異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ

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第76話:“近代化の父”

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湖畔の離宮で過ごした束の間の休日は、俺たちの心身を十分に癒してくれた。
王都に戻った俺たちは再びそれぞれの戦場へと身を投じる。だがその顔には以前のような悲壮感はない。守るべき平和の価値を再確認した俺たちは、新たな決意とそして仲間との強い絆を胸に、未来へと歩みを進め始めた。
そして俺に与えられた新しい役職、『王家直属・特任技術顧問』としての最初の仕事が始まった。
それは国王アルベール三世が直々に命じた国家改造計画。
俺はその計画の全体像を一つの壮大なプロジェクトとして、国王とクラウスに提示した。
その名は『プロジェクト・ミネルヴァ』。
ローマ神話に登場する知恵と工芸、そして戦略の女神の名を冠した、この国を百年先へと導くための壮大なロードマップだった。

最初の謁見は王城のごく一部の重臣だけが集められた極秘の会議室で行われた。
俺は巨大な王国地図と何枚もの設計図を広げ、その計画の骨子を説明し始めた。
「陛下、クラウス。我が国が北の帝国の脅威に対抗し、真に豊かな国となるためには三つの大きな改革が同時に、そして迅速に実行される必要があります」
俺は三本の指を立てた。
「第一の矢は『インフラ革命』です」
俺は地図の上に赤い線を何本も書き込んでいく。
「現在、アシュフォードと鉱山を結んでいる鉄道網を、この国全ての主要都市へと延長します。北の国境要塞、東の港町、西の商業都市。全てをこの鉄の血管で結びつけるのです。同時に電信網も同じルートで敷設します」
「……なんと壮大な」
財務卿がそのコストを想像して、青い顔で呻いた。
「これが完成すれば物資と情報は国内のどこへでも一日で到達するようになります。経済は活性化し、軍隊の機動力は現在の数十倍になるでしょう。これは国防の根幹をなす最優先事項です」
「第二の矢は『産業革命』です」
俺は次に魔導蒸気機関の設計図を広げた。
「この新しい動力を国の主要な産業へと全面的に導入します。鉱山、製鉄所、そして織物工場。人力に頼っていた全ての生産活動を機械化するのです。これにより我が国の生産力は爆発的に向上します。帝国の物量に対抗するための国力の基礎をここで築き上げるのです」
「そして第三の矢。これが最も重要です」
俺は最後にアシュフォード学術院の設立趣意書をテーブルの中央に置いた。
「『教育革命』です。これら全ての改革を支えるのは結局のところ『人』です。新しい技術を理解し、それを使いこなし、さらに発展させていける人材。そういった人間を我々自身の力で育て上げなければなりません」
俺は身分を問わない義務教育の導入と、高度な専門知識を教える高等教育機関の設立を力強く訴えた。
「インフラ、産業、そして教育。この三本の矢が同じ方向を向いて飛んだ時、我が王国は初めて帝国と対等に渡り合える新しい時代の強国へと生まれ変わることができるのです」
俺の説明が終わると、会議室は深い沈黙に包まれた。
そこにいた重臣たちは皆、俺が語った未来のそのあまりの壮大さと、そしてそれを語る俺の揺るぎない確信にただ圧倒されていた。
やがて沈黙を破ったのは国王アルベール三世だった。
彼は玉座からゆっくりと立ち上がると、俺の前に歩み寄りその両肩に再び手を置いた。
「……リオ・アシュフォード公爵」
その声は感動と、そして国家の未来を託す王としての覚悟に震えていた。
「そなたはまさにこの国に遣わされた知恵の女神の使者だ。よろしい。その『プロジェクト・ミネルヴァ』、我がアルベール三世の名において国家の総力を挙げて実行することをここに約束しよう」
それはこの国の歴史が新しい時代へと大きく舵を切った瞬間だった。

その日から俺の日常は一変した。
俺は王城の一角に自分専用の執務室と巨大な開発室を与えられた。
クラウスは俺の右腕として俺が立案した計画を具体的な政策へと落とし込み、驚異的な行政手腕で次々と実行に移していく。
二人の間にはもはや派閥の違いなど存在しなかった。ただ『国を良くする』という一つの共通の目的のために、互いの才能を最大限に発揮し合う最高のパートナーシップが生まれていた。
俺の周りにはアカデミーから引き抜いた優秀な若い学者たちが集まり、彼らは俺の弟子として新しい技術の開発を補佐してくれた。
エリアーナはアシュフォード商会を半ば国営企業のような存在へと発展させ、プロジェクトに必要な莫大な資金と資材を滞りなく供給し続けた。
バルガスは国王軍の特別顧問に任命され、新しい時代の軍隊を育成するための士官学校の設立に奔走した。
そしてシルフィはアシュフォード領に建設中の学術院と王都の開発室を、不思議な魔法(おそらくは転移魔法の原型だろう)で頻繁に行き来しながら魔導科学の研究を着実に進めてくれていた。
俺たちはもはやただの辺境貴族の一団ではなかった。
俺たちはこの国の未来を創り出す巨大なプロジェクトチームそのものだったのだ。

もちろん全ての者がこの急進的な改革を歓迎したわけではない。
没落した保守派の残党や変化を恐れる古い考えの持ち主たちは、俺たちのことを陰でこう囁いていた。
『あの若き公爵は国の伝統と秩序を破壊する危険な独裁者だ』
『人々の暮らしは機械に支配され、魂のないものになってしまうだろう』
だがそんな声は日増しに大きくなる改革の槌音の前に、かき消されていった。
人々は目に見えて自分たちの暮らしが豊かになっていくのを実感していたからだ。
新しい道が作られ、新しい工場が建ち、そして新しい希望が生まれていく。
その中心にいる俺のことを人々はいつしか畏敬と、そして少しの親しみを込めてこう呼ぶようになっていた。
“近代化の父”、と。
俺は、その称号を少しだけ気恥ずかしく、しかし確かな誇りと共に受け止めていた。
俺の戦いはもはや俺一人のものではない。
この国に住まう全ての人々の未来を背負った、重く、そして何よりもやりがいのある戦いなのだと。
俺は執務室の窓から建設ラッシュに沸く王都の景色を眺めながら、静かにその決意を新たにしていた。
この手で必ずこの国を世界で最も豊かで平和な国にしてみせる、と。
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