M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

文字の大きさ
41 / 100

第四十一話 紛い物の烙印

しおりを挟む
どれくらい眠っていたのだろうか。俺が次に意識を取り戻した時、窓の外はすでに夕焼けに染まっていた。控え室の簡素なベッド。消毒液の匂い。そして、仲間たちの心配そうな顔。

「ユーさん、気がついた!?」
リオが、俺の顔を覗き込んでいた。その目には、安堵の色が浮かんでいる。
「……ゴブは?」
俺が最初に発した言葉は、相棒を気遣うものだった。

「隣で眠っている。MPを使い果たしただけだ。すぐに回復するだろう」
カエデが、静かに答えた。彼女の鎧は外され、軽装になっている。その顔にも、疲労の色が濃かった。

「試合は……」
「私たちの、負けだ」
カエデの言葉が、現実を突きつけてくる。分かっていた。意識を失う直前の、あの圧倒的な力の差。あれが、夢や幻であるはずがなかった。

「ゼノン選手は、決勝でも相手を圧倒し、見事初代チャンピオンに輝いた。表彰式も、もう終わった頃だろう」

完敗。それも、赤子同然に捻り潰された、完膚なきまでの敗北。
闘技会で得た称賛や自信は、もはや跡形もなく消え去っていた。ただ、骨身に染みるような無力感だけが、鉛のように体にのしかかる。

その時だった。控え室の扉が、静かに開かれた。
そこに立っていたのは、真紅の竜鱗鎧を脱ぎ、ラフな旅装束に身を包んだ、あの男だった。
ドラゴンテイマー、ゼノン。

「……!」
俺は身構え、カエデは素早く俺の前に立ちはだかった。
だが、ゼノンは敵意を見せることなく、静かに手を上げた。

「案ずるな。敗者を鞭打ちに来たわけではない。ただ、一言、話しておきたかっただけだ」
彼の声は、戦いの時と同じように、静かで、揺るぎなかった。彼は、俺たちの間を通り抜け、眠るゴブのそばに歩み寄った。

「……ゴブリン・メイジ、か。確かに、ただのゴブリンではないな。その身に宿す魔力は、並の魔法使いを凌駕している」
彼は、まるで希少な美術品を鑑定するかのように、ゴブを見つめている。

やがて、彼は視線を俺へと移した。その瞳は、冷徹でありながら、どこか憐れむような色を浮かべていた。

「モンスターメイカー、ユー。お前の戦いは、見事だった。知恵と工夫で、力の差を埋めようとするその戦術。それは、弱者の戦い方としては、一つの完成形と言えるだろう」

その言葉は、称賛のはずだった。だが、俺の心には、少しも響かなかった。

「だが」と、彼は続けた。その一言が、場の空気を凍てつかせた。

「貴様の作るモンスターは、所詮、紛い物だ」

紛い物。
その言葉が、鋭い刃となって俺の胸を抉った。

「俺の相棒、イグニス。あいつと俺が出会って、もう何年になると思う?ゲームの中の時間ではない。現実の時間でだ。俺は、卵だったあいつを孵し、ミルクを与え、飛び方を教え、共に戦い、共に傷つき、共に成長してきた。俺たちの間にあるのは、ただの主従契約ではない。幾多の死線を共に乗り越えてきた、揺るぎない絆と信頼だ」

ゼノンの言葉には、熱がこもっていた。それは、彼の偽らざる本心だった。

「お前が創り出すモンスターは、なんだ?素材をこねくり回し、スキルを付与した、都合の良い道具。そこに、命のやり取りはない。時間の積み重ねもない。魂が、宿っていない」

俺は、何も言い返せなかった。
俺のスライムたち。ゴブ。彼らは、俺がこの世界で戦うために「必要」だから創り出した存在だ。そこに、ゼノンが言うような、長い時間をかけた絆は、確かに存在しない。

「貴様の小細工は、見事だった。最後の一矢も、賞賛に値する。だが、本物の強さとは、力と、そして絆の総体だ。俺とイグニスが最後に放った力は、俺たちの絆が起こした奇跡だ。命の宿らぬ紛い物では、決して、あの領域には届かん」

ゼノンの言葉は、俺の戦い方だけを否定しているのではなかった。
俺の、モンスターメイカーという存在そのものを、その根底から否定していた。
俺が生み出してきた、愛すべきモンスターたち。その全てを、「命の宿らぬ紛い物」だと、断じたのだ。

「……小細工で、本物の強さには勝てん。そのことを、覚えておけ」

彼は、それだけ言うと、俺に背を向けた。
「待て!」
カエデが、怒りに満ちた声で彼を止めようとする。
「ユーのモンスターは、紛い物などではない!彼らは、ユーの想いに応え、何度も私たちを救ってくれた!」

だが、ゼノンは振り返らなかった。
「……ならば、証明してみせろ。言葉ではなく、力でな」
その静かな一言だけを残し、彼は控え室から去っていった。

後に残されたのは、重苦しい沈黙だけだった。
カエデやリオが、何かを言おうとして、やめていくのが気配で分かった。どんな慰めの言葉も、今の俺には届かないだろう。

紛い物。
その言葉が、呪いのように俺の頭の中で反響する。
闘技会で得た、束の間の栄光。観客たちの熱狂。それら全てが、ゼノンのたった一言で、色褪せたガラクタのように思えた。

俺は、何のためにモンスターを創ってきたのだろう。
俺が愛情を注いできたはずのゴブやスライムたちは、本当に、魂のない、ただの道具だったのだろうか。

分からない。
何も、分からなくなってしまった。
俺は、このM.M.O.の世界で、初めて、光の届かない深い闇の底へと、突き落とされた。
それは、今まで感じたことのない、あまりにも大きな挫折だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。

wakaba1890
ファンタジー
召喚獣。 それは向こう側とされる所から、10歳を迎えた日本人の子供の下に召喚されるモンスターのことである。 初代天皇・神武天皇が日本を建国した際に書かれた絵画には彼は金鵄と呼ばれる金色に輝く鵄(とび)と契約したのが原初となっている。 そして、縄文、弥生、古墳、飛鳥、平安、戦国時代から近代から今に至るまで、時代を動かしてきた人物の側には確かに召喚獣は介在していた。 また、奇妙な事に、日本国に限り、齢10歳を迎えた日本在住の日本人にのみ体のどこかから多種多様な紋章が発現し、当人が念じると任意の場所から召喚陣が現れ、人ならざるモンスターを召喚される。 そして、彼らモンスターは主人である当人や心を許した者に対して忠実であった。 そのため、古来の日本から、彼ら召喚獣は農耕、治水、土木、科学技術、エネルギー、政治、経済、金融、戦争など国家の基盤となる柱から、ありとあらゆる分野において、今日に至るまで日本国とアジアの繁栄に寄与してきた。 そして、建国から今まで、国益の基盤たる彼ら数万種類以上をも及ぶ召喚獣を取り締まり管理し、2600年以上と脈々と受け継がれてきた名誉ある国家職がーーーーー国家召喚獣管理官である。

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

 神典日月神示 真実の物語

蔵屋
歴史・時代
 私は二人の方々の神憑りについて、今から25年前にその真実を知りました。 この方たちのお名前は 大本開祖•出口なお(でぐちなお)、 神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)です。  この日月神示(ひつきしんじ)または日尽神示(ひつくしんじ)は、神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)に「国常立尊(国之常立神)という高級神霊からの神示を自動書記によって記述したとされる書物のことです。  昭和19年から27年(昭和23・26年も無し)に一連の神示が降り、6年後の昭和33、34年に補巻とする1巻、さらに2年後に8巻の神示が降りたとされています。 その書物を纏めた書類です。  この書類は神国日本の未来の預言書なのだ。 私はこの日月神示(ひつきしんじ)に出会い、研究し始めてもう25年になります。  日月神示が降ろされた場所は麻賀多神社(まかたじんじゃ)です。日月神示の最初の第一帖と第二帖は第二次世界大戦中の昭和19年6月10日に、この神社の社務所で岡本天明が神憑りに合い自動書記さされたのです。 殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。 本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。 日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。 そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。 なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。 縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。 日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。 この小説は真実の物語です。 「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」 どうぞ、お楽しみ下さい。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』

処理中です...