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第62話 王の帰還
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「散開しろ! 崖を駆け下りろ! 何があっても足を止めるな!」
俺は卵を抱えた部下たちに絶叫しながら、自らは最後尾についた。背後から迫るプレッシャーは、もはや殺気という生易しいものではない。山そのものが怒り、俺たちという異物を排除しようとしているかのような絶対的な拒絶の意志。
振り返ると、漆黒の巨体が信じられない速度で空を駆け上がってくるのが見えた。
ワイバーンロード。
彼の怒りは、その飛行速度を通常の何倍にも引き上げているようだった。
「ギシャアアアアア!」
ロードの咆哮が、俺たちの真上で炸裂した。
その音波だけで崖の岩がボロボロと崩れ落ちる。部下の一人が足を滑らせて体勢を崩した。
「危ない!」
俺は咄嗟に彼の腕を掴み、引き上げた。だが、その一瞬の遅れが命取りとなった。
ロードは俺たちの頭上を通り過ぎると反転し、ブレスの体勢に入った。その巨大な顎が開き、喉の奥が灼熱の太陽のように輝き始める。
「くそっ!」
逃げ場はない。この崖の上でブレスを食らえば、俺たちに待っているのは蒸発という名の死だけだ。
俺は最後の賭けに出た。
「全員、俺の後ろに隠れろ!」
俺は部下たちを背後にかばい、崖の僅かなくぼみに身を押し込めた。そして、残っていたMPの全てを注ぎ込み、スキルを発動させる。
【硬質外皮 Lv2】
【頑強 Lv1】
俺の全身の皮膚が黒曜石のように硬質化し、その内側でグレートボアから受け継いだ強靭な筋肉が限界まで収縮する。防御に特化した二重の鎧。
そして、俺は背中の漆黒のマントを大きく広げ、自分と部下たちを覆うように盾とした。
次の瞬間。
世界が白に染まった。
ゴオオオオオオオォォォォ!
灼熱の奔流が俺の背中を直撃する。
凄まじい熱と衝撃。マントがジリジリと音を立てて蒸発していく。その下の硬質化した皮膚が熱でひび割れ、肉が焼ける嫌な匂いが立ち込めた。
「ぐ……うおおおおおおおおっ!」
俺は歯を食いしばり、絶叫して耐えた。意識が何度も飛びそうになるのを、仲間を守るというただ一点の意志だけで繋ぎ止める。
どれくらいの時間が経っただろうか。
永遠にも思えた灼熱の嵐が、ようやく止んだ。
俺の背中のマントはほとんど消し飛んでいた。皮膚は焼け爛れ、激痛が全身を駆け巡る。だが、俺は立っていた。そして、俺の背後で部下たちは全員無事だった。
「……ボス……」
彼らが、信じられないものを見るような目で俺の背中を見つめている。
「……化け物が」
崖の上空でホバリングしていたワイバーンロードが、忌々しげに呟いた。その声はテレパシーのように、直接俺の脳内に響いてきた。
「我がブレスを正面から受け止めて、なお立つか。虫ケラにしては骨がある」
ロードの漆黒の瞳が俺を正確に捉えていた。その瞳には怒りと共に、初めて俺という存在に対する純粋な興味の色が浮かんでいた。
「だが、貴様らが我が巣で何をしたかは分かっている。その罪は万死に値する。卵を置いていけ。さすれば、苦しまずに殺してやろう」
それは王による最後の慈悲の宣告だった。
俺は焼けた背中の痛みに耐えながら、ゆっくりと顔を上げた。そして、血反吐を吐き捨て不敵に笑ってみせた。
「断る」
俺は部下が抱えていたワイバーンの卵の一つを乱暴に奪い取った。そして、それをロードに見せつけるように高く掲げる。
「こいつらは俺が貰い受ける。そして、お前よりも遥かに強い竜に育て上げてやろう。俺の、手駒としてな」
その挑発は、王の逆鱗に触れるには十分すぎた。
「……そうか」
ロードの声から感情が消えた。それは、絶対零度の怒りの表れ。
「ならば後悔するがいい。貴様がこの森で最も触れてはならないものに手を出したことを」
ロードはもはやブレスを吐こうとはしなかった。
彼はゆっくりと、その巨大な身体を俺たちがいる崖の上へと降下させてくる。
一対一で、直接俺を叩き潰すつもりなのだ。
「お前たちは卵を持って、麓のガロンと合流しろ。これは命令だ」
俺は部下たちに最後の指示を与えた。
「しかし、ボス一人では!」
「行けと言っている!」
俺の【魔王の覇気】が彼らの反論を封じ込める。部下たちは悔しそうに歯を食いしばりながらも、俺に一礼し、崖を駆け下りていった。
やがて、崖の上には俺と、そしてゆっくりと着地したワイバーンロードの二つの影だけが残された。
風がヒュウと鳴いた。
眼下ではまだ陽動部隊とワイバーンの群れの戦いが続いている。だが、その喧騒はもはや俺たちの耳には届いていなかった。
「さて、始めようか」
俺はボロボロの身体を引きずりながら、冒険者から奪った長剣を構えた。
「王と王の戦いをな」
漆黒のワイバーンロードが、それに応えるようにその巨大な顎をゆっくりと開いた。
この森の真の支配者を決める、頂上決戦。
その火蓋が、今、静かに切って落とされた。
俺は卵を抱えた部下たちに絶叫しながら、自らは最後尾についた。背後から迫るプレッシャーは、もはや殺気という生易しいものではない。山そのものが怒り、俺たちという異物を排除しようとしているかのような絶対的な拒絶の意志。
振り返ると、漆黒の巨体が信じられない速度で空を駆け上がってくるのが見えた。
ワイバーンロード。
彼の怒りは、その飛行速度を通常の何倍にも引き上げているようだった。
「ギシャアアアアア!」
ロードの咆哮が、俺たちの真上で炸裂した。
その音波だけで崖の岩がボロボロと崩れ落ちる。部下の一人が足を滑らせて体勢を崩した。
「危ない!」
俺は咄嗟に彼の腕を掴み、引き上げた。だが、その一瞬の遅れが命取りとなった。
ロードは俺たちの頭上を通り過ぎると反転し、ブレスの体勢に入った。その巨大な顎が開き、喉の奥が灼熱の太陽のように輝き始める。
「くそっ!」
逃げ場はない。この崖の上でブレスを食らえば、俺たちに待っているのは蒸発という名の死だけだ。
俺は最後の賭けに出た。
「全員、俺の後ろに隠れろ!」
俺は部下たちを背後にかばい、崖の僅かなくぼみに身を押し込めた。そして、残っていたMPの全てを注ぎ込み、スキルを発動させる。
【硬質外皮 Lv2】
【頑強 Lv1】
俺の全身の皮膚が黒曜石のように硬質化し、その内側でグレートボアから受け継いだ強靭な筋肉が限界まで収縮する。防御に特化した二重の鎧。
そして、俺は背中の漆黒のマントを大きく広げ、自分と部下たちを覆うように盾とした。
次の瞬間。
世界が白に染まった。
ゴオオオオオオオォォォォ!
灼熱の奔流が俺の背中を直撃する。
凄まじい熱と衝撃。マントがジリジリと音を立てて蒸発していく。その下の硬質化した皮膚が熱でひび割れ、肉が焼ける嫌な匂いが立ち込めた。
「ぐ……うおおおおおおおおっ!」
俺は歯を食いしばり、絶叫して耐えた。意識が何度も飛びそうになるのを、仲間を守るというただ一点の意志だけで繋ぎ止める。
どれくらいの時間が経っただろうか。
永遠にも思えた灼熱の嵐が、ようやく止んだ。
俺の背中のマントはほとんど消し飛んでいた。皮膚は焼け爛れ、激痛が全身を駆け巡る。だが、俺は立っていた。そして、俺の背後で部下たちは全員無事だった。
「……ボス……」
彼らが、信じられないものを見るような目で俺の背中を見つめている。
「……化け物が」
崖の上空でホバリングしていたワイバーンロードが、忌々しげに呟いた。その声はテレパシーのように、直接俺の脳内に響いてきた。
「我がブレスを正面から受け止めて、なお立つか。虫ケラにしては骨がある」
ロードの漆黒の瞳が俺を正確に捉えていた。その瞳には怒りと共に、初めて俺という存在に対する純粋な興味の色が浮かんでいた。
「だが、貴様らが我が巣で何をしたかは分かっている。その罪は万死に値する。卵を置いていけ。さすれば、苦しまずに殺してやろう」
それは王による最後の慈悲の宣告だった。
俺は焼けた背中の痛みに耐えながら、ゆっくりと顔を上げた。そして、血反吐を吐き捨て不敵に笑ってみせた。
「断る」
俺は部下が抱えていたワイバーンの卵の一つを乱暴に奪い取った。そして、それをロードに見せつけるように高く掲げる。
「こいつらは俺が貰い受ける。そして、お前よりも遥かに強い竜に育て上げてやろう。俺の、手駒としてな」
その挑発は、王の逆鱗に触れるには十分すぎた。
「……そうか」
ロードの声から感情が消えた。それは、絶対零度の怒りの表れ。
「ならば後悔するがいい。貴様がこの森で最も触れてはならないものに手を出したことを」
ロードはもはやブレスを吐こうとはしなかった。
彼はゆっくりと、その巨大な身体を俺たちがいる崖の上へと降下させてくる。
一対一で、直接俺を叩き潰すつもりなのだ。
「お前たちは卵を持って、麓のガロンと合流しろ。これは命令だ」
俺は部下たちに最後の指示を与えた。
「しかし、ボス一人では!」
「行けと言っている!」
俺の【魔王の覇気】が彼らの反論を封じ込める。部下たちは悔しそうに歯を食いしばりながらも、俺に一礼し、崖を駆け下りていった。
やがて、崖の上には俺と、そしてゆっくりと着地したワイバーンロードの二つの影だけが残された。
風がヒュウと鳴いた。
眼下ではまだ陽動部隊とワイバーンの群れの戦いが続いている。だが、その喧騒はもはや俺たちの耳には届いていなかった。
「さて、始めようか」
俺はボロボロの身体を引きずりながら、冒険者から奪った長剣を構えた。
「王と王の戦いをな」
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その火蓋が、今、静かに切って落とされた。
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