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第31話 各個撃破
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俺たちの執拗なハラスメント戦術は、オークたちの精神を着実に削り取っていた。
黒牙川には断続的に毒が流れ込み、調査部隊は送るたびに消息を絶つ。オークの集落「ガロッシュ砦」では、もはや川の水を飲む者はなく、貯蔵していた水も底を突きかけているという情報が、斥候からもたらされた。
「ガロン様が、ついに動いたようです」
斥候部隊の新たなリーダーが、興奮を抑えきれない様子で報告する。彼の兄は、最初の偵察で命を落とした。その瞳には、兄の無念を晴らすための、冷たい炎が宿っている。
「ガロン自ら、大部隊を率いて川の上流へと向かっています。その数、およそ三十。砦に残った兵は、半分以下かと」
「……誘い出せたな」
俺の口元に、獰猛な笑みが浮かんだ。
水という生命線を断たれ、部下を次々と失ったことで、誇り高き戦士長も、ついに冷静さを失ったのだ。自らが出向けば、姿を見せない卑劣な敵を、その力でねじ伏せられると信じているのだろう。
だが、それこそが俺が望んだ展開だった。
敵の主力が砦から離れた今、ガロンの部隊を森の中で叩く絶好の機会だ。
「全軍に告ぐ! これより、オーク主力部隊の迎撃を開始する!」
俺の号令一下、洞窟の全部隊が出撃準備を整える。その数、俺を含めて四十名。数では、俺たちが上回っている。
「リリア、ルゥ、お前たちは洞窟に残れ。資材管理係と共に、負傷者の受け入れ準備を頼む」
「はい、ゴブ様。ご武運を」
リリアは、もはや俺たちの戦いを止めようとはしない。彼女は、俺たちのやり方を理解し、後方支援という自らの役割を全うしようとしてくれていた。
俺たちは、ガロンの部隊が通るであろうルート上に、これまで培ってきた罠の全てを注ぎ込んだ、巨大なキルゾーンを構築した。
落とし穴、ツタの罠、そして、冒険者から奪った知識を応用した、丸太を使った振り子式のトラップ。さらに、ゴブリンたちが投げつける石つぶてや、俺の【火魔法】による遠距離攻撃。
「オークたちは、個の力では我々を上回る。だが、森の中での集団戦は、我々の土俵だ。地の利を最大限に活かせ」
俺は部下たちに最後の指示を与え、自らも木の上で息を潜めた。
やがて、地響きと共に、オークの軍団が姿を現した。
先頭を歩く一体のオークは、他の者たちとは明らかに格が違った。身の丈は三メートル近く、その身に纏うのは粗雑な革鎧ではなく、黒光りする金属製の鎧。そして、その背には、巨大な斬馬刀のような大剣を背負っている。
あれが、戦士長ガロン。
遠目に見るだけでも、その圧倒的な存在感と、全身から発せられる闘気がビリビリと肌を伝わってくる。あれは、グレートボアや人間のパーティリーダーとも違う、本物の「英雄」の風格だった。
ガロンは、川沿いの道を進みながら、鋭い目で周囲を警戒していた。その動きには一切の隙がない。
「……罠があるな」
ガロンが、低い声で呟いた。彼の言葉に、部下のオークたちが一斉に武器を構える。
「小賢しい虫ケラどもが。だが、こんな子供騙ましで、この俺を止められると思うなよ」
彼は、俺たちの罠の存在に気づいていた。だが、それを意にも介さず、正面から突破するつもりのようだ。その絶対的な自信こそが、彼の強さであり、そして最大の弱点でもあった。
「全軍、突撃! 虫ケラどもを、一匹残らず踏み潰せ!」
ガロンの号令で、オークたちが雄叫びを上げて突進してくる。
「かかれ!」
俺もまた、迎撃の指示を出す。
最初に作動したのは、ツタの罠だった。だが、オークたちはその怪力でツタを引きちぎり、速度をほとんど落とさない。
次に、丸太のトラップが彼らを襲う。数体のオークが、振り子のように飛んできた巨大な丸太に打ち据えられ、吹き飛ばされた。だが、後続のオークたちは、仲間の犠牲をものともせず、突き進んでくる。
「怯むな! 敵は目の前だ!」
ガロンが、部下たちを鼓舞する。彼の存在が、オークたちの士気を極限まで高めていた。
そして、彼らはついに、俺たちが潜むキルゾーンの中心部へと到達した。
「今だ! 一斉攻撃!」
森の四方八方から、無数の石つぶてと、数本の矢がオークたちに降り注いだ。そして、俺が木の枝から放った【ファイア・ボール】が、オークの集団の中で炸裂した。
「グオオ!?」
炎と衝撃に、オークたちの陣形が一瞬だけ乱れる。
その隙を突き、俺たちが一斉に襲いかかった。
「ウォオオオオ!」
ゴブリンたちの雄叫びと、オークたちの怒号がぶつかり合い、森は一瞬にして血と鉄の匂いに満ちた戦場と化した。
俺は、一直線にガロンを目指した。
この戦いは、王と王の戦いだ。俺がガロンを討ち取れば、それで終わる。
「来たか、虫ケラの王!」
ガロンは、俺の接近を待ち構えていたかのように、背負っていた大剣を抜き放った。その剣は、俺の身長ほどもある巨大な代物だった。
「貴様が、俺の部下たちを嬲り殺した卑劣漢か!」
「いかにも。俺がゴブ。この森の新たな王だ」
俺たちは、言葉を交わしながらも、互いの間合いを測っていた。
ガロンが、動いた。
大剣が、凄まじい風圧と共に振り下ろされる。俺はそれを、冒険者から奪った長剣で受け止めようとした。
キィン! という甲高い金属音。
凄まじい衝撃が腕を伝い、俺の身体は数メートル後方まで吹き飛ばされた。腕が痺れ、剣を持つ手が震えている。
重い。一撃が、あまりにも重すぎる。
【怪力Lv2】を持つ俺ですら、まともに受け止めるのがやっとだ。
「ほう、受け止めるか。少しは骨がありそうだな」
ガロンは余裕の笑みを浮かべ、再び大剣を構える。彼の剣技は、人間の戦士のように洗練されてはいない。だが、一撃一撃が必殺の威力を持つ、純粋なパワーの剣だった。
俺は、正面からの斬り合いでは勝てないと即座に判断した。俺の武器は、力ではない。速度と、知恵と、そしてスキルの多様性だ。
俺は【跳躍】を使い、ガロンの周囲を高速で動き回りながら、攻撃の隙を窺う。ガロンは、その巨体に似合わず、的確に俺の動きに対応し、大剣で牽制してくる。
戦場全体を見渡せば、戦況は俺たちに有利に進んでいた。地の利と数の利を活かし、ゴブリンたちはオークたちを一体、また一体と確実に仕留めていく。オークたちの数は、みるみるうちに減っていった。
だが、ガロン一人だけが、戦況を覆しかねないほどの脅威を放ち続けていた。
「小賢しい!」
ガロンが、俺の動きに業を煮やし、大剣を地面に突き刺した。そして、鎧の下の筋肉を大きく隆起させる。
「――ウォークライ!」
彼の咆哮が、戦場全体に響き渡った。すると、傷つき、劣勢に陥っていたはずのオークたちの身体から、赤いオーラが立ち上り、その動きが再び活性化した。
味方を強化する、広範囲バフスキルか!
厄介な能力だ。このままでは、削り取ったアドバンテージが全て覆されてしまう。
もはや、一対一の状況ではない。
俺は、生き残っていたゴブリンたちに叫んだ。
「全員、ガロンを狙え! 奴を殺せば、終わりだ!」
俺の命令に、ゴブリンたちが一斉にガロンへと殺到した。
「ハッ、雑魚が何匹集まろうと!」
ガロンは、迫りくるゴブリンたちを、大剣の一振りで薙ぎ払う。だが、その攻撃は、俺が奴の懐に潜り込むための、絶好の隙を作り出した。
「もらった!」
俺はガロンの死角に回り込み、麻痺毒を塗った短剣を、鎧の隙間から彼の脇腹へと突き立てた。
だが。
ガリッ、という硬い感触。短剣は、彼の岩のような筋肉に阻まれ、深くは突き刺さらなかった。
「その程度か!」
ガロンの肘打ちが、俺の顔面を捉えた。視界が真っ白になり、俺は無様に地面を転がった。
勝負は、まだ決まらない。
森の中で繰り広げられる死闘は、両軍の王が睨み合う、最終局面へと突入しようとしていた。
黒牙川には断続的に毒が流れ込み、調査部隊は送るたびに消息を絶つ。オークの集落「ガロッシュ砦」では、もはや川の水を飲む者はなく、貯蔵していた水も底を突きかけているという情報が、斥候からもたらされた。
「ガロン様が、ついに動いたようです」
斥候部隊の新たなリーダーが、興奮を抑えきれない様子で報告する。彼の兄は、最初の偵察で命を落とした。その瞳には、兄の無念を晴らすための、冷たい炎が宿っている。
「ガロン自ら、大部隊を率いて川の上流へと向かっています。その数、およそ三十。砦に残った兵は、半分以下かと」
「……誘い出せたな」
俺の口元に、獰猛な笑みが浮かんだ。
水という生命線を断たれ、部下を次々と失ったことで、誇り高き戦士長も、ついに冷静さを失ったのだ。自らが出向けば、姿を見せない卑劣な敵を、その力でねじ伏せられると信じているのだろう。
だが、それこそが俺が望んだ展開だった。
敵の主力が砦から離れた今、ガロンの部隊を森の中で叩く絶好の機会だ。
「全軍に告ぐ! これより、オーク主力部隊の迎撃を開始する!」
俺の号令一下、洞窟の全部隊が出撃準備を整える。その数、俺を含めて四十名。数では、俺たちが上回っている。
「リリア、ルゥ、お前たちは洞窟に残れ。資材管理係と共に、負傷者の受け入れ準備を頼む」
「はい、ゴブ様。ご武運を」
リリアは、もはや俺たちの戦いを止めようとはしない。彼女は、俺たちのやり方を理解し、後方支援という自らの役割を全うしようとしてくれていた。
俺たちは、ガロンの部隊が通るであろうルート上に、これまで培ってきた罠の全てを注ぎ込んだ、巨大なキルゾーンを構築した。
落とし穴、ツタの罠、そして、冒険者から奪った知識を応用した、丸太を使った振り子式のトラップ。さらに、ゴブリンたちが投げつける石つぶてや、俺の【火魔法】による遠距離攻撃。
「オークたちは、個の力では我々を上回る。だが、森の中での集団戦は、我々の土俵だ。地の利を最大限に活かせ」
俺は部下たちに最後の指示を与え、自らも木の上で息を潜めた。
やがて、地響きと共に、オークの軍団が姿を現した。
先頭を歩く一体のオークは、他の者たちとは明らかに格が違った。身の丈は三メートル近く、その身に纏うのは粗雑な革鎧ではなく、黒光りする金属製の鎧。そして、その背には、巨大な斬馬刀のような大剣を背負っている。
あれが、戦士長ガロン。
遠目に見るだけでも、その圧倒的な存在感と、全身から発せられる闘気がビリビリと肌を伝わってくる。あれは、グレートボアや人間のパーティリーダーとも違う、本物の「英雄」の風格だった。
ガロンは、川沿いの道を進みながら、鋭い目で周囲を警戒していた。その動きには一切の隙がない。
「……罠があるな」
ガロンが、低い声で呟いた。彼の言葉に、部下のオークたちが一斉に武器を構える。
「小賢しい虫ケラどもが。だが、こんな子供騙ましで、この俺を止められると思うなよ」
彼は、俺たちの罠の存在に気づいていた。だが、それを意にも介さず、正面から突破するつもりのようだ。その絶対的な自信こそが、彼の強さであり、そして最大の弱点でもあった。
「全軍、突撃! 虫ケラどもを、一匹残らず踏み潰せ!」
ガロンの号令で、オークたちが雄叫びを上げて突進してくる。
「かかれ!」
俺もまた、迎撃の指示を出す。
最初に作動したのは、ツタの罠だった。だが、オークたちはその怪力でツタを引きちぎり、速度をほとんど落とさない。
次に、丸太のトラップが彼らを襲う。数体のオークが、振り子のように飛んできた巨大な丸太に打ち据えられ、吹き飛ばされた。だが、後続のオークたちは、仲間の犠牲をものともせず、突き進んでくる。
「怯むな! 敵は目の前だ!」
ガロンが、部下たちを鼓舞する。彼の存在が、オークたちの士気を極限まで高めていた。
そして、彼らはついに、俺たちが潜むキルゾーンの中心部へと到達した。
「今だ! 一斉攻撃!」
森の四方八方から、無数の石つぶてと、数本の矢がオークたちに降り注いだ。そして、俺が木の枝から放った【ファイア・ボール】が、オークの集団の中で炸裂した。
「グオオ!?」
炎と衝撃に、オークたちの陣形が一瞬だけ乱れる。
その隙を突き、俺たちが一斉に襲いかかった。
「ウォオオオオ!」
ゴブリンたちの雄叫びと、オークたちの怒号がぶつかり合い、森は一瞬にして血と鉄の匂いに満ちた戦場と化した。
俺は、一直線にガロンを目指した。
この戦いは、王と王の戦いだ。俺がガロンを討ち取れば、それで終わる。
「来たか、虫ケラの王!」
ガロンは、俺の接近を待ち構えていたかのように、背負っていた大剣を抜き放った。その剣は、俺の身長ほどもある巨大な代物だった。
「貴様が、俺の部下たちを嬲り殺した卑劣漢か!」
「いかにも。俺がゴブ。この森の新たな王だ」
俺たちは、言葉を交わしながらも、互いの間合いを測っていた。
ガロンが、動いた。
大剣が、凄まじい風圧と共に振り下ろされる。俺はそれを、冒険者から奪った長剣で受け止めようとした。
キィン! という甲高い金属音。
凄まじい衝撃が腕を伝い、俺の身体は数メートル後方まで吹き飛ばされた。腕が痺れ、剣を持つ手が震えている。
重い。一撃が、あまりにも重すぎる。
【怪力Lv2】を持つ俺ですら、まともに受け止めるのがやっとだ。
「ほう、受け止めるか。少しは骨がありそうだな」
ガロンは余裕の笑みを浮かべ、再び大剣を構える。彼の剣技は、人間の戦士のように洗練されてはいない。だが、一撃一撃が必殺の威力を持つ、純粋なパワーの剣だった。
俺は、正面からの斬り合いでは勝てないと即座に判断した。俺の武器は、力ではない。速度と、知恵と、そしてスキルの多様性だ。
俺は【跳躍】を使い、ガロンの周囲を高速で動き回りながら、攻撃の隙を窺う。ガロンは、その巨体に似合わず、的確に俺の動きに対応し、大剣で牽制してくる。
戦場全体を見渡せば、戦況は俺たちに有利に進んでいた。地の利と数の利を活かし、ゴブリンたちはオークたちを一体、また一体と確実に仕留めていく。オークたちの数は、みるみるうちに減っていった。
だが、ガロン一人だけが、戦況を覆しかねないほどの脅威を放ち続けていた。
「小賢しい!」
ガロンが、俺の動きに業を煮やし、大剣を地面に突き刺した。そして、鎧の下の筋肉を大きく隆起させる。
「――ウォークライ!」
彼の咆哮が、戦場全体に響き渡った。すると、傷つき、劣勢に陥っていたはずのオークたちの身体から、赤いオーラが立ち上り、その動きが再び活性化した。
味方を強化する、広範囲バフスキルか!
厄介な能力だ。このままでは、削り取ったアドバンテージが全て覆されてしまう。
もはや、一対一の状況ではない。
俺は、生き残っていたゴブリンたちに叫んだ。
「全員、ガロンを狙え! 奴を殺せば、終わりだ!」
俺の命令に、ゴブリンたちが一斉にガロンへと殺到した。
「ハッ、雑魚が何匹集まろうと!」
ガロンは、迫りくるゴブリンたちを、大剣の一振りで薙ぎ払う。だが、その攻撃は、俺が奴の懐に潜り込むための、絶好の隙を作り出した。
「もらった!」
俺はガロンの死角に回り込み、麻痺毒を塗った短剣を、鎧の隙間から彼の脇腹へと突き立てた。
だが。
ガリッ、という硬い感触。短剣は、彼の岩のような筋肉に阻まれ、深くは突き刺さらなかった。
「その程度か!」
ガロンの肘打ちが、俺の顔面を捉えた。視界が真っ白になり、俺は無様に地面を転がった。
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