異世界デバッガー ~不遇スキル【デバッガー】でバグ利用してたら、世界を救うことになった元SEの話~

夏見ナイ

文字の大きさ
12 / 80

第12話:騎士の窮地と不可視の援護

しおりを挟む
クラウス・フォン・リンドバーグ。あの堅物そうな騎士との出会いは、正直なところ、あまり良い印象ではなかった。彼の言う「正しさ」は、俺の信条とする「効率」とは相容れない。できれば、もう関わりたくない相手だ。

そんなことを考えながら、俺はゴブリンの洞穴へ向かうため、リューンの南門から街道へと出ていた。今日の目標は、洞穴最深部の封印された扉の解析と、可能であればボスとの対決だ。新調した装備と、これまでのレベルアップにより、自信はあった。

街道は比較的穏やかだったが、先日酒場で聞いた「商隊襲撃」の噂が頭をよぎり、警戒は怠らない。【情報読取】を常に周囲に展開し、不審な気配がないかを探る。

しばらく街道を進み、森が深くなってきた辺りに差し掛かった時だった。前方から、金属音が響き渡り、怒号と悲鳴が聞こえてきた。

(……戦闘!?)

即座に身を隠し、音のする方へと慎重に近づく。茂みの隙間から見えたのは、数人の薄汚れた服装の男たち――おそらく盗賊だろう――が、一人の騎士を取り囲んでいる光景だった。そして、その騎士は……

(クラウス!?)

見間違えるはずもない。白銀の鎧に身を包み、長剣を構えて奮戦しているのは、先日路地裏で出会った、あのクラウス・フォン・リンドバーグだった。彼の周囲には、既に数人の盗賊が倒れているが、まだ五人ほどの盗賊が彼を取り囲み、波状攻撃を仕掛けている。

「ハッハァ! 騎士様も多勢に無勢だな!」
「観念して、身ぐるみ置いていきな!」
盗賊たちは下卑た笑みを浮かべながら、連携してクラウスに襲いかかる。

クラウスは、卓越した剣技と盾術で攻撃を捌き、時には鋭いカウンターを見舞っている。その動きは洗練されており、個々の盗賊よりも格段に強いことは明らかだ。しかし、相手の数が多い。前後左右から同時に繰り出される攻撃に、次第に対応が遅れ始めているように見えた。鎧には既にいくつかの傷がつき、息も少し上がっているようだ。

(……また面倒な場面に遭遇してしまった)
俺は内心でため息をつく。関わりたくない相手とはいえ、目の前で窮地に陥っているのを見て見ぬふりをするのは、やはり後味が悪い。それに、ここでクラウスが倒されれば、盗賊たちは勢いづき、街道の治安はさらに悪化するだろう。それは、俺自身の活動にとってもマイナスだ。

(仕方ない……介入するか。ただし、俺の存在は悟られずに、あくまで「デバッグ」として)

俺は【デバッガー】スキルを発動させ、戦場の情報を詳細に読み取り始めた。

『対象:クラウス・フォン・リンドバーグ
 状態:奮戦中(疲労蓄積、軽傷あり)
 ステータス:Lv ?? / HP ??/??(残り約60%) / MP ??/??(スキル【騎士の誓い】により自己強化中)
 備考:高い戦闘技術を持つが、数的有利な相手に消耗している。鎧の一部に微細な亀裂あり(防御力低下の可能性)。』

『対象:盗賊団(リーダー格)
 分類:人間
 状態:優勢(油断あり)
 ステータス:Lv 10 / HP 90/90 / MP 10/10
 スキル:【剣術(我流)】【強奪】【統率(低)】
 装備:粗悪な鉄の剣、革鎧
 備考:経験豊富な盗賊。油断しているが、実力はある。』

『対象:盗賊(手下)×4
 分類:人間
 状態:興奮
 ステータス:Lv 6~8 (平均)
 スキル:【短剣術(我流)】【棍棒術(我流)】【投石】など
 装備:粗末な武器、軽装
 備考:数は多いが、連携は甘い。リーダーの指示で動いている。』

(クラウスのレベルは依然として不明だが、HPはかなり削られているな。MPは自己強化スキルで消費しているのだろう。一方、盗賊のリーダーはレベル10か……思ったより高いが、油断しているなら隙はあるはずだ)

戦況を分析し、介入ポイントを探る。直接的な戦闘力では、俺が加勢しても焼け石に水だろう。狙うべきは、やはり「バグ」だ。

俺はまず、盗賊リーダーが振るう剣に注目した。【情報読取】でその詳細を解析する。

『対象:粗悪な鉄の剣
 分類:武器>剣
 状態:劣化(手入れ不足、刃こぼれあり)
 攻撃力:+8
 付与効果:なし
 備考:量産品の粗悪な剣。耐久性に問題あり。特に柄と刀身の接合部が弱い。強い衝撃が加わると破損する可能性:中。』

(耐久性に問題あり……これだ!)
さらに【バグ発見】で、より詳細な欠陥を探る。

『……バグ検出:1件
 内容:【接合部の金属疲労による耐久値低下バグ】
  詳細:製造時の欠陥、または手入れ不足による金属疲労が原因で、柄と刀身の接合部の耐久値が設計値を大幅に下回っている。特定の角度から強い衝撃(特に受け流しや鍔迫り合い)を受けた場合、高確率で破損する。再現性:高(特定の衝撃角度)。』

(再現性:高! これならいける!)
俺は、【限定的干渉】の準備をする。狙いは、この「耐久値低下バグ」をさらに増幅させ、クラウスの剣と打ち合った瞬間に確実に破損させること。

タイミングを見計らう。盗賊リーダーが、クラウスの防御の隙を突いて、大きく剣を振りかぶった。クラウスはそれを盾ではなく、剣で受け流そうとしている!

(今だ! 【限定的干渉】! 接合部の脆さを最大化!)

スキルを発動。今回は魔法罠の時のような強烈なペナルティは感じない。対象が比較的単純な物理的欠陥だからだろうか。

キィン!

甲高い金属音が響き渡った、次の瞬間。
バキッ! という鈍い音と共に、盗賊リーダーの剣が、柄の根元から呆気なく折れた!

「なっ!? なんだと!?」
盗賊リーダーは、手元に残った柄と、宙を舞う刀身を見て、唖然としている。クラウスも、予想外の出来事に一瞬驚いたようだが、すぐに好機と見て踏み込み、剣の柄(ポンメル)でリーダーの顔面を強打した。

「ぐはっ!」
リーダーは鼻血を噴き出し、その場に昏倒した。

リーダーが倒れたことで、残りの盗賊たちの動きが一瞬止まる。連携が乱れた証拠だ。

(よし、次は……地形だ!)
俺は周囲の地形に【情報読取】と【バグ発見】を使う。戦闘場所は、少し開けた場所だが、片側は切り立った崖になっており、その崖の一部が、雨風に晒されて脆くなっているように見えた。

『対象:崖の一部(盗賊が一人寄りかかっている箇所)
 分類:地形>岩盤
 状態:風化、亀裂あり(内部まで進行)
 特性:不安定
 備考:見た目以上に脆くなっている。強い衝撃や、特定の振動が加わると崩落する危険性あり。』

『……バグ検出:1件
 内容:【亀裂内部の応力集中による崩落トリガーバグ】
  詳細:内部の亀裂が特定のパターンで繋がっており、ごく僅かな外部からの振動(足音、戦闘の衝撃など)でも、応力が一点に集中し、連鎖的な崩壊を引き起こす可能性がある。再現性:中(特定の振動パターン)。』

(これも使える!)
一人の盗賊が、ちょうどその不安定な崖に背を預けるようにして、クラウスに短剣で斬りかかろうとしている。

(【限定的干渉】! 崩落トリガーを起動させろ!)

俺は、地面に落ちていた手頃な石を拾い、崖の根元付近、バグが検出された箇所とは少し離れた場所に、力を込めて投げつけた。石が岩盤に当たった鈍い音と振動。それがトリガーとなったのか……

ガラガラガラッ!!

大きな音を立てて、盗賊が寄りかかっていた崖の一部が崩れ落ちた!

「うわあああっ!?」
盗賊は、崩れた土砂と共に崖下へと滑り落ちていく。幸い、それほど高さはないため、命に別状はないだろうが、完全に戦闘不能だ。

突然の崖崩れに、残りの盗賊三人も、そしてクラウスも驚きを隠せない。
「な、なんだ今の!?」
「呪いか!?」
盗賊たちは完全に怯え、戦意を喪失しかけている。

クラウスは、この不可解な現象続きに眉をひそめながらも、好機を逃さず残りの盗賊たちに斬りかかる。もはや連携も取れず、士気も下がった盗賊たちは、クラウスの敵ではなかった。次々と打ち倒され、あるいは武器を捨てて逃げ出していく。

あっという間に、戦いは終わった。
クラウスは、倒れた盗賊たち(気絶している者、負傷して動けない者、崖から落ちた者)を見下ろし、荒い息をつきながら、周囲を見渡した。その視線が、俺が隠れている茂みの方へと向けられる。

(……気づかれたか)
流石に、これだけ都合の良い偶然が続けば、何かあると感づかれても仕方ない。俺は観念して、茂みから姿を現した。

「……ユズル殿、だったか」
クラウスは、驚きと疑念が入り混じった複雑な表情で俺を見ている。「また君か。そして、またしても、ただ見ていただけか? いや……」

彼は言葉を切り、先ほどの戦闘を思い返すように目を細める。
「あの剣の壊れ方……崖の崩れ方……あまりにも、都合が良すぎる。まるで、何者かが見えざる手で私を助けているかのようだった。……まさか、君が?」

「さあ? 俺はただ、騒ぎを聞きつけて様子を見に来ただけですが」
俺は、しらを切り通すことにした。ここで【デバッガー】の能力を明かすメリットはない。

「……そうか」クラウスは、俺の答えに納得した様子ではない。じっと俺の目を見つめてくる。その視線は、何かを探るように鋭い。「だが、結果的に助けられた形になったのは事実だ。礼を言う、ユズル殿」

「どういたしまして。まあ、俺は何もしていませんが」
俺は肩をすくめてみせる。

クラウスは、ふう、と一つ息をつくと、倒れている盗賊たちを縛り上げる作業を始めた。
「この者たちは、騎士団に引き渡さねばならん。手伝ってもらえると助かるのだが」

「……分かりました。少しだけなら」
ここで断るのも不自然だろう。俺は仕方なく、ロープで盗賊たちを縛るのを手伝った。

作業をしながら、クラウスはぽつりと言った。
「君は、一体何者なのだ? その見慣れぬ服装、不思議な雰囲気……そして、あの時のような、妙な偶然を引き起こす何か。ただのFランク冒険者とは思えん」

「さあ? ご想像にお任せしますよ」
俺は曖昧に笑うだけだ。

「……そうか」クラウスはそれ以上追求してこなかったが、その横顔には、依然として強い疑念と、そして、ほんの僅かな好奇心のようなものが浮かんでいるように見えた。

盗賊たちを縛り上げ、クラウスは彼らを連行するためにリューンへと戻る準備を始めた。
「ユズル殿、君もリューンへ戻るのか?」

「いえ、俺はダンジョンへ向かう途中ですので。ここでお別れです」

「そうか。……では、また会うこともあるかもしれんな。その時は、君の『見ていただけ』ではない活躍を期待しているぞ」
皮肉とも本気とも取れない言葉を残し、クラウスは盗賊たちを引きずるようにして、街道を戻っていった。

一人残された俺は、クラウスの去っていった方向を見つめながら、小さく息をついた。
(ますます、面倒な相手に目をつけられてしまったな……)

しかし、同時に、少しだけ達成感もあった。自分のスキルで、誰かの窮地を救うことができた。それが、あの堅物騎士だったというのは皮肉だが。

【デバッガー】スキル。それは、世界のバグを悪用するだけの力ではないのかもしれない。使い方次第では、誰かを助けるための力にもなり得る。

(まあ、俺の基本はあくまで効率と安全だけどな)

俺は気を取り直し、本来の目的地であるゴブリンの洞穴へと、再び歩き出した。
封印された扉、そしてその先のボス。新たな「デバッグ」対象が、俺を待っている。

クラウスとの奇妙な縁は、まだ始まったばかりなのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...