異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ

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第104話:講和会議

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大陸大戦の終結は、帝国の降伏という誰もが予想しえなかった形で、あまりにもあっけなく訪れた。
その報せは電信によって瞬く間に大陸全土を駆け巡り、各国に大きな衝撃と、そして混乱をもたらした。
大陸の絶対的なパワーバランスが完全に崩壊したのだ。
誰もが固唾をのんで見守っていた。
勝利者である王国が、敗者である帝国に対し、どのような過酷な要求を突きつけるのか、と。
領土の割譲か、莫大な賠償金か、あるいは皇帝の処刑と帝国の解体か。
歴史は常に、勝者が敗者を徹底的に蹂躙することで繰り返されてきた。
だが、俺が世界に示すつもりでいたのは、全く新しい未来の形だった。

講和会議は、中立地帯である自由都市にて開かれることになった。
王国の代表団を率いるのはもちろん俺だ。そして、俺の補佐としてクラウスとエリアーナが同行した。
帝国の代表団は、皇帝ゼノンの名代として老宰相が率いていた。彼の顔には、敗戦国の代表としての深い疲労と絶望の色が刻み込まれていた。
会議室のテーブルに着いた両国の代表団。
重い沈黙がその場を支配する。
誰もが、俺の第一声が何を語るのかに注目していた。
俺は静かに口を開いた。
「まず初めに、我が王国の基本的な立場を明確にしておきたい」
俺の声は若いが、その場にいる全ての人間を支配するような静かな響きを持っていた。
「我々はガルニア帝国に対し、領土の割譲も、国民を苦しめるような過酷な賠償金も一切要求しない」
「……なっ!?」
その言葉に、帝国の老宰相だけでなく、同席していた王国の将軍たちまでもが驚きの声を上げた。
「公爵閣下! 何をお考えなのですか!」
「これほどの勝利を得たのですぞ! 帝国の富を正当な権利として我らが受け取るべきでは!」
将軍たちのその声を手で制し、俺は続けた。
「考えてもみてください。過酷な要求はただ人々の心に新たな憎しみと復讐の種を蒔くだけです。それは、いずれ次のさらに悲惨な戦争を引き起こすことになるでしょう。俺は、そんな愚かな歴史の繰り返しをここで終わらせたいのです」
俺のその言葉の真の意味を、まだ誰も理解することはできなかった。
俺は帝国の代表団に、俺たちの真の要求を突きつけた。
それは彼らが想像していたどんな要求よりも穏やかで、しかし遥かに重いものだった。

「第一に、ガルニア帝国はその軍備を大幅に縮小すること」
俺は具体的な数字を挙げた。「陸軍は現在の十分の一。竜騎士団は完全に解体する。海軍も、沿岸警備に必要な最低限の艦船以外は全て武装を解除する」
「そ、それは……!」
帝国の宰相が呻いた。「我が国を丸裸にしろと言うのですか!」
「そうです」
俺はきっぱりと言った。「これからの時代、国家間の問題を武力で解決しようとすること自体が時代遅れなのです。そのことを、まずあなた方に学んでいただく」
「第二に、帝国がこれまでに武力で併合してきた全ての属国を解放し、その独立を認めること」
「第三に、帝国と我が王国の間に広大な非武装中立地帯を設けること」
そして俺は、最後の、そして最も重要な要求を告げた。
「第四に。我が王国が主導する新しい国際的な枠組み、『国際連盟』に帝国も加盟すること」
「……こくさい、れんめい……?」
聞き慣れない言葉に、宰相は眉をひそめた。
俺は、その壮大な構想を語り始めた。
「国際連盟は、この大陸に存在する全ての国が対等な立場で参加する対話の場です。国家間のいかなる紛争も、武力ではなくこの連盟の会議の場で対話によって解決することを目指します」
「そして、連盟に加盟する全ての国は相互安全保障の義務を負います。もし、ある加盟国が不当な侵略を受けた場合、他の全ての加盟国はそれを自国への攻撃とみなし、共同でその侵略者を排除するのです」
集団的自衛権。
そして、対話による紛争解決。
それは、この世界の数千年にわたる弱肉強食の歴史を完全に終わらせるための、革命的な平和構想だった。
「……馬鹿な」
帝国の宰相は震える声で呟いた。「そんな理想論が通じるものか。結局は力の強い国が全てを決めることになるに決まっている」
「そうはさせません」
俺の隣で黙って話を聞いていたクラウスが、静かに、しかし有無を言わさぬ冷徹な声で言った。
「なぜなら、その連盟の最初の、そして最大の『力』となるのは我々、王国だからです。我々の軍事力と技術力は、いかなる国の不当な野心をも粉砕することができる。我々は、その力を平和を維持するためだけの、いわば『世界の警察』として行使するつもりです」
その言葉は、穏やかな理想論の裏側に隠された圧倒的な力の論理を、帝国の代表団に突きつけた。
俺たちの提案は、善意から来る甘いものではない。
圧倒的な軍事的優位性を背景にした、拒否することのできない「新しい秩序」への招待状なのだ、と。
帝国の宰相は、もはや何も言い返すことはできなかった。
彼らには選択肢など初めから残されてはいなかったのだ。
領土も賠償金も取られない。
その代わり、彼らは帝国としての誇りと牙を完全に奪われることになる。
そして、新しい時代の新しいルールに従って生きていくことを強制されるのだ。
それは死よりも辛い屈辱かもしれない。
だが、それこそが俺が望んだこの戦争の結末だった。

数日後。
講和条約は正式に調印された。
大陸の新しい秩序が産声を上げた瞬間だった。
だが、その歴史的な瞬間を熱狂と共に迎える者は少なかった。
誰もがまだ半信半疑だった。
本当に戦争のない平和な時代など訪れるのだろうか、と。
俺もまた、それが決して簡単な道ではないことを知っていた。
本当の平和は条約や制度だけで築けるものではない。
それは人々の心の中に築いていくしかないのだ。
講和会議を終え、王都へと戻る馬車の中で。
俺は窓の外を流れる穏やかな田園風景を眺めながら、その途方もなく長く、そして困難な道のりのことを静かに思っていた。
俺の本当の戦いは、あるいはこの戦争が終わった瞬間から始まろうとしているのかもしれない。
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