ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第84話 甘言

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「……復讐……?」

リリアは、ザラキエルの言葉を呆然と繰り返した。
その単語は、彼女が心の最も深い場所に封印し、決して開けてはならないと自分に言い聞かせてきた禁断の扉だった。

「そうです、復讐です」
ザラキエルはリリアの動揺を見透かしたように、さらに言葉を続けた。その声は甘い蜜のように、彼女の理性を溶かしていく。

「人間どもは常にそうでしょう? 自分たちと異なるというだけで我々を、あなた方エルフを獣のように扱い、奪い、殺す。彼らが掲げる正義など、所詮は自分たちの欲望を糊塗するための薄っぺらい言い訳に過ぎない」

彼の言葉は的確に、エルフという種族が人間から受けてきた長年の迫害の歴史をなぞっていた。
それは、リリアが否定しようのない事実だった。

「あなたのその力……素晴らしい治癒魔法。それは本来、森の生命を育むために与えられた聖なる力のはず。ですが人間どもは、その力さえも金儲けの道具か、あるいは自らの延命のための部品としか見ていない。現に、今あなたの『ご主人様』を襲っているあの白銀の騎士なども、その典型です」

「ご主人様……?」

「おや、違いましたかな。あのゴブリンロードのことですよ。彼は確かに強い。ですが、彼のやっていることは人間どもと同じではないですか? 力で他者をねじ伏せ、自分の支配下に置く。あなたも、結局は彼の力の前に屈服させられただけなのでは?」

ザラキエルの言葉は巧みだった。
彼はリリアの人間への憎しみを煽ると同時に、俺と彼女の間に不信感という楔を打ち込もうとしていた。

「黙ってください!」
リリアが震える声で反論した。
「ゴブ様は違う! 彼は私を……私たちを救ってくれた!」

「救った? 本当にそうでしょうか」ザラキエルは憐れむような目で彼女を見つめた。「彼はあなたを保護することで、あなたの持つ『治癒魔法』という希少な戦力を手に入れた。結果的に、彼の組織はさらに強大になった。それは本当に善意からだったのでしょうか? それとも、全ては計算ずくだったのでは?」

「ちが……違います……!」

リリアは必死に否定するが、ザラキエルの言葉は彼女の心のわずかな隙間に毒のように染み込んでいく。
本当に? ゴブ様は本当に私を、ただの仲間として見てくれているの? スキルを持つ、便利な『駒』としてではなく?

「お嬢さん、目を覚ましなさい」
ザラキエルはリリアの肩にそっと手を置いた。その手は氷のように冷たかった。

「あのゴブリンロードは所詮は魔物。その本性は弱肉強食。喰らうか、喰らわれるか。それだけです。彼があなたに優しくするのは、あなたがまだ『使える』からに過ぎない。もしあなたがその力を失えば、彼は躊躇なくあなたを切り捨てるでしょう」

「……そんなこと……」
「ありますよ。それが魔物の世界の理なのですから」

ザラキエルの言葉が、リリアの心をじわじわと追い詰めていく。
人間も信じられない。
だが、この魔物の王も心の底から信じていいのだろうか。
自分は一体、どこに居場所を求めればいいのか。

彼女の瞳が絶望の色に揺らめいた、その時だった。
ザラキエルは満を持して、最後の甘言を囁いた。

「――我々と手を組みませんか?」

「……え?」

「我々魔王軍は、あなた方エルフと同じ、人間どもに虐げられてきた者たちの集まりです。我々の目的はただ一つ。人間による理不尽な支配を終わらせ、全ての種族が真に平等に暮らせる世界を新たに創造すること」

その言葉は、あまりにも魅力的で理想に満ちていた。
人間への復讐。そして、新たな世界の創造。

「我々の下へ来なさい、エルフのお嬢さん。魔王ゴルザリオン様は、あなたのその聖なる力を正当に評価し、相応しい地位と安寧を約束されるでしょう。あなたの同胞たちの無念を晴らし、二度と誰にも脅かされることのない、あなた方だけの聖域を我々が用意します」

それはリリアが心の奥底で、ずっと求め続けていたものかもしれない。
絶対的な安全。そして、失われた故郷の再興。

「さあ、どうです? あのいつ喰われるか分からぬ魔物の王の下で怯えながら暮らすのと、我々と共に輝かしい未来を築くのと。どちらがあなたにとって幸せか。もうお分かりでしょう?」

ザラキエルは優雅に手を差し伸べた。
その手を取れば、全ての苦しみから解放される。
そう思えた。

リリアの白い手が、ゆっくりと震えながら持ち上げられる。
彼女の理性が、その甘い誘惑に屈しようとしていた。

ザラキエルの目に、計画が成功したことを確信する冷たい光が宿った。
この国の心臓を手に入れた、と。

だが。

リリアの手は、ザラキエルの手に触れる寸前でぴたりと止まった。

そして彼女はゆっくりと、その手を下ろした。
その瞳には、もう迷いはなかった。
そこにあったのは、嵐の後の凪のように静かで、そして何ものにも揺るがない強い意志の光だった。
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