収入を得ていない。貯蓄も日に日に減っていく一方だ。《奈落の口》の最深部には莫大な価値を持つ秘宝が眠っているという伝説がある。もし、それを手に入れることができれば……。

「……きたねえぞ、ガリウス」
ジェイクが低い声で唸った。
「金で俺たちを釣る気か」

「どうとでも言え。だが、貴様らにも金は必要だろう?」
ガリウスは二人の弱みを見透かしたように、卑劣な笑みを浮かべた。
「俺に従い、この危険な賭けに乗るか。それともここで全てを失い、一文無しのDランク冒険者からやり直すか。選ぶがいい」

それは悪魔の選択だった。
ティナとジェイクは顔を見合わせた。互いの目に葛藤と金への欲望が渦巻いている。
彼らの絆はもはや金でしか繋ぎ止められないほど、脆く、そして醜いものになっていた。

長い、長い沈黙の後。
ティナが重い口を開いた。

「……分かりましたわ。その話、乗りましょう」
彼女は自分のプライドを捨て、金を選んだのだ。
「……ちっ。仕方ねえな」
ジェイクもそれに続いた。

ガリウスは満足げに頷いた。
「それでいい。それでこそ、俺の仲間だ」
その顔にはかつてのリーダーとしての威厳はなく、ただ破滅へと向かう道化師のような、歪んだ笑みが浮かんでいるだけだった。

こうして、【熾天の剣】の最後の遠征は決まった。
信頼も、仲間意識も、誇りさえも失い、ただ金という欲望だけで繋がれた歪なパーティ。
彼らは自らの手で、破滅への扉を開けようとしていた。
その先に待つ、あまりにも残酷な結末を、まだ誰も知らなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。 絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。 辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。 一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」 これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!

処理中です...