異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ

文字の大きさ
34 / 118

第34話:勝利の宴と新たな課題

しおりを挟む
グライフ子爵の没落と、アシュフォード領の拡大を祝う、盛大な宴が領都の広場で開かれた。
商会が惜しみなく資金を投入した宴は、これまでにないほど豪華なものだった。広場の中央には巨大な焚き火がいくつも焚かれ、串刺しにされた豚や牛が、醤油ベースのタレを塗られて香ばしく焼かれている。大樽からは葡萄酒が惜しげもなく振る舞われ、楽団が陽気な音楽を奏でていた。
領民たちは、誰もが底抜けの笑顔だった。
戦の勝利、領地の拡大、そして何より、自分たちの未来が明るいものであるという確信。それらが、彼らを心からの祝祭へと駆り立てていた。
兵士として戦った男たちは、英雄として皆に担ぎ上げられ、自慢げに武勇伝を語っている。その話は、語られるたびに脚色され、俺の活躍はもはや神話の領域に達していた。
「リオ様が手をかざすと、大地から炎が噴き出してな!」
「いやいや、空から黒い雲を呼び寄せて、敵を飲み込んじまったんだ!」
俺は、そんな彼らの様子を、少し離れたやぐらの上から、微笑ましく眺めていた。

「見なさい、リオ。皆、本当に幸せそうよ」
隣で、エリアーナがガラスの杯を傾けながら言った。彼女の横顔は、焚き火の光に照らされて美しく輝いている。
「あんたがもたらした勝利が、この光景を作ったんだ」
「俺だけの力じゃない。あんたの政治手腕がなければ、ただの局地的な勝利で終わっていたさ」
「ふふん、おだてても何も出ないわよ」
憎まれ口を叩きながらも、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
やぐらの上には、いつもの仲間たちが集まっていた。
父と母は、領民たちと杯を交わし、領主としての一体感を楽しんでいるようだった。
バルガスは、部下たちに囲まれて豪快に酒を飲み干している。彼の厳格な教官としての顔は消え、頼れる兄貴分としての顔に戻っていた。
そして、シルフィとリリアナは、人混みから少し離れた場所で、二人仲良く串焼きの肉を頬張っていた。シルフィはまだ人混みが苦手なようだが、リリアナが一緒なら安心するらしい。彼女が、戦の記憶ではなく、この楽しい宴の光景を心に刻んでくれることを、俺は願った。
束の間の、完璧な平和。
俺たちが守りたかった、手に入れたかった光景が、今、確かにそこにあった。

だが、俺の心の一隅には、常に冷静なもう一人の自分がいた。
この勝利は、新たな課題を生み出したことも、また事実なのだ。
宴の喧騒が少し落ち着いた頃、俺はエリアーナとバルガス、そして父を、人目につかないテントの中へ呼び寄せた。
「皆、浮かれているところ悪いが、いくつか確認しておかなければならないことがある」
俺が切り出すと、三人の顔が引き締まった。
「まず、新しく得た領地についてだ。面積はこれまでの倍近くになる。だが、あそこはグライフの圧政で疲弊しきっている。ただ土地を手に入れただけでは、お荷物になるだけだ」
俺は、エリアーナが用意した新しい地図を広げた。
「幸い、あちらの土地はまだ連作障害の影響が少ない。俺たちの新農法を導入すれば、一年で目覚ましい回復を遂げるだろう。問題は、誰がそれをやるかだ」
「グライフ領の農民たちを、そのまま使えばいいのではないか?」
父が言うと、俺は静かに首を振った。
「それだけでは足りません。彼らは長年の圧政で、働く意欲そのものを失っている可能性があります。それに、我々を『新しい支配者』として、警戒しているかもしれない」
「では、どうするのだ?」
「答えは、我々の足元にあります」
俺は、宴の広場に視線を向けた。そこには、俺たちが捕虜にした、元グライフ軍の兵士たちの姿もあった。彼らはアシュフォードの兵士たちの監視下に置かれながらも、同じように食事と酒を与えられていた。
「彼らだ。捕虜にした兵士たち。彼らの大半は、グライフに無理やり徴兵された農民だ。故郷に帰っても、荒れ果てた土地と貧しい暮らしが待っているだけ」
俺は、自分の計画を語った。
「彼らに、選択肢を与えるんです。故郷に帰る自由。そしてもう一つは、アシュフォードの領民として、この新しい土地で働くという選択肢を。こちらに残る者には、新しい農具と、当面の食料を支給し、収穫物は一定の割合で彼らのものにすると約束する」
「なるほど……」エリアーナが頷いた。「敵兵を、新たな労働力として取り込むというわけね。素晴らしい考えだわ。彼らはアシュフォードのやり方と寛大さを身をもって知っているから、きっと良き領民になるでしょう」
これが、第一の課題。戦後復興と、新たな領民の融和だ。

「そして、第二の課題。これは、より深刻だ」
俺の声が、少しだけ低くなる。
「俺たちの軍事力についてだ。今回の勝利は、奇策と、敵の油断があったからこそ成し遂げられた。だが、同じ手が二度も通用するとは思えない」
「確かに」とバルガスが同意した。「我々の戦術は、もはや秘密ではなくなりました。次に戦う相手は、必ず対策を練ってくるでしょう」
「そうだ。焼夷手榴弾や煙幕弾も、一度見れば、その正体は火薬の応用に過ぎないと見抜く者が現れるかもしれない。パイク方陣も、側面や後方からの攻撃には脆弱だ。俺たちの軍隊は、まだ多くの弱点を抱えている」
「では、どうするべきだと?」
「軍の、さらなる近代化だ。もっと射程の長い武器。もっと破壊力の高い兵器。そして、敵の動きを、より正確に、より早く知るための手段。俺たちの技術を、軍事の分野に、もっと本格的に応用していく必要がある」
俺の言葉に、テントの中が静まり返った。
それは、アシュフォード領が、本格的な軍事国家への道を歩み始めることを意味していたからだ。
「……リオ」
父が、心配そうな声で言った。「お前は、この領地をどこへ導こうとしているのだ。我々は、ただ平穏に暮らしたいだけではなかったのか」
「平穏に暮らすためですよ、父上」
俺は、父の目をまっすぐに見つめた。
「圧倒的な力は、敵の戦意そのものを奪う。誰もが『アシュフォードと戦うのは、自殺行為だ』と思うようになれば、戦そのものが起きなくなる。それこそが、本当の意味での平和に繋がるんです。戦わずして勝つ。そのために、俺たちは誰よりも強い力を持たなければならない」
俺のその言葉は、もはや理想論ではなかった。一度、血なまぐさい戦場を経験した者だけが持つ、冷徹なリアリズムに基づいていた。
父は、それ以上何も言わなかった。彼は、息子が自分の手の届かない、遥か高みへと登り詰めてしまったことを、寂しさと、そして一抹の誇らしさと共に、受け入れたようだった。
宴の喧騒が、遠くに聞こえる。
領民たちは、勝利の美酒に酔いしれている。
だが、俺たちの戦いは、まだ始まったばかりだ。
手に入れた勝利と、それに伴って生まれた新たな課題。その両方を背負い、俺たちは、まだ誰も見たことのない未来へと、歩みを進めていくしかなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス 優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました お父さんは村の村長みたいな立場みたい お母さんは病弱で家から出れないほど 二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます ーーーーー この作品は大変楽しく書けていましたが 49話で終わりとすることにいたしました 完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい そんな欲求に屈してしまいましたすみません

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

最も嫌われている最凶の悪役に転生ー物語の主人公に殺されるエンドを回避するため善行を積みます!ー

灰色の鼠
ファンタジー
大人気ソシャゲの物語の主要人物に転生したフリーターの瀬戸有馬。しかし、転生した人物が冷酷非道の悪役”傲慢の魔術師ロベリア・クロウリー”だった。 全キャラの好感度が最低値の世界で、有馬はゲーム主人公であり勇者ラインハルに殺されるバッドエンドを回避するために奮闘する——— その軌跡が、大勢の人を幸せにするとは知らずに。

薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。〜少年アレクの倫理で殴る学園ファンタジー〜

鮒捌ケコラ
ファンタジー
入学式から3週間目にして『退学」を言い渡された。 (早くない?RTAじゃないんだからさ。) 自分で言うのもアレだけど、入学してからは結構真面目に通ってた。 けど、どうやら教員の不況を買ってしまったらしい。 幸か不幸か、退学まで1週間の執行猶予が与えられた。 けど、今更どう足掻いても挽回する事は不可能だろうし、 そもそも挽回する気も起こらない。 ここまでの学園生活を振り返っても 『この学園に執着出来る程の魅力』 というものが思い当たらないからだ。 寧ろ散々な事ばかりだったな、今日まで。 それに、これ以上無理に通い続けて 貴族とのしがらみシミッシミの薬師になるより 故郷に帰って自由気ままな森番に復職した方が ずっと実りある人生になるだろう。 私を送り出した公爵様も領主様も、 アイツだってきっとわかってくれる筈だ。 よし。決まりだな。 それじゃあ、退学するまでは休まず毎日通い続けるとして…… 大人しくする理由も無くなったし、 これからは自由気ままに、我儘に、好き勝手に過ごす事にしよう。 せっかくだし、教員達からのヘイトをカンストさせるのも面白そうだ。 てな訳で……… 薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。 …そう息巻いて迎えた執行猶予満了日、 掲示板に張り出された正式な退学勧告文を 確認しに行ったんだけど…… どういう事なの?これ。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...