ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

文字の大きさ
33 / 96

第32話 内部情報の入手

しおりを挟む
洞窟の最奥。普段は誰も寄り付かない、湿った空気と静寂だけが支配する小部屋が、臨時の尋問室となっていた。松明の光が、壁に縛り付けられた巨大なオークの影を不気味に揺らしている。

彼の名は、ボルグ。先の戦いで生き残った、ただ一人の捕虜だ。脚を折られ、厳重に拘束された彼は、憎悪に満ちた目で俺を睨みつけていた。

「……また、貴様か。虫ケラの王め」
ボルグの声は、乾ききっていた。
「さっさと殺せ。貴様に話すことなど、何もない」

俺は彼の正面に立ち、無言でその顔を観察した。彼の瞳の奥に宿る、ガロンへの揺るぎない忠誠心。そして、敗北の屈辱。これを力でこじ開けようとすれば、彼の心は固く閉ざされるだけだろう。

俺は尋問を始める前に、資材管理係に命じて、彼に水と少量の干し肉を与えさせた。

「……何ノ真似ダ」
訝しげな顔をするボルグに、俺は静かに告げた。
「俺は、お前を拷問するつもりはない。ただ、対話がしたいだけだ。死人に口なし。お前には、まだ死なれては困る」

俺の意外な行動に、ボルグは戸惑いを見せた。だが、彼はすぐに警戒心を取り戻し、水にも肉にも口をつけようとはしなかった。

「無駄なことを。毒でも入っているのだろう」
「入っていない。俺は、お前の情報を必要としている。お前の協力次第では、命を助けてやってもいいと考えている」
「フン、命乞いなどするか。俺はガロン様に忠誠を誓った、誇り高きオークの戦士だ!」

誇り、か。
俺はその言葉を、心の中で冷ややかに反芻した。前世で、どれだけ多くの人間が、その言葉の名の下に無意味な自己犠牲を強いられてきたことか。

俺は、尋問の切り口を変えた。
「ガロンは、お前たちを見捨てた」

「……何?」
ボルグの表情が、初めて動いた。

「彼は、お前たち部下を犠牲にして、自分だけが逃げ延びた。あれが、お前たちの言う英雄の姿か?」
「黙レ! ガロン様は、我々を生かすために撤退を決断されたのだ! あれは、苦渋の決断だった!」
「そうか?」俺は、わざとらしく首を傾げた。「俺にはそうは見えなかった。彼は、自分の敗北を認めたくなかっただけだ。部下が全滅すれば、自分の指揮能力のなさが露呈する。だから、生き残りを連れて逃げた。お前という『敗北の証拠』を、この森に残してな」

俺の言葉は、毒のようにじわじわとボルグの心を蝕んでいく。それは、彼自身が心のどこかで感じていた、しかし認めたくなかった疑念だった。

「違う……ガロン様は、そんな方ではない……」
「では、なぜ彼は助けに来ない? 捕虜になったお前を、なぜ奪還しようとしない? 答えは簡単だ。お前はもう、彼にとって何の価値もないからだ。見捨てられた兵士、ただそれだけだ」

「黙レ、黙レ、黙レェ!」
ボルグが、鎖を引きちぎらんばかりに暴れた。彼の心は、確実に揺らいでいた。

俺は、畳み掛ける。
「お前たちの憎しみは、人間へと向いているはずだ。違うか? だが、お前たちは今、誰と戦っている? 俺たちゴブリンだ。お前たちの仲間を殺したのは、人間ではなく、この俺だ。ガロンはお前たちを、本来の目的とは違う、無意味な戦いに巻き込んでいる。そして、その結果がこれだ。多くの仲間を失い、お前は無様に捕らえられている」

俺は、彼の目の前に、一つの「可能性」を提示した。
「俺も、人間が嫌いだ。奴らは、俺の仲間を殺し、リリアの故郷を焼いた。我々の敵は、共通しているのかもしれない」

「……何が言いたい」
ボルグの声から、力が失われていた。

「お前たちが我々に協力すれば、話は変わってくる。我々の知恵と、お前たちの力。それを合わせれば、人間どもをこの森から駆逐することなど、造作もない。ガロンが成し遂げられなかった『復讐』を、俺が代わりに成し遂げてやってもいい」

それは、悪魔の囁きだった。だが、絶望の淵にいる者にとって、それは唯一の光に見えることもある。

ボルグは、長く、長く沈黙した。その間に、彼の頭の中では、忠誠と現実、誇りと生存が、激しくせめぎ合っていたのだろう。

やがて、彼は顔を上げた。その目から、先ほどまでの頑なな光は消えていた。
「……何が知りたい」

落ちたな。
俺は心の中で勝利を確信しながらも、表情には出さなかった。

「ガロッシュ砦の、全てだ。構造、警備体制、兵の数、食料の備蓄、ガロンのいる場所。お前が知る、全てを話せ」

ボルグは、一度覚悟を決めてしまえば早かった。彼は、まるで堰を切ったように、砦の内部情報を語り始めた。

ガロッシュ砦は、巨大な岩山をくり抜いて作られた、天然の要塞であること。
正門は一つしかなく、常に屈強なオークが十人体制で警備していること。
壁の上には、数カ所の見張り塔があり、交代制で監視しているが、夜間、特に深夜になると、その警戒は緩慢になること。
兵舎と鍛冶場は砦の中心部にあるが、食料庫だけは、増築を重ねた結果、砦の西側の崖沿いという、やや守りの手薄な場所に位置していること。
そして、戦士長ガロンは、砦の最奥にある「戦士長の間」から、ほとんど動かないこと。

「合言葉はあるか?」
「……ある。『血ニハ血ヲ』。それが、夜間の見張りに通じる合言葉だ」

ボルグは、自分が知る情報を全て吐き出した。それは、俺たちが次に取るべき作戦を決定づける、あまりにも価値のある情報だった。

全ての情報を聞き出した後、俺はボルグを見下ろした。彼は、全てを失ったように、ぐったりと壁にもたれかかっている。

「……約束だ。俺は、話した。命は……」
「ああ、約束は守る。お前は殺さない」

俺の言葉に、ボルグの顔にわずかな安堵の色が浮かんだ。だが、俺は続けた。

「だが、解放もしない。お前には、まだ使い道がある」

俺は部下を呼び、ボルグを別の場所へ移すよう命じた。彼は、これからの交渉や、あるいは内部工作のための、重要な「手駒」となるだろう。

「なっ……貴様! 話が違う!」
ボル天の声が、洞窟の奥に虚しく響いた。

俺は彼の抗議に耳を貸さず、尋問室を後にした。手に入れたばかりの熱い情報を手に、俺の頭脳は既に、次なる作戦――ガロッシュ砦攻略計画の立案を開始していた。

夜襲。
内部からの破壊工作。
そして、ガロンとの最終決戦。

パズルのピースは、全て揃った。あとは、それをどう組み合わせるかだけだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件

夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。 周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。 結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。

M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ
SF
現実世界に居場所を見出せない大学生、神代悠。彼が救いを求めたのは、モンスターを自由に創造できる新作VRMMO『M.M.O.』だった。 彼が選んだのは、戦闘能力ゼロの不遇職【モンスターメイカー】。周囲に笑われながらも、悠はゴミ同然の素材と無限の発想力を武器に、誰も見たことのないユニークなモンスターを次々と生み出していく。 その常識外れの力は、孤高の美少女聖騎士や抜け目のない商人少女といった仲間を引き寄せ、やがて彼の名はサーバーに轟く。しかし、それは同時にゲームの支配を目論む悪徳ギルドとの全面対決の始まりを意味していた。 これは、最弱の職から唯一無二の相棒を創り出し、仲間と世界を守るために戦う、創造と成り上がりの物語。

雑魚で貧乏な俺にゲームの悪役貴族が憑依した結果、ゲームヒロインのモデルとパーティーを組むことになった

ぐうのすけ
ファンタジー
無才・貧乏・底辺高校生の稲生アキラ(イナセアキラ)にゲームの悪役貴族が憑依した。 悪役貴族がアキラに話しかける。 「そうか、お前、魂の片割れだな? はははははは!喜べ!魂が1つになれば強さも、女も、名声も思うがままだ!」 アキラは悪役貴族を警戒するがあらゆる事件を通してお互いの境遇を知り、魂が融合し力を手に入れていく。 ある時はモンスターを無双し、ある時は配信で人気を得て、ヒロインとパーティーを組み、アキラの人生は好転し、自分の人生を切り開いていく。

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

小国の若き王、ラスボスを拾う~何気なしに助けたラスボスたるダウナー系のヤンデレ魔女から愛され過ぎて辛い!~

リヒト
ファンタジー
 人類を恐怖のどん底に陥れていた魔女が勇者の手によって倒され、世界は平和になった。そんなめでたしめでたしで終わったハッピーエンドから───それが、たった十年後のこと。  権力闘争に巻き込まれた勇者が処刑され、魔女が作った空白地帯を巡って世界各国が争い合う平和とは程遠い血みどろの世界。  そんな世界で吹けば飛ぶような小国の王子に転生し、父が若くして死んでしまった為に王となってしまった僕はある日、ゲームのラスボスであった封印され苦しむ魔女を拾った。  ゲーム知識から悪い人ではないことを知っていた僕はその魔女を助けるのだが───その魔女がヤンデレ化していた上に僕を世界の覇王にしようとしていて!?

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

処理中です...