異世界デバッガー ~不遇スキル【デバッガー】でバグ利用してたら、世界を救うことになった元SEの話~

夏見ナイ

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第56話:王宮との連携と遺跡への誘い

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王都魔力供給ノードでのカルト教団との激戦から数日。俺たちはシャロンのセーフハウスを拠点に、後処理と情報整理、そして次なる一手に向けての準備を進めていた。あの戦いは、俺たちに多くの戦果と、同時に新たな課題をもたらした。

戦果としては、魔力供給網からエネルギーを不正に盗み出し、汚染を広げていた装置を発見・除去できたこと。これにより、王都を襲っていた原因不明の魔力変動は(少なくとも一時的には)沈静化するだろう。また、カルト教団「深淵を覗く者たち」の活動の一端を掴み、彼らが使う呪具(アビス・ストーン)や、その戦術に関する情報を得られたことも大きい。そして何より、パーティーとしての連携が格段に向上し、互いへの信頼が深まったこと。これは、今後の困難な任務に立ち向かう上で、何よりも重要な財産となるはずだ。

しかし、課題も山積していた。魔力供給網には、カルト教団が利用した脆弱性(バックドア?)が存在し、それは単なる老朽化以上の、意図的なものが疑われること。カルト教団の真の目的や、彼らが探していた「座標」の正体は依然として不明なこと。そして、俺たちが確保した「星読みの羅針盤」が、世界の運命を左右しかねない危険な代物であり、その取り扱いを誤れば大惨事を招きかねないこと。

「まずは、今回の調査結果を、エドワード殿下に報告しなければなりませんね」
セーフハウスのリビングで作戦会議を開きながら、俺は切り出した。カルト教団が魔力供給網を不正利用していた証拠(取り外した装置)、システムの脆弱性に関する俺の分析、そして羅針盤の危険性。これらは、王子が国の現状を把握し、今後の対策を立てる上で、極めて重要な情報となるはずだ。

「そうね。アルフレッドを通じて、すぐに謁見の手筈を整えましょう」シャロンが頷く。「王子が、この情報をどう受け止め、どう動くか……見ものだわ」

アルフレッドへの連絡は、シャロンが迅速に行った。王子側も、俺たちの報告を心待ちにしていたのだろう。すぐに、前回と同じ王宮内の隠し部屋での密会がセッティングされた。



再び訪れた王宮の隠し部屋。エドワード王子は、俺たち(今回はクラウスも同席した)からの報告を、終始真剣な表情で聞いていた。アルフレッドも、傍らで眉間に皺を寄せ、事態の深刻さを噛み締めているようだった。

俺たちが発見した不正装置の実物(リリアが安全化処理を施したもの)と、俺が作成した魔力供給網の脆弱性に関する分析レポート(【デバッガー】スキルによる解析結果を、専門用語を避けつつ分かりやすくまとめたものだ)を提示すると、王子の驚きは隠せないものとなった。

「……信じられん。カルト教団が、これほど大胆に、しかも巧妙に、王都の生命線を蝕んでいたとは……。そして、このシステムの脆弱性……単なる老朽化ではない、意図的な『穴』だと?」王子は、レポートを食い入るように見つめながら、低い声で呻いた。

「断定はできませんが、その可能性は高いと考えられます」俺は答える。「この脆弱性は、かなり以前から存在していた形跡があります。カルト教団がこれを発見し利用したのか、あるいは、もっと別の存在が関与しているのか……」

「別の存在……宰相派閥か、あるいは……」王子は、苦々しい表情で呟く。王宮内の権力闘争が、国家の基盤そのものを揺るがす事態にまで発展している可能性に、彼は改めて気づかされたのだろう。

「羅針盤についても、承知した」王子は、俺たちが下した判断――羅針盤本体は渡さず、情報共有と協力を求めるという方針――についても、理解を示してくれた。「君たちの判断は正しい。そのような危険なものを、軽々しく扱うべきではない。カルト教団の陰謀を阻止し、羅針盤を安全に管理、あるいは無力化する方法が見つかるまで、それは君たちが責任を持って管理してくれ」

彼の言葉に、俺たちは安堵した。これで、依頼主との関係をこじらせることなく、羅針盤を安全な場所に留め置くことができる。

「今回の君たちの功績は、計り知れない」王子は、改めて俺たちに感謝の意を示した。「報酬は、約束通り支払おう。加えて、今後の調査に必要な支援は惜しまない。王宮の書庫や、魔法省の研究所へのアクセスも許可しよう。古代遺物や魔法技術に関する専門家の協力も得られるように手配する」

それは、俺たちにとって願ってもない申し出だった。特にリリアは、王宮の知識と技術に触れられると聞いて、目を輝かせている。

「ただし」王子は、厳しい表情で付け加えた。「今回の件は、絶対に他言無用だ。魔力供給網の脆弱性や、カルト教団の本格的な暗躍が公になれば、王都は大混乱に陥るだろう。調査は、引き続き極秘裏に進めてほしい」

「承知しております」俺たちは頷いた。

謁見を終え、俺たちは王宮を後にした。王子との協力関係は、より強固なものとなった。王宮からの支援という、強力なバックアップを得たことで、俺たちの活動の幅は格段に広がるだろう。



セーフハウスに戻った俺たちは、早速、次なる行動計画に移った。

最優先事項は、依然としてカルト教団の研究日誌の解読だ。王宮の書庫へのアクセス権を得たことで、古代文字や暗号解読に関する貴重な資料を入手できるようになった。俺は、それらの資料と【デバッガー】スキルを組み合わせ、解読作業を加速させる。

リリアは、王宮の研究所や魔道具工房に出入りし、最新の技術や理論を貪欲に吸収し始めた。同時に、俺たちの遺跡調査に必要な、新たな装備や魔道具の開発にも着手する。対ゴーレム用の特殊徹甲弾、精神汚染を防ぐ防御フィールド発生装置、そして、遺跡内の環境データを記録・分析するための携帯型センサーデバイスなど、彼女のアイデアは尽きることがない。俺も、解析やバグ発見で彼女の開発をサポートする。

クラウスは、王子からの後押しと、俺が提供した「バグ情報」を武器に、騎士団内での立場を着実に回復させつつあった。妨害工作を行っていた貴族の不正を暴き、派閥争いの中でも中立的な立場を保ちながら、実力でのし上がろうとしていた。彼の存在は、いずれ騎士団内部からの情報収集や、いざという時の戦力として、大きな意味を持つことになるだろう。

シャロンは、その情報網を駆使し、カルト教団と宰相派閥の動向を、より深く探り始めた。王宮や貴族街に張り巡らされた彼女のスパイネットワークは、俺たちにリアルタイムで危険な兆候を伝えてくれる。彼女自身も、時折、単独で「夜の仕事」に出かけているようだったが、その詳細は誰も知らない。

そんな中、俺が進めていた研究日誌の解読から、新たな、そして決定的な情報が見つかった。

『……羅針盤が示す『座標』は、やはり『中央制御ノード』の位置と一致する……』
『……『歪みの源流』とは、古代の動力炉が暴走し、汚染された魔力を放出し続けている場所……』
『……『古代の牢獄』とは、その暴走した動力炉、及び汚染された空間そのものを封じ込めている巨大な『封印結界』……』
『……我らが主は、その結界を破壊し、内部に蓄積された膨大な『負のエネルギー』を解放することで、世界を『浄化』し、新たなる時代を到来させんとしておられる……』
『……『忘れられた神殿』……それは、封印結界の『鍵』となる制御装置が隠された場所……』

(……やはり、カルト教団の目的は、封印の破壊だったか! しかも、王都の地下深くにある、暴走した古代の動力炉……それが魔力汚染の元凶であり、『歪みの源流』……!)

そして、新たなキーワード「忘れられた神殿」。それは、以前シャロンが「時空結晶」の産地として言及していた、王都北部の古代遺跡だ。カルト教団の研究日誌は、その神殿が、封印を解くための鍵となる制御装置が隠された場所であると示唆していた。

「……全てのピースが、繋がり始めましたね」
俺は、解読結果を仲間たちと共有した。

魔力供給網の異常。カルト教団の暗躍。星読みの羅針盤。忘れられた地下道。そして、忘れられた神殿。これらは全て、王都の地下深くに眠る「封印された災厄」へと繋がっているのだ。

「カルト教団は、おそらく『忘れられた神殿』にある制御装置を操作し、地下の封印結界を破壊しようとしている……そのために、羅針盤で正確な位置を探っていたのでしょう」俺は推測する。「そして、魔力供給網から盗んだエネルギーは、そのための儀式や、あるいは制御装置を起動させるために使っていたのかもしれません」

「……だとしたら、悠長なことは言っていられないわね」シャロンが厳しい表情で言う。「彼らが神殿の制御装置に到達する前に、我々が先回りして、それを阻止しなければならない」

「忘れられた神殿……ギルドの記録によれば、内部は極めて危険で、未踏破エリアも多いと聞くぞ」クラウスが懸念を示す。「準備は万全か?」

「はい」俺は頷く。「リリアさんが開発してくれた新しい装備もあります。それに、王宮からの支援で、遺跡に関する情報もかなり集まりました。危険であることは間違いありませんが、今の俺たちなら、攻略できるはずです」

俺たちの次なる目標は、明確になった。「忘れられた神殿」の調査と、そこに隠された制御装置の確保、そしてカルト教団の陰謀の阻止だ。それは、王都、いや、世界全体の運命を左右するかもしれない、極めて重要なミッションとなるだろう。

「よし、決まりね!」リリアが、拳を握って立ち上がる。「最高の装備と魔道具で、みんなをサポートするから! 古代遺跡の謎も、カルト教団も、やっつけちゃおう!」

彼女の明るい声が、張り詰めた空気を少し和らげる。

俺たちは、互いに顔を見合わせ、決意を新たにした。
忘れられた地下道での戦いは、序章に過ぎなかったのかもしれない。本当の戦いは、これから始まるのだ。

俺たちは、王都の喧騒を背に、再び危険な遺跡へと足を踏み入れる準備を始めた。
古代の遺産と世界の秘密。その核心へと迫る、新たな冒険が始まろうとしていた。
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