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第31話 各個撃破
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顔面を強打され、地面を転がった俺の口の中に、鉄の味が広がった。視界がぐらつき、意識が遠のきそうになる。ガロンの肘打ちは、ホブゴブリンに進化した俺の頑強な肉体ですら、深刻なダメージを与える威力を持っていた。
「ボス!」
仲間たちの悲鳴のような声が聞こえる。だが、俺はまだ終わっていない。
「……まだだ」
俺は血反吐を吐き捨て、ふらつく足で立ち上がった。俺が倒れれば、この戦いは終わる。それだけは、絶対に許されない。
俺が吹き飛ばされたことで、ガロンへの包囲網に穴が開いた。彼は自由になった大剣を振り回し、ゴブリンたちをバッタのようになぎ倒していく。彼のスキル【ウォークライ】の効果はまだ続いており、オークたちは鬼神の如き強さで抵抗を続けていた。
だが、彼らの数は確実に減っていた。
地の利、数の利、そして罠。俺たちが周到に準備したアドバンテージは、ガロン一人の武力では覆しきれないほどに積み上がっていたのだ。
ガロンも、それに気づき始めていた。彼の額には汗が滲み、その呼吸は明らかに荒くなっている。俺が突き立てた短剣の麻痺毒も、わずかではあるが確実に彼の身体を蝕み、その動きのキレを奪っていた。
「虫ケラどもが……!」
ガロンは焦っていた。このままでは、自分が生き残れたとしても、連れてきた部下は全滅する。そうなれば、砦の防衛力は激減し、指導者としての彼の威信は失墜するだろう。
俺はその焦りを見逃さなかった。
今こそ、決着の時。
俺はもはや、力で彼に挑むことはしない。俺の真価は、そこにはない。
俺の武器は、この頭脳と、食らい尽くして得たスキルの多様性だ。
「散れ! 奴を撹乱しろ!」
俺はゴブリンたちに指示を飛ばす。彼らは俺の意図を即座に理解し、ガロンに直接攻撃を加えるのではなく、彼の周囲を高速で動き回り、石を投げ、物音を立ててその集中を乱し始めた。
「小賢しい真似を!」
苛立ちを募らせるガロン。その巨大な身体が、ほんの一瞬、俺から注意を逸らした。
俺はその隙に、最後のMPを振り絞り、複数のスキルを同時に発動させる準備を整えた。
まず、【跳躍】で彼の死角へと回り込む。
次に、至近距離から【火魔法】を発動。狙うは顔面。巨大な火球ではない。目くらましになれば十分な、小さな火の粉の爆発。
「ヌォッ!?」
視界を焼かれたガロンが、咄嗟に腕で顔を庇った。
その体勢、がら空きだ。
俺は彼の鎧の関節、膝の裏の僅かな隙間に向かって、【溶解液】を叩き込んだ。
ジュッ、と金属が微かに溶ける音。鎧そのものを破壊するには至らない。だが、関節部分の潤滑を奪い、動きを阻害するには十分だった。
「何っ!?」
膝の動きに違和感を覚えたガロンが、一瞬だけ動きを止める。
そのコンマ数秒が、勝敗を分けた。
俺は彼の背後に回り込み、冒険者から奪った長剣を逆手に持ち替える。そして、【怪力】と【突進】のスキルを乗せた、渾身の一撃を、溶解液で脆くなった膝裏の関節へと、深々と突き立てた。
「ギ……アアアアアアア!」
ガロンの絶叫が、森中に響き渡った。英雄の片膝が、ついに大地につく。大剣が手から滑り落ち、地面に突き刺さった。
「ガロン様!」
残っていた数体のオークが、主君の元へ駆け寄ろうとする。だが、その前に俺のゴブリンたちが立ちはだかった。もはや、勝敗は決していた。
ガロンは、片膝をついたまま、憎悪と屈辱に満ちた目で俺を睨みつけた。
「貴様……!」
俺は剣を引き抜き、静かに告げた。
「終わりだ、ガロン。お前の負けだ」
だが、彼は英雄だった。
ガロンは、残った力で地面に突き刺さった大剣を掴むと、それを杖代わりにして、ゆっくりと立ち上がった。そして、最後の力を振り絞り、咆哮した。
「全軍、撤退! 砦へ戻るぞ!」
彼は、敗北を認めたのだ。これ以上の戦闘は、無意味な死を増やすだけだと。
ガロンは、駆け寄ってきた部下に肩を貸されると、俺に背を向け、森の奥へと退いていく。その背中は、傷つき、満身創痍だったが、それでもなお、王者の風格を失ってはいなかった。
俺たちは、深追いはしなかった。俺の部隊もまた、多くの犠牲を出し、消耗しきっていたからだ。
やがて、戦場には静寂が戻った。
そこには、十数体のオークの死体と、同じくらいの数のゴブリンたちの亡骸が転がっていた。
俺たちの、戦略的勝利。
だが、その代償は、決して小さくはなかった。
俺は、まだ息のあるオークの一人を指差した。彼は脚を折られ、動けずに呻いている。
「そいつを生け捕りにしろ。ロープで厳重に縛り上げろ。殺すなよ」
ゴブリンたちが、素早くそのオークを取り押さえる。これが、次なる作戦の鍵となる、新たな情報源だ。
俺は、ガロンが消えていった南の森を見つめていた。
オークの主力部隊は、叩いた。だが、最大の脅威であるガロンは、まだ生きている。
そして奴は、この屈辱を決して忘れないだろう。
次なる戦いは、今日のような森の中での奇襲戦にはならない。敵の本拠地、ガロッシュ砦での、総力戦となるはずだ。
そのためには、砦の内部情報が、どうしても必要だった。
俺は、捕縛されたオークに冷たい視線を送りながら、次なる尋問の計画を練り始めていた。
「ボス!」
仲間たちの悲鳴のような声が聞こえる。だが、俺はまだ終わっていない。
「……まだだ」
俺は血反吐を吐き捨て、ふらつく足で立ち上がった。俺が倒れれば、この戦いは終わる。それだけは、絶対に許されない。
俺が吹き飛ばされたことで、ガロンへの包囲網に穴が開いた。彼は自由になった大剣を振り回し、ゴブリンたちをバッタのようになぎ倒していく。彼のスキル【ウォークライ】の効果はまだ続いており、オークたちは鬼神の如き強さで抵抗を続けていた。
だが、彼らの数は確実に減っていた。
地の利、数の利、そして罠。俺たちが周到に準備したアドバンテージは、ガロン一人の武力では覆しきれないほどに積み上がっていたのだ。
ガロンも、それに気づき始めていた。彼の額には汗が滲み、その呼吸は明らかに荒くなっている。俺が突き立てた短剣の麻痺毒も、わずかではあるが確実に彼の身体を蝕み、その動きのキレを奪っていた。
「虫ケラどもが……!」
ガロンは焦っていた。このままでは、自分が生き残れたとしても、連れてきた部下は全滅する。そうなれば、砦の防衛力は激減し、指導者としての彼の威信は失墜するだろう。
俺はその焦りを見逃さなかった。
今こそ、決着の時。
俺はもはや、力で彼に挑むことはしない。俺の真価は、そこにはない。
俺の武器は、この頭脳と、食らい尽くして得たスキルの多様性だ。
「散れ! 奴を撹乱しろ!」
俺はゴブリンたちに指示を飛ばす。彼らは俺の意図を即座に理解し、ガロンに直接攻撃を加えるのではなく、彼の周囲を高速で動き回り、石を投げ、物音を立ててその集中を乱し始めた。
「小賢しい真似を!」
苛立ちを募らせるガロン。その巨大な身体が、ほんの一瞬、俺から注意を逸らした。
俺はその隙に、最後のMPを振り絞り、複数のスキルを同時に発動させる準備を整えた。
まず、【跳躍】で彼の死角へと回り込む。
次に、至近距離から【火魔法】を発動。狙うは顔面。巨大な火球ではない。目くらましになれば十分な、小さな火の粉の爆発。
「ヌォッ!?」
視界を焼かれたガロンが、咄嗟に腕で顔を庇った。
その体勢、がら空きだ。
俺は彼の鎧の関節、膝の裏の僅かな隙間に向かって、【溶解液】を叩き込んだ。
ジュッ、と金属が微かに溶ける音。鎧そのものを破壊するには至らない。だが、関節部分の潤滑を奪い、動きを阻害するには十分だった。
「何っ!?」
膝の動きに違和感を覚えたガロンが、一瞬だけ動きを止める。
そのコンマ数秒が、勝敗を分けた。
俺は彼の背後に回り込み、冒険者から奪った長剣を逆手に持ち替える。そして、【怪力】と【突進】のスキルを乗せた、渾身の一撃を、溶解液で脆くなった膝裏の関節へと、深々と突き立てた。
「ギ……アアアアアアア!」
ガロンの絶叫が、森中に響き渡った。英雄の片膝が、ついに大地につく。大剣が手から滑り落ち、地面に突き刺さった。
「ガロン様!」
残っていた数体のオークが、主君の元へ駆け寄ろうとする。だが、その前に俺のゴブリンたちが立ちはだかった。もはや、勝敗は決していた。
ガロンは、片膝をついたまま、憎悪と屈辱に満ちた目で俺を睨みつけた。
「貴様……!」
俺は剣を引き抜き、静かに告げた。
「終わりだ、ガロン。お前の負けだ」
だが、彼は英雄だった。
ガロンは、残った力で地面に突き刺さった大剣を掴むと、それを杖代わりにして、ゆっくりと立ち上がった。そして、最後の力を振り絞り、咆哮した。
「全軍、撤退! 砦へ戻るぞ!」
彼は、敗北を認めたのだ。これ以上の戦闘は、無意味な死を増やすだけだと。
ガロンは、駆け寄ってきた部下に肩を貸されると、俺に背を向け、森の奥へと退いていく。その背中は、傷つき、満身創痍だったが、それでもなお、王者の風格を失ってはいなかった。
俺たちは、深追いはしなかった。俺の部隊もまた、多くの犠牲を出し、消耗しきっていたからだ。
やがて、戦場には静寂が戻った。
そこには、十数体のオークの死体と、同じくらいの数のゴブリンたちの亡骸が転がっていた。
俺たちの、戦略的勝利。
だが、その代償は、決して小さくはなかった。
俺は、まだ息のあるオークの一人を指差した。彼は脚を折られ、動けずに呻いている。
「そいつを生け捕りにしろ。ロープで厳重に縛り上げろ。殺すなよ」
ゴブリンたちが、素早くそのオークを取り押さえる。これが、次なる作戦の鍵となる、新たな情報源だ。
俺は、ガロンが消えていった南の森を見つめていた。
オークの主力部隊は、叩いた。だが、最大の脅威であるガロンは、まだ生きている。
そして奴は、この屈辱を決して忘れないだろう。
次なる戦いは、今日のような森の中での奇襲戦にはならない。敵の本拠地、ガロッシュ砦での、総力戦となるはずだ。
そのためには、砦の内部情報が、どうしても必要だった。
俺は、捕縛されたオークに冷たい視線を送りながら、次なる尋問の計画を練り始めていた。
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