ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第12話 速度を制する

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洞窟への帰路は、重苦しい沈黙に支配されていた。四人の仲間を失ったという事実は、ゴブリンたちの心に深い影を落としている。それは単なる戦力の損失ではない。俺が築き上げてきた「負けない組織」という幻想が、初めて崩れ去った瞬間だった。

洞窟に戻ると、残留部隊が俺たちの無残な姿を見て息を呑んだ。資材管理係のゴブリンたちが、慌てて傷の手当てのために駆け寄ってくる。俺は彼らに負傷者の治療を任せ、一人広場の玉座へと向かった。

ゴブリンたちの視線が、背中に突き刺さる。その視線には、恐怖や忠誠心だけではない、新たな感情が混じり始めていた。

疑念だ。

このボスについていって、本当に大丈夫なのか。森の奥は、俺たちが考えていたよりも遥かに危険な場所なのではないか。そんな声なき声が、洞窟の空気全体を重くしていた。

俺は玉座に腰を下ろし、目を閉じた。ここで俺が弱気な姿を見せれば、この組織は内側から崩壊するだろう。必要なのは、次なる一手。この敗北を覆し、失われた信頼を回復するための、明確で、そして圧倒的な勝利だ。

俺の脳裏に、あの白い弾丸の残像が焼き付いている。キラーラビット。奴らの速度は脅威だ。だが、攻略不可能な要塞など存在しない。どんな強みにも、必ず弱点はある。

奴らの強みは、開けた場所での圧倒的な機動力。ならば、その強みを殺せばいい。

俺は頭の中で、新たな作戦を構築していく。

一つ、戦場を限定する。奴らが自由に走り回れない場所、すなわち森の中に誘い込む。
二つ、速度を殺す。ただの森ではない。罠を張り巡らせた、俺たちだけの狩場を作り上げる。
三つ、連携を断つ。奴らの統率力を上回る、さらに緻密な連携で包囲し、分断する。

言葉にすれば単純だが、実行するには周到な準備が必要だ。そして何より、恐怖に打ち勝ち、再びあの白い悪魔に立ち向かうという、ゴブリンたちの意志が不可欠だった。

翌日、俺は全てのゴブリンを広場に集めた。負傷者も、まだ傷が癒えていない者も、例外なく。

「昨日、俺タチハ負ケタ」

俺は静かに切り出した。ゴブリンたちは俯き、唇を噛んでいる。

「四人ノ仲間ガ死ンダ。多クノ者ガ傷ヲ負ッタ。アイツラハ強イ。速イ。今ノママデハ、決シテ勝テナイ」

俺が敗北を認めたことに、ゴブリンたちの間に動揺が走る。

「ダガ」と俺は続けた。「俺ハ、逃ゲルツモリハナイ」

俺は玉座から立ち上がり、ゴブリンたちを見据えた。

「アノ速サハ、脅威ダ。ダガ、アレヲ手ニ入レレバ、俺タチハ更ニ強クナレル。コノ森デ生キ残ルタメニ、アノ力ハ絶対ニ必要ダ。俺ハ、アノウサギヲ食ウ。オマエタチハ、ドウする?」

俺の問いに、誰も答えられなかった。彼らの目には、昨日の惨劇の恐怖がまだ色濃く残っている。

「無理ダ、ボス」

沈黙を破ったのは、狩り部隊のリーダーだった。彼は片腕に包帯を巻きながらも、真っ直ぐに俺を見て言った。

「アイツラニハ勝テナイ。逃ゲルベキダ」

その言葉は、多くのゴブリンたちの本心だっただろう。広場に、賛同するような空気が広がり始める。

「オマエノ言ウ通リダ」俺は意外にも、彼の意見を肯定した。「今ノママデハ、勝テナイ。ダカラ、勝テル方法ヲ考エタ」

俺は地面に、昨日見た草原と、それに隣接する森の図を描いた。そして、俺が考え出した対キラーラビット戦術を、一つ一つ丁寧に説明し始めた。

ツタを使った足止めの罠。地面に掘った浅い落とし穴。そして、三方向から徐々に追い込んでいく包囲網。それは、これまでのゴブリンの戦いとは全く次元の違う、知略の限りを尽くした作戦だった。

ゴブリンたちは、最初は半信半疑で聞いていた。だが、俺の説明が進むにつれて、その目に宿る恐怖の色が、少しずつ別の色に変わっていくのが分かった。それは、驚きと、そして微かな希望の色だった。

「コレナラ……イケルカモシレナイ」

誰かが、ぽつりと呟いた。

「コレデモ負ケタラ、俺ハ森カラ撤退スル。二度ト奴ラニハ近ヅカナイ。ダガ、勝テバ、俺タチハ新シイ力ヲ手ニ入レル。最後ニ、モウ一度ダケ俺ニ賭ケテミナイカ」

俺の言葉は、静かにゴブリンたちの心に染み込んでいった。恐怖に支配された集団を再び戦場に向かわせるには、脅迫でも命令でもない。明確なビジョンと、勝利への合理的な道筋を示すことこそが必要なのだ。

数日の間、俺たちは作戦の準備に全ての時間を費やした。資材管理係は大量のツタを集め、狩り部隊は森の中に無数の罠を仕掛けた。探索部隊は、キラーラビットの群れの動向を、命がけで監視し続けた。

そして、決戦の日。

俺たちは、あの草原に隣接する森の中に、完璧な狩場を作り上げていた。

作戦は、囮から始まった。俺を含めた足の速い五体が、草原へと躍り出る。俺たちの姿を認めたキラーラビットたちが、案の定、一斉にこちらへと殺到してきた。

「森へ誘い込め!」

俺たちは奴らの攻撃を紙一重でかわしながら、計画通り森の中へと退避する。キラーラビットたちは、獲物を追い詰めたと信じ込み、何の疑いもなく罠の領域へと足を踏み入れた。

その瞬間、戦場の様相は一変した。

「今ダ!」

森の木々の上から、合図と共に大量のツタが投げ込まれる。驚いたキラーラビットたちの足にツタが絡みつき、その動きが一瞬だけ鈍った。

その一瞬が、俺たちにとっては十分すぎる時間だった。

「囲メ!」

茂みに隠れていた本隊が、一斉に飛び出す。キラーラビットたちは慌てて逃げようとするが、その進路上には巧妙に隠された落とし穴が待っていた。次々と罠にかかり、体勢を崩していく。

奴らの最大の武器である速度と連携は、完全に殺された。あとは、ただのウサギだ。

「殺セ!」

俺の号令で、ゴブリンたちが雄叫びを上げて襲いかかった。混乱し、分断されたキラーラビットたちに、もはや抵抗する術はない。棍棒の一撃が、次々と白い身体を叩き潰していく。

俺は、群れの中でも一際大きく、リーダー格と思われる個体に狙いを定めた。罠を巧みにかわし、なおも高速で動き回る手強い相手だ。

俺は奴の進路上に回り込み、自らも罠となった。俺の身体に食らいつこうと跳躍した瞬間、俺は【硬質外皮】で全身を固め、その突進を真正面から受け止めた。

「捕マエタ」

俺の腕が、リーダー格のキラーラビットをがっしりと掴む。腕の中で暴れるウサギの首筋に、俺は容赦なく牙を突き立てた。

【ユニークスキル『弱肉強食』が発動しました】
【キラーラビット(リーダー)の捕食に成功】
【スキル『跳躍 Lv1』『危機察知 Lv1』を獲得しました】

新たな力が、身体に流れ込んでくる。

戦闘は、俺たちの圧勝に終わった。

ゴブリンたちは、勝利の雄叫びを上げた。それは、数日前の敗北の屈辱を晴らす、歓喜の叫びだった。

俺は、ひざまずくゴブリンたちを見渡した。彼らの目には、もはや疑念の色はない。そこにあるのは、絶対的な信頼と、王への揺るぎない崇拝だけだった。

俺たちは、速度を制した。そして、この勝利によって、俺の組織はまた一つ、強固なものとなったのだ。
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