異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ

文字の大きさ
93 / 118

第95話:開戦前夜

しおりを挟む
帝国への返答がなされてから七日間。
王国は、まるで巨大な機械が最終調整を行うかのように静かに、しかし寸分の狂いもなく戦争準備の最終段階へと入っていた。
王都の駅からは連日連夜、軍用列車が北の国境へと向けて出発していく。装甲貨車には新型ライフルで武装した兵士たち、分解されたカノン砲、そして山と積まれた弾薬が満載されていた。
鉄道という鉄の動脈が、王国の軍事力を最前線へと絶え間なく送り届けていく。
空を見上げれば、白銀の船体を持つ飛行船『イーグル』が試験飛行を繰り返していた。シルフィのマナ制御はもはや神業の域に達し、巨大な船体はまるで手足のように彼女の意思通りに大空を舞っていた。
大学の研究室では階差機関が休むことなく歯車を回転させ、複雑な弾道計算や物資の最適輸送ルートを次々と弾き出している。
エリアーナは国中の富をかき集め、それを前線の兵士たちのための食料や薬、そして暖かい軍服へと変えていた。
バルガスはすでに最前線の司令部へと赴き、俺が立案した防衛計画に基づき兵士たちの配置を進めている。
クラウスは王城に残り、外交と国内の治安維持にその辣腕を振るっていた。
そして俺は、王都の最高司令部で電信機から送られてくる刻一刻と変わる戦況の全てを巨大な地図盤の上に集約し、この大戦の最終的なグランドデザインを完成させようとしていた。
誰もが自分の持ち場で、自分の戦いを戦っていた。
不安も恐怖も確かにある。
だが、それ以上に自分たちの手でこの国を守り抜くのだという、熱く静かな決意が王国全体を一つの巨大な意志へとまとめ上げていた。

そして、運命の七日目の夜が来た。
最後通牒の期限が切れる日だ。
俺は司令部の巨大なガラス窓の前に立ち、眼下に広がる王都の夜景を見下ろしていた。
電灯の光が、まるで地上に生まれた新しい星座のように街を美しく彩っている。カフェからは人々の楽しげな笑い声が聞こえ、劇場は今宵も満員の観客で賑わっているだろう。
数年前までは想像もできなかった光景。
俺たちが必死で築き上げてきた、この平和で豊かな日常。
「……これを、守るんだ」
俺は誰に言うでもなく呟いた。
その背後から、そっと温かい毛布がかけられた。
エリアーナだった。彼女は俺の隣に立つと、同じように夜景を見下ろした。
「……眠れないの?」
「ああ。少しな」
「私もよ」
彼女は静かに言った。「明日、何が始まるのかを考えると心が張り裂けそうになる。でも、不思議ね。あなたの隣にいると、その恐怖が和らぐの」
俺は彼女の肩をそっと抱き寄せた。
「俺もだよ。あんたがいなければ、俺はこの重圧にとっくに押し潰されていた」
俺たちは言葉もなく、しばらく寄り添っていた。
この当たり前の、しかし、かけがえのない平和が明日には失われてしまうかもしれない。
その事実がずしりと重くのしかかる。

「……リオ」
不意にシルフィの声がした。
振り返ると、彼女がバルコニーの入り口に少し不安げな顔で立っていた。
「どうした、シルフィ。君も眠れないのか?」
「うん……」
彼女はこくりと頷くと、俺たちのそばに駆け寄ってきた。そして、俺とエリアーナの両方の手を小さな手でぎゅっと握りしめた。
「……大丈夫だよね? 私たち、勝てるよね?」
その翡翠色の瞳は不安に揺れていた。
俺は彼女の頭を優しく撫でてやった。
「ああ、勝てるさ。絶対にだ」
俺の言葉に嘘はなかった。
俺には見えていたからだ。
この戦争の結末が。
それは希望的観測などではない。
俺たちがこの数年間で積み上げてきた圧倒的な技術的優位性が導き出す、冷徹で必然的な未来の姿だった。
「シルフィ。君のイーグルが空から敵の全てを見通してくれる」
「エリアーナ。君が前線の兵士たちの腹を満たし、体を温めてくれる」
「バルガスが俺の教えた戦術を完璧に実行してくれる」
「そしてクラウスが俺たちの背後を鉄壁の守りで固めてくれている」
俺は仲間たちの顔を思い浮かべながら言った。
「俺は一人じゃない。俺たちには最高のチームがいる。だから、負けるはずがないんだ」
俺の力強い言葉に、シルフィの瞳から不安の色が消え、いつもの輝くような光が戻ってきた。
エリアーナもまた、俺の腕の中で強く頷いた。

遠く王城の時計塔が、深夜零時を告げる重々しい鐘の音を響かせた。
最後通牒の期限が切れた。
開戦の時だ。
俺は眼下に広がる愛しい光の海を、もう一度その目に焼き付けた。
「この光を、この未来を、誰にも奪わせはしない」
大陸の全ての生命の運命を決する最大の戦争が、今、始まろうとしていた。
俺は静かに、しかし心の奥底で燃え盛る鋼のような闘志と共に、その歴史の始まりを告げるのだった。
俺たちの最後の戦いが始まる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス 優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました お父さんは村の村長みたいな立場みたい お母さんは病弱で家から出れないほど 二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます ーーーーー この作品は大変楽しく書けていましたが 49話で終わりとすることにいたしました 完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい そんな欲求に屈してしまいましたすみません

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

最も嫌われている最凶の悪役に転生ー物語の主人公に殺されるエンドを回避するため善行を積みます!ー

灰色の鼠
ファンタジー
大人気ソシャゲの物語の主要人物に転生したフリーターの瀬戸有馬。しかし、転生した人物が冷酷非道の悪役”傲慢の魔術師ロベリア・クロウリー”だった。 全キャラの好感度が最低値の世界で、有馬はゲーム主人公であり勇者ラインハルに殺されるバッドエンドを回避するために奮闘する——— その軌跡が、大勢の人を幸せにするとは知らずに。

薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。〜少年アレクの倫理で殴る学園ファンタジー〜

鮒捌ケコラ
ファンタジー
入学式から3週間目にして『退学」を言い渡された。 (早くない?RTAじゃないんだからさ。) 自分で言うのもアレだけど、入学してからは結構真面目に通ってた。 けど、どうやら教員の不況を買ってしまったらしい。 幸か不幸か、退学まで1週間の執行猶予が与えられた。 けど、今更どう足掻いても挽回する事は不可能だろうし、 そもそも挽回する気も起こらない。 ここまでの学園生活を振り返っても 『この学園に執着出来る程の魅力』 というものが思い当たらないからだ。 寧ろ散々な事ばかりだったな、今日まで。 それに、これ以上無理に通い続けて 貴族とのしがらみシミッシミの薬師になるより 故郷に帰って自由気ままな森番に復職した方が ずっと実りある人生になるだろう。 私を送り出した公爵様も領主様も、 アイツだってきっとわかってくれる筈だ。 よし。決まりだな。 それじゃあ、退学するまでは休まず毎日通い続けるとして…… 大人しくする理由も無くなったし、 これからは自由気ままに、我儘に、好き勝手に過ごす事にしよう。 せっかくだし、教員達からのヘイトをカンストさせるのも面白そうだ。 てな訳で……… 薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。 …そう息巻いて迎えた執行猶予満了日、 掲示板に張り出された正式な退学勧告文を 確認しに行ったんだけど…… どういう事なの?これ。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...