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第23話:戦いの後始末と変化の兆し
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どれくらいの時間、意識を失っていたのだろうか。
次に俺が目を覚ました時、最初に感じたのは、柔らかな毛布の感触と、消毒液と薬草の混じった匂いだった。そして、身体を包む、心地よい疲労感。あの死闘の後の、極度の消耗状態ではない。どうやら、適切な治療と休息を得られたようだ。
ゆっくりと目を開けると、そこは見慣れた安宿の相部屋ではなく、清潔な個室のベッドの上だった。窓からは明るい日差しが差し込んでいる。
「……ここは?」
掠れた声で呟くと、そばに控えていた人物がすぐに反応した。
「お気づきになりましたか、ユズルさん」
穏やかな声の主は、神官のアルトだった。彼は心配そうな表情で、俺の顔を覗き込んでいる。
「ここはギルド内の医務室です。あの後、あなたは丸一日、眠っておられましたよ」
「丸一日……」
そんなに眠っていたのか。無理もない。あのゴブリンキングとの戦い、特に最後の自爆阻止は、俺の体力と精神力、そしてMPを根こそぎ奪っていったのだから。
「身体の具合はいかがですか? セレスティアさんの応急処置と、私の回復魔法で、外傷はほとんど治っているはずですが……」アルトが尋ねる。
俺はゆっくりと身体を起こしてみる。確かに、あれほど酷かった打撲や捻挫の痛みはほとんど感じない。MPも、かなり回復しているようだ。
「ええ、おかげさまで。だいぶ楽になりました。ありがとうございます、アルトさん」
「いえ、私など……本当に、あなたがいてくださらなければ、我々は全滅していたかもしれません。最後のあれは……本当に、信じられない光景でした」
アルトは、感嘆と畏敬の念が入り混じった表情で、俺を見つめる。
あの最後の瞬間。自爆寸前のゴブリンキングのコアに、月光石を嵌めたダガーを突き立て、エネルギーの暴走を逆流させた。今思い返しても、無謀極まりない賭けだった。成功したのは、奇跡と言ってもいいだろう。
(【限定的干渉】……あの時、俺は確かにスキルを使った。だが、あれはもはや「限定的」なレベルを超えていた気がする。スキルの熟練度が上がった影響か? それとも、火事場の馬鹿力か……?)
スキル【デバッガー】の新たな可能性と、同時にその危険性も感じさせる出来事だった。
「他の皆さんは……ボルガンさんやクラウスさんたちは、ご無事ですか?」俺は尋ねた。
「はい、皆、怪我はしましたが、命に別状はありません。今は別室で休んでおられます。特にクラウス様は、あなたがあれだけの危険を冒してくれたことに、いたく感じ入っておられましたよ」
「クラウスさんが……?」
意外だった。あの堅物騎士が、俺の行動を認めてくれたのだろうか。
アルトは微笑んで続ける。
「ええ。『彼の判断と行動がなければ、我々は死んでいた。借りを作ってしまったな』と、少し悔しそうに、しかし、どこか清々しい表情で仰っていました」
(……そうか)
少しだけ、胸が温かくなるような気がした。彼との間にある溝が、完全になくなったわけではないだろう。だが、今回の共闘を通じて、何かが変わり始めたのかもしれない。
「それで、あの後……ゴブリンキングの死体や、ボス部屋の調査はどうなりましたか?」俺は本題を切り出した。
アルトの表情が少し引き締まる。
「はい。あなたが眠っている間に、ボルガンさんとジンさん、セレスティアさんを中心に、予備調査が行われました。まず、ゴブリンキングの死体ですが……」
アルトの話によると、ゴブリンキング(変異体)の死体は、討伐後、急速に崩壊を始め、最終的には黒い塵のようになって消滅してしまったらしい。まるで、その存在自体が不安定なバグの塊だったかのように。そのため、詳細なサンプル採取や解剖は不可能だったとのことだ。
「ただ」とアルトは続ける。「死体が消滅する間際に、セレスティアさんが強力な魔力汚染の残留を確認しました。やはり、あれが汚染源であったことは間違いなさそうです。そして、死体が消えた後には、これが残されていました」
アルトは、ベッドサイドのテーブルに置かれていた、黒く濁った奇妙な結晶体のようなものを指差した。大きさは拳ほどで、不気味なオーラを放っている。
『対象:汚染された魔石核(名称不明)
分類:魔石?>特殊アイテム
状態:不安定、高濃度の魔力汚染
特性:周囲の魔力を吸収し汚染を拡大させる、強力な負のエネルギー源
用途:不明(危険物)、研究対象?、特定の儀式や魔道具の触媒?
備考:ゴブリンキング(変異体)の力の源であり、魔力汚染のコア。極めて危険なため、厳重な封印・管理が必要。浄化は困難。』
「……これが、核ですか」
【情報読取】で、その危険性を瞬時に理解する。これを放置すれば、新たな汚染源となりかねない代物だ。
「ええ。セレスティアさんが、一時的な封印魔法を施してありますが、長くはもたないでしょう。ギルドで厳重に保管し、今後の対策を検討することになると思います」
「そうですか……」
ボスは倒したが、根本的な問題が解決したわけではない。この汚染された核の存在は、新たな火種となり得る。
「ボス部屋の調査についても、いくつか分かったことがあります」アルトは続けた。「壁に刻まれていた古代文字や、床の魔法陣は、非常に古い時代の、おそらくは失われた文明のもののようです。セレスティアさんの専門外ではありましたが、いくつかの断片的な情報を読み解いたところによると、あの場所は元々、何かを『封印』するための祭壇だった可能性がある、とのことです」
「封印……?」
「はい。何を封印していたのかまでは分かりませんが、あるいは、ゴブリンキング自身が、その封印されていた何かを取り込み、あるいは影響を受けて、あのような変異を遂げたのではないか……とセレスティアさんは推測していました」
(封印されていた何か……それが、魔力汚染の本当の原因? ゴブリンキングは、その犠牲者、あるいは媒介に過ぎなかった……?)
もしそうだとしたら、話はさらに複雑になる。このダンジョン、あるいはこの世界には、まだ俺たちの知らない、深い闇が隠されているのかもしれない。
「いずれにせよ、これ以上の調査は、専門家を交えて慎重に行う必要がある、というのが調査隊の結論です。我々の任務は、ひとまず完了ということになります」アルトはそう締めくくった。
「そうですか……お疲れ様でした」
俺たちの調査は、多くの謎を残しつつも、ひとまずの区切りを迎えたようだ。そして、その中で、俺の【デバッガー】スキルは、予想以上の役割を果たし、パーティーメンバーからの信頼(と、一部からの更なる疑念)を得ることに繋がった。
特に、クラウスとの関係の変化は大きい。彼が俺の能力や戦い方を完全に認めたわけではないだろうが、少なくとも、単なる「効率優先の不届き者」という見方は変わったはずだ。共闘を通じて、互いの立場や考え方を、少しだけ理解し合えたのかもしれない。
そして、リリア・クローバーという、風変わりだが才能溢れる治療師兼魔道具技師との出会い。彼女の持つ技術は、今後、俺のスキルと組み合わせることで、何か面白いことができるかもしれない。
(今回の調査で、多くのものを得たな。経験値、スキル熟練度、情報、そして……人との繋がり、か)
それは、ブラック企業で心をすり減らしていた頃の俺には、想像もできなかったことだ。
体調が回復した俺は、アルトに礼を言い、医務室を出た。ギルドの廊下で、ちょうど部屋から出てきたボルガンとジン、そしてセレスティアと顔を合わせる。
「おお、ユズル君、起きたか。身体はもう大丈夫なのか?」ボルガンが、心配そうに声をかけてくる。
「ええ、おかげさまで」
「……その様子だと、回復も早いようだな。やはり、ただ者ではないな」ジンが、珍しく口を開き、探るような視線を向けてくる。
「ま、まあ……」俺は苦笑いするしかない。
セレスティアは、まだ少し疑念の表情を浮かべてはいたが、「……とにかく、あなたの情報と、最後のあの行動がなければ、どうなっていたことか。感謝はしているわ」と、素直ではないが礼を言ってくれた。
彼らとの間にも、確実に変化が生まれている。それは、俺にとって大きな前進だった。
ギルドのロビーに出ると、そこにはクラウスが待っていた。彼は、俺の姿を見ると、少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの厳しい表情に戻り、近づいてきた。
「ユズル殿、身体はもう良いのか?」
「はい、おかげさまで」
クラウスは、しばし黙考した後、意を決したように口を開いた。
「……先日の戦い、見事だった。君の判断と行動が、我々全員を救った。騎士として、改めて礼を言う」
彼は、そう言って、深々と頭を下げた。
その、あまりにも実直で、真摯な態度に、俺は少し面食らった。
「い、いえ、俺はただ、自分にできることをしただけで……」
「謙遜は不要だ」クラウスは顔を上げる。「君の持つ力が、常識外のものであることは理解している。それが何なのか、私にはまだ分からない。だが……」
彼は、真っ直ぐに俺の目を見つめて言った。
「君が、その力を正しい目的のために使うのであれば……私は、君を信じたいと思う」
騎士の、実直な言葉。それは、俺の心に、深く響いた。
彼との間にある価値観の違いは、依然として存在するだろう。だが、それを乗り越えて、互いを認め合い、協力し合える可能性が、確かに生まれたのだ。
(……悪くないな)
俺は、クラウスに向かって、初めて、心からの笑みを浮かべてみせた。
「ありがとうございます、クラウスさん。俺も、あなたのような騎士がいてくれるなら、心強いです」
この瞬間、俺とクラウスの間には、単なる知り合い以上の、確かな繋がりが生まれたのかもしれない。
ゴブリンの洞穴の調査は終わった。しかし、それは新たな始まりに過ぎない。
魔力汚染の謎、失われた文明の痕跡、そして、俺自身のスキルと存在。
この異世界には、まだまだ解き明かすべき「バグ」と、攻略すべき「クエスト」が山積している。
そして、俺の隣には、頼もしい(そして少し面倒な)仲間候補が、一人、また一人と現れ始めている。
元SEの異世界デバッグは、これからますます面白くなりそうだ。
俺は、新たな決意と、少しの期待を胸に、リューンの街の喧騒の中へと、再び歩き出すのだった。
次に俺が目を覚ました時、最初に感じたのは、柔らかな毛布の感触と、消毒液と薬草の混じった匂いだった。そして、身体を包む、心地よい疲労感。あの死闘の後の、極度の消耗状態ではない。どうやら、適切な治療と休息を得られたようだ。
ゆっくりと目を開けると、そこは見慣れた安宿の相部屋ではなく、清潔な個室のベッドの上だった。窓からは明るい日差しが差し込んでいる。
「……ここは?」
掠れた声で呟くと、そばに控えていた人物がすぐに反応した。
「お気づきになりましたか、ユズルさん」
穏やかな声の主は、神官のアルトだった。彼は心配そうな表情で、俺の顔を覗き込んでいる。
「ここはギルド内の医務室です。あの後、あなたは丸一日、眠っておられましたよ」
「丸一日……」
そんなに眠っていたのか。無理もない。あのゴブリンキングとの戦い、特に最後の自爆阻止は、俺の体力と精神力、そしてMPを根こそぎ奪っていったのだから。
「身体の具合はいかがですか? セレスティアさんの応急処置と、私の回復魔法で、外傷はほとんど治っているはずですが……」アルトが尋ねる。
俺はゆっくりと身体を起こしてみる。確かに、あれほど酷かった打撲や捻挫の痛みはほとんど感じない。MPも、かなり回復しているようだ。
「ええ、おかげさまで。だいぶ楽になりました。ありがとうございます、アルトさん」
「いえ、私など……本当に、あなたがいてくださらなければ、我々は全滅していたかもしれません。最後のあれは……本当に、信じられない光景でした」
アルトは、感嘆と畏敬の念が入り混じった表情で、俺を見つめる。
あの最後の瞬間。自爆寸前のゴブリンキングのコアに、月光石を嵌めたダガーを突き立て、エネルギーの暴走を逆流させた。今思い返しても、無謀極まりない賭けだった。成功したのは、奇跡と言ってもいいだろう。
(【限定的干渉】……あの時、俺は確かにスキルを使った。だが、あれはもはや「限定的」なレベルを超えていた気がする。スキルの熟練度が上がった影響か? それとも、火事場の馬鹿力か……?)
スキル【デバッガー】の新たな可能性と、同時にその危険性も感じさせる出来事だった。
「他の皆さんは……ボルガンさんやクラウスさんたちは、ご無事ですか?」俺は尋ねた。
「はい、皆、怪我はしましたが、命に別状はありません。今は別室で休んでおられます。特にクラウス様は、あなたがあれだけの危険を冒してくれたことに、いたく感じ入っておられましたよ」
「クラウスさんが……?」
意外だった。あの堅物騎士が、俺の行動を認めてくれたのだろうか。
アルトは微笑んで続ける。
「ええ。『彼の判断と行動がなければ、我々は死んでいた。借りを作ってしまったな』と、少し悔しそうに、しかし、どこか清々しい表情で仰っていました」
(……そうか)
少しだけ、胸が温かくなるような気がした。彼との間にある溝が、完全になくなったわけではないだろう。だが、今回の共闘を通じて、何かが変わり始めたのかもしれない。
「それで、あの後……ゴブリンキングの死体や、ボス部屋の調査はどうなりましたか?」俺は本題を切り出した。
アルトの表情が少し引き締まる。
「はい。あなたが眠っている間に、ボルガンさんとジンさん、セレスティアさんを中心に、予備調査が行われました。まず、ゴブリンキングの死体ですが……」
アルトの話によると、ゴブリンキング(変異体)の死体は、討伐後、急速に崩壊を始め、最終的には黒い塵のようになって消滅してしまったらしい。まるで、その存在自体が不安定なバグの塊だったかのように。そのため、詳細なサンプル採取や解剖は不可能だったとのことだ。
「ただ」とアルトは続ける。「死体が消滅する間際に、セレスティアさんが強力な魔力汚染の残留を確認しました。やはり、あれが汚染源であったことは間違いなさそうです。そして、死体が消えた後には、これが残されていました」
アルトは、ベッドサイドのテーブルに置かれていた、黒く濁った奇妙な結晶体のようなものを指差した。大きさは拳ほどで、不気味なオーラを放っている。
『対象:汚染された魔石核(名称不明)
分類:魔石?>特殊アイテム
状態:不安定、高濃度の魔力汚染
特性:周囲の魔力を吸収し汚染を拡大させる、強力な負のエネルギー源
用途:不明(危険物)、研究対象?、特定の儀式や魔道具の触媒?
備考:ゴブリンキング(変異体)の力の源であり、魔力汚染のコア。極めて危険なため、厳重な封印・管理が必要。浄化は困難。』
「……これが、核ですか」
【情報読取】で、その危険性を瞬時に理解する。これを放置すれば、新たな汚染源となりかねない代物だ。
「ええ。セレスティアさんが、一時的な封印魔法を施してありますが、長くはもたないでしょう。ギルドで厳重に保管し、今後の対策を検討することになると思います」
「そうですか……」
ボスは倒したが、根本的な問題が解決したわけではない。この汚染された核の存在は、新たな火種となり得る。
「ボス部屋の調査についても、いくつか分かったことがあります」アルトは続けた。「壁に刻まれていた古代文字や、床の魔法陣は、非常に古い時代の、おそらくは失われた文明のもののようです。セレスティアさんの専門外ではありましたが、いくつかの断片的な情報を読み解いたところによると、あの場所は元々、何かを『封印』するための祭壇だった可能性がある、とのことです」
「封印……?」
「はい。何を封印していたのかまでは分かりませんが、あるいは、ゴブリンキング自身が、その封印されていた何かを取り込み、あるいは影響を受けて、あのような変異を遂げたのではないか……とセレスティアさんは推測していました」
(封印されていた何か……それが、魔力汚染の本当の原因? ゴブリンキングは、その犠牲者、あるいは媒介に過ぎなかった……?)
もしそうだとしたら、話はさらに複雑になる。このダンジョン、あるいはこの世界には、まだ俺たちの知らない、深い闇が隠されているのかもしれない。
「いずれにせよ、これ以上の調査は、専門家を交えて慎重に行う必要がある、というのが調査隊の結論です。我々の任務は、ひとまず完了ということになります」アルトはそう締めくくった。
「そうですか……お疲れ様でした」
俺たちの調査は、多くの謎を残しつつも、ひとまずの区切りを迎えたようだ。そして、その中で、俺の【デバッガー】スキルは、予想以上の役割を果たし、パーティーメンバーからの信頼(と、一部からの更なる疑念)を得ることに繋がった。
特に、クラウスとの関係の変化は大きい。彼が俺の能力や戦い方を完全に認めたわけではないだろうが、少なくとも、単なる「効率優先の不届き者」という見方は変わったはずだ。共闘を通じて、互いの立場や考え方を、少しだけ理解し合えたのかもしれない。
そして、リリア・クローバーという、風変わりだが才能溢れる治療師兼魔道具技師との出会い。彼女の持つ技術は、今後、俺のスキルと組み合わせることで、何か面白いことができるかもしれない。
(今回の調査で、多くのものを得たな。経験値、スキル熟練度、情報、そして……人との繋がり、か)
それは、ブラック企業で心をすり減らしていた頃の俺には、想像もできなかったことだ。
体調が回復した俺は、アルトに礼を言い、医務室を出た。ギルドの廊下で、ちょうど部屋から出てきたボルガンとジン、そしてセレスティアと顔を合わせる。
「おお、ユズル君、起きたか。身体はもう大丈夫なのか?」ボルガンが、心配そうに声をかけてくる。
「ええ、おかげさまで」
「……その様子だと、回復も早いようだな。やはり、ただ者ではないな」ジンが、珍しく口を開き、探るような視線を向けてくる。
「ま、まあ……」俺は苦笑いするしかない。
セレスティアは、まだ少し疑念の表情を浮かべてはいたが、「……とにかく、あなたの情報と、最後のあの行動がなければ、どうなっていたことか。感謝はしているわ」と、素直ではないが礼を言ってくれた。
彼らとの間にも、確実に変化が生まれている。それは、俺にとって大きな前進だった。
ギルドのロビーに出ると、そこにはクラウスが待っていた。彼は、俺の姿を見ると、少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの厳しい表情に戻り、近づいてきた。
「ユズル殿、身体はもう良いのか?」
「はい、おかげさまで」
クラウスは、しばし黙考した後、意を決したように口を開いた。
「……先日の戦い、見事だった。君の判断と行動が、我々全員を救った。騎士として、改めて礼を言う」
彼は、そう言って、深々と頭を下げた。
その、あまりにも実直で、真摯な態度に、俺は少し面食らった。
「い、いえ、俺はただ、自分にできることをしただけで……」
「謙遜は不要だ」クラウスは顔を上げる。「君の持つ力が、常識外のものであることは理解している。それが何なのか、私にはまだ分からない。だが……」
彼は、真っ直ぐに俺の目を見つめて言った。
「君が、その力を正しい目的のために使うのであれば……私は、君を信じたいと思う」
騎士の、実直な言葉。それは、俺の心に、深く響いた。
彼との間にある価値観の違いは、依然として存在するだろう。だが、それを乗り越えて、互いを認め合い、協力し合える可能性が、確かに生まれたのだ。
(……悪くないな)
俺は、クラウスに向かって、初めて、心からの笑みを浮かべてみせた。
「ありがとうございます、クラウスさん。俺も、あなたのような騎士がいてくれるなら、心強いです」
この瞬間、俺とクラウスの間には、単なる知り合い以上の、確かな繋がりが生まれたのかもしれない。
ゴブリンの洞穴の調査は終わった。しかし、それは新たな始まりに過ぎない。
魔力汚染の謎、失われた文明の痕跡、そして、俺自身のスキルと存在。
この異世界には、まだまだ解き明かすべき「バグ」と、攻略すべき「クエスト」が山積している。
そして、俺の隣には、頼もしい(そして少し面倒な)仲間候補が、一人、また一人と現れ始めている。
元SEの異世界デバッグは、これからますます面白くなりそうだ。
俺は、新たな決意と、少しの期待を胸に、リューンの街の喧騒の中へと、再び歩き出すのだった。
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