M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

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第四十一話 紛い物の烙印

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どれくらい眠っていたのだろうか。俺が次に意識を取り戻した時、窓の外はすでに夕焼けに染まっていた。控え室の簡素なベッド。消毒液の匂い。そして、仲間たちの心配そうな顔。

「ユーさん、気がついた!?」
リオが、俺の顔を覗き込んでいた。その目には、安堵の色が浮かんでいる。
「……ゴブは?」
俺が最初に発した言葉は、相棒を気遣うものだった。

「隣で眠っている。MPを使い果たしただけだ。すぐに回復するだろう」
カエデが、静かに答えた。彼女の鎧は外され、軽装になっている。その顔にも、疲労の色が濃かった。

「試合は……」
「私たちの、負けだ」
カエデの言葉が、現実を突きつけてくる。分かっていた。意識を失う直前の、あの圧倒的な力の差。あれが、夢や幻であるはずがなかった。

「ゼノン選手は、決勝でも相手を圧倒し、見事初代チャンピオンに輝いた。表彰式も、もう終わった頃だろう」

完敗。それも、赤子同然に捻り潰された、完膚なきまでの敗北。
闘技会で得た称賛や自信は、もはや跡形もなく消え去っていた。ただ、骨身に染みるような無力感だけが、鉛のように体にのしかかる。

その時だった。控え室の扉が、静かに開かれた。
そこに立っていたのは、真紅の竜鱗鎧を脱ぎ、ラフな旅装束に身を包んだ、あの男だった。
ドラゴンテイマー、ゼノン。

「……!」
俺は身構え、カエデは素早く俺の前に立ちはだかった。
だが、ゼノンは敵意を見せることなく、静かに手を上げた。

「案ずるな。敗者を鞭打ちに来たわけではない。ただ、一言、話しておきたかっただけだ」
彼の声は、戦いの時と同じように、静かで、揺るぎなかった。彼は、俺たちの間を通り抜け、眠るゴブのそばに歩み寄った。

「……ゴブリン・メイジ、か。確かに、ただのゴブリンではないな。その身に宿す魔力は、並の魔法使いを凌駕している」
彼は、まるで希少な美術品を鑑定するかのように、ゴブを見つめている。

やがて、彼は視線を俺へと移した。その瞳は、冷徹でありながら、どこか憐れむような色を浮かべていた。

「モンスターメイカー、ユー。お前の戦いは、見事だった。知恵と工夫で、力の差を埋めようとするその戦術。それは、弱者の戦い方としては、一つの完成形と言えるだろう」

その言葉は、称賛のはずだった。だが、俺の心には、少しも響かなかった。

「だが」と、彼は続けた。その一言が、場の空気を凍てつかせた。

「貴様の作るモンスターは、所詮、紛い物だ」

紛い物。
その言葉が、鋭い刃となって俺の胸を抉った。

「俺の相棒、イグニス。あいつと俺が出会って、もう何年になると思う?ゲームの中の時間ではない。現実の時間でだ。俺は、卵だったあいつを孵し、ミルクを与え、飛び方を教え、共に戦い、共に傷つき、共に成長してきた。俺たちの間にあるのは、ただの主従契約ではない。幾多の死線を共に乗り越えてきた、揺るぎない絆と信頼だ」

ゼノンの言葉には、熱がこもっていた。それは、彼の偽らざる本心だった。

「お前が創り出すモンスターは、なんだ?素材をこねくり回し、スキルを付与した、都合の良い道具。そこに、命のやり取りはない。時間の積み重ねもない。魂が、宿っていない」

俺は、何も言い返せなかった。
俺のスライムたち。ゴブ。彼らは、俺がこの世界で戦うために「必要」だから創り出した存在だ。そこに、ゼノンが言うような、長い時間をかけた絆は、確かに存在しない。

「貴様の小細工は、見事だった。最後の一矢も、賞賛に値する。だが、本物の強さとは、力と、そして絆の総体だ。俺とイグニスが最後に放った力は、俺たちの絆が起こした奇跡だ。命の宿らぬ紛い物では、決して、あの領域には届かん」

ゼノンの言葉は、俺の戦い方だけを否定しているのではなかった。
俺の、モンスターメイカーという存在そのものを、その根底から否定していた。
俺が生み出してきた、愛すべきモンスターたち。その全てを、「命の宿らぬ紛い物」だと、断じたのだ。

「……小細工で、本物の強さには勝てん。そのことを、覚えておけ」

彼は、それだけ言うと、俺に背を向けた。
「待て!」
カエデが、怒りに満ちた声で彼を止めようとする。
「ユーのモンスターは、紛い物などではない!彼らは、ユーの想いに応え、何度も私たちを救ってくれた!」

だが、ゼノンは振り返らなかった。
「……ならば、証明してみせろ。言葉ではなく、力でな」
その静かな一言だけを残し、彼は控え室から去っていった。

後に残されたのは、重苦しい沈黙だけだった。
カエデやリオが、何かを言おうとして、やめていくのが気配で分かった。どんな慰めの言葉も、今の俺には届かないだろう。

紛い物。
その言葉が、呪いのように俺の頭の中で反響する。
闘技会で得た、束の間の栄光。観客たちの熱狂。それら全てが、ゼノンのたった一言で、色褪せたガラクタのように思えた。

俺は、何のためにモンスターを創ってきたのだろう。
俺が愛情を注いできたはずのゴブやスライムたちは、本当に、魂のない、ただの道具だったのだろうか。

分からない。
何も、分からなくなってしまった。
俺は、このM.M.O.の世界で、初めて、光の届かない深い闇の底へと、突き落とされた。
それは、今まで感じたことのない、あまりにも大きな挫折だった。
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