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第19話 ゲリラ戦法
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「一人で何ができる!」
戦士が雄叫びを上げて突進してくる。俺はそれを受け止めず、【跳躍】スキルを駆使して後方へ大きく飛んだ。そして、そのまま森の深い闇の中へと姿を消す。
「追え! 逃がすな!」
冒険者たちが、俺を追って森の中へと足を踏み入れた。彼らは俺たちが敗走したと信じ込み、油断している。それが、彼らの最初の過ちだった。
森の中は、俺の庭だ。
闇に紛れ、木の梢を渡りながら、俺は追ってくるパーティとの距離を測る。彼らは密集した隊列を組み、警戒しながら進んでいる。あの鉄壁の連携を崩さない限り、勝機はない。
ならば、まず分断する。
俺は追跡の先頭を走る戦士の、さらに先へと回り込んだ。そして、スキルを発動させる。
「溶解液」
狙うのは、戦士の足元にある巨大な木の根だ。何度も、何度も溶解液を吐きかけ、その強度をギリギリまで削り取る。MPのほとんどを消費するが、構わない。
準備を終えた俺は、わざと彼らの前に姿を現し、挑発するように石を投げつけた。
「こっちだ、鈍亀ども!」
「いたぞ! あそこだ!」
俺の姿を認めた戦士が、再び速度を上げる。そして、俺が罠を仕掛けた木の根を踏み抜いた。
バキリ、という鈍い音。腐食していた木の根は戦士の体重を支えきれず、完全に砕け散った。戦士は大きく体勢を崩し、前のめりに転倒する。
「ぐっ……!?」
「団長!」
パーティの足が、一瞬だけ止まった。その隙を、俺は見逃さない。
俺の合図と共に、森の四方八方から、潜んでいたゴブリンたちが一斉に石を投げつけた。狙うのは一人。後衛にいる魔術師だ。
「うわっ!」
「詠唱を止めさせるな!」
雨のように降り注ぐ石つぶて。そのほとんどは神官の防御魔法に弾かれるが、いくつかは魔術師の身体を打ち、その集中を乱す。これで、あの大魔法はしばらく使えない。
「クソッ、散らばりやがって!」
戦士が態勢を立て直し、怒りの声を上げる。だが、俺たちの姿は既にそこにはない。一撃離脱。それがゲリラ戦の基本だ。
冒険者たちは、再び隊列を組み直して追跡を再開する。だが、彼らの間には、先ほどまでなかった焦りと苛立ちが生まれていた。見えない敵からの、執拗な攻撃。それは確実に彼らの精神を蝕んでいく。
俺たちは、徹底的に消耗戦に持ち込んだ。
弓使いが矢を放とうとすれば、その死角から攻撃を加えて射線を逸らす。神官が回復呪文を唱えようとすれば、物音を立てて集中を妨害する。
そして、俺は常に彼らの予測の裏をかくように動き回った。時には地上から、時には木の上から、神出鬼没に現れては攻撃を加え、すぐに闇に消える。
「どこだ! どこにいる!」
彼らの連携が、少しずつ乱れ始めていた。互いを庇い合うための密集隊形が、逆に彼らの視野を狭め、個々の動きを阻害し始めている。
そして、ついに決定的な隙が生まれた。
苛立ちを募らせた盗賊が、功を焦って単独で突出したのだ。
「そこか!」
茂みが揺れたのを俺の動きだと誤認し、彼はパーティからわずかに離れた。
それを見逃すほど、俺の部下たちは甘くない。
突出した盗賊の足元で、地面に仕掛けておいたツタの罠が作動した。足を取られて体勢を崩す盗賊。その頭上から、二体のゴブリンが飛びかかった。
「しまっ……!」
盗賊は咄嗟に短剣で一体を切り裂いたが、もう一体のゴブリンの棍棒が、彼の側頭部を強打した。
鈍い音と共に、盗賊が地面に崩れ落ちる。
「レオン!」
「罠だ! 囲まれてるぞ!」
パーティが、初めて明確な動揺を見せた。俺は、この好機を逃さない。
「弓使いを狙え!」
俺は自ら木の上から飛び降り、弓使いの背後へと回り込んだ。俺の接近に気づいた弓使いが驚愕の表情で振り向くが、もう遅い。
「お前が一番厄介だ」
俺の棍棒が、弓使いの細い身体を容赦なく叩き潰した。
「エリーゼ!」
戦士の悲痛な叫びが響き渡る。
これで、後衛の火力はほぼ失われた。残るは、戦士、魔術師、神官の三人。彼らの連携は、もはや崩壊寸前だった。
「おのれ、魔物が……!」
怒りに燃える戦士が、戦斧を構えて俺に迫る。だが、その動きは冷静さを欠き、大振りになっていた。俺は【跳躍】と【硬質外皮】を駆使し、その猛攻を捌き続ける。
その間にも、生き残った俺のゴブリンたちが、残った魔術師と神官に襲いかかっていた。
「火よ!」
魔術師が咄嗟に放った小さな火球が、ゴブリンの一体を燃やす。だが、その隙に別のゴブリンが背後から飛びかかり、その喉笛に噛みついた。
「ああ……!」
神官が悲鳴を上げ、仲間を助けようとする。だが、彼は戦闘のプロではない。棍棒を持ったゴブリンに囲まれ、なすすべもなく殴り殺された。
戦場に残ったのは、俺と、そしてリーダーである戦士の二人だけになった。
「貴様……!」
戦士は、仲間たちが次々と惨殺されていく光景を前に、絶望と憎悪に顔を歪ませていた。その瞳は、もはや俺ではなく、俺を操る何か得体のしれない存在への恐怖に染まっているようだった。
「俺たちの負けだ……。見逃してくれ。金なら払う」
彼はついに、戦斧を地面に落とした。命乞い。それは、強者の仮面が剥がれ落ちた、ただの弱い人間の姿だった。
だが、俺は首を横に振った。
「最初に言ったはずだ。お前たちのようなハイエナに、渡すものなど何もない、と」
俺は静かに棍棒を構え直した。見逃す選択肢など、最初から存在しない。彼らを生かせば、この森の情報が外に漏れる。より多くの人間が、この場所に押し寄せることになるだろう。そうなれば、俺が築き上げてきた平穏は、完全に破壊される。
「それに……」
俺は、後方で息を潜めているリリアと、彼女が庇うエルフの子供に意識を向けた。
「お前たちは、見てはいけないものを見た」
それが、この森の王としての、俺の答えだった。
戦士は全てを悟ったように、虚ろな目で天を仰いだ。
森の闇の中で、最後の戦いの火蓋が切られようとしていた。
戦士が雄叫びを上げて突進してくる。俺はそれを受け止めず、【跳躍】スキルを駆使して後方へ大きく飛んだ。そして、そのまま森の深い闇の中へと姿を消す。
「追え! 逃がすな!」
冒険者たちが、俺を追って森の中へと足を踏み入れた。彼らは俺たちが敗走したと信じ込み、油断している。それが、彼らの最初の過ちだった。
森の中は、俺の庭だ。
闇に紛れ、木の梢を渡りながら、俺は追ってくるパーティとの距離を測る。彼らは密集した隊列を組み、警戒しながら進んでいる。あの鉄壁の連携を崩さない限り、勝機はない。
ならば、まず分断する。
俺は追跡の先頭を走る戦士の、さらに先へと回り込んだ。そして、スキルを発動させる。
「溶解液」
狙うのは、戦士の足元にある巨大な木の根だ。何度も、何度も溶解液を吐きかけ、その強度をギリギリまで削り取る。MPのほとんどを消費するが、構わない。
準備を終えた俺は、わざと彼らの前に姿を現し、挑発するように石を投げつけた。
「こっちだ、鈍亀ども!」
「いたぞ! あそこだ!」
俺の姿を認めた戦士が、再び速度を上げる。そして、俺が罠を仕掛けた木の根を踏み抜いた。
バキリ、という鈍い音。腐食していた木の根は戦士の体重を支えきれず、完全に砕け散った。戦士は大きく体勢を崩し、前のめりに転倒する。
「ぐっ……!?」
「団長!」
パーティの足が、一瞬だけ止まった。その隙を、俺は見逃さない。
俺の合図と共に、森の四方八方から、潜んでいたゴブリンたちが一斉に石を投げつけた。狙うのは一人。後衛にいる魔術師だ。
「うわっ!」
「詠唱を止めさせるな!」
雨のように降り注ぐ石つぶて。そのほとんどは神官の防御魔法に弾かれるが、いくつかは魔術師の身体を打ち、その集中を乱す。これで、あの大魔法はしばらく使えない。
「クソッ、散らばりやがって!」
戦士が態勢を立て直し、怒りの声を上げる。だが、俺たちの姿は既にそこにはない。一撃離脱。それがゲリラ戦の基本だ。
冒険者たちは、再び隊列を組み直して追跡を再開する。だが、彼らの間には、先ほどまでなかった焦りと苛立ちが生まれていた。見えない敵からの、執拗な攻撃。それは確実に彼らの精神を蝕んでいく。
俺たちは、徹底的に消耗戦に持ち込んだ。
弓使いが矢を放とうとすれば、その死角から攻撃を加えて射線を逸らす。神官が回復呪文を唱えようとすれば、物音を立てて集中を妨害する。
そして、俺は常に彼らの予測の裏をかくように動き回った。時には地上から、時には木の上から、神出鬼没に現れては攻撃を加え、すぐに闇に消える。
「どこだ! どこにいる!」
彼らの連携が、少しずつ乱れ始めていた。互いを庇い合うための密集隊形が、逆に彼らの視野を狭め、個々の動きを阻害し始めている。
そして、ついに決定的な隙が生まれた。
苛立ちを募らせた盗賊が、功を焦って単独で突出したのだ。
「そこか!」
茂みが揺れたのを俺の動きだと誤認し、彼はパーティからわずかに離れた。
それを見逃すほど、俺の部下たちは甘くない。
突出した盗賊の足元で、地面に仕掛けておいたツタの罠が作動した。足を取られて体勢を崩す盗賊。その頭上から、二体のゴブリンが飛びかかった。
「しまっ……!」
盗賊は咄嗟に短剣で一体を切り裂いたが、もう一体のゴブリンの棍棒が、彼の側頭部を強打した。
鈍い音と共に、盗賊が地面に崩れ落ちる。
「レオン!」
「罠だ! 囲まれてるぞ!」
パーティが、初めて明確な動揺を見せた。俺は、この好機を逃さない。
「弓使いを狙え!」
俺は自ら木の上から飛び降り、弓使いの背後へと回り込んだ。俺の接近に気づいた弓使いが驚愕の表情で振り向くが、もう遅い。
「お前が一番厄介だ」
俺の棍棒が、弓使いの細い身体を容赦なく叩き潰した。
「エリーゼ!」
戦士の悲痛な叫びが響き渡る。
これで、後衛の火力はほぼ失われた。残るは、戦士、魔術師、神官の三人。彼らの連携は、もはや崩壊寸前だった。
「おのれ、魔物が……!」
怒りに燃える戦士が、戦斧を構えて俺に迫る。だが、その動きは冷静さを欠き、大振りになっていた。俺は【跳躍】と【硬質外皮】を駆使し、その猛攻を捌き続ける。
その間にも、生き残った俺のゴブリンたちが、残った魔術師と神官に襲いかかっていた。
「火よ!」
魔術師が咄嗟に放った小さな火球が、ゴブリンの一体を燃やす。だが、その隙に別のゴブリンが背後から飛びかかり、その喉笛に噛みついた。
「ああ……!」
神官が悲鳴を上げ、仲間を助けようとする。だが、彼は戦闘のプロではない。棍棒を持ったゴブリンに囲まれ、なすすべもなく殴り殺された。
戦場に残ったのは、俺と、そしてリーダーである戦士の二人だけになった。
「貴様……!」
戦士は、仲間たちが次々と惨殺されていく光景を前に、絶望と憎悪に顔を歪ませていた。その瞳は、もはや俺ではなく、俺を操る何か得体のしれない存在への恐怖に染まっているようだった。
「俺たちの負けだ……。見逃してくれ。金なら払う」
彼はついに、戦斧を地面に落とした。命乞い。それは、強者の仮面が剥がれ落ちた、ただの弱い人間の姿だった。
だが、俺は首を横に振った。
「最初に言ったはずだ。お前たちのようなハイエナに、渡すものなど何もない、と」
俺は静かに棍棒を構え直した。見逃す選択肢など、最初から存在しない。彼らを生かせば、この森の情報が外に漏れる。より多くの人間が、この場所に押し寄せることになるだろう。そうなれば、俺が築き上げてきた平穏は、完全に破壊される。
「それに……」
俺は、後方で息を潜めているリリアと、彼女が庇うエルフの子供に意識を向けた。
「お前たちは、見てはいけないものを見た」
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森の闇の中で、最後の戦いの火蓋が切られようとしていた。
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