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第41話 オーク族との交渉
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ガロンという絶対的な支柱が俺に膝を折ったことで、残ったオークたちの帰趨は、もはや決まったも同然だった。彼らは、自分たちの英雄が選んだ道を、黙って受け入れるしかなかった。
だが、それで全てが解決したわけではない。
ガロンはあくまで「戦士長」。オークの集落には、彼以外にも長老衆と呼ばれる、政治的な意思決定を行う者たちがいるはずだ。彼らを説得し、集落全体として俺の支配下に入ることを認めさせなければ、真の統合は成し遂げられない。
翌朝、俺はガロンを伴い、砦の中心部にある長老たちの議事堂へと向かった。
扉を開けると、そこには三人の年老いたオークが、厳しい顔つきで俺たちを待ち構えていた。彼らが、オークの長老衆だろう。その身体は、若い戦士たちのような筋肉こそないが、その目には、長い年月を生き抜いてきた者だけが持つ、深い知恵と頑固さが宿っていた。
「ガロンよ、これは一体どういうことだ」
中央に座る、最も年嵩の長老が、低い声で尋ねた。その声には、怒りよりも、深い戸惑いの色が滲んでいた。
「長老方。見ての通りです。我々は、このゴブ……ゴブ様に、完膚なきまでに敗北しました」
ガロンは、恥じることなく敗北を認めた。
「そして、私は決めました。このお方に仕え、我々オーク族の新たな未来を築くことを」
「正気か、ガロン! 我々が、ゴブリン崩れの下につけと申すか! 我々の誇りはどうなる!」
別の長老が、激昂して叫んだ。
俺は、彼らのやり取りを黙って聞いていた。ここで俺が口を挟めば、彼らの反感を煽るだけだ。この交渉の主役は、ガロンでなければならない。
ガロンは、激昂する長老を冷静な目で見据え、静かに語り始めた。
「誇り、ですか。確かに、我々には誇りがある。だが、その誇りが、我々の目を曇らせていたのも事実。我々は、人間への憎しみに囚われるあまり、足元で育っていた真の脅威を見誤った。その結果、多くの仲間を失い、砦を焼かれた。これが、我々の誇りがもたらした結果です」
彼は、昨夜の俺との対話を、自分自身の言葉で、長老たちに説いて聞かせた。
ゴブという王が持つ、冷徹なまでの合理主義。種族を問わず、使えるものは全て使うという器の大きさ。そして、憎しみの連鎖を断ち切り、新たな国を築くという、壮大なビジョン。
「このお方は、我々が持たぬ『知恵』をお持ちだ。そして我々は、このお方が望む『力』と『技術』を持っている。この二つが手を組めば、我々は人間をも凌駕する、未だかつてない強大な勢力となれる。長老方、これこそが、滅びかけた我々オーク族が、再び立ち上がる唯一の道ではないでしょうか」
ガロンの言葉は、熱く、そして説得力に満ちていた。それは、ただの敗者の言い訳ではなく、一族の未来を真剣に憂う、指導者の言葉だった。
長老たちは、腕を組み、難しい顔で沈黙していた。彼らの頭の中では、オークとしての誇りと、一族の存続という現実が、激しく天秤にかかっているのだろう。
しばらくの沈黙の後、中央の長老が、ゆっくりと口を開いた。
「……ゴブ、と言ったか。ホブゴブリンの王よ」
その視線が、初めて俺へと向けられた。
「お主は、我々に何を望む? 我々を奴隷とし、ただこき使うだけか?」
「違う」俺は、きっぱりと否定した。「俺が望むのは、対等な協力関係だ。もっとも、俺が王であることに変わりはないがな」
俺は、彼らに俺の組織の仕組みを説明した。
狩り部隊、探索部隊、そして資材管理係。それぞれの役割があり、働きに応じて正当な報酬が与えられる。戦えない者も、切り捨てられることはない。
「お前たちオークには、新たな役割を与える。一つは、俺の軍の中核をなす『重装歩兵部隊』。もう一つは、お前たちが得意とする、武具や施設を作り出す『生産技術部隊』だ」
俺の言葉に、長老たちの目が、わずかに動いた。
「俺の組織では、種族による差別は存在しない。ゴブリンであろうと、オークであろうと、エルフであろうと、働きが優れていれば、相応の地位と報酬が与えられる。ガロンは、その武勇と指揮能力を評価し、全軍を統括する『将軍』の地位に任命するつもりだ」
「ガロンを……将軍に?」
長老たちは、信じられないという顔でガロンを見た。敗軍の将を、自軍のトップに据える。それは、彼らの常識では考えられないことだった。
「俺は、過去を問わない。問うのは、未来に何ができるか、ただそれだけだ。お前たち長老衆にも、その知恵と経験を活かし、内政の顧問として俺を支えてもらいたいと考えている」
俺は、彼らの誇りを傷つけず、しかし実質的な支配権は俺が握るという、絶妙な落としどころを提示した。
長老たちは、再び沈黙した。
だが、その沈黙は、先ほどまでの頑ななものではなかった。彼らは、俺が提示した未来に、一族が生き残るための、そして再び繁栄するための、確かな可能性を見出し始めていた。
中央の長老が、重々しく口を開いた。
「……分かった。ホブゴブリンの王、ゴブよ。我々オーク族は、お主の軍門に降ろう。そして、お主が示す未来に、一族の運命を賭けることにする」
それは、オーク族という誇り高き種族が、歴史上初めて、他の種族の支配下に入ることを受け入れた瞬間だった。
交渉は、成立した。
俺は、力で彼らをねじ伏せるのではなく、知恵と、そして未来へのビジョンを示すことで、彼らの心からの忠誠を勝ち取ったのだ。
「礼を言う、長老。その決断は、間違いではなかったと、いずれ分かるだろう」
俺は、満足げに頷いた。
ゴブリン、オーク、そしてエルフ。多種族からなる、俺の王国の原型が、今、このガロッシュ砦で、確かに産声を上げたのだった。
だが、それで全てが解決したわけではない。
ガロンはあくまで「戦士長」。オークの集落には、彼以外にも長老衆と呼ばれる、政治的な意思決定を行う者たちがいるはずだ。彼らを説得し、集落全体として俺の支配下に入ることを認めさせなければ、真の統合は成し遂げられない。
翌朝、俺はガロンを伴い、砦の中心部にある長老たちの議事堂へと向かった。
扉を開けると、そこには三人の年老いたオークが、厳しい顔つきで俺たちを待ち構えていた。彼らが、オークの長老衆だろう。その身体は、若い戦士たちのような筋肉こそないが、その目には、長い年月を生き抜いてきた者だけが持つ、深い知恵と頑固さが宿っていた。
「ガロンよ、これは一体どういうことだ」
中央に座る、最も年嵩の長老が、低い声で尋ねた。その声には、怒りよりも、深い戸惑いの色が滲んでいた。
「長老方。見ての通りです。我々は、このゴブ……ゴブ様に、完膚なきまでに敗北しました」
ガロンは、恥じることなく敗北を認めた。
「そして、私は決めました。このお方に仕え、我々オーク族の新たな未来を築くことを」
「正気か、ガロン! 我々が、ゴブリン崩れの下につけと申すか! 我々の誇りはどうなる!」
別の長老が、激昂して叫んだ。
俺は、彼らのやり取りを黙って聞いていた。ここで俺が口を挟めば、彼らの反感を煽るだけだ。この交渉の主役は、ガロンでなければならない。
ガロンは、激昂する長老を冷静な目で見据え、静かに語り始めた。
「誇り、ですか。確かに、我々には誇りがある。だが、その誇りが、我々の目を曇らせていたのも事実。我々は、人間への憎しみに囚われるあまり、足元で育っていた真の脅威を見誤った。その結果、多くの仲間を失い、砦を焼かれた。これが、我々の誇りがもたらした結果です」
彼は、昨夜の俺との対話を、自分自身の言葉で、長老たちに説いて聞かせた。
ゴブという王が持つ、冷徹なまでの合理主義。種族を問わず、使えるものは全て使うという器の大きさ。そして、憎しみの連鎖を断ち切り、新たな国を築くという、壮大なビジョン。
「このお方は、我々が持たぬ『知恵』をお持ちだ。そして我々は、このお方が望む『力』と『技術』を持っている。この二つが手を組めば、我々は人間をも凌駕する、未だかつてない強大な勢力となれる。長老方、これこそが、滅びかけた我々オーク族が、再び立ち上がる唯一の道ではないでしょうか」
ガロンの言葉は、熱く、そして説得力に満ちていた。それは、ただの敗者の言い訳ではなく、一族の未来を真剣に憂う、指導者の言葉だった。
長老たちは、腕を組み、難しい顔で沈黙していた。彼らの頭の中では、オークとしての誇りと、一族の存続という現実が、激しく天秤にかかっているのだろう。
しばらくの沈黙の後、中央の長老が、ゆっくりと口を開いた。
「……ゴブ、と言ったか。ホブゴブリンの王よ」
その視線が、初めて俺へと向けられた。
「お主は、我々に何を望む? 我々を奴隷とし、ただこき使うだけか?」
「違う」俺は、きっぱりと否定した。「俺が望むのは、対等な協力関係だ。もっとも、俺が王であることに変わりはないがな」
俺は、彼らに俺の組織の仕組みを説明した。
狩り部隊、探索部隊、そして資材管理係。それぞれの役割があり、働きに応じて正当な報酬が与えられる。戦えない者も、切り捨てられることはない。
「お前たちオークには、新たな役割を与える。一つは、俺の軍の中核をなす『重装歩兵部隊』。もう一つは、お前たちが得意とする、武具や施設を作り出す『生産技術部隊』だ」
俺の言葉に、長老たちの目が、わずかに動いた。
「俺の組織では、種族による差別は存在しない。ゴブリンであろうと、オークであろうと、エルフであろうと、働きが優れていれば、相応の地位と報酬が与えられる。ガロンは、その武勇と指揮能力を評価し、全軍を統括する『将軍』の地位に任命するつもりだ」
「ガロンを……将軍に?」
長老たちは、信じられないという顔でガロンを見た。敗軍の将を、自軍のトップに据える。それは、彼らの常識では考えられないことだった。
「俺は、過去を問わない。問うのは、未来に何ができるか、ただそれだけだ。お前たち長老衆にも、その知恵と経験を活かし、内政の顧問として俺を支えてもらいたいと考えている」
俺は、彼らの誇りを傷つけず、しかし実質的な支配権は俺が握るという、絶妙な落としどころを提示した。
長老たちは、再び沈黙した。
だが、その沈黙は、先ほどまでの頑ななものではなかった。彼らは、俺が提示した未来に、一族が生き残るための、そして再び繁栄するための、確かな可能性を見出し始めていた。
中央の長老が、重々しく口を開いた。
「……分かった。ホブゴブリンの王、ゴブよ。我々オーク族は、お主の軍門に降ろう。そして、お主が示す未来に、一族の運命を賭けることにする」
それは、オーク族という誇り高き種族が、歴史上初めて、他の種族の支配下に入ることを受け入れた瞬間だった。
交渉は、成立した。
俺は、力で彼らをねじ伏せるのではなく、知恵と、そして未来へのビジョンを示すことで、彼らの心からの忠誠を勝ち取ったのだ。
「礼を言う、長老。その決断は、間違いではなかったと、いずれ分かるだろう」
俺は、満足げに頷いた。
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