異世界デバッガー ~不遇スキル【デバッガー】でバグ利用してたら、世界を救うことになった元SEの話~

夏見ナイ

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第55話:魔力ノードの攻防とシステムの傷跡

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王都の地下深く、古代の遺物である魔力供給ノード施設。そこに響き渡るのは、剣戟の音、魔法の詠唱、そして狂信者たちの耳障りな叫び声だった。俺たち調査隊は、待ち伏せていたカルト教団「深淵を覗く者たち」との激しい戦闘に突入していた。

「死ね! 異物めが! 深淵の糧となれ!」
リーダー格の男(Lv 15)が、禍々しい短剣を手にクラウスへと猛攻を仕掛ける。その動きは、前回の戦闘で見た狂信者たちよりも明らかに洗練されており、レベル以上の実力を感じさせた。他の四人の教団員たちも、それぞれ歪んだ武器や呪詛魔法を駆使し、連携して襲いかかってくる。

「くっ……!」
クラウスは、リーダー格の猛攻を盾で受け止めながらも、じりじりと後退を余儀なくされている。彼の騎士としての技量は格段に向上しているが、相手は狂信者特有の捨て身の攻撃を繰り出してくるため、完全に抑え込むのは難しい。

「クラウスさん、右から回り込みます!」
シャロンが影のように動き、リーダー格の死角から奇襲を仕掛ける! 二本の短剣が、的確に相手の鎧の隙間を狙う!

「小賢しい!」
リーダー格の男は、クラウスへの攻撃の手を緩めずに、シャロンの奇襲にも反応してみせる。その反応速度は、尋常ではない。

「リリアさん、支援を!」俺は指示を出す。
「うん! ディフレクト・フィールド!」
リリアが、携帯型の防御魔道具を展開! クラウスの周囲に薄い光の障壁が現れ、リーダー格の攻撃の威力を僅かに減衰させる。

俺自身も、二人の教団員(短剣使いと呪詛使い)を相手にしていた。彼らのレベルは12前後と、リーダー格ほどではないが、狂信者特有の予測不能な動きと、精神汚染への耐性が厄介だった。

(動きが読みづらい……! まるで、行動パターンにランダムなノイズが混じっているようだ!)
【デバッガー】スキルで彼らの動きを予測しようとしても、時折、全く予期しないタイミングで攻撃が飛んでくる。これも、精神汚染の影響なのか、あるいは彼らが使う特殊な戦闘術なのか。

「光よ!」
呪詛使いが、黒い光弾のようなものを放ってくる! 直撃は避けたが、掠めただけで、ぞわりとした悪寒と、軽い目眩が襲う。精神攻撃系の呪詛魔法だ。

(くそっ、鬱陶しい!)
俺は、相手の攻撃を避けながら、【バグ発見】で弱点を探る。
(呪詛使いのローブ、胸元に防御術式が付与されているが、魔力供給ラインに不安定な箇所がある! 短剣使いは……動きは速いが、左足の踏み込みに僅かな癖が!)

「クラウスさん! リーダーの攻撃パターン、僅かに単調になってきています! カウンターのチャンスです!」
「シャロンさん! 左の奴、足元注意! トラップ系の呪詛を仕掛けてくる気配!」
「リリアさん! 敵の呪詛、精神干渉系です! 防御フィールドの属性を切り替えて!」

俺は、戦闘に参加しながらも、常に戦場全体の情報を把握し、的確な指示を飛ばし続ける。まるで、複数のモニターとにらめっこしながら、リアルタイムでシステムトラブルに対応するSEのように。

その時だった。
ゴオオオオォォォ……

突然、ノード施設全体が大きく揺れた! 壁を走る魔力回路が異常な光を放ち、中央の制御装置からも火花が散る!

「な、なんだ!?」
「地震!?」

「いえ、違います!」俺は叫ぶ。「魔力供給網のエネルギーサージです! 前回よりも規模が大きい……!」

不安定な魔力の奔流が、施設内を駆け巡る。その影響は、戦闘にも及んだ。
床の一部が、過剰な魔力によって一時的に帯電し、そこに立っていた教団員の一人が感電して動きを止める!
クラウスの盾が、サージエネルギーに反応して一瞬だけ防御力を増し、リーダー格の攻撃を完全に弾き返した!
一方で、リリアが展開していた防御フィールドは、不安定な魔力の影響で揺らぎ、効果が減衰してしまう!

「くっ……! なんてことだ……!」クラウスが体勢を立て直しながら呻く。
「みんな、大丈夫!?」リリアが悲鳴に近い声を上げる。

カルト教団員たちも、この予期せぬエネルギーサージに動揺しているようだった。だが、リーダー格の男は、すぐにニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。
「……ふふふ。始まったか。我らが主への『捧げもの』が……。この不安定な力こそ、新たなる時代の産声よ!」

(やはり、こいつらが原因か、あるいはこれを利用しているのか!)

エネルギーサージは数秒で収まったが、施設内の魔力バランスは明らかに異常をきたしていた。壁の回路は明滅を繰り返し、制御装置からは異音が聞こえ続ける。

「シャロンさん! 今のうちにリーダーを!」俺は叫ぶ。
「ええ!」
シャロンは、サージの混乱から立ち直れないリーダー格へと、再び音もなく迫る!

だが、リーダー格の男も、ただではやられない。彼は懐から、黒曜石のような、禍々しい輝きを放つ石を取り出した!
「深淵の力よ! 我に仇なす者を打ち砕け!」

男が石を掲げると、周囲の不安定な魔力が、その石へと吸い寄せられるように集まり始めた! そして、石は黒い雷のようなエネルギーを放ち、シャロンへと襲いかかった!

「危ない!」
シャロンは、咄嗟に身を翻して直撃を避けるが、黒い雷は床を抉り、高熱と異臭を発する。

『対象:汚染魔力凝縮体(仮称:アビス・ストーン?)
 分類:魔道具? 呪具?
 状態:活性化(不安定)
 特性:周囲の魔力(特に汚染されたもの)を吸収・増幅し、指向性のあるエネルギー攻撃として放出する。使用者の精神力・生命力を大きく消耗する。
 備考:カルト教団が使用する特殊な呪具? 魔力供給網の不安定なエネルギーを利用している可能性が高い。制御が難しく、暴発のリスクも伴う。』

(魔力供給網のエネルギーを利用する呪具だと!?)
これで、エネルギー変動の原因の一端が見えた。こいつらは、このノードからエネルギーを盗み出し、それを攻撃に転用しているのだ!

「ユズル! あの石、どうにかできないの!?」リリアが叫ぶ。
「……やってみます!」

俺は、【デバッガー】スキルをそのアビス・ストーン(仮称)に集中させる。呪具の構造、エネルギー吸収・変換プロセス、そして制御系の「バグ」を探る!

(……あった! エネルギー変換効率の不安定性! それと、制御術式に、外部からの干渉を受けやすい脆弱な部分が!)

「リリアさん! あの石に、もう一度サンライト・ディスクを! ただし、今度は最大出力ではなく、断続的に、特定のパターンで光を当ててください! 俺が指示します!」
「シャロンさん! クラウスさん! リーダーの注意を引きつけ、俺とリリアへの攻撃を防いでください!」

「わ、わかった!」
「了解!」
「……また、君の奇策に乗るしかないようだな!」

クラウスとシャロンが、再びリーダー格へと猛攻を仕掛ける。リーダー格は、アビス・ストーンを使いながら応戦するが、二人の連携攻撃に苦戦している。

俺は、リリアに指示を出す。
「リリアさん、今! 0.5秒照射! ……次、1秒後に0.3秒照射! ……その次、0.8秒後に1秒照射!」
俺は、【デバッガー】でアビス・ストーンのエネルギー吸収パターンを読み取り、そのリズムを崩すように、断続的な光(生命エネルギー)照射のタイミングを指示していく。

「え、えーっと……はい! はい! ……はい!」
リリアは、戸惑いながらも、俺の指示通りにサンライト・ディスクを操作する。

すると、アビス・ストーンの輝きが、明らかに不安定になってきた! エネルギーの吸収と放出のリズムが狂い、時折、内部で火花が散るような現象が起きている。

「なっ!? 石の制御が……!?」リーダー格の男が焦りの声を上げる。

(よし、効いている! このまま、オーバーロードさせてやる!)

俺は、さらに複雑な照射パターンを指示し、アビス・ストーンのエネルギーバランスを徹底的に崩していく。
そして、ついに――

バヂィィィィッ!!!

アビス・ストーンは、甲高い音と共に激しくスパークし、黒い煙を噴き出してその輝きを失った! エネルギーの供給源、あるいは制御系が焼き切れたのだろう。

「俺の……俺の力が……!!」
リーダー格の男は、武器を失い、愕然としている。

「今だ!」
クラウスの剣が、シャロンの短剣が、同時にリーダー格の男を捉えた!
男は、抵抗する間もなく、その場に崩れ落ち、動かなくなった。

リーダーを失い、武器(アビス・ストーン)も失ったことで、残りの教団員たちの戦意は完全に砕け散った。彼らは、状況不利と判断し、蜘蛛の子を散らすように、施設の奥へと逃走していった。

「……追うか?」クラウスが尋ねる。

「いや、深追いは危険よ」シャロンが制止する。「彼らは、この地下道を知り尽くしている。罠があるかもしれないわ。それに、今はここを確保し、異常の原因を特定・対処するのが最優先でしょう」

シャロンの言う通りだ。俺たちは、逃げる教団員を追わず、改めてノード施設内部の調査を開始した。

リリアは、破損した制御装置やエネルギーラインを調べ、その損傷具合や異常の原因を探る。俺は、【デバッガー】スキルで、システム全体のログ(もし残っていれば)や、カルト教団が施したであろう不正な改変(バグ)を探し出す。

そして、俺たちはついに、魔力供給網の異常の核心を発見した。
制御装置の裏側、巧妙に隠されたパネルの奥に、カルト教団が設置したと思われる、複数の奇妙な魔道具が接続されていたのだ。それらは、魔力供給網からエネルギーを不正に引き出し、それを「汚染された魔力」へと変換し、さらにアビス・ストーンのような呪具へと供給するための、一種の「バイパス兼コンバーター」のような役割を果たしていた。

「これだ……! こいつらが、エネルギーを盗み、さらに汚染を広げていたんだ!」リリアが、怒りに声を震わせる。
「そして、この不正な接続とエネルギー変換プロセスが、システム全体のバランスを崩し、サージや供給不安定を引き起こしていた……」俺も、原因を特定し、頷く。

さらに、俺はシステムログの断片を解析する中で、別の事実にも気づいた。
(……この不正接続、かなり以前から行われている形跡がある。そして、システムの脆弱性……これは、単なる老朽化だけじゃない。意図的に作られた『バックドア』のようなものが存在する……?)

カルト教団だけでなく、もっと以前から、あるいはもっと大きな組織が、この魔力供給網を不正に利用、あるいは監視していた可能性。宰相派閥の影も、再びちらつき始める。

「……問題の根は、思った以上に深いようですね」俺は、仲間たちに告げる。「この不正な装置を除去し、システムの脆弱性を塞ぐ必要があります。ですが、完全な修復は、俺たちだけでは難しいかもしれません」

俺の【コード・ライティング】で、一時的なパッチを当てることは可能だろう。だが、根本的な解決には、王宮や魔法省の協力が不可欠だ。

俺たちは、発見した不正装置を慎重に取り外し(リリアが担当)、俺がシステムの脆弱性に応急処置的な修正パッチ(バグ・フィックスの練習も兼ねて)を施した。これで、少なくとも、このノードからのエネルギー窃盗と、ここを起点とする大規模なサージは防げるはずだ。

作業を終え、俺たちは疲労困憊の状態で、地上への帰路についた。
王都の生命線を蝕む「バグ」。その一端を突き止め、対処することはできた。だが、それは氷山の一角に過ぎないのかもしれない。カルト教団の真の目的、王宮内の陰謀、そして古代から続くシステムの歪み……。

王都の深層には、まだまだ多くの謎と危険が渦巻いている。
俺たちの「デバッグ」は、まだ始まったばかりなのだ。

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