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第57話 初の対空戦闘
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十本の黒い杭が空気を切り裂き、獲物へと殺到する。
餌に夢中になっていた五体のワイバーンは、その死の宣告に全く気づいていなかった。
最初に悲劇が訪れたのは、最も巨大な肉塊にかぶりついていた一体だった。
二本の杭が、その無防備な背中と翼の付け根に寸分の狂いもなく突き刺さる。
「ギシャアアアアアアア!」
ワイバーンの絶叫が荒野に響き渡った。
鋼鉄の弦が放つ運動エネルギーは、奴の硬い鱗を紙のように貫通し、その下の筋肉と骨を容赦なく粉砕した。杭の先端に仕込まれた毒のカプセルが砕け、強力な麻痺毒がその体内を駆け巡る。
ワイバーンは苦悶に身をよじり、飛び立とうとするが、破壊された翼は動かず、麻痺した身体は言うことを聞かない。巨体は数度痙攣した後、どうと地面に倒れ伏し、動なくなった。
即死。
あまりにもあっけない幕切れだった。
残りの四体のワイバーンは仲間の突然の死に、何が起きたのか理解できないといった様子で、一瞬だけ動きを止めた。
その一瞬が、彼らの運命を決定づけた。
「次弾装填、急げ! 二番機、三番機、左の個体を狙え! 四番機、五番機は右だ!」
俺の矢継ぎ早の指示が飛ぶ。
飛竜狩り部隊は訓練通り、冷静沈着に、そして迅速に行動した。
巻き上げ機がギチギチと悲鳴を上げる。新たな杭が素早く装填されていく。
パニックから我に返ったワイバーンたちは、ようやく自分たちが攻撃されていることを理解した。彼らは空へと逃れようと、一斉に翼を広げる。
だが、遅い。
「撃て!」
再び、数本の杭が放たれた。
空へと飛び上がろうとしていた二体のワイバーンの翼を、杭が的確に捉える。
皮膜の翼は巨大な杭の前にはあまりにも脆く、無残に引き裂かれた。飛翔能力を失ったワイバーンたちはバランスを崩し、無様に地面へと墜落する。
「グルオオオ……!」
墜落した二体はまだ生きていた。だが、翼を破壊され地上に縫い付けられた彼らは、もはや空の王者ではない。ただの巨大で動きの鈍いトカゲだ。
その好機を、待機していた部隊が見逃すはずがなかった。
「鉄槌軍団、突撃! 奴らを仕留めろ!」
岩陰から将軍ガロン率いるオーク重装歩兵部隊が雄叫びを上げて飛び出した。彼らは墜落したワイバーンの元へと殺到し、その巨大な戦斧を容赦なく振り下ろした。
「疾風軍団! 残り二体の注意を引きつけろ! バリスタの射線を確保するんだ!」
ゴブリン遊撃部隊が俊敏な動きで、まだ無傷の二体のワイバーンの周囲を駆け巡る。石を投げ、短剣で脚を切りつけ執拗に撹乱する。
残った二体のワイバーンは完全に混乱していた。
仲間たちは次々と倒れ、地上からは無数の小さな敵が襲いかかってくる。そして、どこからか飛んでくる正体不明の、恐るべき威力を持つ杭。
彼らは怒りと恐怖に駆られ、ブレスを放とうとした。
喉の奥が赤く輝き始める。
「撃ち落とせ!」
俺は照準器でその動きを捉え、最後の命令を下した。
狙いは、ブレスを吐こうと大きく開かれた無防備な口の中。
二本の杭が吸い込まれるようにして、ワイバーンの口内へと飛び込んでいった。
凄まじい悲鳴はなかった。
ただ、ポン、という間の抜けた破裂音が響き、ワイバーンの頭部が内側から弾け飛んだ。ブレスのために凝縮されていた炎のエネルギーが、杭の衝撃で暴発したのだ。
残るはあと一体。
そのワイバーンは仲間たちの惨たらしい死を目の当たりにし、完全に戦意を喪失していた。彼は恐怖に駆られ、なりふり構わず空へと舞い上がろうとする。
だが、俺たちの射程圏から逃れることはもはや不可能だった。
「……終わりだ」
俺は逃げ惑う最後のワイバーンの背中に照準を合わせ、静かに引き金を引いた。
放たれた杭は美しい軌跡を描き、その心臓を一撃で貫いた。
「ギ……」
短い断末魔を残し、最後のワイバーンは力なく地上へと墜落した。
静寂が戦場を支配した。
五体のワイバーンが巨大な骸となって荒野に転がっている。
俺たちが勝ったのだ。
空の絶対王者であるワイバーンの群れの一角を、我々は打ち破った。
「…………」
「…………勝った……のか?」
飛竜狩り部隊の兵士たちが、信じられないといった顔で自分たちの成し遂げた偉業を見つめている。
そして、ガロン率いる地上部隊もまた、呆然とワイバーンの死骸を見下ろしていた。
やがて、誰からともなく歓声が上がった。
それはグラーヘイムの演習場で上げたものとは全く違う。
本物の敵を、血を流す生きた敵を、自分たちの手で打ち破った真の勝利の雄叫びだった。
「「「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」
その声は荒野に、森に、そして遥か彼方の竜哭山にまで響き渡るかのように、いつまでも、いつまでも鳴り響いていた。
俺は硝煙の匂いが残るバリスタの射手席で、静かにその光景を見つめていた。
囮作戦は完璧な成功を収めた。
だが、俺の心はまだ晴れていなかった。
今日、我々が倒したのは、あくまで群れの中の下位の個体に過ぎない。
竜哭山にはまだ数十体のワイバーンと、そしてこの若造たちとは比較にならないほど強大なワイバーンロードがいるはずだ。
本当の戦いは、まだこれからだ。
だが、それでもこの一勝は計り知れないほどに大きい。
我々は竜を殺すための「牙」を手に入れた。
そして、竜は殺せるのだという「自信」を手に入れた。
この勝利こそが、絶望的な竜哭山攻略への確かな第一歩となるのだ。
餌に夢中になっていた五体のワイバーンは、その死の宣告に全く気づいていなかった。
最初に悲劇が訪れたのは、最も巨大な肉塊にかぶりついていた一体だった。
二本の杭が、その無防備な背中と翼の付け根に寸分の狂いもなく突き刺さる。
「ギシャアアアアアアア!」
ワイバーンの絶叫が荒野に響き渡った。
鋼鉄の弦が放つ運動エネルギーは、奴の硬い鱗を紙のように貫通し、その下の筋肉と骨を容赦なく粉砕した。杭の先端に仕込まれた毒のカプセルが砕け、強力な麻痺毒がその体内を駆け巡る。
ワイバーンは苦悶に身をよじり、飛び立とうとするが、破壊された翼は動かず、麻痺した身体は言うことを聞かない。巨体は数度痙攣した後、どうと地面に倒れ伏し、動なくなった。
即死。
あまりにもあっけない幕切れだった。
残りの四体のワイバーンは仲間の突然の死に、何が起きたのか理解できないといった様子で、一瞬だけ動きを止めた。
その一瞬が、彼らの運命を決定づけた。
「次弾装填、急げ! 二番機、三番機、左の個体を狙え! 四番機、五番機は右だ!」
俺の矢継ぎ早の指示が飛ぶ。
飛竜狩り部隊は訓練通り、冷静沈着に、そして迅速に行動した。
巻き上げ機がギチギチと悲鳴を上げる。新たな杭が素早く装填されていく。
パニックから我に返ったワイバーンたちは、ようやく自分たちが攻撃されていることを理解した。彼らは空へと逃れようと、一斉に翼を広げる。
だが、遅い。
「撃て!」
再び、数本の杭が放たれた。
空へと飛び上がろうとしていた二体のワイバーンの翼を、杭が的確に捉える。
皮膜の翼は巨大な杭の前にはあまりにも脆く、無残に引き裂かれた。飛翔能力を失ったワイバーンたちはバランスを崩し、無様に地面へと墜落する。
「グルオオオ……!」
墜落した二体はまだ生きていた。だが、翼を破壊され地上に縫い付けられた彼らは、もはや空の王者ではない。ただの巨大で動きの鈍いトカゲだ。
その好機を、待機していた部隊が見逃すはずがなかった。
「鉄槌軍団、突撃! 奴らを仕留めろ!」
岩陰から将軍ガロン率いるオーク重装歩兵部隊が雄叫びを上げて飛び出した。彼らは墜落したワイバーンの元へと殺到し、その巨大な戦斧を容赦なく振り下ろした。
「疾風軍団! 残り二体の注意を引きつけろ! バリスタの射線を確保するんだ!」
ゴブリン遊撃部隊が俊敏な動きで、まだ無傷の二体のワイバーンの周囲を駆け巡る。石を投げ、短剣で脚を切りつけ執拗に撹乱する。
残った二体のワイバーンは完全に混乱していた。
仲間たちは次々と倒れ、地上からは無数の小さな敵が襲いかかってくる。そして、どこからか飛んでくる正体不明の、恐るべき威力を持つ杭。
彼らは怒りと恐怖に駆られ、ブレスを放とうとした。
喉の奥が赤く輝き始める。
「撃ち落とせ!」
俺は照準器でその動きを捉え、最後の命令を下した。
狙いは、ブレスを吐こうと大きく開かれた無防備な口の中。
二本の杭が吸い込まれるようにして、ワイバーンの口内へと飛び込んでいった。
凄まじい悲鳴はなかった。
ただ、ポン、という間の抜けた破裂音が響き、ワイバーンの頭部が内側から弾け飛んだ。ブレスのために凝縮されていた炎のエネルギーが、杭の衝撃で暴発したのだ。
残るはあと一体。
そのワイバーンは仲間たちの惨たらしい死を目の当たりにし、完全に戦意を喪失していた。彼は恐怖に駆られ、なりふり構わず空へと舞い上がろうとする。
だが、俺たちの射程圏から逃れることはもはや不可能だった。
「……終わりだ」
俺は逃げ惑う最後のワイバーンの背中に照準を合わせ、静かに引き金を引いた。
放たれた杭は美しい軌跡を描き、その心臓を一撃で貫いた。
「ギ……」
短い断末魔を残し、最後のワイバーンは力なく地上へと墜落した。
静寂が戦場を支配した。
五体のワイバーンが巨大な骸となって荒野に転がっている。
俺たちが勝ったのだ。
空の絶対王者であるワイバーンの群れの一角を、我々は打ち破った。
「…………」
「…………勝った……のか?」
飛竜狩り部隊の兵士たちが、信じられないといった顔で自分たちの成し遂げた偉業を見つめている。
そして、ガロン率いる地上部隊もまた、呆然とワイバーンの死骸を見下ろしていた。
やがて、誰からともなく歓声が上がった。
それはグラーヘイムの演習場で上げたものとは全く違う。
本物の敵を、血を流す生きた敵を、自分たちの手で打ち破った真の勝利の雄叫びだった。
「「「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」
その声は荒野に、森に、そして遥か彼方の竜哭山にまで響き渡るかのように、いつまでも、いつまでも鳴り響いていた。
俺は硝煙の匂いが残るバリスタの射手席で、静かにその光景を見つめていた。
囮作戦は完璧な成功を収めた。
だが、俺の心はまだ晴れていなかった。
今日、我々が倒したのは、あくまで群れの中の下位の個体に過ぎない。
竜哭山にはまだ数十体のワイバーンと、そしてこの若造たちとは比較にならないほど強大なワイバーンロードがいるはずだ。
本当の戦いは、まだこれからだ。
だが、それでもこの一勝は計り知れないほどに大きい。
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