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第四十八話:勝利の雄叫び
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グランツ兵の最後の生き残りが、雪の荒野の彼方へと消えていった後。ヴァイスラントには、奇妙な静寂が訪れた。戦いの喧騒が嘘のように静まり返り、聞こえるのはただ、風の音と、所々で燻る炎がはぜる音だけだった。
義勇兵たちは、血と泥に塗れた姿で、呆然と立ち尽くしていた。彼らは、自分たちが成し遂げたことの大きさを、まだ実感できずにいた。千の軍勢を、たった百人で撃退した。それは、常識ではあり得ない、まさしく奇跡だった。
その沈黙を破ったのは、ボルグの、震える声だった。
「……俺たち……勝ったのか……?」
その問いに答える者はいない。誰もが、夢でも見ているかのような気分だった。
だが、その時。村の中心部から、一つの声が上がった。
「勝ったぞー!」
それは、戦いの間、息を潜めていた子供の一人が、こらえきれずに上げた歓声だった。
その一声が、引き金となった。
堰を切ったように、次々と歓声が上がる。
「うおおおおおっ!」
「俺たちが、勝ったんだ!」
「グランツの奴らを追い払ったぞ!」
義勇兵たちが、天に向かって雄叫びを上げた。彼らは、武器を掲げ、抱き合い、涙を流しながら勝利を分かち合った。恐怖と死線を乗り越えた者だけが知る、純粋で、爆発的な歓喜だった。
その歓声は、村の中にいた老人や女、子供たちにも伝播した。彼らは家々から飛び出し、帰還した兵士たちを出迎える。
「お帰り!」
「よくぞ、ご無事で!」
「あんたは、この村の英雄だよ!」
妻は夫の無事を喜び、母は息子の勇姿に涙し、子供は父の首に飛びついた。
ヴァイスラントは、生まれて初めての、本当の勝利の喜びに包まれた。
かつて絶望の色しか知らなかった人々の顔に、今は満面の笑みと、誇りが輝いていた。
彼らの感情が、「歓喜:100」「誇り:95」「団結:90」という、眩いばかりの光となって、村全体を覆い尽くしていた。
物見櫓の上から、アッシュはその光景を静かに見下ろしていた。
彼の隣には、戦いを終えた主要メンバーたちが集まっていた。
「……見事な勝利でしたな、アッシュ様」
ジョセフが、目元を拭いながら感慨深げに言った。
「ああ。皆、よく戦ってくれた」
アッシュは、素直にその功績を認めた。
「ガイウス殿の采配、サイモン殿とボルグの奮闘、ブロック殿とギムリ殿の準備、そして……」
アッシュは、少し離れた場所に立つ二人の少女に視線を向けた。
リリアは、アッシュの隣で、ただ黙って主の横顔を見つめている。彼女の感情は、アッシュの無事を確かめる「安堵」と、勝利への「満足感」で満たされていた。彼女にとって、勝利とは、アッシュが生きていること、ただそれだけだった。
そして、セレスティア。
彼女は、眼下で広がる歓喜の輪から、少し距離を置いていた。その表情は、複雑だった。
「私の魔法がなければ、この勝利はなかった」という「自負」と、「私の魔法は、多くの命を奪った」という「罪悪感」。そして、アッシュの謀略が完璧に成功したことへの、僅かな「畏怖」。それらの感情が、彼女の中で渦巻いていた。
「……礼は言わないわよ」
セレスティアは、アッシュの視線に気づき、そっぽを向いて言った。
「私は、帝国のために戦っただけ。あなたのためではないわ」
「分かっている」
アッシュは、静かに頷いた。
「だが、貴女の力がなければ、この結果は得られなかった。それは事実だ。ヴァイスラントの民を代表して、礼を言う。ありがとう、『帝国の薔薇』殿」
そのストレートな感謝の言葉に、セレスティアは言葉を詰まらせた。彼女の頬が、わずかに赤く染まる。「困惑」と、ほんの少しの「喜び」の感情が、彼女の心を揺らした。
勝利の歓声が響き渡る中、アッシュの思考は、すでに次の段階へと移行していた。
戦後処理だ。
彼は、ガイウスに命じて、戦死したグランツ兵の遺体を丁重に集めさせ、村のはずれに共同の墓地を作らせた。
「彼らもまた、命令に従っただけの兵士だ。敵ではあったが、その死を辱めてはならん」
その指示は、義勇兵たちに、勝者の驕りを戒め、騎士道にも似た精神を植え付けた。
戦いで壊れた家屋や防塁の修復が、ブロックの指揮下で迅速に開始された。
そして、アッシュは捕虜にしたバルツァー伯爵の私兵たちを、広場に引き据えた。
彼らは、グランツ兵とは違う。自分たちの意志で、同胞であるはずのヴァイスラントを裏切った者たちだ。
領民たちの彼らに向ける目は、憎悪に満ちていた。
だが、アッシュが下した裁きは、意外なものだった。
「彼らの罪は重い。だが、彼らもまた、腐敗した主君に利用された犠牲者でもある」
アッシュはそう言うと、彼らを奴隷として、ヴァイスラントの再建事業に従事させることを宣言した。
「お前たちには、ここで働き、自らの罪を汗で贖ってもらう。それが、俺からの慈悲だ」
それは、処刑よりも遥かに合理的で、そしてある意味では残酷な罰だった。彼らは、自分たちが破壊しようとした村を、自らの手で再建させられるのだ。
ヴァイスラントの勝利は、ただ敵を撃退しただけではない。それは、この土地の人々が、自らの手で未来を勝ち取った、最初の記念碑だった。
この勝利の雄叫びは、彼らが絶望と決別し、真の独立へと歩み出すための、力強いファンファーレとなった。
アッシュは、歓喜に沸く村を見下ろしながら、その先の未来を静かに見据えていた。
この勝利は、ゴールではない。新たな物語の、本当の始まりに過ぎないのだから。
義勇兵たちは、血と泥に塗れた姿で、呆然と立ち尽くしていた。彼らは、自分たちが成し遂げたことの大きさを、まだ実感できずにいた。千の軍勢を、たった百人で撃退した。それは、常識ではあり得ない、まさしく奇跡だった。
その沈黙を破ったのは、ボルグの、震える声だった。
「……俺たち……勝ったのか……?」
その問いに答える者はいない。誰もが、夢でも見ているかのような気分だった。
だが、その時。村の中心部から、一つの声が上がった。
「勝ったぞー!」
それは、戦いの間、息を潜めていた子供の一人が、こらえきれずに上げた歓声だった。
その一声が、引き金となった。
堰を切ったように、次々と歓声が上がる。
「うおおおおおっ!」
「俺たちが、勝ったんだ!」
「グランツの奴らを追い払ったぞ!」
義勇兵たちが、天に向かって雄叫びを上げた。彼らは、武器を掲げ、抱き合い、涙を流しながら勝利を分かち合った。恐怖と死線を乗り越えた者だけが知る、純粋で、爆発的な歓喜だった。
その歓声は、村の中にいた老人や女、子供たちにも伝播した。彼らは家々から飛び出し、帰還した兵士たちを出迎える。
「お帰り!」
「よくぞ、ご無事で!」
「あんたは、この村の英雄だよ!」
妻は夫の無事を喜び、母は息子の勇姿に涙し、子供は父の首に飛びついた。
ヴァイスラントは、生まれて初めての、本当の勝利の喜びに包まれた。
かつて絶望の色しか知らなかった人々の顔に、今は満面の笑みと、誇りが輝いていた。
彼らの感情が、「歓喜:100」「誇り:95」「団結:90」という、眩いばかりの光となって、村全体を覆い尽くしていた。
物見櫓の上から、アッシュはその光景を静かに見下ろしていた。
彼の隣には、戦いを終えた主要メンバーたちが集まっていた。
「……見事な勝利でしたな、アッシュ様」
ジョセフが、目元を拭いながら感慨深げに言った。
「ああ。皆、よく戦ってくれた」
アッシュは、素直にその功績を認めた。
「ガイウス殿の采配、サイモン殿とボルグの奮闘、ブロック殿とギムリ殿の準備、そして……」
アッシュは、少し離れた場所に立つ二人の少女に視線を向けた。
リリアは、アッシュの隣で、ただ黙って主の横顔を見つめている。彼女の感情は、アッシュの無事を確かめる「安堵」と、勝利への「満足感」で満たされていた。彼女にとって、勝利とは、アッシュが生きていること、ただそれだけだった。
そして、セレスティア。
彼女は、眼下で広がる歓喜の輪から、少し距離を置いていた。その表情は、複雑だった。
「私の魔法がなければ、この勝利はなかった」という「自負」と、「私の魔法は、多くの命を奪った」という「罪悪感」。そして、アッシュの謀略が完璧に成功したことへの、僅かな「畏怖」。それらの感情が、彼女の中で渦巻いていた。
「……礼は言わないわよ」
セレスティアは、アッシュの視線に気づき、そっぽを向いて言った。
「私は、帝国のために戦っただけ。あなたのためではないわ」
「分かっている」
アッシュは、静かに頷いた。
「だが、貴女の力がなければ、この結果は得られなかった。それは事実だ。ヴァイスラントの民を代表して、礼を言う。ありがとう、『帝国の薔薇』殿」
そのストレートな感謝の言葉に、セレスティアは言葉を詰まらせた。彼女の頬が、わずかに赤く染まる。「困惑」と、ほんの少しの「喜び」の感情が、彼女の心を揺らした。
勝利の歓声が響き渡る中、アッシュの思考は、すでに次の段階へと移行していた。
戦後処理だ。
彼は、ガイウスに命じて、戦死したグランツ兵の遺体を丁重に集めさせ、村のはずれに共同の墓地を作らせた。
「彼らもまた、命令に従っただけの兵士だ。敵ではあったが、その死を辱めてはならん」
その指示は、義勇兵たちに、勝者の驕りを戒め、騎士道にも似た精神を植え付けた。
戦いで壊れた家屋や防塁の修復が、ブロックの指揮下で迅速に開始された。
そして、アッシュは捕虜にしたバルツァー伯爵の私兵たちを、広場に引き据えた。
彼らは、グランツ兵とは違う。自分たちの意志で、同胞であるはずのヴァイスラントを裏切った者たちだ。
領民たちの彼らに向ける目は、憎悪に満ちていた。
だが、アッシュが下した裁きは、意外なものだった。
「彼らの罪は重い。だが、彼らもまた、腐敗した主君に利用された犠牲者でもある」
アッシュはそう言うと、彼らを奴隷として、ヴァイスラントの再建事業に従事させることを宣言した。
「お前たちには、ここで働き、自らの罪を汗で贖ってもらう。それが、俺からの慈悲だ」
それは、処刑よりも遥かに合理的で、そしてある意味では残酷な罰だった。彼らは、自分たちが破壊しようとした村を、自らの手で再建させられるのだ。
ヴァイスラントの勝利は、ただ敵を撃退しただけではない。それは、この土地の人々が、自らの手で未来を勝ち取った、最初の記念碑だった。
この勝利の雄叫びは、彼らが絶望と決別し、真の独立へと歩み出すための、力強いファンファーレとなった。
アッシュは、歓喜に沸く村を見下ろしながら、その先の未来を静かに見据えていた。
この勝利は、ゴールではない。新たな物語の、本当の始まりに過ぎないのだから。
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