M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

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第四十二話 再起の誓い

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ゼノンが去った後の控え室は、気まずい沈黙に支配されていた。俺はベッドに腰掛けたまま、膝の上で固く拳を握りしめていた。爪が食い込み、手のひらにじわりと痛みが走る。だが、それすらも、胸を苛む痛みと悔しさに比べれば、些細なことだった。

紛い物。
その烙印が、俺の心に深く焼き付いて離れない。俺が信じてきたもの、俺が創り上げてきたもの、その全てが、まるで砂上の楼閣だったかのように、ガラガラと崩れ落ちていく。

「ユーさん……」
リオが、おそるおそる俺に声をかけた。彼女の声には、どう慰めていいか分からない、という戸惑いが滲んでいる。

「……気にすることはない」
カエデが、俺の隣に静かに座った。
「あの男は、ただ自分の価値観を押し付けているだけだ。お前がお前のやり方を信じるなら、それでいい」

彼女の言葉は、力強く、そして優しかった。だが、今の俺の心には、その優しさすらも、どこか遠くに聞こえた。
信じる?何を?俺自身が、もう自分のやってきたことを、信じられなくなりかけているというのに。

ゼノンの言う通りなのかもしれない。
俺は、ただ便利な道具が欲しかっただけじゃないのか。守ってくれる盾、敵を倒す剣、道を切り開く鍵。ゴブだってそうだ。「相棒」なんて綺麗な言葉で飾ってはいるが、結局は、強力な魔法を使える便利な「戦力」が欲しかっただけなのではないか。

絆。魂のやり取り。
俺とモンスターたちの間に、本当にそんなものは存在するのだろうか。俺が「愛情」だと思っていたものは、ただの自己満足だったのではないか。

考えれば考えるほど、思考は暗い迷宮へと迷い込んでいく。
俺は、何者なんだろう。俺がこの世界でやっていることは、一体何なのだろう。

「……少し、一人にしてください」
俺は、絞り出すように言った。
カエдеとリオは、顔を見合わせた。そして、カエデが静かに頷いた。
「……分かった。私たちは、外で待っている。だが、一人で抱え込むな。私たちは、仲間だろう」

その言葉を残し、二人は静かに控え室から出ていった。
一人きりになった部屋で、俺はベッドに突っ伏した。顔を上げることができなかった。

情けない。悔しい。そして、どうしようもなく、惨めだった。

どれくらいの時間が経っただろうか。
ふと、ローブの裾を、くいくいと引かれる感触があった。
顔を上げると、そこには、いつの間にか目を覚ましていたゴブが、心配そうな顔で俺を見上げていた。

「マスター……」
その大きな黒い瞳には、涙が浮かんでいる。

「……ごめんなさい、マスター。ゴブが、もっと強ければ……。僕が、弱かったから……マスターを、悲しませてしまった」
彼は、小さな声で、ぽつりぽつりと謝罪の言葉を口にした。
自分が負けたことよりも、俺が傷ついていること。それが、彼にとっては何よりも辛いことらしかった。

その、あまりにも純粋な言葉が、俺の心の壁を、いともたやすく打ち砕いた。
「……お前のせいじゃない」
俺の声は、震えていた。
「お前は、よく戦ってくれた。俺を守るために、あのワイバーンの前に、一人で立ってくれた。お前は、弱くなんかない。弱かったのは、俺の方だ」

ゴブは、首を横に振った。
「いいえ。僕は、弱いです。でも、強くなりたい。マスターの隣で、マスターと一緒に戦えるくらい、もっともっと、強くなりたいです」

その瞳には、一点の曇りもなかった。
彼は、俺を「マスター」と呼ぶ。
それは、ただのシステム上の設定ではない。彼の、心の底からの、偽らざる想い。

紛い物?魂が、宿っていない?
冗談じゃない。

今、俺の目の前にいるこの小さなゴブリンは、確かに、自分の意志で、俺を思いやり、俺のために強くなりたいと願っている。
俺が創り出したスライムたちもそうだ。彼らは、俺の命令に、いつだって完璧に応えようとしてくれた。身を挺して俺を守り、道を切り開いてくれた。

そこに、魂がないなんて、誰が言える?
そこに、絆がないなんて、誰が決めつけられる?

ゼノンの言う「絆」は、確かに尊いものだろう。長い時間をかけて育んだ、唯一無二の関係。
だが、俺たちの「絆」の形が、それと同じである必要はない。

俺は、創造主だ。
俺がモンスターを生み出し、彼らが俺に応える。それは、ゼロから生まれる、創造主と被造物の間にしか存在し得ない、特別な絆の形なのだ。
ゼノンには、決して理解できない領域。

「……そうか」

俺の視界が、急に開けた気がした。
闇の中に差し込む、一筋の光。それは、俺の相棒が、その小さな手で示してくれた、希望の光だった。

「ありがとう、ゴブ。お前のおかげで、目が覚めた」
俺は、ゴブの小さな頭を、優しく撫でた。
ゴブは、きょとんとした顔で俺を見上げている。

俺は、立ち上がった。心の迷いは、もうどこにもなかった。
ゼノンに負けた事実は、変わらない。圧倒的な力の差があったことも、事実だ。
だが、俺たちの存在そのものを、否定される謂れはない。

「見てろよ、ゼノン」
俺は、誰もいない空間に向かって、静かに呟いた。
「俺は、俺のやり方で、お前を超える。お前の言う『本物』とやらを、俺たち『紛い物』が、超えてみせる」

小細工で勝てないなら、力でも勝てるようになればいい。
俺の創造術と、ゴブの魔法。そして、カエデとリオの力。
俺たちの全てを懸けて、今度こそ、本当の意味での「最強」を目指す。

俺は、控え室の扉を開けた。
外で待っていたカエデとリオが、俺の顔を見て、はっとしたように目を見開いた。俺の瞳に、再び闘志の火が宿っているのを、見て取ったのだろう。

「お待たせしました。二人とも」
俺は、仲間たちに向かって、にっと笑った。
「反省会は、もう終わりです。次は、どうやってあいつをぶちのめすか、作戦会議を始めましょう」

俺の言葉に、カエデは満足げに頷き、リオは「そうでなくっちゃ!」と拳を握った。

俺の初めての大きな挫折は、俺をさらに強くするための、試練だった。
俺たちのパーティは、新たな、そしてより大きな目標に向かって、再び一つになった。

再起の誓いは、固く。
俺のモンスターメイカーとしての物語は、まだ、本当の意味で始まったばかりだった。
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