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第58話 初撃墜
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戦いが終わった荒野は、勝利の熱気と巨大なワイバーンの血の匂いに満ちていた。
ゴブリンもオークも敵の死骸の周りに集まり、自分たちが成し遂げた偉業を信じられないといった様子で眺めている。中にはワイバーンの硬い鱗に触れ、その大きさを実感しては感嘆の声を上げる者もいた。
「ボス! やりましたな!」
ガロンが血と泥に塗れた顔で、満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。彼の戦斧は、ワイバーンの体液でぬらぬらと光っている。
「まさか、本当に空飛ぶ竜をこうも一方的に叩き落とせる日が来ようとは!」
彼の興奮は連合軍全体の気持ちを代弁していた。
だが、俺は冷静だった。
「気を抜くな、ガロン。これはまだ始まりに過ぎん。竜哭山には、まだ数十の敵が残っている。それに、いつ奴らの本体が仲間の仇討ちにやってきてもおかしくない」
俺の言葉に、兵士たちの顔が引き締まる。
「直ちに戦場を整理する! 鉄槌軍団はワイバーンの死骸を解体しろ。肉、皮、骨、牙、爪、そして体内の魔石。使えるものは一つ残らず持ち帰る! これらは我々の貴重な資源となる!」
「ハッ!」
オークたちが巨大な解体用の鉈を手に作業に取り掛かる。
「疾風軍団と飛竜狩り部隊は周囲の警戒を厳にせよ! 斥候を放ち竜哭山の動向を探れ! 敵の増援が来る兆候があれば即座に報告!」
「了解!」
ゴブリンたちが素早く散開し、警戒網を敷く。
勝利に浮かれることなく、即座に次の行動へと移行する。俺の軍隊は確実に精強な組織へと成長していた。
俺は最初に撃ち落としたワイバーンの死骸へと近づいた。
その巨体は間近で見るとさらに圧倒的な迫力があった。俺の身長の何倍もある身体。一枚一枚が盾のように硬い鱗。
俺はその亡骸に手を置いた。
そして、誰にも気づかれないように静かに【弱肉強食】のスキルを発動させる。
俺の目的は勝利だけではない。
この強力な魔物を食らい、その力を吸収すること。それこそが、俺自身の成長に繋がるのだ。
俺は杭が突き刺さった傷口から、その肉を一口喰らった。
味は鳥肉と爬虫類を混ぜたような、淡白だが力強いものだった。
【ユニークスキル『弱肉強食』が発動しました】
【ワイバーン(若年個体)の捕食に成功】
【スキル『滑空 Lv1』『火炎耐性 Lv1』を獲得しました】
脳内に新たな力が流れ込んでくる。
【滑空 Lv1】:高所から飛び降りた際、風を捉えて短時間、長距離を滑空することができる。飛翔ではないため自力での上昇はできない。
【火炎耐性 Lv1】:炎によるダメージをわずかに軽減する。
来た!
俺が最も欲していた力の一つ。空を移動する能力。
まだ「飛翔」ではない不完全な「滑空」スキル。だが、これはとてつもなく大きな一歩だった。これさえあれば俺の戦術の幅は飛躍的に広がる。高所からの奇襲、あるいは危険な状況からの緊急離脱。その応用範囲は無限だ。
そして、【火炎耐性】。
ワイバーンの最大の武器であるブレスに対する直接的な対抗手段。これもまた今後の戦いで、俺の生存率を大きく左右する重要なスキルとなるだろう。
俺は新たな力を噛み締めながら、他のワイバーンの死骸も少しずつ捕食していった。個体差はあるものの、捕食を重ねることでスキルの練度はわずかに上昇していくようだった。
解体作業は数時間を要した。
ワイバーンの素材はどれも一級品だった。
その皮はどんな革鎧よりも強靭で防具の材料として最適だ。骨は新たな棍棒や杭の芯として使えるだろう。そして、心臓部から取り出された『魔石』は、リリアによれば魔法道具の動力源として非常に高い価値を持つという。
俺たちは運びきれないほどの戦利品を手に、グラーヘイムへの帰路についた。
その日の夜、都は再び祝賀ムードに包まれた。
今度の宴は前回の勝利とは比べ物にならないほどの熱気に満ちていた。兵士たちはワイバーンの肉を喰らい、その強大な力を自分たちのものにしたかのように、誇らしげに胸を張っていた。
だが、俺はその宴の輪には加わらなかった。
俺は一人、王城の最も高い塔の屋上へと登っていた。
眼下には平和な都の灯り。
そして、頭上には満点の星空が広がっている。
俺は塔の縁に立った。
ここから落ちれば、いくらゴブリンロードの肉体でもただでは済まないだろう。
だが、俺は躊躇わなかった。
俺は静かに目を閉じ、そして夜の闇へとその身を投げ出した。
風が全身を叩く。
落下していく不快な浮遊感。
だが、俺は焦らなかった。
俺は背中に意識を集中させ、風を捉えるイメージを強く念じた。
「――滑空」
スキルを発動させた瞬間、俺の背中に着けていた漆黒のマントが、まるで翼のように大きく広がった。
マントが風を孕み、俺の身体の落下速度が急速に落ちていく。
そして、俺の身体は地面と平行に、滑るように夜の空を移動し始めた。
眼下に小さくなっていくグラーヘイムの街並みが見える。
頬を撫でる冷たい夜風が心地よかった。
まだ自由自在に飛べるわけではない。
ただ、高い場所から低い場所へ滑空しているだけだ。
だが、それでも俺は初めて自分の力で空にいた。
地上に縛られていたちっぽけなゴブリンが、今、空の世界の入り口に確かに立ったのだ。
俺の視線は遥か彼方、闇に沈む竜哭山へと向けられていた。
待っていろ、ワイバーンロード。
お前が支配するその空へ、今、俺も行く。
そして、その翼をこの手でへし折ってやる。
夜空を滑空する黒いマントの魔王。
その姿は、グラーヘイムの住民の誰一人として知る由もなかった。
ゴブリンもオークも敵の死骸の周りに集まり、自分たちが成し遂げた偉業を信じられないといった様子で眺めている。中にはワイバーンの硬い鱗に触れ、その大きさを実感しては感嘆の声を上げる者もいた。
「ボス! やりましたな!」
ガロンが血と泥に塗れた顔で、満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。彼の戦斧は、ワイバーンの体液でぬらぬらと光っている。
「まさか、本当に空飛ぶ竜をこうも一方的に叩き落とせる日が来ようとは!」
彼の興奮は連合軍全体の気持ちを代弁していた。
だが、俺は冷静だった。
「気を抜くな、ガロン。これはまだ始まりに過ぎん。竜哭山には、まだ数十の敵が残っている。それに、いつ奴らの本体が仲間の仇討ちにやってきてもおかしくない」
俺の言葉に、兵士たちの顔が引き締まる。
「直ちに戦場を整理する! 鉄槌軍団はワイバーンの死骸を解体しろ。肉、皮、骨、牙、爪、そして体内の魔石。使えるものは一つ残らず持ち帰る! これらは我々の貴重な資源となる!」
「ハッ!」
オークたちが巨大な解体用の鉈を手に作業に取り掛かる。
「疾風軍団と飛竜狩り部隊は周囲の警戒を厳にせよ! 斥候を放ち竜哭山の動向を探れ! 敵の増援が来る兆候があれば即座に報告!」
「了解!」
ゴブリンたちが素早く散開し、警戒網を敷く。
勝利に浮かれることなく、即座に次の行動へと移行する。俺の軍隊は確実に精強な組織へと成長していた。
俺は最初に撃ち落としたワイバーンの死骸へと近づいた。
その巨体は間近で見るとさらに圧倒的な迫力があった。俺の身長の何倍もある身体。一枚一枚が盾のように硬い鱗。
俺はその亡骸に手を置いた。
そして、誰にも気づかれないように静かに【弱肉強食】のスキルを発動させる。
俺の目的は勝利だけではない。
この強力な魔物を食らい、その力を吸収すること。それこそが、俺自身の成長に繋がるのだ。
俺は杭が突き刺さった傷口から、その肉を一口喰らった。
味は鳥肉と爬虫類を混ぜたような、淡白だが力強いものだった。
【ユニークスキル『弱肉強食』が発動しました】
【ワイバーン(若年個体)の捕食に成功】
【スキル『滑空 Lv1』『火炎耐性 Lv1』を獲得しました】
脳内に新たな力が流れ込んでくる。
【滑空 Lv1】:高所から飛び降りた際、風を捉えて短時間、長距離を滑空することができる。飛翔ではないため自力での上昇はできない。
【火炎耐性 Lv1】:炎によるダメージをわずかに軽減する。
来た!
俺が最も欲していた力の一つ。空を移動する能力。
まだ「飛翔」ではない不完全な「滑空」スキル。だが、これはとてつもなく大きな一歩だった。これさえあれば俺の戦術の幅は飛躍的に広がる。高所からの奇襲、あるいは危険な状況からの緊急離脱。その応用範囲は無限だ。
そして、【火炎耐性】。
ワイバーンの最大の武器であるブレスに対する直接的な対抗手段。これもまた今後の戦いで、俺の生存率を大きく左右する重要なスキルとなるだろう。
俺は新たな力を噛み締めながら、他のワイバーンの死骸も少しずつ捕食していった。個体差はあるものの、捕食を重ねることでスキルの練度はわずかに上昇していくようだった。
解体作業は数時間を要した。
ワイバーンの素材はどれも一級品だった。
その皮はどんな革鎧よりも強靭で防具の材料として最適だ。骨は新たな棍棒や杭の芯として使えるだろう。そして、心臓部から取り出された『魔石』は、リリアによれば魔法道具の動力源として非常に高い価値を持つという。
俺たちは運びきれないほどの戦利品を手に、グラーヘイムへの帰路についた。
その日の夜、都は再び祝賀ムードに包まれた。
今度の宴は前回の勝利とは比べ物にならないほどの熱気に満ちていた。兵士たちはワイバーンの肉を喰らい、その強大な力を自分たちのものにしたかのように、誇らしげに胸を張っていた。
だが、俺はその宴の輪には加わらなかった。
俺は一人、王城の最も高い塔の屋上へと登っていた。
眼下には平和な都の灯り。
そして、頭上には満点の星空が広がっている。
俺は塔の縁に立った。
ここから落ちれば、いくらゴブリンロードの肉体でもただでは済まないだろう。
だが、俺は躊躇わなかった。
俺は静かに目を閉じ、そして夜の闇へとその身を投げ出した。
風が全身を叩く。
落下していく不快な浮遊感。
だが、俺は焦らなかった。
俺は背中に意識を集中させ、風を捉えるイメージを強く念じた。
「――滑空」
スキルを発動させた瞬間、俺の背中に着けていた漆黒のマントが、まるで翼のように大きく広がった。
マントが風を孕み、俺の身体の落下速度が急速に落ちていく。
そして、俺の身体は地面と平行に、滑るように夜の空を移動し始めた。
眼下に小さくなっていくグラーヘイムの街並みが見える。
頬を撫でる冷たい夜風が心地よかった。
まだ自由自在に飛べるわけではない。
ただ、高い場所から低い場所へ滑空しているだけだ。
だが、それでも俺は初めて自分の力で空にいた。
地上に縛られていたちっぽけなゴブリンが、今、空の世界の入り口に確かに立ったのだ。
俺の視線は遥か彼方、闇に沈む竜哭山へと向けられていた。
待っていろ、ワイバーンロード。
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