Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第90話 残された者

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リリアが去った後、クレリア村の祭りは夜まで続いた。アレンは仲間と共に村人たちとの温かい交流を楽しんだ。彼の心は久しぶりに故郷で過ごす穏やかな時間と、かけがえのない仲間たちとの絆によって完全に満たされていた。

夜が更け、祭りの後片付けも終わった頃。アレンはソフィア、カイ、そして眠ってしまったリーナを抱きかかえ、村長が用意してくれた宿舎へと戻っていた。
夜空には満天の星が輝いている。

「……なあ、アレン」
帰り道、ソフィアがぽつりと呟いた。
「あんたは、本当にそれでよかったのか?」

「何がだ?」

「あの聖女様のことだよ。あんたは『償え』と言った。だが、あいつ一人に一体何ができるって言うんだ。仲間も力も帰る場所さえ失って……。下手をすればどこかで野垂れ死にするのが関の山だろ。それはあんたが望んだ結末なのか?」

ソフィアらしい不器用な優しさだった。彼女はリリアの未来を心のどこかで案じていたのだ。
カイも黙ってアレンの答えを待っている。

アレンは腕の中で安らかな寝息を立てるリーナの髪を優しく撫でた。
そして星空を見上げながら、静かに答えた。

「……俺にも、分からない」
それは意外な言葉だった。
「彼女がこれからどうなるのか。自分の罪と向き合い、新しい道を見つけられるのか。それとも絶望に負けて朽ち果ててしまうのか。それは誰にも分からない。彼女自身にさえもな」

「だが」と彼は続けた。その声には揺るぎない確信が込められていた。
「俺が手を差し伸べるべきではなかった。それだけは確かだ」

「どうしてだ?」

「もし俺が彼女を許し、パーティの蘇生に応じていたらどうなっていただろう?」
アレンは二人に問いかけた。
「きっと彼らは何も変わらない。自分たちの過ちから目を背け、また同じ過ちを繰り返すだけだ。そしてリリアも永遠に俺への依存から抜け出せず、自分の足で立つことはできなかっただろう。それは救いじゃない。ただの甘やかしだ」

彼の言葉には厳しいが、深い真理があった。
本当の救いとは、手を差し伸べて安易に助けてやることではない。相手が自らの力で立ち上がることを信じて見守ること。
時には突き放すことこそが、最大の優しさになることもあるのだ。

「彼女はもう聖女じゃない。ただのリリアという一人の人間だ。一人の人間として、自分の人生を自分の責任で生きていかなければならない。俺は彼女にその『権利』を返しただけだ。たとえその道がどれだけ過酷なものだったとしてもな」

ソフィアもカイも、もう何も言わなかった。
彼らはアレンという男の器の大きさと、その底にある本当の優しさの意味を改めて理解していた。

「……まあ、あんたがそう言うなら、俺は何も言わんさ」
ソフィアはそう言うと、わざと大きな欠伸をした。
「さて、俺はもう寝るぞ! 明日はまた鍛錬だからな!」

彼女は足早に自分の部屋へと消えていった。
カイもアレンに静かに一礼すると、音もなく闇に紛れた。

一人残されたアレンは腕の中のリーナをそっとベッドに寝かせた。
そして窓辺に立ち、再び星空を見上げた。

(……行け、リリア)
彼は心の中で、遠い空の向こうにいるであろうかつての幼馴染に語りかけた。
(君の道は君だけのものだ。もう俺がそこにいることはない。だが、君が君自身の力で光を見つけ出すことを、空の片隅から祈っている)

それは彼が彼女に捧げる、最後の、そして本当の意味での『ヒール』だったのかもしれない。

―――一方。
リリアはクレリア村から数キロ離れた街道沿いの森の中で、一人膝を抱えて座り込んでいた。
夜の森は冷たく暗い。
獣の遠吠えが遠くから聞こえてくる。
以前の彼女なら恐怖で気を失っていただろう。
だが今の彼女の心には、恐怖さえも入り込む隙間がなかった。
ただ、空っぽだった。

彼女は懐から、リーナがくれた半分このパンを取り出した。
そしてそれをゆっくりと一口だけ齧った。
味はしなかった。
だが、そのパンが自分の体の中で熱に変わっていくのを感じた。
生きるためのエネルギーに。

(……生きろ、ということか)

アレンもリーナも、自分にそう言っているような気がした。
死ぬことは許されない。
ただこの罪を背負って生き続けろ、と。

彼女は立ち上がった。
その足取りはまだおぼつかない。
だが彼女は一歩、前に足を踏み出した。
そして、また一歩。

どこへ行くのか分からない。
何をするのかも決まっていない。
ただ歩き続けた。
夜明けが来て太陽が昇っても、彼女は歩き続けた。

残された者。
彼女はそうだった。
仲間たちの死と自分の罪。その重い荷物をたった一人で背負って歩き続ける。
それが彼女に与えられた運命。

彼女は地面に突伏したままではいなかった。
アレンが去った後も、彼女の物語はまだ終わってはいなかったのだ。
それは英雄譚のように輝かしくはなく、誰に語られることもない、あまりにも孤独で地道な一人の少女の贖罪の物語。
その本当の第一歩が今、踏み出されたのだった。

(第四章:もう遅い 了)
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