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第22話:バグ利用の連鎖とボスの終焉
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戦況は、明らかにこちらに傾いていた。
俺、ユズルの【デバッガー】スキルによってもたらされた情報――再生遅延バグ、狂戦士化時のターゲット認識不安定バグ、そしてゴブリン召喚プロセスの座標指定エラーバグ――これらが連鎖的に効果を発揮し、調査隊はゴブリンキング(変異体)を徐々に追い詰めていた。
クラウスは、卓越した盾術と剣技、そして【騎士の誓い】による闘気でゴブリンキングの攻撃を引きつけ、ターゲットを自身に固定し続けている。彼の鎧は既にボロボロで、息も上がっているが、その瞳には強い意志の光が宿っている。俺の「バグ情報」を信じ、危険な囮役を自ら買って出た彼の騎士としての覚悟が、ひしひしと伝わってくる。
ボルガンは、召喚エラーで自滅していくゴブリンたちを片付け、再び前線に復帰。クラウスと連携し、ゴブリンキングの弱点である右足首への集中攻撃を再開する。ウォーハンマー”山砕き”が振り下ろされるたびに、鈍い骨の砕ける音と、ゴブリンキングの苦悶の咆哮が響き渡る。
斥候ジンは、その俊敏性を活かしてゴブリンキングの側面や背後から撹乱攻撃を仕掛け、注意を散漫にさせる。彼の投げる特殊なナイフが、時折、敵の動きを鈍らせ、ボルガンやクラウスの攻撃チャンスを作り出している。
セレスティアは、風と水の精霊魔法を巧みに使い分け、ゴブリンキングの動きを妨害しつつ、継続的なダメージを与え続ける。彼女の魔法は派手さこそないが、的確で効率的だ。俺のバグ情報と連携することで、より効果的な攻撃タイミングを見計らっているようだ。
そして、神官アルト。彼はパーティーの生命線だ。前線で奮闘するボルガンとクラウスに絶えず回復魔法と防御支援魔法を送り続け、彼らが倒れるのを防いでいる。彼の額には汗が滲み、消耗も激しいようだが、その表情は真剣そのものだ。
(すごい連携だ……これが、熟練したパーティーの力か)
俺は後方から戦況を見守りながら、彼らの見事な連携に感嘆していた。俺の【デバッガー】スキルが触媒となったのは確かだが、それを最大限に活かしているのは、紛れもなく彼ら自身の経験と実力だ。
ゴブリンキングのHPは、確実に削られていた。異常な再生能力も、集中攻撃と、おそらくは魔力汚染による自己侵食の影響もあってか、徐々に衰えを見せ始めている。右足首はもはや原型を留めておらず、巨体を支えるのも困難になっているようだ。
「GRRR……AAAA……!」
ゴブリンキングは、苦しげな呻き声を上げ、動きが明らかに鈍くなってきた。狂戦士化の反動も出始めているのかもしれない。
「もう少しだ! 奴は弱ってきているぞ!」ボルガンが檄を飛ばす。
「油断するな! 最後まで集中しろ!」クラウスも、自らを鼓舞するように叫ぶ。
勝利は目前かと思われた。
だが、その時――
ゴブリンキングの身体が、突然、激しく痙攣し始めた。全身から、これまで以上に濃密で、禍々しい魔力汚染が溢れ出す。赤黒い双眸が、狂気とも絶望ともつかない、異様な光を放った。
「な……なんだ!?」
「様子がおかしいぞ!」
俺は咄嗟に【情報読取】と【バグ発見】を最大レベルで発動させる。脳に激痛が走るが、構わずゴブリンキングの状態を探る!
『対象:ゴブリンキング(変異体)
状態:瀕死、魔力汚染暴走(最終フェーズ?)、自爆シークエンス移行の兆候!?
スキル:【???(名称不明:自爆系スキル?)】発動準備中
特性:周囲の魔力汚染を強制吸収し、エネルギーに変換中
備考:極めて危険な状態! 汚染魔力による大規模な爆発が発生する可能性! 残り時間僅か!』
『……バグ検出:緊急1件
内容:【魔力汚染暴走制御の臨界点エラー】
詳細:自爆シークエンスにおいて、吸収した汚染魔力を制御するプロセスに致命的なエラーが存在する。暴走エネルギーが臨界点に達する直前に、外部から特定のパターンを持つ「純粋な魔力」または「浄化エネルギー」をコア(心臓部付近に新たに形成された高密度魔力溜まり)に注入することで、エネルギーの暴走を強制的に逆流させ、自爆を阻止、あるいは威力を大幅に減衰させられる可能性がある。成功確率は不明。失敗すれば即座に爆発。コアへの精密なエネルギー注入が必要。』
「まずい! 全員、離れろ! そいつ、自爆する気だ!!」
俺は、喉が張り裂けんばかりに叫んだ!
「自爆だと!?」
「そんな馬鹿な!」
メンバー全員に衝撃が走る。
しかし、ゴブリンキングの身体は既に、パンパンに膨れ上がった風船のように、危険なエネルギーを溜め込み始めていた。周囲の空間が歪み、床の魔法陣が不気味な光を放つ。爆発まで、おそらく数秒もない!
(どうする!? 逃げるか? いや、この規模の爆発なら、この部屋全体が吹き飛ぶかもしれない! 逃げ場はない!)
バグ情報が頭の中でリフレインする。「純粋な魔力」または「浄化エネルギー」を「コア」に「精密に注入」……。
(純粋な魔力……俺には無理だ。浄化エネルギー……アルトさんの【浄化魔法】は低級だったはず……間に合うか? いや、それよりも……)
俺の視線は、自分の腰に差した魔鋼のダガーと、バックパックの中に入っているはずの「ある物」に向けられた。
(あの隠し部屋で見つけた、「月光石のかけら」……あれには、微弱な治癒魔力と、光属性の魔力が宿っていたはずだ! そして、魔鋼のダガーには【魔力伝導(微)】の効果が! これを使えば……!)
リスクは計り知れない。失敗すれば即死だ。だが、他に手がない!
俺は叫んだ。
「アルトさん! 【浄化魔法】を! 俺がコアの位置を教えます! それと、セレスティアさん、風魔法で俺をボスの懐まで飛ばしてください! 一瞬でいい!」
「なっ!? ユズル君、何を!?」アルトが驚愕の声を上げる。
「正気!? あなたがコアに近づくなんて!」セレスティアも反対する。
「時間がないんです! やるしかありません!」
俺は、バックパックから月光石のかけらを数個取り出し、魔鋼のダガーの柄頭(ポンメル)の窪み(偶然にもちょうど良いサイズだった)に押し込んだ。そして、ありったけのMPと精神力を集中させる。
クラウスが叫ぶ。
「ユズル殿! 無謀だ!」
「信じてください!」俺は、クラウスの目を真っ直ぐに見つめて言った。「俺には……これが見えているんです!」
俺の必死の形相と、その言葉に含まれた確信。それが、彼らに最後の決断を促したのかもしれない。
「……分かったわ! 風よ、彼を導け! エア・ステップ!」セレスティアが杖を振り、俺の足元に風の渦を作り出す。
「神聖なる光よ、彼の者を護りたまえ! ホーリー・プロテクション! そして、浄化の祈りを! リトル・ピュリファイ!」アルトも、震える声で魔法を詠唱する。俺の身体に防御の光が宿り、同時に、ゴブリンキングのコアがあるであろう位置に向けて、微弱ながらも浄化の光が放たれる。
「ユズル君、頼んだぞ!」ボルガンが叫ぶ。
俺は、風の魔法で加速され、一気にゴブリンキングの懐へと飛び込んだ! 爆発寸前の膨大なエネルギーが、肌を焼くように熱い。
(コアの位置は……心臓部付近! ここだ!)
【情報読取】で、ゴブリンキングの体内に形成された高密度の魔力溜まりの位置を正確に特定する。
月光石を嵌め込んだ魔鋼のダガーを逆手に持ち替え、ありったけの力を込めて、そのコア目掛けて突き立てる!
(【限定的干渉】! エネルギー逆流、強制実行!!)
ダガーが、ゴブリンキングの分厚い皮膚を貫き、内部のコアへと達した瞬間――
眩いばかりの青白い光が、月光石から溢れ出した! 純粋な光属性の魔力と、アルトの浄化エネルギーが、魔鋼のダガーを通してコアへと流れ込む!
ゴブリンキングの身体が、内部から破裂する寸前のように激しく脈動する。暴走する汚染魔力と、注入された浄化エネルギーが、内部で激しく衝突し、拮抗する!
(頼む……! 抑え込め……!)
俺は、ダガーを突き刺したまま、必死に祈る。全身のMPが急速に吸い取られていくのを感じる。意識が朦朧としてくる。
そして――
パァンッ!
風船が割れるような、乾いた音が響いた。
ゴブリンキングの身体から、溜め込まれていたエネルギーが、爆発ではなく、霧散するように急速に失われていく。膨張していた身体は萎み、赤黒く輝いていた目は光を失い、その巨体は力なく、ゆっくりと床に崩れ落ちていった。
後に残ったのは、静寂と、床に横たわる巨大な骸(むくろ)だけだった。
『対象:ゴブリンキング(変異体) / HP 0/??? / 討伐完了』
『経験値を大量に獲得しました』
『スキル【デバッガー】の熟練度が大幅に上昇しました』
『スキル【???】の習得条件を満たしました(未覚醒)』
脳内に流れるメッセージ。そして、全身を襲う、経験したことのないほどの虚脱感。俺は、その場に膝から崩れ落ち、荒い息をついた。
「……終わった……のか?」
誰かが呟く声が聞こえる。
ボルガン、クラウス、ジン、セレスティア、アルト……仲間たちが、呆然とした表情で、俺と、倒れたゴブリンキングの骸を交互に見ている。
俺の、無謀とも言える最後の「デバッグ」が、最悪の事態を防ぎ、規格外のボスに終止符を打ったのだ。
その代償は、俺自身の限界を超える消耗だったが。
意識が遠のく中、俺は、仲間たちの驚きと安堵の入り混じった表情を、ぼんやりと眺めていた。
俺、ユズルの【デバッガー】スキルによってもたらされた情報――再生遅延バグ、狂戦士化時のターゲット認識不安定バグ、そしてゴブリン召喚プロセスの座標指定エラーバグ――これらが連鎖的に効果を発揮し、調査隊はゴブリンキング(変異体)を徐々に追い詰めていた。
クラウスは、卓越した盾術と剣技、そして【騎士の誓い】による闘気でゴブリンキングの攻撃を引きつけ、ターゲットを自身に固定し続けている。彼の鎧は既にボロボロで、息も上がっているが、その瞳には強い意志の光が宿っている。俺の「バグ情報」を信じ、危険な囮役を自ら買って出た彼の騎士としての覚悟が、ひしひしと伝わってくる。
ボルガンは、召喚エラーで自滅していくゴブリンたちを片付け、再び前線に復帰。クラウスと連携し、ゴブリンキングの弱点である右足首への集中攻撃を再開する。ウォーハンマー”山砕き”が振り下ろされるたびに、鈍い骨の砕ける音と、ゴブリンキングの苦悶の咆哮が響き渡る。
斥候ジンは、その俊敏性を活かしてゴブリンキングの側面や背後から撹乱攻撃を仕掛け、注意を散漫にさせる。彼の投げる特殊なナイフが、時折、敵の動きを鈍らせ、ボルガンやクラウスの攻撃チャンスを作り出している。
セレスティアは、風と水の精霊魔法を巧みに使い分け、ゴブリンキングの動きを妨害しつつ、継続的なダメージを与え続ける。彼女の魔法は派手さこそないが、的確で効率的だ。俺のバグ情報と連携することで、より効果的な攻撃タイミングを見計らっているようだ。
そして、神官アルト。彼はパーティーの生命線だ。前線で奮闘するボルガンとクラウスに絶えず回復魔法と防御支援魔法を送り続け、彼らが倒れるのを防いでいる。彼の額には汗が滲み、消耗も激しいようだが、その表情は真剣そのものだ。
(すごい連携だ……これが、熟練したパーティーの力か)
俺は後方から戦況を見守りながら、彼らの見事な連携に感嘆していた。俺の【デバッガー】スキルが触媒となったのは確かだが、それを最大限に活かしているのは、紛れもなく彼ら自身の経験と実力だ。
ゴブリンキングのHPは、確実に削られていた。異常な再生能力も、集中攻撃と、おそらくは魔力汚染による自己侵食の影響もあってか、徐々に衰えを見せ始めている。右足首はもはや原型を留めておらず、巨体を支えるのも困難になっているようだ。
「GRRR……AAAA……!」
ゴブリンキングは、苦しげな呻き声を上げ、動きが明らかに鈍くなってきた。狂戦士化の反動も出始めているのかもしれない。
「もう少しだ! 奴は弱ってきているぞ!」ボルガンが檄を飛ばす。
「油断するな! 最後まで集中しろ!」クラウスも、自らを鼓舞するように叫ぶ。
勝利は目前かと思われた。
だが、その時――
ゴブリンキングの身体が、突然、激しく痙攣し始めた。全身から、これまで以上に濃密で、禍々しい魔力汚染が溢れ出す。赤黒い双眸が、狂気とも絶望ともつかない、異様な光を放った。
「な……なんだ!?」
「様子がおかしいぞ!」
俺は咄嗟に【情報読取】と【バグ発見】を最大レベルで発動させる。脳に激痛が走るが、構わずゴブリンキングの状態を探る!
『対象:ゴブリンキング(変異体)
状態:瀕死、魔力汚染暴走(最終フェーズ?)、自爆シークエンス移行の兆候!?
スキル:【???(名称不明:自爆系スキル?)】発動準備中
特性:周囲の魔力汚染を強制吸収し、エネルギーに変換中
備考:極めて危険な状態! 汚染魔力による大規模な爆発が発生する可能性! 残り時間僅か!』
『……バグ検出:緊急1件
内容:【魔力汚染暴走制御の臨界点エラー】
詳細:自爆シークエンスにおいて、吸収した汚染魔力を制御するプロセスに致命的なエラーが存在する。暴走エネルギーが臨界点に達する直前に、外部から特定のパターンを持つ「純粋な魔力」または「浄化エネルギー」をコア(心臓部付近に新たに形成された高密度魔力溜まり)に注入することで、エネルギーの暴走を強制的に逆流させ、自爆を阻止、あるいは威力を大幅に減衰させられる可能性がある。成功確率は不明。失敗すれば即座に爆発。コアへの精密なエネルギー注入が必要。』
「まずい! 全員、離れろ! そいつ、自爆する気だ!!」
俺は、喉が張り裂けんばかりに叫んだ!
「自爆だと!?」
「そんな馬鹿な!」
メンバー全員に衝撃が走る。
しかし、ゴブリンキングの身体は既に、パンパンに膨れ上がった風船のように、危険なエネルギーを溜め込み始めていた。周囲の空間が歪み、床の魔法陣が不気味な光を放つ。爆発まで、おそらく数秒もない!
(どうする!? 逃げるか? いや、この規模の爆発なら、この部屋全体が吹き飛ぶかもしれない! 逃げ場はない!)
バグ情報が頭の中でリフレインする。「純粋な魔力」または「浄化エネルギー」を「コア」に「精密に注入」……。
(純粋な魔力……俺には無理だ。浄化エネルギー……アルトさんの【浄化魔法】は低級だったはず……間に合うか? いや、それよりも……)
俺の視線は、自分の腰に差した魔鋼のダガーと、バックパックの中に入っているはずの「ある物」に向けられた。
(あの隠し部屋で見つけた、「月光石のかけら」……あれには、微弱な治癒魔力と、光属性の魔力が宿っていたはずだ! そして、魔鋼のダガーには【魔力伝導(微)】の効果が! これを使えば……!)
リスクは計り知れない。失敗すれば即死だ。だが、他に手がない!
俺は叫んだ。
「アルトさん! 【浄化魔法】を! 俺がコアの位置を教えます! それと、セレスティアさん、風魔法で俺をボスの懐まで飛ばしてください! 一瞬でいい!」
「なっ!? ユズル君、何を!?」アルトが驚愕の声を上げる。
「正気!? あなたがコアに近づくなんて!」セレスティアも反対する。
「時間がないんです! やるしかありません!」
俺は、バックパックから月光石のかけらを数個取り出し、魔鋼のダガーの柄頭(ポンメル)の窪み(偶然にもちょうど良いサイズだった)に押し込んだ。そして、ありったけのMPと精神力を集中させる。
クラウスが叫ぶ。
「ユズル殿! 無謀だ!」
「信じてください!」俺は、クラウスの目を真っ直ぐに見つめて言った。「俺には……これが見えているんです!」
俺の必死の形相と、その言葉に含まれた確信。それが、彼らに最後の決断を促したのかもしれない。
「……分かったわ! 風よ、彼を導け! エア・ステップ!」セレスティアが杖を振り、俺の足元に風の渦を作り出す。
「神聖なる光よ、彼の者を護りたまえ! ホーリー・プロテクション! そして、浄化の祈りを! リトル・ピュリファイ!」アルトも、震える声で魔法を詠唱する。俺の身体に防御の光が宿り、同時に、ゴブリンキングのコアがあるであろう位置に向けて、微弱ながらも浄化の光が放たれる。
「ユズル君、頼んだぞ!」ボルガンが叫ぶ。
俺は、風の魔法で加速され、一気にゴブリンキングの懐へと飛び込んだ! 爆発寸前の膨大なエネルギーが、肌を焼くように熱い。
(コアの位置は……心臓部付近! ここだ!)
【情報読取】で、ゴブリンキングの体内に形成された高密度の魔力溜まりの位置を正確に特定する。
月光石を嵌め込んだ魔鋼のダガーを逆手に持ち替え、ありったけの力を込めて、そのコア目掛けて突き立てる!
(【限定的干渉】! エネルギー逆流、強制実行!!)
ダガーが、ゴブリンキングの分厚い皮膚を貫き、内部のコアへと達した瞬間――
眩いばかりの青白い光が、月光石から溢れ出した! 純粋な光属性の魔力と、アルトの浄化エネルギーが、魔鋼のダガーを通してコアへと流れ込む!
ゴブリンキングの身体が、内部から破裂する寸前のように激しく脈動する。暴走する汚染魔力と、注入された浄化エネルギーが、内部で激しく衝突し、拮抗する!
(頼む……! 抑え込め……!)
俺は、ダガーを突き刺したまま、必死に祈る。全身のMPが急速に吸い取られていくのを感じる。意識が朦朧としてくる。
そして――
パァンッ!
風船が割れるような、乾いた音が響いた。
ゴブリンキングの身体から、溜め込まれていたエネルギーが、爆発ではなく、霧散するように急速に失われていく。膨張していた身体は萎み、赤黒く輝いていた目は光を失い、その巨体は力なく、ゆっくりと床に崩れ落ちていった。
後に残ったのは、静寂と、床に横たわる巨大な骸(むくろ)だけだった。
『対象:ゴブリンキング(変異体) / HP 0/??? / 討伐完了』
『経験値を大量に獲得しました』
『スキル【デバッガー】の熟練度が大幅に上昇しました』
『スキル【???】の習得条件を満たしました(未覚醒)』
脳内に流れるメッセージ。そして、全身を襲う、経験したことのないほどの虚脱感。俺は、その場に膝から崩れ落ち、荒い息をついた。
「……終わった……のか?」
誰かが呟く声が聞こえる。
ボルガン、クラウス、ジン、セレスティア、アルト……仲間たちが、呆然とした表情で、俺と、倒れたゴブリンキングの骸を交互に見ている。
俺の、無謀とも言える最後の「デバッグ」が、最悪の事態を防ぎ、規格外のボスに終止符を打ったのだ。
その代償は、俺自身の限界を超える消耗だったが。
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