異世界デバッガー ~不遇スキル【デバッガー】でバグ利用してたら、世界を救うことになった元SEの話~

夏見ナイ

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第14話:規格外ボスとデバッグの限界

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「GRRRRROOOOOOAAAAAAHHHH!!!」

ゴブリンキング(変異体)の咆哮が、古代の祭壇のような広間にこだまする。空気が震え、壁に刻まれた古代文字が微かに共鳴しているかのようだ。その赤黒く濁った双眸が、明確な殺意をもって俺を捉えている。

(……完全に敵認定されたか。しかも、レベル15、ステータス表示限界超過、異常再生、魔力汚染……冗談じゃない)

冷や汗が背中を伝う。これまで対峙したどんな魔物とも、次元が違う。ゴブリンやホブゴブリンがただの「バグ」だとしたら、こいつはシステム全体を蝕む「マルウェア」か、あるいは暴走した「プロセス」そのものだ。

だが、竦んでいても状況は変わらない。俺に残された道は、戦うか、あるいは万が一の確率で逃げ延びるか。そして、戦うのであれば、頼れるのは【デバッガー】スキルのみ。

俺は魔鋼のダガーを構え直し、意識を集中させる。【情報読取】を最大深度で起動し、ゴブリンキングの情報をさらに詳細に読み取ろうと試みる。ステータスの数値は見えなくても、スキルや特性、そして「状態」から弱点を探る。

『対象:ゴブリンキング(変異体) - 再解析中...
 状態:狂乱(強)、魔力汚染(重度)、痛覚鈍化(中)、思考力低下(中)
 スキル(一部判明):
  【バトルアックス(王者の剛撃)】:強力な薙ぎ払い、または叩きつけ攻撃。防御困難。
  【狂戦士化】:自身の攻撃力・速度を大幅に上昇させるが、防御力・回避能力が低下し、より制御不能になる。HP低下時に発動しやすい?
  【ゴブリン召喚(小)】:周囲の空間から低級ゴブリンを数体召喚する。MP消費中程度。
  【異常再生(魔力汚染由来)】:魔力汚染の影響により、驚異的な速度で肉体を再生する。ただし、再生には自身の魔力(または汚染魔力?)を消費する。核(コア)のような明確な弱点は現時点では不明。
 特性(一部判明):
  高い物理耐性:並の物理攻撃は効果が薄い。
  高い魔法耐性:属性による弱点も少ない可能性。
  魔力汚染放出:常に周囲に微量の魔力汚染を撒き散らしている。長時間接触は危険。
 備考:思考力は低下しているが、戦闘本能は極めて高い。魔力汚染による再生能力が厄介。再生を阻害する方法、あるいは再生速度を上回るダメージを与える必要がある。』

(狂乱状態、思考力低下……だが、戦闘本能は高い。厄介なのは、やはり異常再生か。核のような弱点も見当たらない……)

次に【バグ発見】。この規格外の存在にも、システムの穴はあるはずだ。ゴブリンキングの動き、魔力の流れ、スキルの発動シーケンス、その全てをスキャンする。脳への負荷は凄まじく、視界がチカチカと点滅し始める。

『……バグ検出:複数件(解析中)
 ①【異常再生の処理遅延バグ】
  詳細:再生プロセスは高速だが、複数の部位が同時に、あるいは短時間に連続して大きな損傷を受けた場合、再生処理の優先順位付けに僅かな遅延が発生し、一部の部位の再生が一時的に停止、または著しく遅くなることがある。再現性:中(特定条件下)。
 ②【狂戦士化時のターゲット認識不安定バグ】
  詳細:スキル【狂戦士化】発動中は攻撃性が極度に増すが、同時に周囲への認識能力が不安定になり、本来のターゲットを見失い、近くの別の対象(召喚したゴブリン、壁など)を誤って攻撃してしまうことがある。再現性:低。
 ③【魔力汚染による自己侵食リスク(潜在的)】
  詳細:ゴブリンキング自身の肉体も、魔力汚染によって常に蝕まれている。再生能力もその代償である可能性。現時点では致命的な影響は見られないが、長時間戦闘や、外部からの強い魔力干渉(浄化魔法など)によって、内部崩壊を引き起こす潜在的リスクあり。現時点での干渉不可。』

(……これか!)
①の再生遅延バグ、②のターゲット認識バグ。これらは利用できるかもしれない。③は興味深いが、現時点ではどうしようもない。

ゴブリンキングが、地響きを立てながら突進してきた! 手に持つ巨大なバトルアックスが、風を切る音を立てて振り下ろされる!

(速い! 重い!)
【突撃】スキル持ちのホブゴブリンとは比較にならない速度と質量。直撃すれば、俺の硬化レザーアーマーなど紙切れ同然だろう。俺は咄嗟に横へ跳んで回避するが、バトルアックスが床に叩きつけられた衝撃で、足元が揺らぐ。

ゴブリンキングは、間髪入れずにアックスを薙ぎ払ってくる。その攻撃範囲は広く、回避し続けるのは困難だ。俺は低い姿勢で懐に潜り込もうとするが、ゴブリンキングの巨大な拳が飛んできた。

「ぐっ!」
咄嗟にダガーで受け流すが、衝撃で腕が痺れ、数メートル吹き飛ばされる。

(駄目だ、まともにやり合ったら瞬殺される……!)

俺は距離を取り、ゴブリンキングの動きを観察しながら、バグを利用する隙を探る。狙うは①の再生遅延バグ。奴の同じ箇所に、連続でダメージを与える!

ゴブリンキングが再びアックスを振りかぶる。その動きは大きい。チャンスだ!
俺はアックスの軌道を見切り、踏み込んでゴブリンキングの左膝に魔鋼のダガーを突き立てた!

「GR!」
分厚い皮膚は硬いが、魔鋼のダガーは確かに肉を裂いた。だが、ダメージは浅い。すぐに引き抜き、もう一度同じ箇所を狙う!

ザシュッ! ザシュッ!

三度、四度と、可能な限り素早く、正確に同じ箇所を斬りつける。ゴブリンキングは痛みを感じているのかいないのか、構わずアックスを振り回してくるが、俺はその攻撃を紙一重で避けながら、執拗に左膝への攻撃を繰り返す。

すると、確かに変化が見られた。他の部位の傷は瞬く間に塞がっていくのに、集中的に攻撃された左膝の傷だけは、再生が明らかに遅れている!

(効いている! 再生遅延バグだ!)

この隙に、さらにダメージを重ねれば……!
そう思った瞬間、ゴブリンキングの動きが止まった。そして、その巨躯から、不気味な魔力が溢れ出す。

「GROOOOAAAAAHHHHH!!!」(スキル【狂戦士化】発動!)

ゴブリンキングの目が、さらに赤黒く輝きを増し、全身の筋肉が膨張する。明らかに、攻撃力と速度が先ほどとは比較にならないレベルに跳ね上がった。

(まずい! 【狂戦士化】!?)

同時に、バグ②のターゲット認識不安定化に期待するが、今のところ、その兆候はない。狂戦士化したゴブリンキングは、一直線に俺に向かって、先ほどとは比べ物にならない速度でバトルアックスを振り回してきた!

「くそっ!」
回避するので精一杯だ。攻撃を差し込む隙など全くない。一撃でも食らえば終わり。緊張で全身の毛が逆立つ。

さらに悪いことに、ゴブリンキングはアックスを振り回しながら、何かを叫んだ。

「Guu...Gob...Summon!」(スキル【ゴブリン召喚(小)】発動!)

ゴブリンキングの周囲の空間が歪み、そこから数体の低級ゴブリン(レベル5程度)が姿を現した!

(召喚まで使うのかよ!?)
ただでさえ狂戦士化したボス相手に手一杯なのに、雑魚まで加わっては、もはや詰みだ。

召喚されたゴブリンたちが、棍棒を手に俺へと迫ってくる。狂戦士化したゴブリンキングの猛攻を避けながら、雑魚の相手までする余裕はない。

(ここまでか……!? いや、まだだ!)

絶望的な状況の中、俺は最後の可能性を探る。【バグ発見】を再度、今度はボス部屋の「空間」そのものに向けて試みる。何か、脱出に使えるようなバグはないか?

『……バグ検出:1件
 内容:【特定地点の空間座標不安定バグ】
  詳細:ボス部屋の北西の壁際の一部に、空間座標が極めて不安定になっている箇所が存在する。原因不明(古代魔法の影響?魔力汚染?)。この座標に強い物理的衝撃、または魔力的干渉が加わると、一時的に空間が歪み、ランダムな場所へ短距離転移する可能性がある。転移先は保証されず、壁の中に転移するなどの致命的なリスクも伴う。再現性:不明。影響度:極めて不安定。』

(空間座標不安定バグ……ランダム転移!? しかも致命的なリスク付き……)
まさに、最後の手段、あるいは自爆技に近い。だが、このままここで嬲り殺しにされるよりはマシかもしれない。

俺は、ゴブリンキングと召喚ゴブリンたちの攻撃を必死で避けながら、バグが検出された北西の壁際へと向かう。ゴブリンキングも、獲物を逃がすまいと追ってくる。

壁際に到達。あと数秒で、狂った王のバトルアックスが俺を捉えるだろう。
俺は懐から、ゴブリンの洞穴で拾っておいた、比較的硬そうな石(念のため【情報読取】で硬度を確認済み)を取り出した。

(頼む、どこか安全な場所に転移してくれ……!)

最後の望みを託し、不安定な座標ポイント目掛けて、力いっぱい石を投げつけた!

石が壁に当たった瞬間――

空間が、ぐにゃり、と歪んだ。
視界がノイズだらけになり、平衡感覚が完全に失われる。強い浮遊感と圧迫感。壁抜けバグの時とは比較にならない、激しい空間の揺らぎ。

(転移……する……!)

意識が遠のく寸前、最後に見たのは、バトルアックスを振り下ろそうとしていたゴブリンキングの、驚愕とも怒りともつかない歪んだ顔だった。

そして、俺の意識は、再びブラックアウトした。
どこへ転移するのか、生きているのか死んでいるのかも分からないまま。ただ、【デバッガー】スキルの限界と、この世界の歪みの深さを、骨身に染みて感じながら。
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