異世界デバッガー ~不遇スキル【デバッガー】でバグ利用してたら、世界を救うことになった元SEの話~

夏見ナイ

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第24話:報酬と新たな目標

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ゴブリンの洞穴異常調査隊の任務は、無事に(?)完了した。規格外のボスは討伐され、魔力汚染の発生源と思しき核も回収された。多大な犠牲を払うことなく、目的を達成できたのは、偏(ひとえ)に俺の【デバッガー】スキルによる情報提供と、調査隊メンバーの高い実力と連携の賜物だろう。

俺自身も、瀕死の重傷を負いながらも、ギルドの医務室での治療と休息によって完全に回復した。そして何より、今回の任務を通じて得たものは大きかった。

まず、経験値とスキル熟練度。ゴブリンキング(変異体)という格上のボスを討伐した(結果的にとどめを刺したのは俺だ)ことで、膨大な経験値を獲得したはずだ。レベルもかなり上がっているだろう(相変わらず正確な数値は不明だが)。【デバッガー】スキルの熟練度も大幅に上昇し、新たなスキル【???】の習得条件まで満たしたというメッセージも表示された。これがどんなスキルなのか、覚醒するのが楽しみだ。

次に、資金。調査隊への特別参加ということで、ギルドから相応の報酬が約束されている。情報提供と探索補助、そして最後のボス討伐への貢献度を考えれば、かなりの額が期待できるだろう。これで、さらに装備を強化したり、あるいは今後の活動資金に充てたりすることができる。

そして、最も大きな収穫は、人との繋がり、特にクラウスとの関係性の変化だ。当初は、俺のやり方や能力に強い疑念を抱いていた彼が、最終的には俺の言葉を信じ、命がけの連携を見せてくれた。そして、任務後には、騎士としてのプライドを捨てて、俺に感謝の意を示し、「信じたい」とまで言ってくれた。彼との間には、まだ価値観の違いはあるだろうが、確かな信頼の萌芽が生まれたと言っていいだろう。

ボルガンたちパーティーメンバーとの関係も改善された。最初は侮りや疑いの目を向けていた彼らも、俺の能力と貢献を認め、最終的には仲間として受け入れてくれたように思う。特に、神官のアルトとは、今後も良好な関係を築けそうだ。

ギルド支部長に任務完了の報告を済ませると、俺は正式に報酬を受け取ることになった。支部長室に呼ばれ、待っていたのは、満足そうな表情の支部長と、なぜか同席しているクラウスだった。

「ユズル君、今回の働き、実に見事だった!」支部長は、開口一番、俺を称賛した。「君の情報提供と、最後の機転がなければ、調査隊は壊滅していたかもしれん。ギルドとしても、君には最大限の感謝と報酬を用意させてもらった」

そう言って、支部長が差し出したのは、ずっしりと重い革袋だった。中を覗くと、金貨がぎっしりと詰まっている。ざっと見ただけでも、俺がこれまでに稼いだ総額を遥かに上回る額だ。

「これは……!?」

「基本報酬の銀貨50枚に加えて、危険手当、情報提供料、そしてボス討伐への特別貢献報酬だ。合計で金貨100枚。受け取ってくれたまえ」

金貨100枚! 銀貨にして1000枚、銅貨なら10000枚分だ。Fランク冒険者にとっては、破格すぎる報酬額だろう。

「こ、こんなに頂いていいんですか?」

「当然だ。君の功績に見合った額だよ。むしろ、これでも安いくらいかもしれん」支部長は鷹揚に笑う。「それに、今回の件で、君の実力はギルドとしても高く評価している。もしよければ、正式にランクアップを推薦したいのだが、どうだろうか? Eランク、いや、君の実績ならDランクへの飛び級も検討できるかもしれんぞ」

ランクアップの申し出。これも予想外だったが、悪い話ではない。ランクが上がれば、受けられる依頼の幅も広がり、ギルド内での信用度も上がるだろう。

「……ありがとうございます。お受けします」俺は答えた。

「うむ。では、後ほど手続きを進めておこう」支部長は満足げに頷いた。

すると、隣で黙って話を聞いていたクラウスが口を開いた。
「支部長、その件だが、一つ提案がある」

「ほう、クラウス様から? 何でしょう?」

クラウスは、俺の方をちらりと見てから、支部長に向き直り、言った。
「ユズル殿の能力は、確かにランク以上のものがある。だが、彼がまだ経験の浅い冒険者であることも事実だ。いきなりDランクに上げるのは、本人のためにもならないのではないか? むしろ、彼の能力を正しく評価し、適切に育成していくことこそが、ギルド、ひいてはリューン全体の利益に繋がると思うのだが」

(……何を言い出すんだ、この騎士は?)
俺は少し訝しげにクラウスを見る。

クラウスは続ける。
「そこで提案なのだが、ユズル殿を、一時的に私の『従騎士(スクワイア)』、あるいは『協力者』という形で、私の監督下に置いてみてはどうだろうか? 私が彼の行動を監督し、必要な訓練や知識を授ける。そうすれば、彼の能力を安全かつ効果的に伸ばすことができるはずだ。ギルドとしても、彼の特異な能力を管理下に置けるというメリットがあると思うが」

「……ほう、クラウス様が自ら、彼の後見役を?」支部長は、興味深そうに目を細める。「それは、面白い提案ですな。確かに、ユズル君の能力は、使い方を誤れば危険も伴う。騎士であるクラウス様の監督下にあれば、安心できるかもしれん」

(従騎士!? 協力者!? おいおい、冗談じゃないぞ!)
俺は内心で叫んだ。あの堅物騎士の監督下に置かれるなんて、真っ平ごめんだ。彼の「正しさ」を押し付けられ、俺の自由な「デバッグ」活動が制限されるのは目に見えている。

俺が反論しようとする前に、クラウスは俺に向き直り、真剣な表情で言った。
「ユズル殿、君の力を、私は認めよう。だが、その力はあまりにも異質で、危険な側面も持っている。私は、君がその力を間違った方向に使うのを見過ごすことはできない。それに、君にはまだ、この世界で生きていくための基本的な知識や戦闘技術が不足している。私が、騎士として、君を導きたい。どうだろうか?」

彼の言葉は、どこまでも実直で、真摯だった。俺のためを思って言ってくれているのは分かる。だが、俺の求めているものとは、根本的に違う。

「……クラウスさん、お気持ちはありがたいのですが」俺は、できるだけ丁寧に、しかしきっぱりと断る。「俺は、誰かの監督下に置かれるのは、性に合いません。自分のやり方で、自分のペースで、この世界を学んでいきたいと思っています。それに、あなたの『騎士の道』と、俺のやり方は、おそらく相容れないでしょう」

俺の答えに、クラウスは少し悲しそうな、あるいは残念そうな表情を見せた。しかし、彼は無理強いするようなことはしなかった。
「……そうか。君の意思は固いようだな。ならば、仕方ない。だが、覚えておいてほしい。もし君が道を踏み外しそうになった時は、私が全力でそれを止める。それが、私の騎士としての責務だ」

「……肝に銘じておきます」
彼の言葉は、脅しではなく、ある種の覚悟表明のように聞こえた。彼なりの、俺への関わり方なのだろう。

結局、クラウスの提案は一旦保留となり、俺のランクは、まずはEランクへ昇格、ということになった。それでも、Fランクからの昇格としては異例の速さだ。

報酬の金貨100枚を受け取り、Eランクになった新しいギルドカードを手に、俺は支部長室を後にした。廊下で、クラウスが俺を待っていた。

「ユズル殿」

「……なんでしょうか?」

「君は、これからどうするつもりだ?」

「そうですね……まずは、この報酬で装備をさらに整えようかと。それから、もっと情報を集めたいですね。魔力汚染のこと、古代文明のこと……この世界には、まだ知らないことが多すぎます」

「……そうか」クラウスは、何かを考えるように黙り込んだ後、言った。「もし、情報が必要なら、私に相談するといい。リンドバーグ家は没落寸前とはいえ、貴族としての情報網はまだ残っている。君の役に立てることがあるかもしれん」

「……え?」
予想外の申し出に、俺は少し驚いた。

「勘違いするな」クラウスは、少し照れたように視線を逸らす。「これは、君に借りがあるからだ。それに、君が集める情報が、結果的にリューンのためになる可能性もある。利害が一致するなら、協力するのも吝かではない」

(……ツンデレか、この騎士は)
思わず、そんな言葉が頭をよぎる。彼の不器用な優しさが、少しだけ可笑しかった。

「ありがとうございます、クラウスさん。その時は、遠慮なく相談させてもらいます」
俺は、素直に礼を言った。

クラウスは、「ふん」と短く鼻を鳴らすと、「ではな」と言い残し、去っていった。

彼との関係は、奇妙な形で、新たな段階へと進んだようだ。対立するのではなく、互いの立場を尊重しつつ、必要に応じて協力し合う。そんな、ドライでありながらも、どこか信頼に基づいた関係。それは、俺にとって悪くないものかもしれない。

報酬、ランクアップ、そしてクラウスとの新たな関係。
ゴブリンの洞穴での戦いは、俺に多くのものをもたらしてくれた。

(さて、これからどう動くか……)
金貨100枚という大金。これで何ができるだろうか?
より強力な武器や防具を買う? それとも、魔道具に手を出す? あるいは、情報収集に投資するか?

選択肢は多い。だが、俺の心は、ある一つの方向へと傾き始めていた。
それは、あの治療院で出会った、風変わりな天才少女、リリア・クローバーのことだ。

彼女の持つ、Sランク級の【魔道具作成】スキル。そして、俺の【デバッガー】スキル。
もし、この二つを組み合わせることができたら……?

(面白いものが、作れるかもしれない)

未知の鉱石、古代の技術、そして「バグ」を利用した、全く新しい魔道具。
元SEとしての血が、再び騒ぎ始めていた。

俺は、革袋に入った金貨の重みを確かめながら、リリアの治療院がある方向へと、足を向けた。
新たな目標が、見つかった気がした。

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