ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

文字の大きさ
18 / 96

第18話 異世界の戦技

しおりを挟む
「ホブゴブリンが喋った……?」

盗賊が驚愕の声を上げた。他のパーティメンバーも、俺の流暢な言葉に一瞬だけ動きを止める。だが、彼らの動揺はすぐに好戦的な獰猛さへと変わった。

「面白い! ただの魔物じゃねえってか! 高く売れそうだぜ!」

戦士が巨大な戦斧を担ぎ直し、俺に向かって獰猛な笑みを浮かべた。リーダーは、この男だろう。その立ち姿には、数多の死線を越えてきた者だけが持つ揺るぎない自信が満ちていた。

「散開! 各個撃破するぞ! 後衛は魔術師を守れ!」

戦士の号令一下、パーティは完璧な連携で動き出した。戦士と盗賊が前線で俺とゴブリンたちを引きつけ、弓使いが後方から的確な援護射撃を行う。神官は杖を掲げて仲間たちに防御魔法をかけ、魔術師は呪文の詠唱を開始した。

俺がこれまで戦ってきた魔物たちとは、全く違う。そこには、役割分担と連携という、高度に組織化された戦術があった。

「ウォオオ!」

俺の部下であるゴブリンたちが、敵の戦士と盗賊に襲いかかる。彼らはキラーラビットやグレートボアとの死闘を生き延びた精鋭だ。その動きは鋭く、獰猛さに満ちている。

だが、人間の戦士は一枚上手だった。彼は戦斧を巧みに操り、複数のゴブリンの攻撃を一人で捌ききる。斧の一撃は凄まじく、まともに受けたゴブリンは鎧ごと叩き潰され、肉塊と化した。盗賊は、その素早い動きでゴブリンたちの攻撃を掻い潜り、懐に潜り込んでは短剣で急所を的確に切り裂いていく。

「グアッ!」

次々と倒れていく仲間たち。俺が築き上げた組織の力が、人間の練り上げられた「戦技」の前に、いとも容易く崩されていく。

「させるか!」

俺は【突進】スキルを発動させ、戦士の側面へと突撃した。グレートボアの力を宿した俺の突進は、岩をも砕く威力を持つ。

「甘い!」

だが、戦士は俺の突進を冷静に見極め、戦斧の腹で受け流した。凄まじい衝撃が全身を襲うが、決定打にはならない。そして、体勢を崩した俺の背後から、盗賊の殺気が迫る。

俺は咄嗟に【跳躍】でその場を離脱する。俺がいた場所を、盗賊の短剣と、後方から放たれた弓矢が同時に通過していった。前衛と後衛の、完璧な連携攻撃。冷や汗が背中を伝う。

その間にも、魔術師の詠唱が完了しようとしていた。

「まずい!」

俺は魔術師を止めようとするが、戦士と盗賊が壁となってそれを許さない。

「――燃え盛る蛇よ、敵を喰らえ! ファイア・スネーク!」

魔術師の杖の先から、炎でできた巨大な蛇が出現した。炎の蛇は生きているかのように身をくねらせ、ゴブリンたちの集団へと襲いかかった。

「ギャアアアア!」

阿鼻叫喚の地獄絵図。炎に巻かれたゴブリンたちが、断末魔の悲鳴を上げて燃え尽きていく。その威力は、俺が持つ【火魔法Lv1】などとは比較にならない、圧倒的な殲滅力だった。

たった一撃の魔法で、俺の部隊は半壊した。生き残ったのは、俺と、運良く範囲外にいた数体のゴブリンだけ。

「ハッ、雑魚が!」
「数だけは多かったが、所詮はゴブリンだな」

冒険者たちが、嘲笑の声を上げる。彼らにとって、これはただの簡単な魔物討伐なのだろう。

俺は燃え盛る炎を背に、歯を食いしばった。
強い。
個々の戦闘能力もさることながら、彼らの連携は鉄壁だ。戦士が前線を支え、盗賊が攪乱し、弓使いと魔術師が後方から確実に敵を削る。そして、神官が防御と回復でパーティ全体を支援する。一つの穴もない、完成された陣形。

俺の【指揮】スキルも、彼らの連携の前では意味をなさない。俺がゴブリンたちに指示を出すより早く、彼らは次の行動を予測し、対応してくる。

「ボス……!」

生き残ったゴブリンたちが、絶望的な顔で俺を見る。彼らの戦意は、もはや風前の灯火だった。

俺は、自分の認識の甘さを痛感していた。
俺は組織を作った。連携を教えた。だが、それはあくまで魔物を狩るためのもの。対人戦闘、それも高度な訓練を受けたプロフェッショナル集団を相手にするには、あまりにも稚拙で、経験が足りなすぎた。

後方では、リリアがエルフの子供を庇い、震えていた。彼女の治癒魔法も、即死攻撃が飛び交うこの戦場では、使う暇さえない。

このまま正面からぶつかり続ければ、全滅は必至。

俺は、冷徹に状況を分析した。そして、この絶望的な状況を覆すための、唯一の活路を見出す。

それは、俺たちが最も得意とする戦い方。そして、この森という地形を最大限に利用した、卑劣で、そして最も効果的な戦術。

ゲリラ戦だ。

「……撤退する!」

俺は生き残ったゴブリンたちに、短く命じた。

「ボス、しかし!」
「命令だ! 森に散れ! 俺の合図があるまで、決して姿を現すな!」

ゴブリンたちは一瞬戸惑ったが、俺の命令に絶対服従を叩き込まれた彼らは、すぐに散開して森の闇へと姿を消した。

「逃げる気か? 逃がすと思うなよ!」

戦士が叫び、追撃しようとする。だが、俺は彼らの前に一人立ちはだかった。

「お前たちの相手は、俺だ」

俺は棍棒を構え、不敵に笑ってみせた。それは、これから始まる本当の戦いの開幕を告げる、ホブゴブリンの王の獰猛な笑みだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件

夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。 周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。 結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。

M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ
SF
現実世界に居場所を見出せない大学生、神代悠。彼が救いを求めたのは、モンスターを自由に創造できる新作VRMMO『M.M.O.』だった。 彼が選んだのは、戦闘能力ゼロの不遇職【モンスターメイカー】。周囲に笑われながらも、悠はゴミ同然の素材と無限の発想力を武器に、誰も見たことのないユニークなモンスターを次々と生み出していく。 その常識外れの力は、孤高の美少女聖騎士や抜け目のない商人少女といった仲間を引き寄せ、やがて彼の名はサーバーに轟く。しかし、それは同時にゲームの支配を目論む悪徳ギルドとの全面対決の始まりを意味していた。 これは、最弱の職から唯一無二の相棒を創り出し、仲間と世界を守るために戦う、創造と成り上がりの物語。

雑魚で貧乏な俺にゲームの悪役貴族が憑依した結果、ゲームヒロインのモデルとパーティーを組むことになった

ぐうのすけ
ファンタジー
無才・貧乏・底辺高校生の稲生アキラ(イナセアキラ)にゲームの悪役貴族が憑依した。 悪役貴族がアキラに話しかける。 「そうか、お前、魂の片割れだな? はははははは!喜べ!魂が1つになれば強さも、女も、名声も思うがままだ!」 アキラは悪役貴族を警戒するがあらゆる事件を通してお互いの境遇を知り、魂が融合し力を手に入れていく。 ある時はモンスターを無双し、ある時は配信で人気を得て、ヒロインとパーティーを組み、アキラの人生は好転し、自分の人生を切り開いていく。

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

小国の若き王、ラスボスを拾う~何気なしに助けたラスボスたるダウナー系のヤンデレ魔女から愛され過ぎて辛い!~

リヒト
ファンタジー
 人類を恐怖のどん底に陥れていた魔女が勇者の手によって倒され、世界は平和になった。そんなめでたしめでたしで終わったハッピーエンドから───それが、たった十年後のこと。  権力闘争に巻き込まれた勇者が処刑され、魔女が作った空白地帯を巡って世界各国が争い合う平和とは程遠い血みどろの世界。  そんな世界で吹けば飛ぶような小国の王子に転生し、父が若くして死んでしまった為に王となってしまった僕はある日、ゲームのラスボスであった封印され苦しむ魔女を拾った。  ゲーム知識から悪い人ではないことを知っていた僕はその魔女を助けるのだが───その魔女がヤンデレ化していた上に僕を世界の覇王にしようとしていて!?

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

処理中です...