異世界デバッガー ~不遇スキル【デバッガー】でバグ利用してたら、世界を救うことになった元SEの話~

夏見ナイ

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第53話:王子との密約、王都の深層へ

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「星読みの羅針盤」確保という危険な任務を終え、俺たちは予期せぬ形で王国の第一王子エドワードという強力な(そして厄介な)協力者を得た。依頼主の代理人を名乗っていたアルフレッド・フォン・ヴァレンシュタインは、王子に最も信頼される側近の一人であり、彼の手引きによって、俺たちは王宮の一角にある隠し部屋へと案内されていた。表向きは古い書庫として使われている部屋だが、巧妙に隠された扉の奥には、質素ながらも防音と盗聴防止の魔法が施された、密談に最適な空間が広がっていた。

部屋の中央には、一人の青年が静かに座っていた。歳は二十代前半だろうか。金の髪に、空の色を映したような青い瞳。高貴な顔立ちには、知性と誠実さが滲み出ている。しかし、その若さには不釣り合いなほどの深い憂いと、現状への焦りのようなものも見て取れた。彼こそが、この国の第一王子、エドワード・フォン・グランフォールその人だった。

『対象:エドワード・フォン・グランフォール
 分類:人間(王族)
 状態:冷静(表面上)、強い憂慮、決意
 ステータス:Lv ??(戦闘能力は平均的)、MP ??(魔力は比較的高い)
 スキル:【王族のカリスマ(小)】【高等教育(帝王学、歴史学、魔法理論)】【剣術(儀礼用)】【???】
 備考:グランフォール王国第一王子。聡明で正義感が強いが、王宮内での政治的基盤は弱い。国の未来を憂い、腐敗した現状を変えようとしている。古代の力や未知の技術に関心を持つ。ユズルたちの能力に強い期待を寄せている。』

(……なるほど。確かに、聡明で誠実そうだ。だが、スキル構成を見る限り、彼自身の戦闘能力は高くない。権力闘争の中で、苦しい立場にいるのだろう)
俺は、内心で王子を分析する。

俺たち――ユズル、クラウス、リリア、シャロン――は、アルフレッドと共に、王子の前に進み出た。クラウスは、王子を前にして、深く、そして敬意のこもった礼をする。リリアも、緊張した面持ちでそれに倣う。シャロンは、相変わらず飄々とした態度だが、その赤い瞳は鋭く王子を観察している。俺も、形式的に頭を下げた。

「面を上げよ」エドワード王子は、穏やかだが、どこか威厳のある声で言った。「アルフレッドから話は聞いている。この度は、我が国の、いや、世界の危機に繋がりかねない事態に、身を挺して立ち向かってくれたこと、心から感謝する」

彼の言葉には、偽りのない誠実さが感じられた。少なくとも、腹の底で何を考えているか分からない貴族たちよりは、信用できるかもしれない。

「もったいないお言葉です、殿下」クラウスが、代表して答える。「我々は、冒険者として、また一市民として、当然のことをしたまでです」

「謙遜は不要だ、クラウス・フォン・リンドバーグ」王子は、クラウスの名を呼び、その労をねぎらうように微笑んだ。「君の家が苦境にあることは、私も聞き及んでいる。今回の働き、そして君の忠誠心は、必ずや報われねばなるまい。騎士団への復帰についても、私が可能な限り力を尽くそう」

「はっ! ありがたき幸せ!」クラウスは、感激した様子で再び深く頭を下げた。彼の長年の願いが、思わぬ形で叶う可能性が見えてきたのだ。

王子は、次にリリアへと視線を向けた。
「そして、リリア・クローバー嬢。君の魔道具技術も、素晴らしいと聞いている。特に、あの『バグ・ストレージ』とかいう魔法の鞄……実に興味深い。いずれ、君の工房を訪ね、その才能を直接見てみたいものだ」

「ひゃ、はい! 光栄です!」リリアは、顔を真っ赤にして恐縮している。王族から直接褒められるなど、夢にも思わなかったのだろう。

そして、王子はシャロンへと視線を移した。
「……シャロン・ナイトウォーカー。君の噂は、私も耳にしている。影の世界に生きる、凄腕の情報屋兼『始末屋』……。今回、君が我々に協力してくれた理由は、まだ測りかねているが……今は、その力を貸してくれることに感謝しよう」
王子の言葉には、シャロンに対する警戒心と、しかしその実力を認めざるを得ないという、複雑な感情が込められているようだった。

シャロンは、優雅に一礼し、微笑むだけだった。彼女の真意は、王子にも読めないだろう。

最後に、エドワード王子は、俺、ユズルへと向き直った。彼の青い瞳が、俺の能力の核心を探るように、じっと見つめてくる。
「そして、ユズル殿……君こそが、今回の鍵となった人物だと聞いている。”奇跡の解決屋”……その異名は、決して誇張ではないようだ。君の持つ、物事の『本質』と『欠陥』を見抜く力……それは、まさに規格外だ」

「……恐縮です、殿下。俺はただ、自分にできることをしただけです」俺は、あくまで謙虚な姿勢を崩さない。

「その『できること』が、常人には到底不可能なのだよ」王子は、静かに、しかし力強く言った。「アルフレッドから、君の能力について、可能な限り詳しく聞いた。世界の『バグ』を見つけ、それに干渉する力……信じ難いが、事実なのだろう。君のような存在が、この時代に現れたこと……それは、偶然ではないのかもしれない」

彼の言葉には、深い意味が込められているように感じられた。彼は、シャロンから聞いた「転生者」の存在や、「世界のシステム」に関する情報も、ある程度は把握しているのかもしれない。

「ユズル殿」王子は、真剣な表情になる。「改めて、君に頼みたい。どうか、私に力を貸してほしい。この国を、いや、この世界を蝕む『歪み』……カルト教団の陰謀、腐敗した権力構造、そして、その根源にあるかもしれない、古代からの『バグ』……それらに立ち向かうために、君の力が必要なのだ」

王子からの、正式な協力要請。それは、もはや単なる「依頼」ではなく、共に未来を切り開くための「盟約」に近いものだった。

「協力の見返りとして、私は君たちに最大限の支援を約束しよう」王子は続けた。「活動に必要な資金、王宮が持つ情報へのアクセス権、身分の保証、そして……もし君が望むなら、この国の、あるいは世界の『真実』に近づくための手助けも惜しまない」

破格の条件だ。王国の第一王子が、俺たちのような、素性の知れない(特に俺とシャロンは)者たちに、これほどの支援を約束する。それだけ、彼が追い詰められ、そして俺たちの力に期待しているということなのだろう。

俺は、仲間たちの顔を見回す。クラウスは、王子への忠誠心から、既に決意を固めている。リリアは、王宮の技術や情報への期待で目を輝かせている。シャロンは、面白そうに状況を見守っているが、反対する様子はない。

答えは、決まっていた。

「……謹んで、お受けいたします、エドワード殿下」俺は、王子に向かって頭を下げた。「我々は、殿下の協力者として、この国の、そして世界の『デバッグ』のために、全力を尽くしましょう」

「……感謝する、ユズル殿」王子の表情に、安堵と、そして新たな希望の光が灯った。「君たちのような仲間を得られたことは、私にとって、何よりの力となるだろう」

こうして、俺たちと第一王子エドワードとの間に、秘密裏の協力関係――「王国のデバッグ・プロジェクト」とでも呼ぶべきもの――が、正式に結ばれた。



その後、俺たちは王子やアルフレッドと、今後の具体的な行動計画について、さらに詳細な打ち合わせを行った。

まず、最優先事項は、カルト教団の研究日誌の完全解読と、「星読みの羅針盤」の安全な解析方法の確立だ。日誌の解読は俺が引き続き担当する。羅針盤については、王宮の魔法研究者の中に、古代遺物に詳しい者がいるらしく、彼らの協力を得て、安全に情報を引き出す方法を探ることになった。ただし、羅針盤の危険性については極秘とし、表向きは「古代の方位磁針の研究」という名目で行う。

次に、カルト教団と、王宮内の敵対勢力(宰相派閥など)の動向監視。これは、シャロンの情報網と、王子派の諜報部隊が連携して行うことになった。シャロンは、水を得た魚のように、王都の裏社会で暗躍することになるだろう。

クラウスは、騎士団への復帰を目指しつつ、王子派の貴重な「武」の戦力として、必要に応じて表裏の任務に就くことになった。俺が掴んだ騎士団内部の「バグ情報」も活用し、彼の立場を有利にするための工作も進める。

リリアは、王宮の図書館や研究所へのアクセス権を得て、知識と技術の吸収に励むと共に、俺たちの活動に必要な魔道具の開発・改良を担当する。彼女の才能は、このプロジェクトにおいて、技術的なブレイクスルーをもたらす鍵となるかもしれない。

そして俺、ユズルは、全体の情報分析と作戦立案、そして【デバッガー】スキルを活かした特殊任務(バグの発見・利用・修正)を担当する。まさに、プロジェクトマネージャー兼、特殊工作員といった役割だ。

俺たちの活動は、王子との定期的な密会を通じて報告・連携し、極秘裏に進められることになった。王宮という巨大な組織の中での、秘密のプロジェクト。それは、まるでスパイ映画のような展開だが、俺たちの目的のためには、必要なステップなのだろう。

謁見を終え、隠し部屋を出る際、エドワード王子は、俺にだけ、そっと声をかけた。
「ユズル殿……君のその力は、使い方を誤れば、世界を救うことも、滅ぼすこともできるだろう。どうか、その力を、正しい道のために使ってほしい。私は、君を信じている」

彼の言葉は、重く、そして真摯だった。
俺は、その言葉の意味を噛み締めながら、王宮を後にした。

王都グランフォール。この巨大な都市の深層で、今、新たな物語が動き出した。
権力闘争、カルト教団の陰謀、古代の謎、そして世界のバグ。
俺たち「王国のデバッガー」の戦いは、これから始まるのだ。

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