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第四十三話 市場の異変
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モンスターコロッセオでの敗北は、俺たちに大きな課題と、そしてそれ以上に大きな目標を与えてくれた。打倒、ゼノン。俺たちのパーティは、その一点に向かって、再び結束を固めた。
だが、強くなるためには、金がかかる。
カエデの装備をさらに強化するにも、ゴブに新たな魔法を習得させるにも、そして俺が未知のモンスターを創造するためのレア素材を手に入れるにも、莫大な資金が必要だった。
「よし、じゃあ、まずは商売繁盛だね!『スライ-ム印のポーション』、今日から増産体制に入るよ!」
翌朝、リオはいつもの調子で、元気よく号令をかけた。俺たちの当面の活動資金は、このポーションの売り上げにかかっている。俺たちは早速、アステリアの中央広場にある露店へと向かった。
しかし、店の前に着いた俺たちは、異様な光景に足を止めた。
いつもなら、開店前から行列ができているはずの俺たちの店の前が、閑散としているのだ。それどころか、何人かの常連客が、困ったような顔で店の前で立ち往生していた。
「どうしたんですか?」
リオが、そのうちの一人の獣人プレイヤーに声をかける。
「おお、リオちゃん!ちょうどよかった。いやな、ポーションを買いに来たんだが、店が開いてないみたいでよ」
「え?そんなはずは……」
リオは店のカウンターに近づき、そして、はっとしたように息を呑んだ。
カウンターの上には、一枚の羊皮紙が置かれていた。そこには、乱暴な字でこう書かれている。
『当店のポーションの原料は、ギルド【パンデモニウム】が、全て買い占めさせてもらった。商売を続けたければ、我々の傘下に入れ。さもなくば――』
その脅迫状のような文面の下には、【パンデモニウム】の紋章である、翼の生えた髑髏の印が、禍々しく押されていた。
「パンデモニウム……!」
俺は、思わず歯を食いしばった。
天空の浮遊島を荒らしていた、あの悪徳ギルド。闘技会で俺たちが注目を集めている間に、奴らはこんな卑劣な嫌がらせを仕掛けてきていたのだ。
「原料を買い占め……?まさか!」
リオは血相を変えて、アステリアの素材屋へと駆け出した。俺とカエデも、慌ててその後を追う。
素材屋の店主は、俺たちの顔を見るなり、申し訳なさそうな顔で頭を下げた。
「すまん、リオちゃん。あんたの店で使ってるっていう、特殊なスライムの体液なんだがな。今朝方、パンデモニウムの連中がやってきて、市場に出回ってる分を、根こそぎ買い占めていっちまったんだ。うちも、逆らえなくてよ……」
「そんな……!」
リオは、その場に崩れ落ちそうになるのを、必死で堪えていた。
俺たちのポーションの原料は、俺が創り出す特殊スライムの体液だ。俺自身が生み出せる量には限界があるため、一部は俺が卸したコアを元に、錬金術ギルドが量産し、市場に流していた。奴らは、その流通ルートを完全に断ち切ったのだ。
「なんて汚いやり方……!」
カエデが、怒りに拳を震わせる。
これは、俺たちのビジネスに対する、明確な攻撃だった。闘技会で名を上げた俺たちを危険視し、その資金源を断つことで、潰しにかかってきたのだ。
俺たちの露店は、開店休業を余儀なくされた。
原料がなければ、商品は作れない。売り上げはゼロ。このままでは、俺たちの活動は完全に停止してしまう。
宿屋に戻った俺たちは、重い沈黙の中で、テーブルを囲んでいた。
「どうしよう……。このままじゃ、ジリ貧だよ」
リオが、力なく呟く。彼女のいつもの元気は、すっかり鳴りを潜めていた。自分のビジネスが、そして俺たちの未来が、理不尽な暴力によって脅かされている。その悔しさが、彼女の肩に重くのしかかっているようだった。
「奴らのアジトに乗り込むか?だが、相手は巨大なギルドだ。無策で突っ込んでも、返り討ちに遭うだけだ」
カエデの言葉は、冷静だったが、その裏には抑えきれない怒りが滲んでいた。
俺は、唇を噛み締めていた。
まただ。また、俺は、無力さを痛感させられている。
ゼノンには、力で屈服させられた。そして、パンデモニウムには、権力と財力で、俺たちの生活そのものを脅かされている。
この世界は、理不尽だ。
正々堂々と戦うだけでは、夢を追いかけるだけでは、生きていけないのか。
俺が、暗い思考に沈みかけた、その時だった。
「……いや」
リオが、顔を上げた。
その瞳には、涙の代わりに、静かで、しかし燃えるような闘志の炎が宿っていた。
「……こんなことで、諦めてたまるもんか」
彼女は、テーブルに両手をついて、力強く立ち上がった。
「やられたら、やり返す。それが、商人のやり方だよ。力で勝てないなら、知恵で勝つ。あいつらが知らないような、もっとすごいポーションを作って、あいつらの鼻を明かしてやればいい!」
その言葉は、俺たちに希望の光を灯した。
そうだ。俺たちは、まだ何も失っていない。俺には、創造術がある。リオには、商才がある。カエデには、剣がある。そして、ゴブがいる。
「新しいポーション……。ですが、リオさん。原料が」
俺が言うと、リオはにやりと笑った。
「原料なら、あるじゃない。まだ、誰にも知られていない、最高の素材が」
彼女の視線が、俺のアイテムボックスに向けられる。
その意味を、俺はすぐに理解した。
「……天空の浮遊島、か」
「その通り!あそこにある幻の薬草や鉱石を使えば、パンデモニウムの連中が逆立ちしたって真似できない、究極のポーションが作れるはず!これは、ピンチなんかじゃない。私たちのビジネスを、次のステージに進めるための、チャンスなんだよ!」
彼女の、決して諦めない、その強さ。
逆境を好機に変える、その商魂。
俺は、心の底から、彼女を尊敬した。
カエデも、同意するように、力強く頷いた。
「ああ。奴らが地上で小賢しい真似をしている間に、我々は空から、奴らの度肝を抜いてやろう」
ゴブも、杖を握りしめて、やる気に満ちている。
「マスター!浮遊島、また行きたいです!」
俺たちの心は、再び一つになった。
パンデモニウムの卑劣な妨害は、俺たちの闘志に、さらに油を注ぐ結果となったのだ。
「よし、決まりですね」
俺は、立ち上がった。
「目的地は、天空の浮遊島。史上最高のポーションを作って、奴らに目に物見せてやりましょう!」
俺の言葉に、仲間たちは力強く応えた。
反撃の狼煙は、上がった。
俺たちの、知恵と創造力を懸けた戦いが、今、始まろうとしていた。
だが、強くなるためには、金がかかる。
カエデの装備をさらに強化するにも、ゴブに新たな魔法を習得させるにも、そして俺が未知のモンスターを創造するためのレア素材を手に入れるにも、莫大な資金が必要だった。
「よし、じゃあ、まずは商売繁盛だね!『スライ-ム印のポーション』、今日から増産体制に入るよ!」
翌朝、リオはいつもの調子で、元気よく号令をかけた。俺たちの当面の活動資金は、このポーションの売り上げにかかっている。俺たちは早速、アステリアの中央広場にある露店へと向かった。
しかし、店の前に着いた俺たちは、異様な光景に足を止めた。
いつもなら、開店前から行列ができているはずの俺たちの店の前が、閑散としているのだ。それどころか、何人かの常連客が、困ったような顔で店の前で立ち往生していた。
「どうしたんですか?」
リオが、そのうちの一人の獣人プレイヤーに声をかける。
「おお、リオちゃん!ちょうどよかった。いやな、ポーションを買いに来たんだが、店が開いてないみたいでよ」
「え?そんなはずは……」
リオは店のカウンターに近づき、そして、はっとしたように息を呑んだ。
カウンターの上には、一枚の羊皮紙が置かれていた。そこには、乱暴な字でこう書かれている。
『当店のポーションの原料は、ギルド【パンデモニウム】が、全て買い占めさせてもらった。商売を続けたければ、我々の傘下に入れ。さもなくば――』
その脅迫状のような文面の下には、【パンデモニウム】の紋章である、翼の生えた髑髏の印が、禍々しく押されていた。
「パンデモニウム……!」
俺は、思わず歯を食いしばった。
天空の浮遊島を荒らしていた、あの悪徳ギルド。闘技会で俺たちが注目を集めている間に、奴らはこんな卑劣な嫌がらせを仕掛けてきていたのだ。
「原料を買い占め……?まさか!」
リオは血相を変えて、アステリアの素材屋へと駆け出した。俺とカエデも、慌ててその後を追う。
素材屋の店主は、俺たちの顔を見るなり、申し訳なさそうな顔で頭を下げた。
「すまん、リオちゃん。あんたの店で使ってるっていう、特殊なスライムの体液なんだがな。今朝方、パンデモニウムの連中がやってきて、市場に出回ってる分を、根こそぎ買い占めていっちまったんだ。うちも、逆らえなくてよ……」
「そんな……!」
リオは、その場に崩れ落ちそうになるのを、必死で堪えていた。
俺たちのポーションの原料は、俺が創り出す特殊スライムの体液だ。俺自身が生み出せる量には限界があるため、一部は俺が卸したコアを元に、錬金術ギルドが量産し、市場に流していた。奴らは、その流通ルートを完全に断ち切ったのだ。
「なんて汚いやり方……!」
カエデが、怒りに拳を震わせる。
これは、俺たちのビジネスに対する、明確な攻撃だった。闘技会で名を上げた俺たちを危険視し、その資金源を断つことで、潰しにかかってきたのだ。
俺たちの露店は、開店休業を余儀なくされた。
原料がなければ、商品は作れない。売り上げはゼロ。このままでは、俺たちの活動は完全に停止してしまう。
宿屋に戻った俺たちは、重い沈黙の中で、テーブルを囲んでいた。
「どうしよう……。このままじゃ、ジリ貧だよ」
リオが、力なく呟く。彼女のいつもの元気は、すっかり鳴りを潜めていた。自分のビジネスが、そして俺たちの未来が、理不尽な暴力によって脅かされている。その悔しさが、彼女の肩に重くのしかかっているようだった。
「奴らのアジトに乗り込むか?だが、相手は巨大なギルドだ。無策で突っ込んでも、返り討ちに遭うだけだ」
カエデの言葉は、冷静だったが、その裏には抑えきれない怒りが滲んでいた。
俺は、唇を噛み締めていた。
まただ。また、俺は、無力さを痛感させられている。
ゼノンには、力で屈服させられた。そして、パンデモニウムには、権力と財力で、俺たちの生活そのものを脅かされている。
この世界は、理不尽だ。
正々堂々と戦うだけでは、夢を追いかけるだけでは、生きていけないのか。
俺が、暗い思考に沈みかけた、その時だった。
「……いや」
リオが、顔を上げた。
その瞳には、涙の代わりに、静かで、しかし燃えるような闘志の炎が宿っていた。
「……こんなことで、諦めてたまるもんか」
彼女は、テーブルに両手をついて、力強く立ち上がった。
「やられたら、やり返す。それが、商人のやり方だよ。力で勝てないなら、知恵で勝つ。あいつらが知らないような、もっとすごいポーションを作って、あいつらの鼻を明かしてやればいい!」
その言葉は、俺たちに希望の光を灯した。
そうだ。俺たちは、まだ何も失っていない。俺には、創造術がある。リオには、商才がある。カエデには、剣がある。そして、ゴブがいる。
「新しいポーション……。ですが、リオさん。原料が」
俺が言うと、リオはにやりと笑った。
「原料なら、あるじゃない。まだ、誰にも知られていない、最高の素材が」
彼女の視線が、俺のアイテムボックスに向けられる。
その意味を、俺はすぐに理解した。
「……天空の浮遊島、か」
「その通り!あそこにある幻の薬草や鉱石を使えば、パンデモニウムの連中が逆立ちしたって真似できない、究極のポーションが作れるはず!これは、ピンチなんかじゃない。私たちのビジネスを、次のステージに進めるための、チャンスなんだよ!」
彼女の、決して諦めない、その強さ。
逆境を好機に変える、その商魂。
俺は、心の底から、彼女を尊敬した。
カエデも、同意するように、力強く頷いた。
「ああ。奴らが地上で小賢しい真似をしている間に、我々は空から、奴らの度肝を抜いてやろう」
ゴブも、杖を握りしめて、やる気に満ちている。
「マスター!浮遊島、また行きたいです!」
俺たちの心は、再び一つになった。
パンデモニウムの卑劣な妨害は、俺たちの闘志に、さらに油を注ぐ結果となったのだ。
「よし、決まりですね」
俺は、立ち上がった。
「目的地は、天空の浮遊島。史上最高のポーションを作って、奴らに目に物見せてやりましょう!」
俺の言葉に、仲間たちは力強く応えた。
反撃の狼煙は、上がった。
俺たちの、知恵と創造力を懸けた戦いが、今、始まろうとしていた。
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