ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

文字の大きさ
40 / 96

第39話 器の大きさ

しおりを挟む
ガロンが俺に膝を折った。その衝撃的な光景は、砦に残っていた全てのオークと、勝利に沸いていた俺のゴブリンたちに、絶対的な静寂をもたらした。

彼らの英雄、不敗の戦士長が、ゴブリン崩れのホブゴブリンに頭を垂れている。その事実を、すぐには誰も受け入れられなかった。

「ガロン様! 正気ですか!」
「我々の誇りはどうなるのです! 人間への復讐は!」

ガロンの元部下たちが、悲痛な声を上げる。彼らにとって、ガロンは精神的支柱そのものだった。その支柱が折れた今、彼らは自分たちが何を信じ、何のために戦えばいいのか分からなくなっていた。

ガロンは、ゆっくりと立ち上がると、彼らに向かって静かに、しかし力強く言った。
「俺は正気だ。お前たちこそ、目を覚ませ。俺たちは負けたのだ。このお方の、圧倒的な知略の前に」

彼は、俺のことを「このお方」と呼んだ。その一言に、彼の覚悟のほどが知れた。

「俺たちの憎しみは、我々の目を曇らせていた。人間という一つの敵しか見えなくさせ、足元で静かに育っていた真の脅威を見過ごさせた。その結果が、このザマだ。砦は焼かれ、多くの仲間が死んだ。これが、俺の導いた結果だ」

ガロンの言葉は、自責の念に満ちていた。だが、それはただの後悔ではない。敗北を真摯に受け止め、次へと進もうとする、指導者の言葉だった。

「このお方は、俺たちに新たな道を示してくださった。憎しみの連鎖を断ち切り、我々の力と技術を、未来のために使う道を。俺は、その道に賭ける。お前たちも、俺と共に来るか? それとも、ここで無意味な誇りのために、犬死にするか?」

ガロンは、選択を部下たちに委ねた。
オークたちは、互いに顔を見合わせ、苦悩の表情を浮かべていた。長年信じてきた価値観が、今、目の前で崩れ去ろうとしているのだ。

俺は、そのやり取りを黙って見守っていた。これは、俺が口を出すべき問題ではない。彼ら自身が、自分たちの未来を決めなければならない。

俺がここでガロンの意見を支持すれば、それはただの「勝者の命令」になってしまう。それでは、真の忠誠は得られない。

俺は、彼らに時間を与えることにした。
そして、俺が今すべきことは、彼らの心を力で縛り付けることではない。俺という王が、彼らの英雄であるガロンさえも受け入れるほどの、「器の大きさ」を示すことだ。

俺は、ガロンに向き直った。
「ガロン。まず、お前の部下たちの怪我の手当てをさせろ。戦いは終わったのだ。これ以上の流血は、俺も望まない」

俺の言葉に、ガロンは驚いたように目を見開いた。
「……よろしいのですか? 彼らは、つい先ほどまで、あなたに刃を向けていた者たちです」
「構わん。彼らもまた、お前の仲間であると同時に、今日から俺の仲間になるかもしれん者たちだ。それに、俺の仲間も多くが傷ついている。助け合いに、敵も味方もないだろう」

俺は、砦の外で待機させていたリリアとルゥを、角笛で呼び寄せた。
すぐに、二人のエルフが、ポーションや薬草を持って駆けつけてくる。

オークたちは、エルフの姿を見て、再び警戒心を露わにした。彼らにとって、エルフもまた、相容れない異種族の一つだったからだ。

だが、リリアは怯まなかった。彼女は、傷ついたオークの一人の前に進み出ると、優しく声をかけた。
「動かないでください。すぐに、楽になりますから」

彼女は、神聖魔法の祈りを捧げ、傷口を柔らかな光で包み込んだ。みるみるうちに傷が塞がっていく光景に、オークは信じられないという顔で目を見開いている。

その光景は、武器を交えるよりも、どんな言葉よりも、雄弁に俺たちの「あり方」をオークたちに伝えていた。

俺たちは、ただの破壊者ではない。
俺たちは、ただの略奪者でもない。

種族の垣根を越え、傷ついた者には手を差し伸べ、そして、一つの大きな目的のために協力する、新たな共同体。

ガロンは、その全てを、静かに見つめていた。そして、彼の瞳に、深い感銘の色が浮かぶのを、俺は見逃さなかった。

彼は、俺という存在を、改めて見極めようとしていたのだろう。
このホブゴブリンは、本当に信頼に値する王なのか。その器は、自分たちオークという誇り高き種族を受け入れられるほどに、大きいのか。

俺は、彼の無言の問いに、行動で答えた。

俺は、戦いで亡くなったゴブリンとオークの亡骸を、分け隔てなく一箇所に集めるよう指示した。
「彼らは、最後まで戦士として生きた。敵味方の区別なく、丁重に弔う」

俺の命令に、ゴブリンたちも、オークたちも、戸惑いながらも従った。そして、敵であったはずの相手の亡骸を共に運び、埋葬する中で、彼らの間にあった憎しみや敵意が、少しずつ溶けていくのを感じた。

俺は、彼らの誇りを奪うつもりはない。
俺は、彼らの憎しみを否定するつもりもない。

ただ、それらを全て飲み込んだ上で、さらに大きな未来を示す。
それこそが、王たる者の「器の大きさ」なのだと、俺は信じていた。

夕日が、半壊したガロッシュ砦を赤く染めていた。
その光景は、一つの時代の終わりと、新たな時代の始まりを、静かに告げているようだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...