ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第40話 絶対の忠誠

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ガロッシュ砦に、静かな夜が訪れていた。
砦の中央に燃え盛る巨大な篝火が、二つの種族の戦士たちの顔を照らし出している。それは、戦死者たちを弔うための火だった。

ゴブの命令一下、ゴブリンとオークは敵味方の区別なく、戦いで倒れた者たちの亡骸を丁重に火葬していた。憎しみ合っていたはずの二つの種族が、黙々と協力して作業を進める。その光景は、あまりにも奇妙で、そしてどこか神聖でさえあった。

ガロンは、その光景を腕を組んでじっと見つめていた。
彼の心は、まだ揺れていた。
このホブゴブリンの王、ゴブは何を考えているのか。なぜ、自分を殺さなかったのか。なぜ、敵である我々を手当てし、死者まで弔うのか。その行動の全てが、彼の理解を超えていた。それは、慈悲なのか。それとも、さらに狡猾な罠の一環なのか。

弔いが一段落し、ゴブリンとオークたちが疲れた身体を休め始めた頃、ゴブがガロンの元へやってきた。

「少し、話がある」

ゴブは、ガロンを砦の城壁の上へと連れて行った。そこからは、燃え盛る篝火と、静まり返った森、そして遠くに見える自分たちの洞窟の方角まで見渡すことができた。

「なぜだ」ガロンが、静寂を破った。「なぜ、俺を殺さなかった。俺を生かしておけば、いずれお前に牙を剥くかもしれんぞ」
「お前を殺すのは、無駄だからだ」ゴブは、こともなげに答えた。

「無駄?」
「そうだ。お前は強い。その力と、お前が持つ指揮能力は、俺の組織にとって非常に価値のある『資源』だ。それを、ただの感情で潰してしまうのは、非効率的極まりない。俺は、無駄が嫌いなんだ」

ゴブの言葉は、あまりにも冷徹で、合理的だった。そこには、慈悲や同情といった感情は微塵も感じられない。

「では、部下たちの治療も、死者の弔いも、全ては我々を手懐けるための計算か」
「半分は正解だ」ゴブはあっさりと認めた。「だが、もう半分は違う。俺は、使えるものは全て使う。それは、生きている者だけではない。死んだ者たちの経験も、無駄にはしない。今日の戦いで、我々は何を学び、次にどう活かすべきか。それを、生き残った者全員で共有するために、あの弔いは必要だった」

ゴブの視線は、篝火を見つめるオークとゴブリンたちに向けられていた。
「弱いゴブリンにも役割を与えた。敵であったエルフも保護した。そして、お前たちオークも生かそうとしている。俺がやっていることは、全て同じだ。全ての駒に役割を与え、組織という一つの巨大な機械を、最も効率的に動かす。そのためなら、俺はどんな手段でも使う」

ガロンは、ゴブの言葉に衝撃を受けていた。
この若き王の行動原理は、優しさや甘さではない。全てを戦力化し、より大きな目的を達成するための、究極の合理主義。その冷徹なまでの思考こそが、彼の器の大きさを形作っているのだ。

弱い者も切り捨てない。それは、彼らが弱いからではない。弱い者にも、使い道があるからだ。
敵さえも受け入れる。それは、彼らを許したからではない。敵の力さえも、利用価値があるからだ。

なんと、恐ろしい男だ。
そして、なんと、頼もしい王だろうか。

憎しみに囚われ、復讐という後ろ向きな力でしか組織を束ねられなかった自分とは、見ている次元が違う。この男は、もっと先を見ている。人間も、魔王も、この世界の全てを自分の手駒として利用し、新たな秩序を築こうとしているのだ。

ガロンの中で、最後の迷いが、完全に消え去った。
この王に仕えたい。この王が創る未来を、この目で見てみたい。
復讐などという小さな目的ではなく、この王と共に、世界そのものに挑んでみたい。

ガロンは、その場に深く、そして恭しく片膝をついた。それは、先ほどの降伏の証ではない。心からの忠誠を誓う、騎士の誓いだった。

「我が王、ゴブ様」

ガロンは、顔を上げ、決意に満ちた目でゴブを見つめた。
「俺は、愚かでした。あなたの器の大きさを、今、ようやく理解しました。このガロン、もはや何の迷いもありません。この身も、この心も、全てはあなたのもの。あなたの剣となり、あなたの盾となり、あなたが築く王国の礎となることを、ここに誓います」

その言葉には、一片の嘘も偽りもなかった。オーク最強の戦士が、魂の底から忠誠を捧げた瞬間だった。

ゴブは、そんなガロンを静かに見下ろし、ただ一言、告げた。
「その忠誠、確かに受け取った。立て、ガロン。俺の最初の将軍よ」

その言葉の重みに、ガロンは胸を熱くしながら立ち上がった。

城壁の下では、篝火を囲んでいたオークたちが、二人の王のやり取りを固唾を飲んで見守っていた。そして、自分たちの英雄であるガロンが、真の忠誠を誓う姿を見て、彼らの心もまた、一つに定まった。

一人のオークが、ガロンに倣って静かに膝をつく。
それを皮切りに、また一人、また一人と、全てのオークが、ゴブに向かって臣下の礼を取った。

それは、ガロッシュ砦に、新たな王が誕生した瞬間だった。
ゴブリンとオーク。相容れないはずの二つの種族が、ゴブという絶対的な王の下に、一つの強力な軍団として生まれ変わった、歴史的な夜だった。
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