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第64話 無謀なる再挑戦
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《奈落の口》の内部は、以前訪れた時と何も変わっていなかった。じめじめとした空気、壁から滴る粘液、そして時折響き渡るモンスターの咆哮。しかし、それを進む【熾天の剣】のメンバーたちの心境は全く異なっていた。
「ジェイク! 斥候はどうした! さっさとしろ!」
「ティナ! 魔法の準備が遅い! 足を引っ張るな!」
ガリウスの怒声が狭い通路に反響する。彼の焦りは尋常ではなかった。一刻も早く最深部にたどり着き、自分の力を証明したい。その思いが、彼の判断力を著しく鈍らせていた。
以前はジェイクが慎重に罠の有無を確認し、ティナが敵の配置を魔法で探ってから進んでいた。だが、今のガリウスはそんな悠長な手順を踏むことを許さなかった。
「罠など、見つけ次第俺が叩き潰す! 敵は現れ次第俺が斬る! 貴様らはただ俺についてくればいい!」
それはあまりにも無謀で、傲慢な宣言だった。
ティナとジェイクは、そのやり方に明確な反意を示した。
「冗談ではありませんわ! そんなやり方では、いつか致命的な罠にかかります!」
「そうだぜ! 俺たちは、あんたの鉄砲玉じゃねえ!」
「黙れ!」
ガリウスは聞く耳を持たなかった。
「俺のやり方が最強への最短ルートだ! 俺を信じられないというなら、今すぐここから立ち去るがいい! 報酬は全て俺のものになるだけだ!」
またしても、金。
その言葉に、ティナとジェイクは唇を噛み、渋々従うしかなかった。
彼らの間にはもはや仲間としての信頼関係など一片も残っていなかった。ただ、金の切れ目が縁の切れ目という、脆く、醜い関係性だけが、この無謀な挑戦をかろうじて繋ぎ止めていた。
ガリウスは、宣言通り、まるで嵐のようにダンジョンを突き進んでいった。
通路に仕掛けられた落とし穴を見つけると、彼はそれを飛び越えるのではなく、わざと作動させ、落ちる寸前に壁を蹴って対岸に飛び移るという、無駄に派手なパフォーマンスを見せた。
モンスターの群れに遭遇すれば、彼は仲間との連携など一切考えず、単身で突っ込んでいく。
「うおおおおおっ!」
オークの群れの中心で、彼は大剣を振り回した。その剣技は確かにSランクの名に恥じない、凄まじいものだった。
だが、それは無防備なものでもあった。彼の背後や側面は、がら空きだ。
以前なら、そこにアレンの絶対的なヒールがあった。そして、ティナの援護魔法やジェイクの奇襲が、彼の死角を完璧にカバーしていた。
だが、今は違う。
ティナは自分の身を守るために防御魔法の詠唱に追われている。
ジェイクは危険を冒してまでガリウスを助ける気など毛頭なく、遠巻きに戦況を眺めているだけだ。
そして、回復役はいない。
「ぐっ……!」
ガリウスの脇腹にオークの錆びた剣が深々と突き刺さった。
「ちぃっ!」
彼は即座に懐からポーションを取り出し、傷口に直接振りかけた。激痛に顔を歪めながらも彼は無理やり戦いを続ける。
一本、また一本と、高価なポーションがまるで安酒のように消費されていく。
その戦いぶりは、傍から見ればひどく滑稽で、そして痛々しいものだった。
最強の剣士が、自分の力を誇示するために、必死に、そして無様に足掻いている。
ティナとジェイクは、その姿を冷めた目で見つめていた。
(……馬鹿な男)
二人の心は、完全に一つになっていた。
(さっさと、あいつが持っている秘宝の地図の場所までたどり着いて、お宝を手に入れたら、こんな狂人とはおさらばだ)
彼らの目的はもはやパーティとしての成功ではない。ただ、自分の利益だけだった。
ガリウスもまた、仲間を信頼してはいなかった。彼にとってティナとジェイクは自分の偉業を見届けるための、ただの『証人』に過ぎなかった。
そして、彼の背中で麻袋に入れられたリリアは、ただの『予備のポーション』でしかなかった。
歪な思惑を抱えたまま、彼らはダンジョンの深部へと進んでいく。
誰もが自分の欲望のことしか考えていない。
誰もが互いを信じていない。
そんなパーティが、この先に待ち受ける本当の試練を乗り越えられるはずがなかった。
彼らが、かつてアレンを追放した中層エリア、ミノタウロスがいたあの広間にたどり着いた時。
そこで彼らを待っていたのは、一体のミノタウロスではなかった。
「……なんだ、こいつらは」
ジェイクが愕然とした声を上げた。
広間を埋め尽くしていたのは、全身が黒い瘴気を纏ったミノタウロスの『群れ』だった。その数は十体以上。そして、そのどれもが以前戦った個体よりも遥かに強力な気配を放っていた。
「グルオオオオオオッ!」
ミノタウロスたちが一斉に彼らに気づき、血走った目で咆哮を上げた。
それは、あまりにも絶望的な光景だった。
「……Sランクの意地を見せてやる」
ガリウスは震える声でそう呟いた。
それが、虚勢であることは誰の目にも明らかだった。
彼のプライドと焦りが、彼らを逃げ場のない死地へと誘い込んでしまったのだ。
無謀なる再挑戦の、本当の幕が、今、上がろうとしていた。
「ジェイク! 斥候はどうした! さっさとしろ!」
「ティナ! 魔法の準備が遅い! 足を引っ張るな!」
ガリウスの怒声が狭い通路に反響する。彼の焦りは尋常ではなかった。一刻も早く最深部にたどり着き、自分の力を証明したい。その思いが、彼の判断力を著しく鈍らせていた。
以前はジェイクが慎重に罠の有無を確認し、ティナが敵の配置を魔法で探ってから進んでいた。だが、今のガリウスはそんな悠長な手順を踏むことを許さなかった。
「罠など、見つけ次第俺が叩き潰す! 敵は現れ次第俺が斬る! 貴様らはただ俺についてくればいい!」
それはあまりにも無謀で、傲慢な宣言だった。
ティナとジェイクは、そのやり方に明確な反意を示した。
「冗談ではありませんわ! そんなやり方では、いつか致命的な罠にかかります!」
「そうだぜ! 俺たちは、あんたの鉄砲玉じゃねえ!」
「黙れ!」
ガリウスは聞く耳を持たなかった。
「俺のやり方が最強への最短ルートだ! 俺を信じられないというなら、今すぐここから立ち去るがいい! 報酬は全て俺のものになるだけだ!」
またしても、金。
その言葉に、ティナとジェイクは唇を噛み、渋々従うしかなかった。
彼らの間にはもはや仲間としての信頼関係など一片も残っていなかった。ただ、金の切れ目が縁の切れ目という、脆く、醜い関係性だけが、この無謀な挑戦をかろうじて繋ぎ止めていた。
ガリウスは、宣言通り、まるで嵐のようにダンジョンを突き進んでいった。
通路に仕掛けられた落とし穴を見つけると、彼はそれを飛び越えるのではなく、わざと作動させ、落ちる寸前に壁を蹴って対岸に飛び移るという、無駄に派手なパフォーマンスを見せた。
モンスターの群れに遭遇すれば、彼は仲間との連携など一切考えず、単身で突っ込んでいく。
「うおおおおおっ!」
オークの群れの中心で、彼は大剣を振り回した。その剣技は確かにSランクの名に恥じない、凄まじいものだった。
だが、それは無防備なものでもあった。彼の背後や側面は、がら空きだ。
以前なら、そこにアレンの絶対的なヒールがあった。そして、ティナの援護魔法やジェイクの奇襲が、彼の死角を完璧にカバーしていた。
だが、今は違う。
ティナは自分の身を守るために防御魔法の詠唱に追われている。
ジェイクは危険を冒してまでガリウスを助ける気など毛頭なく、遠巻きに戦況を眺めているだけだ。
そして、回復役はいない。
「ぐっ……!」
ガリウスの脇腹にオークの錆びた剣が深々と突き刺さった。
「ちぃっ!」
彼は即座に懐からポーションを取り出し、傷口に直接振りかけた。激痛に顔を歪めながらも彼は無理やり戦いを続ける。
一本、また一本と、高価なポーションがまるで安酒のように消費されていく。
その戦いぶりは、傍から見ればひどく滑稽で、そして痛々しいものだった。
最強の剣士が、自分の力を誇示するために、必死に、そして無様に足掻いている。
ティナとジェイクは、その姿を冷めた目で見つめていた。
(……馬鹿な男)
二人の心は、完全に一つになっていた。
(さっさと、あいつが持っている秘宝の地図の場所までたどり着いて、お宝を手に入れたら、こんな狂人とはおさらばだ)
彼らの目的はもはやパーティとしての成功ではない。ただ、自分の利益だけだった。
ガリウスもまた、仲間を信頼してはいなかった。彼にとってティナとジェイクは自分の偉業を見届けるための、ただの『証人』に過ぎなかった。
そして、彼の背中で麻袋に入れられたリリアは、ただの『予備のポーション』でしかなかった。
歪な思惑を抱えたまま、彼らはダンジョンの深部へと進んでいく。
誰もが自分の欲望のことしか考えていない。
誰もが互いを信じていない。
そんなパーティが、この先に待ち受ける本当の試練を乗り越えられるはずがなかった。
彼らが、かつてアレンを追放した中層エリア、ミノタウロスがいたあの広間にたどり着いた時。
そこで彼らを待っていたのは、一体のミノタウロスではなかった。
「……なんだ、こいつらは」
ジェイクが愕然とした声を上げた。
広間を埋め尽くしていたのは、全身が黒い瘴気を纏ったミノタウロスの『群れ』だった。その数は十体以上。そして、そのどれもが以前戦った個体よりも遥かに強力な気配を放っていた。
「グルオオオオオオッ!」
ミノタウロスたちが一斉に彼らに気づき、血走った目で咆哮を上げた。
それは、あまりにも絶望的な光景だった。
「……Sランクの意地を見せてやる」
ガリウスは震える声でそう呟いた。
それが、虚勢であることは誰の目にも明らかだった。
彼のプライドと焦りが、彼らを逃げ場のない死地へと誘い込んでしまったのだ。
無謀なる再挑戦の、本当の幕が、今、上がろうとしていた。
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