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第四十七話:恐怖の連鎖
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セレスティアの殲滅魔法によって、グランツ軍の組織的抵抗は終焉した。だが、戦いはまだ終わっていなかった。アッシュの目的は、敵をただ撃退することではない。二度とヴァイスラントに牙を剥こうなどと考えられなくするほど、その心胆を寒からしめることだった。
逃走するグランツ兵たちを、ヴァイスラント防衛軍は執拗に追撃した。しかし、アッシュからガイウスへと下された命令は、意外なものだった。
「深追いはするな。殺すな。ただし、徹底的に恐怖を植え付けろ」
ガイウスはその意図を即座に理解し、義勇兵たちに新たな指示を飛ばした。
「敵の武器と鎧を剥ぎ取れ!だが、命までは取るな!抵抗する者だけを無力化しろ!」
義勇兵たちは、その命令に従った。彼らは、地の利を活かして逃げ惑う敵兵を追い詰めると、力ずくで武装を解除し、下着同然の姿で荒野へと放り出した。
極寒の地で、装備を失うこと。それは、死刑宣告にも等しい。だが、即座に殺されるよりも、じわじわと死の恐怖に蝕まれる方が、遥かに精神を削る。
「やめてくれ!殺してくれ!」
「助けてくれ!凍え死んでしまう!」
グランツ兵たちの悲鳴が、荒野に虚しく響いた。だが、義勇兵たちは容赦しなかった。彼らは、昨夜まで自分たちが味わっていた恐怖を、今度は敵に返すことに何の躊躇もなかった。
一方、敵本陣。
リリアに無力化された将軍ゲルハルトは、アッシュの前に引き据えられていた。彼は、部下たちが次々と捕らえられ、無力化されていく様を、ただ呆然と見つめることしかできない。
「き、貴様……悪魔め……」
ゲルハルトは、震える声でアッシュを罵った。
アッシュは、そんな彼を冷たい目で見下ろした。
「悪魔?結構な呼び名だ。光栄に思うよ」
アッシュは、ゲルハルトの感情をスキルで詳細に分析していた。彼の心は、すでに「恐怖」と「屈辱」で満たされている。だが、まだ足りない。アッシュは、彼の心の最も脆い部分を的確に見抜いていた。
「臆病:85」
勇猛果敢で知られる将軍の仮面の下に隠されていたのは、己の命と地位を失うことへの、極度の恐怖心だった。
アッシュは、その臆病さを最大限に利用することにした。
彼は、捕虜にしたグランツ兵の中から、ゲルハルトの側近だった男を一人、彼の目の前に連れてこさせた。
「将軍。貴殿の敗北の責任は、誰かが取らねばなるまい」
アッシュはそう言うと、リリアに目配せをした。
リリアは、無表情のままショートソードを抜き放ち、側近の男の腕を切り落とした。
「ぎゃああああああ!」
側近の絶叫が、ゲルハルトの耳をつんざく。
「な、何をする!?」
ゲルハルトの顔が、恐怖で引きつった。
「言ったはずだ。責任だ」
アッシュは淡々と続けた。
「この戦いで死んだヴァイスラントの民、一人につき、貴殿の部下の四肢を一つずつ、貰い受ける。それが、俺の国の法だ」
もちろん、そんな法は存在しない。アッシュが、たった今作り上げた、ゲルハルトの心を折るためだけの、残酷な虚構だった。
「や、やめろ……!やめてくれ!」
ゲルハルトは、必死に懇願した。部下を案じているのではない。次に切り落とされるのが、自分の腕ではないかと、恐怖しているだけだった。
アッシュは、その恐怖の連鎖を断ち切らない。
次々と、ゲルハルトの目の前で、彼の部下たちが無力化されていく。アッシュは、リリアに命じて、決して殺さず、しかし回復不能な傷だけを負わせ続けた。
戦場は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
ゲルハルトの精神は、もう限界だった。彼の「臆病」の数値は、「恐怖」によって限界まで増幅され、ついに彼の理性の箍を外した。
「わ、分かった!降伏する!全面降伏だ!」
彼は、地面に額を擦り付け、子供のように泣きじゃくりながら叫んだ。
「だから、もうやめてくれ!俺だけは、俺だけは助けてくれ!」
その醜態は、残ったグランツ兵たちの心を、完全に折った。自分たちの総大将が、己の保身のために、部下を見捨てた。その事実は、彼らが最後までしがみついていた、兵士としての誇りを粉々に打ち砕いた。
彼らの戦意は、完全にゼロになった。
アッシュは、その光景を満足げに見つめていた。
「よかろう。降伏を認めよう」
アッシュは、ゲルハルトと、生き残った彼の部下たちに、一枚の誓約書を書かせた。それは、『ヴァイスラントへの不可侵』と、『今回の敗北の全責任は、将軍ゲルハルトの独断によるものである』ことを認めさせるものだった。
「これを持って、お前たちの国へ帰れ」
アッシュは、武器も鎧も持たない、半裸のゲルハルトの背中を蹴りつけた。
「そして、お前たちの皇帝に伝えろ。次にヴァイスラントに手を出せば、俺は、お前たちの首都を、昨夜の炎で焼き尽くす、と」
それは、セレスティアの力を借りなければ不可能な、完全な虚仮威しだった。だが、地獄を見てきたゲルハルトと彼の部下たちにとって、その言葉は絶対的な真実として響いた。
こうして、グランツ兵たちは、命からがら自国へと逃げ帰っていった。彼らが持ち帰ったのは、ヴァイスラントの恐怖の記憶と、「辺境には、触れてはならない悪魔がいる」という、伝説にも似た噂だった。
アッシュの仕掛けた恐怖の連鎖は、完璧に成功した。彼は、敵の肉体ではなく、その魂を殺したのだ。これにより、ヴァイスラントは、少なくともグランツ帝国からの脅威は、当分心配する必要がなくなった。
戦いは、終わった。
だが、アッシュの本当の狙いは、この先にある。
彼は、逃げ帰るゲルハルトの背中を見つめながら、その視線を、南――バルツァー伯爵領、そして、その先の帝都へと向けていた。
この勝利は、始まりに過ぎない。
本当の復讐は、これから始まるのだ。
逃走するグランツ兵たちを、ヴァイスラント防衛軍は執拗に追撃した。しかし、アッシュからガイウスへと下された命令は、意外なものだった。
「深追いはするな。殺すな。ただし、徹底的に恐怖を植え付けろ」
ガイウスはその意図を即座に理解し、義勇兵たちに新たな指示を飛ばした。
「敵の武器と鎧を剥ぎ取れ!だが、命までは取るな!抵抗する者だけを無力化しろ!」
義勇兵たちは、その命令に従った。彼らは、地の利を活かして逃げ惑う敵兵を追い詰めると、力ずくで武装を解除し、下着同然の姿で荒野へと放り出した。
極寒の地で、装備を失うこと。それは、死刑宣告にも等しい。だが、即座に殺されるよりも、じわじわと死の恐怖に蝕まれる方が、遥かに精神を削る。
「やめてくれ!殺してくれ!」
「助けてくれ!凍え死んでしまう!」
グランツ兵たちの悲鳴が、荒野に虚しく響いた。だが、義勇兵たちは容赦しなかった。彼らは、昨夜まで自分たちが味わっていた恐怖を、今度は敵に返すことに何の躊躇もなかった。
一方、敵本陣。
リリアに無力化された将軍ゲルハルトは、アッシュの前に引き据えられていた。彼は、部下たちが次々と捕らえられ、無力化されていく様を、ただ呆然と見つめることしかできない。
「き、貴様……悪魔め……」
ゲルハルトは、震える声でアッシュを罵った。
アッシュは、そんな彼を冷たい目で見下ろした。
「悪魔?結構な呼び名だ。光栄に思うよ」
アッシュは、ゲルハルトの感情をスキルで詳細に分析していた。彼の心は、すでに「恐怖」と「屈辱」で満たされている。だが、まだ足りない。アッシュは、彼の心の最も脆い部分を的確に見抜いていた。
「臆病:85」
勇猛果敢で知られる将軍の仮面の下に隠されていたのは、己の命と地位を失うことへの、極度の恐怖心だった。
アッシュは、その臆病さを最大限に利用することにした。
彼は、捕虜にしたグランツ兵の中から、ゲルハルトの側近だった男を一人、彼の目の前に連れてこさせた。
「将軍。貴殿の敗北の責任は、誰かが取らねばなるまい」
アッシュはそう言うと、リリアに目配せをした。
リリアは、無表情のままショートソードを抜き放ち、側近の男の腕を切り落とした。
「ぎゃああああああ!」
側近の絶叫が、ゲルハルトの耳をつんざく。
「な、何をする!?」
ゲルハルトの顔が、恐怖で引きつった。
「言ったはずだ。責任だ」
アッシュは淡々と続けた。
「この戦いで死んだヴァイスラントの民、一人につき、貴殿の部下の四肢を一つずつ、貰い受ける。それが、俺の国の法だ」
もちろん、そんな法は存在しない。アッシュが、たった今作り上げた、ゲルハルトの心を折るためだけの、残酷な虚構だった。
「や、やめろ……!やめてくれ!」
ゲルハルトは、必死に懇願した。部下を案じているのではない。次に切り落とされるのが、自分の腕ではないかと、恐怖しているだけだった。
アッシュは、その恐怖の連鎖を断ち切らない。
次々と、ゲルハルトの目の前で、彼の部下たちが無力化されていく。アッシュは、リリアに命じて、決して殺さず、しかし回復不能な傷だけを負わせ続けた。
戦場は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
ゲルハルトの精神は、もう限界だった。彼の「臆病」の数値は、「恐怖」によって限界まで増幅され、ついに彼の理性の箍を外した。
「わ、分かった!降伏する!全面降伏だ!」
彼は、地面に額を擦り付け、子供のように泣きじゃくりながら叫んだ。
「だから、もうやめてくれ!俺だけは、俺だけは助けてくれ!」
その醜態は、残ったグランツ兵たちの心を、完全に折った。自分たちの総大将が、己の保身のために、部下を見捨てた。その事実は、彼らが最後までしがみついていた、兵士としての誇りを粉々に打ち砕いた。
彼らの戦意は、完全にゼロになった。
アッシュは、その光景を満足げに見つめていた。
「よかろう。降伏を認めよう」
アッシュは、ゲルハルトと、生き残った彼の部下たちに、一枚の誓約書を書かせた。それは、『ヴァイスラントへの不可侵』と、『今回の敗北の全責任は、将軍ゲルハルトの独断によるものである』ことを認めさせるものだった。
「これを持って、お前たちの国へ帰れ」
アッシュは、武器も鎧も持たない、半裸のゲルハルトの背中を蹴りつけた。
「そして、お前たちの皇帝に伝えろ。次にヴァイスラントに手を出せば、俺は、お前たちの首都を、昨夜の炎で焼き尽くす、と」
それは、セレスティアの力を借りなければ不可能な、完全な虚仮威しだった。だが、地獄を見てきたゲルハルトと彼の部下たちにとって、その言葉は絶対的な真実として響いた。
こうして、グランツ兵たちは、命からがら自国へと逃げ帰っていった。彼らが持ち帰ったのは、ヴァイスラントの恐怖の記憶と、「辺境には、触れてはならない悪魔がいる」という、伝説にも似た噂だった。
アッシュの仕掛けた恐怖の連鎖は、完璧に成功した。彼は、敵の肉体ではなく、その魂を殺したのだ。これにより、ヴァイスラントは、少なくともグランツ帝国からの脅威は、当分心配する必要がなくなった。
戦いは、終わった。
だが、アッシュの本当の狙いは、この先にある。
彼は、逃げ帰るゲルハルトの背中を見つめながら、その視線を、南――バルツァー伯爵領、そして、その先の帝都へと向けていた。
この勝利は、始まりに過ぎない。
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