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第54話:王都魔力網のノイズ
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王都グランフォールでの生活は、驚くほど早く軌道に乗り始めていた。シャロンが用意したセーフハウスは、表向きは寂れた商店だが、内部は快適で、何より地下工房というリリアにとっての聖域(サンクチュアリ)が確保されたことが大きい。俺たちの活動拠点として、これ以上ない場所と言えた。
日々のルーティンも確立されつつある。早朝、俺はクラウスと共に剣の稽古に励む。彼の指導は厳しく、実直だが、的確だ。おかげで俺の【剣術(基礎)】スキルは着実にレベルアップし、魔鋼のダガーの扱いもかなり様になってきた。同時に、俺は【デバッガー】スキルでクラウスの剣技の「癖」や「最適化の可能性」を指摘し、彼もまたそれを真摯に受け止め、自身の技を磨いている。奇妙な形だが、互いに高め合える関係が築けているのは確かだ。
日中、クラウスは騎士団本部や貴族街へ赴き、復帰への道を探る。リリアは地下工房に籠もり、王都で仕入れた新たな知識と素材を元に、魔道具開発に没頭している。時折、工房から小さな爆発音や、奇妙な光が漏れてくることもあるが、今のところ大きな問題は起きていないようだ(たぶん)。シャロンは、その姿を見せないことも多いが、夜になるとふらりと現れ、王都の裏社会や、敵対勢力に関する最新情報をもたらしてくれる。
そして俺は、クラウスやリリアの活動をサポートしつつ、舞い込んでくる「解決屋」としての依頼をこなし、そして最優先事項であるカルト教団の研究日誌の解読作業を進めていた。【デバッガー】と【コード・リーディング】(まだ初級だが)を駆使した解析は困難を極めたが、少しずつ、しかし確実に、古代文字と暗号の壁を崩し始めていた。
そんなある日、アルフレッドを通じて、第一王子エドワードからの最初の「密命」がもたらされた。
「王都の魔力供給網に、不審なエネルギー変動が観測されているらしい」
セーフハウスのリビングで、アルフレッドは深刻な表情で語り始めた。「表向きは、設備の老朽化によるものとされている。しかし、殿下は、これを単なる事故や老朽化ではなく、何者かによる妨害工作、あるいは、システムそのものに内在する深刻な問題(バグ)ではないかと疑っておられるのだ」
「魔力供給網……ですか」
王都グランフォールほどの巨大都市を維持するためには、膨大な魔力エネルギーが必要となる。そのエネルギーを、都市の隅々まで安定供給するためのインフラが、魔力供給網だ。それは、地下深くに設置された巨大な魔力炉(おそらく古代文明の遺物だろう)を動力源とし、複雑な魔力伝送路(パイプラインのようなものか?)と、各所に設置された中継・制御ノードによって構成される、王都の生命線とも言えるシステムだ。
「具体的には、どのような変動が?」俺は尋ねる。
「特定の時間帯や、特定の地区において、魔力供給量が不安定になったり、逆に異常なエネルギーサージ(急上昇)が発生したりしているらしい。これにより、一部の魔道具が誤作動を起こしたり、最悪の場合、破損したりする被害も出始めている。魔法省も調査はしているようだが、原因究明には至っていない」
(エネルギー変動、サージ、誤作動……システムエンジニアとしては、聞き覚えのある現象だな)
電力網における電圧変動や、ネットワークにおけるパケットロスや遅延。原因は様々だが、ハードウェアの故障、ソフトウェアのバグ、あるいは外部からの攻撃(クラッキング)などが考えられる。この異世界の魔力供給網も、同様の問題を抱えているのかもしれない。
「殿下は、これを宰相派閥による、王都機能の一部を麻痺させるための妨害工作ではないかと考えておられる。あるいは……」アルフレッドは、俺の目をじっと見て続ける。「カルト教団のような、未知の勢力が関与している可能性も捨てきれない、と」
「なるほど……」俺は頷く。「それで、俺たちにその調査を依頼したい、と」
「その通りだ。公式な調査では、政治的な圧力や、情報の隠蔽によって、真実にたどり着けない可能性がある。そこで、君たちの『特別な力』を借りて、この問題の真相を突き止めてほしいのだ。原因が妨害工作なのか、それともシステムの『バグ』なのか。そして、もし可能であれば、その解決策を見つけ出してほしい」
国家レベルの重要インフラの調査とデバッグ。まさに、俺のスキルが最も活きるであろう案件だ。同時に、王都の権力闘争や、カルト教団の陰謀といった、危険な領域に深く足を踏み入れることにもなる。
「……分かりました。お受けしましょう」俺は即答した。「ただし、調査には専門的な知識も必要になります。リリアさんの協力も得たいのですが、よろしいでしょうか?」
「もちろんだ。彼女の魔道具技術は、この調査において大きな助けとなるだろう」アルフレッドは快諾した。
こうして、俺たちの新たな任務――「王都魔力網デバッグ・プロジェクト」――が、極秘裏に開始された。
◆
調査は、まず情報収集から始まった。俺は【デバッガー】スキルで、王都内に存在する魔力供給網のノード(中継・制御施設)の位置や、エネルギーの流れに関する情報をスキャンしていく。同時に、リリアはその技術知識を活かし、魔道具ギルドや魔法省の公開情報を収集・分析する。クラウスは、騎士団や貴族社会のネットワークを通じて、公式な調査の進捗や、宰相派閥の動向に関する情報を集める。シャロンは、裏社会のルートから、妨害工作や、カルト教団の関与に関する噂を探る。
それぞれの情報が持ち寄られ、セーフハウスの作戦室(という名の、地図や資料が散乱したリビング)で共有される。
「やはり、エネルギー変動は、特定のパターンで発生しているようです」俺は、スキャン結果を分析しながら報告する。「王都の旧市街地区と、地下へのアクセスが比較的容易な地区で、特に異常が頻発しています。そして、変動が起きる直前には、必ず微弱な『ノイズ』のような魔力波が観測される……これは、自然現象とは思えません」
「私も、魔法省の記録を調べてみたんだけど、やっぱりおかしいよ!」リリアが、分厚い資料をめくりながら言う。「記録上は『老朽化による効率低下』ってことになってるけど、エネルギーの損失量が、理論値と全然合わないの! まるで、どこかでエネルギーが『盗まれている』か、『別のものに変換されている』みたい……」
「騎士団内部でも、この件に関する奇妙な噂が流れている」クラウスが、渋い顔で付け加える。「宰相派閥に近い一部の騎士たちが、夜間に不審な行動を取っているという目撃情報がある。彼らが、何らかの破壊工作に関与している可能性も否定できん」
「そして、裏の情報では……」シャロンが、低い声で締めくくる。「カルト教団『深淵を覗く者たち』が、王都の地下、特に古い遺跡や下水道エリアで、新たな『儀式場』を設営しているという情報があるわ。彼らが、魔力供給網からエネルギーを盗み出し、それを儀式に使っている……という可能性も考えられるわね」
集まった情報を総合すると、状況は極めて複雑だった。宰相派閥による妨害工作、カルト教団によるエネルギー窃盗、そして、システム自体の老朽化やバグ。これらの要因が、複合的に絡み合っている可能性が高い。
「……やはり、現場を直接調査する必要がありそうですね」俺は結論付けた。「特に、エネルギー変動が頻発している地区の、地下にある魔力供給ノード。そこを調べれば、何か手がかりが見つかるかもしれません」
調査対象となるノードは、旧市街の地下、忘れられた地下道への入り口も近いエリアに存在するという。危険な場所であることは間違いないが、行くしかないだろう。
調査隊のメンバーは、俺、リリア(技術担当)、クラウス(護衛)、シャロン(隠密・バックアップ)の四人に決まった。
◆
数日後。俺たちは、再び王都の地下へと足を踏み入れていた。今回は、旧市街の古い建物の地下室から、秘密裏にアクセスできる保守用通路を使う。魔力供給網のノードは、通常、厳重な警備と魔法的な結界によって守られているが、この保守用通路は忘れ去られた存在なのか、警備が手薄になっていた(これも俺の【デバッガー】スキルで発見した「バグ」の一つだ)。
薄暗く、埃っぽい通路を進んでいくと、やがて重々しい金属製の扉が見えてきた。扉には、魔法的なロックが施されている。
「これが、ノードへの入り口か……」クラウスが、警戒しながら周囲を見渡す。
「ロックは……かなり高度な術式ね。普通の鍵開け師じゃ、手も足も出ないわ」シャロンが分析する。
「リリアさん、解析できますか?」俺は尋ねる。
リリアは、携帯型の魔力解析装置(自作)を取り出し、ロックの術式をスキャンし始める。
「うーん……複雑だけど、基本的な構造は分かるよ。でも、解除コードは……これは、王宮レベルの暗号化がされてるみたい。私には無理かなぁ……」
「暗号化……ですか」ならば、俺の出番かもしれない。
俺は扉に近づき、【デバッガー】スキル、そして【コード・ライティング】の意識を集中させる。ロックシステムの構造、暗号化アルゴリズム、そしてそこに潜む「バグ」を探る。
(……あった! 暗号鍵の生成ロジックに、疑似乱数生成の偏りがある! これなら、総当たり攻撃(ブルートフォース)ではなく、特定のパターンを狙えば、比較的短時間で解読できるかもしれない!)
俺は、発見したバグを利用し、解除コードの候補をいくつか生成する。そして、【コード・ライティング】で、それらのコードをロックシステムに直接入力していく!
数回の試行錯誤の後――
カチャリ。
重厚なロックが、静かに解除される音が響いた。
「……開いた!?」リリアが驚きの声を上げる。
「……君は、本当に何でもできるのだな」クラウスが、呆れたような、しかし感心したような表情で俺を見る。
「……相変わらず、規格外ね」シャロンが、面白そうに口角を上げる。
俺たちは、扉を開け、魔力供給ノードの内部へと足を踏み入れた。
そこは、想像していたよりも広大な空間だった。壁一面に、複雑な魔力回路が走り、中央には巨大な水晶のような制御装置が設置されている。そして、空間全体が、強い魔力エネルギーで満たされていた。
しかし、そのエネルギーは、どこか不安定で、淀んでいる。そして、空気中には、やはりあの「ノイズ」のような、不快な魔力波が漂っていた。
「……やはり、ここが異常の中心か」俺は確信する。
俺たちが内部を調査しようとした、その時だった。
空間の隅の影から、複数の人影が、音もなく現れた!
黒いローブに、奇妙な仮面。カルト教団「深淵を覗く者たち」だ! 彼らは、俺たちの侵入を予期していたかのように、既に待ち構えていたのだ!
「……よく来たな、異物ども」リーダー格の男が、歪んだ声で言った。「我らの『聖域』に足を踏み入れたこと、後悔させてやろう」
彼らの手には、禍々しい武器が握られ、その目には狂信的な光が宿っている。
王都の生命線を巡る戦い。そして、システムのバグを巡る攻防。
俺たちの、新たな死闘の幕が、今、切って落とされた!
日々のルーティンも確立されつつある。早朝、俺はクラウスと共に剣の稽古に励む。彼の指導は厳しく、実直だが、的確だ。おかげで俺の【剣術(基礎)】スキルは着実にレベルアップし、魔鋼のダガーの扱いもかなり様になってきた。同時に、俺は【デバッガー】スキルでクラウスの剣技の「癖」や「最適化の可能性」を指摘し、彼もまたそれを真摯に受け止め、自身の技を磨いている。奇妙な形だが、互いに高め合える関係が築けているのは確かだ。
日中、クラウスは騎士団本部や貴族街へ赴き、復帰への道を探る。リリアは地下工房に籠もり、王都で仕入れた新たな知識と素材を元に、魔道具開発に没頭している。時折、工房から小さな爆発音や、奇妙な光が漏れてくることもあるが、今のところ大きな問題は起きていないようだ(たぶん)。シャロンは、その姿を見せないことも多いが、夜になるとふらりと現れ、王都の裏社会や、敵対勢力に関する最新情報をもたらしてくれる。
そして俺は、クラウスやリリアの活動をサポートしつつ、舞い込んでくる「解決屋」としての依頼をこなし、そして最優先事項であるカルト教団の研究日誌の解読作業を進めていた。【デバッガー】と【コード・リーディング】(まだ初級だが)を駆使した解析は困難を極めたが、少しずつ、しかし確実に、古代文字と暗号の壁を崩し始めていた。
そんなある日、アルフレッドを通じて、第一王子エドワードからの最初の「密命」がもたらされた。
「王都の魔力供給網に、不審なエネルギー変動が観測されているらしい」
セーフハウスのリビングで、アルフレッドは深刻な表情で語り始めた。「表向きは、設備の老朽化によるものとされている。しかし、殿下は、これを単なる事故や老朽化ではなく、何者かによる妨害工作、あるいは、システムそのものに内在する深刻な問題(バグ)ではないかと疑っておられるのだ」
「魔力供給網……ですか」
王都グランフォールほどの巨大都市を維持するためには、膨大な魔力エネルギーが必要となる。そのエネルギーを、都市の隅々まで安定供給するためのインフラが、魔力供給網だ。それは、地下深くに設置された巨大な魔力炉(おそらく古代文明の遺物だろう)を動力源とし、複雑な魔力伝送路(パイプラインのようなものか?)と、各所に設置された中継・制御ノードによって構成される、王都の生命線とも言えるシステムだ。
「具体的には、どのような変動が?」俺は尋ねる。
「特定の時間帯や、特定の地区において、魔力供給量が不安定になったり、逆に異常なエネルギーサージ(急上昇)が発生したりしているらしい。これにより、一部の魔道具が誤作動を起こしたり、最悪の場合、破損したりする被害も出始めている。魔法省も調査はしているようだが、原因究明には至っていない」
(エネルギー変動、サージ、誤作動……システムエンジニアとしては、聞き覚えのある現象だな)
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「殿下は、これを宰相派閥による、王都機能の一部を麻痺させるための妨害工作ではないかと考えておられる。あるいは……」アルフレッドは、俺の目をじっと見て続ける。「カルト教団のような、未知の勢力が関与している可能性も捨てきれない、と」
「なるほど……」俺は頷く。「それで、俺たちにその調査を依頼したい、と」
「その通りだ。公式な調査では、政治的な圧力や、情報の隠蔽によって、真実にたどり着けない可能性がある。そこで、君たちの『特別な力』を借りて、この問題の真相を突き止めてほしいのだ。原因が妨害工作なのか、それともシステムの『バグ』なのか。そして、もし可能であれば、その解決策を見つけ出してほしい」
国家レベルの重要インフラの調査とデバッグ。まさに、俺のスキルが最も活きるであろう案件だ。同時に、王都の権力闘争や、カルト教団の陰謀といった、危険な領域に深く足を踏み入れることにもなる。
「……分かりました。お受けしましょう」俺は即答した。「ただし、調査には専門的な知識も必要になります。リリアさんの協力も得たいのですが、よろしいでしょうか?」
「もちろんだ。彼女の魔道具技術は、この調査において大きな助けとなるだろう」アルフレッドは快諾した。
こうして、俺たちの新たな任務――「王都魔力網デバッグ・プロジェクト」――が、極秘裏に開始された。
◆
調査は、まず情報収集から始まった。俺は【デバッガー】スキルで、王都内に存在する魔力供給網のノード(中継・制御施設)の位置や、エネルギーの流れに関する情報をスキャンしていく。同時に、リリアはその技術知識を活かし、魔道具ギルドや魔法省の公開情報を収集・分析する。クラウスは、騎士団や貴族社会のネットワークを通じて、公式な調査の進捗や、宰相派閥の動向に関する情報を集める。シャロンは、裏社会のルートから、妨害工作や、カルト教団の関与に関する噂を探る。
それぞれの情報が持ち寄られ、セーフハウスの作戦室(という名の、地図や資料が散乱したリビング)で共有される。
「やはり、エネルギー変動は、特定のパターンで発生しているようです」俺は、スキャン結果を分析しながら報告する。「王都の旧市街地区と、地下へのアクセスが比較的容易な地区で、特に異常が頻発しています。そして、変動が起きる直前には、必ず微弱な『ノイズ』のような魔力波が観測される……これは、自然現象とは思えません」
「私も、魔法省の記録を調べてみたんだけど、やっぱりおかしいよ!」リリアが、分厚い資料をめくりながら言う。「記録上は『老朽化による効率低下』ってことになってるけど、エネルギーの損失量が、理論値と全然合わないの! まるで、どこかでエネルギーが『盗まれている』か、『別のものに変換されている』みたい……」
「騎士団内部でも、この件に関する奇妙な噂が流れている」クラウスが、渋い顔で付け加える。「宰相派閥に近い一部の騎士たちが、夜間に不審な行動を取っているという目撃情報がある。彼らが、何らかの破壊工作に関与している可能性も否定できん」
「そして、裏の情報では……」シャロンが、低い声で締めくくる。「カルト教団『深淵を覗く者たち』が、王都の地下、特に古い遺跡や下水道エリアで、新たな『儀式場』を設営しているという情報があるわ。彼らが、魔力供給網からエネルギーを盗み出し、それを儀式に使っている……という可能性も考えられるわね」
集まった情報を総合すると、状況は極めて複雑だった。宰相派閥による妨害工作、カルト教団によるエネルギー窃盗、そして、システム自体の老朽化やバグ。これらの要因が、複合的に絡み合っている可能性が高い。
「……やはり、現場を直接調査する必要がありそうですね」俺は結論付けた。「特に、エネルギー変動が頻発している地区の、地下にある魔力供給ノード。そこを調べれば、何か手がかりが見つかるかもしれません」
調査対象となるノードは、旧市街の地下、忘れられた地下道への入り口も近いエリアに存在するという。危険な場所であることは間違いないが、行くしかないだろう。
調査隊のメンバーは、俺、リリア(技術担当)、クラウス(護衛)、シャロン(隠密・バックアップ)の四人に決まった。
◆
数日後。俺たちは、再び王都の地下へと足を踏み入れていた。今回は、旧市街の古い建物の地下室から、秘密裏にアクセスできる保守用通路を使う。魔力供給網のノードは、通常、厳重な警備と魔法的な結界によって守られているが、この保守用通路は忘れ去られた存在なのか、警備が手薄になっていた(これも俺の【デバッガー】スキルで発見した「バグ」の一つだ)。
薄暗く、埃っぽい通路を進んでいくと、やがて重々しい金属製の扉が見えてきた。扉には、魔法的なロックが施されている。
「これが、ノードへの入り口か……」クラウスが、警戒しながら周囲を見渡す。
「ロックは……かなり高度な術式ね。普通の鍵開け師じゃ、手も足も出ないわ」シャロンが分析する。
「リリアさん、解析できますか?」俺は尋ねる。
リリアは、携帯型の魔力解析装置(自作)を取り出し、ロックの術式をスキャンし始める。
「うーん……複雑だけど、基本的な構造は分かるよ。でも、解除コードは……これは、王宮レベルの暗号化がされてるみたい。私には無理かなぁ……」
「暗号化……ですか」ならば、俺の出番かもしれない。
俺は扉に近づき、【デバッガー】スキル、そして【コード・ライティング】の意識を集中させる。ロックシステムの構造、暗号化アルゴリズム、そしてそこに潜む「バグ」を探る。
(……あった! 暗号鍵の生成ロジックに、疑似乱数生成の偏りがある! これなら、総当たり攻撃(ブルートフォース)ではなく、特定のパターンを狙えば、比較的短時間で解読できるかもしれない!)
俺は、発見したバグを利用し、解除コードの候補をいくつか生成する。そして、【コード・ライティング】で、それらのコードをロックシステムに直接入力していく!
数回の試行錯誤の後――
カチャリ。
重厚なロックが、静かに解除される音が響いた。
「……開いた!?」リリアが驚きの声を上げる。
「……君は、本当に何でもできるのだな」クラウスが、呆れたような、しかし感心したような表情で俺を見る。
「……相変わらず、規格外ね」シャロンが、面白そうに口角を上げる。
俺たちは、扉を開け、魔力供給ノードの内部へと足を踏み入れた。
そこは、想像していたよりも広大な空間だった。壁一面に、複雑な魔力回路が走り、中央には巨大な水晶のような制御装置が設置されている。そして、空間全体が、強い魔力エネルギーで満たされていた。
しかし、そのエネルギーは、どこか不安定で、淀んでいる。そして、空気中には、やはりあの「ノイズ」のような、不快な魔力波が漂っていた。
「……やはり、ここが異常の中心か」俺は確信する。
俺たちが内部を調査しようとした、その時だった。
空間の隅の影から、複数の人影が、音もなく現れた!
黒いローブに、奇妙な仮面。カルト教団「深淵を覗く者たち」だ! 彼らは、俺たちの侵入を予期していたかのように、既に待ち構えていたのだ!
「……よく来たな、異物ども」リーダー格の男が、歪んだ声で言った。「我らの『聖域』に足を踏み入れたこと、後悔させてやろう」
彼らの手には、禍々しい武器が握られ、その目には狂信的な光が宿っている。
王都の生命線を巡る戦い。そして、システムのバグを巡る攻防。
俺たちの、新たな死闘の幕が、今、切って落とされた!
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