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第四十話 届かぬ一矢
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紅蓮のブレスが、俺とゴブを飲み込もうと迫る。絶望的な光景。だが、俺たちの瞳には、まだ諦めの色はなかった。
「ゴブ!創造魔法『マテリアル・ライズ』、全MPを注ぎ込め!」
「はい、マスター!」
ゴブの小さな体が、眩い魔力の光に包まれた。彼が持つ全てのMPを、たった一つの創造魔法に注ぎ込む。俺もまた、アイテムボックスからありったけのスライムのコアを取り出し、ゴブの足元にばら撒いた。
それは、俺たちが持つ最後の切り札。
俺の創造術と、ゴブの魔法を融合させた、奥義とも言える技。
ブレスが着弾する、その直前。
ゴブの足元から、無数のスライムが、まるで噴水のように湧き出した。硬質化スライム、粘着スライム、そして、今まで創り溜めておいた、ありとあらゆる種類の特殊スライム。その数は、百を超えていた。
スライムたちは、俺の意志に呼応し、一つの巨大な壁となって俺たちの前に立ちはだかる。
そして、紅蓮のブレスが、その壁に激突した。
轟音。
闘技場全体が、揺れた。
最前列のスライムたちは、一瞬で蒸発していく。だが、その後ろから、次々と新たなスライムが壁となり、その身を犠牲にしてブレスの威力を減衰させていく。一体一体は無力でも、百を超える数が集まれば、それは巨大な防壁となる。
「なっ……!?」
ゼノンが、初めて驚愕の表情を浮かべた。彼の絶対的な破壊の力が、真正面から受け止められている。
数秒後、ブレスの奔流が止んだ。
俺たちの前には、黒焦げになったスライムたちの残骸が、山のように積み上がっていた。そのおかげで、俺とゴブは、ほとんど無傷で生き残っていた。
「はぁ……はぁ……」
ゴブは、MPを使い果たし、その場に膝をついた。だが、その顔は、満足げだった。
「まだだ!」
俺は、最後の勝負に出た。
「ゴブ、創造魔法の制御を俺に!」
俺はゴブの杖に手を重ね、まだ戦場に残っているスライムたちの制御を、完全に引き継いだ。
そして、残った数十体のスライムたちに、一つの命令を下す。
「融合しろ!」
スライムたちが、俺の命令に応えて、一つの塊へと集まっていく。粘着スライムが接着剤となり、硬質化スライムが骨格となる。それは、巨大な一体のスライムゴーレムへと姿を変えていった。
「グオオオオ!」
スライムゴーレムが、咆哮を上げる。
その巨体は、ワイバーンにも劣らない。
「面白い!だが、そんな寄せ集めで、イグニスに勝てると思うな!」
ゼノンが、再び闘志を燃やす。
ワイバーンが翼を広げ、スライムゴーレムに向かって突進した。
巨大なモンスター同士の、肉弾戦。
闘技場が、揺れる。ワイバーンの爪が、ゴーレムの体を抉り、ゴーレムの拳が、ワイバーンの鱗を砕く。
だが、しょせんは寄せ集め。スライムゴーレムの動きは、本物の竜に比べて、あまりにも鈍重だった。徐々に、徐々に、ゴーレムの体が崩されていく。
俺は、この肉弾戦が陽動であることを見抜かれないよう、必死にゴーレムを操りながら、最後の準備を進めていた。
手元には、一本の矢。それは、浮遊島で手に入れた『ヒヒイロカネ』を、リオに頼んで加工してもらった、特製の矢尻がついていた。
そして、その矢尻に、俺は最後の創造を施す。
グリフォン戦で使った、『超重量スライムのコア』。これを、矢尻に練り込む。
ただ重いだけじゃない。命中した瞬間に、対象の魔力を吸収し、その質量を爆発的に増大させる、対ドラゴン用の切り札。
「……今だ」
ワイバーンが、スライムゴーレムの胴体を食い破り、その動きを完全に止めた。ゼノンが、勝利を確信した、その一瞬の油断。
俺は、隠し持っていた弓を構えた。
狙うは、ワイバーンの翼膜。最も薄く、そして最も重要な部位。
ヒュン、と風を切り、矢が放たれる。
それは、俺の、そしてゴブの、全ての想いを乗せた、最後の一矢だった。
ゼノンが、矢の存在に気づき、目を見開いた。
「しまっ……!」
だが、もう遅い。
矢は、吸い込まれるように、ワイバーンの右翼の翼膜に、深々と突き刺さった。
次の瞬間、矢尻に練り込まれたスライムのコアが、スキルを発動させる。
ワイバーンの体から、膨大な魔力が矢へと吸収され、矢そのものが、凄まじい質量を持つ重りと化した。
「グギャアアアアア!?」
イグニスが、悲鳴を上げた。右翼に、突然、山のような重りがぶら下がったのだ。飛行どころか、翼を動かすことすらままならない。
「やった……!」
俺は、ガッツポーズをした。
空の王者を地に堕とした、あの作戦の、応用。これなら。
だが。
俺の希望は、次の瞬間、無残にも打ち砕かれた。
ゼノンは、少しも慌てなかった。彼は、翼を押さえて苦しむ相棒の背中を、優しく撫でた。
そして、静かに、しかし力強く、言った。
「立て、イグニス。お前の力は、そんなものではないだろう」
その言葉に、呼応するかのように。
ワイバーンが、咆哮を上げた。その体から、紅蓮のオーラが、爆発的に噴き出す。
俺が放った矢が、そのオーラの熱によって、じゅうじゅうと音を立てて融解していく。
超重量スライムのコアも、その魔力に耐えきれず、パリン、と音を立てて砕け散った。
「……なっ」
俺は、信じられない光景を、ただ見つめることしかできなかった。
俺の、最後の切り札が。届きうる、最高の一矢が。
彼らの、絶対的な力の前に、いともたやすく、無に帰された。
ワイバーンの翼は、完全に自由を取り戻していた。
そして、その瞳には、今までとは比較にならないほどの、純粋な怒りが燃え盛っていた。
ゼノンが、俺を、まっすぐに見据える。
「見事な一矢だった。賞賛しよう。だが、届かなかったな」
その言葉が、俺の敗北を、完全に決定づけた。
イグニスが、翼を広げる。
その翼が起こした風圧だけで、俺と、MPが尽きたゴブの体は、木の葉のように舞い上がった。
そして、そのまま、意識が、ブラックアウトした。
気づいた時、俺は、選手控え室のベッドの上にいた。
隣では、ゴブが、静かに寝息を立てている。
リオとカエデが、心配そうな顔で、俺を覗き込んでいた。
「……負けたのか、俺は」
「ああ。だが、見事な戦いだった」
カエデが、静かに言った。
完敗だった。
手も足も出なかった。
俺たちの全てをぶつけて、それでも、届かなかった。
格の違い。その言葉の重みを、俺は、骨の髄まで味わっていた。
「ゴブ!創造魔法『マテリアル・ライズ』、全MPを注ぎ込め!」
「はい、マスター!」
ゴブの小さな体が、眩い魔力の光に包まれた。彼が持つ全てのMPを、たった一つの創造魔法に注ぎ込む。俺もまた、アイテムボックスからありったけのスライムのコアを取り出し、ゴブの足元にばら撒いた。
それは、俺たちが持つ最後の切り札。
俺の創造術と、ゴブの魔法を融合させた、奥義とも言える技。
ブレスが着弾する、その直前。
ゴブの足元から、無数のスライムが、まるで噴水のように湧き出した。硬質化スライム、粘着スライム、そして、今まで創り溜めておいた、ありとあらゆる種類の特殊スライム。その数は、百を超えていた。
スライムたちは、俺の意志に呼応し、一つの巨大な壁となって俺たちの前に立ちはだかる。
そして、紅蓮のブレスが、その壁に激突した。
轟音。
闘技場全体が、揺れた。
最前列のスライムたちは、一瞬で蒸発していく。だが、その後ろから、次々と新たなスライムが壁となり、その身を犠牲にしてブレスの威力を減衰させていく。一体一体は無力でも、百を超える数が集まれば、それは巨大な防壁となる。
「なっ……!?」
ゼノンが、初めて驚愕の表情を浮かべた。彼の絶対的な破壊の力が、真正面から受け止められている。
数秒後、ブレスの奔流が止んだ。
俺たちの前には、黒焦げになったスライムたちの残骸が、山のように積み上がっていた。そのおかげで、俺とゴブは、ほとんど無傷で生き残っていた。
「はぁ……はぁ……」
ゴブは、MPを使い果たし、その場に膝をついた。だが、その顔は、満足げだった。
「まだだ!」
俺は、最後の勝負に出た。
「ゴブ、創造魔法の制御を俺に!」
俺はゴブの杖に手を重ね、まだ戦場に残っているスライムたちの制御を、完全に引き継いだ。
そして、残った数十体のスライムたちに、一つの命令を下す。
「融合しろ!」
スライムたちが、俺の命令に応えて、一つの塊へと集まっていく。粘着スライムが接着剤となり、硬質化スライムが骨格となる。それは、巨大な一体のスライムゴーレムへと姿を変えていった。
「グオオオオ!」
スライムゴーレムが、咆哮を上げる。
その巨体は、ワイバーンにも劣らない。
「面白い!だが、そんな寄せ集めで、イグニスに勝てると思うな!」
ゼノンが、再び闘志を燃やす。
ワイバーンが翼を広げ、スライムゴーレムに向かって突進した。
巨大なモンスター同士の、肉弾戦。
闘技場が、揺れる。ワイバーンの爪が、ゴーレムの体を抉り、ゴーレムの拳が、ワイバーンの鱗を砕く。
だが、しょせんは寄せ集め。スライムゴーレムの動きは、本物の竜に比べて、あまりにも鈍重だった。徐々に、徐々に、ゴーレムの体が崩されていく。
俺は、この肉弾戦が陽動であることを見抜かれないよう、必死にゴーレムを操りながら、最後の準備を進めていた。
手元には、一本の矢。それは、浮遊島で手に入れた『ヒヒイロカネ』を、リオに頼んで加工してもらった、特製の矢尻がついていた。
そして、その矢尻に、俺は最後の創造を施す。
グリフォン戦で使った、『超重量スライムのコア』。これを、矢尻に練り込む。
ただ重いだけじゃない。命中した瞬間に、対象の魔力を吸収し、その質量を爆発的に増大させる、対ドラゴン用の切り札。
「……今だ」
ワイバーンが、スライムゴーレムの胴体を食い破り、その動きを完全に止めた。ゼノンが、勝利を確信した、その一瞬の油断。
俺は、隠し持っていた弓を構えた。
狙うは、ワイバーンの翼膜。最も薄く、そして最も重要な部位。
ヒュン、と風を切り、矢が放たれる。
それは、俺の、そしてゴブの、全ての想いを乗せた、最後の一矢だった。
ゼノンが、矢の存在に気づき、目を見開いた。
「しまっ……!」
だが、もう遅い。
矢は、吸い込まれるように、ワイバーンの右翼の翼膜に、深々と突き刺さった。
次の瞬間、矢尻に練り込まれたスライムのコアが、スキルを発動させる。
ワイバーンの体から、膨大な魔力が矢へと吸収され、矢そのものが、凄まじい質量を持つ重りと化した。
「グギャアアアアア!?」
イグニスが、悲鳴を上げた。右翼に、突然、山のような重りがぶら下がったのだ。飛行どころか、翼を動かすことすらままならない。
「やった……!」
俺は、ガッツポーズをした。
空の王者を地に堕とした、あの作戦の、応用。これなら。
だが。
俺の希望は、次の瞬間、無残にも打ち砕かれた。
ゼノンは、少しも慌てなかった。彼は、翼を押さえて苦しむ相棒の背中を、優しく撫でた。
そして、静かに、しかし力強く、言った。
「立て、イグニス。お前の力は、そんなものではないだろう」
その言葉に、呼応するかのように。
ワイバーンが、咆哮を上げた。その体から、紅蓮のオーラが、爆発的に噴き出す。
俺が放った矢が、そのオーラの熱によって、じゅうじゅうと音を立てて融解していく。
超重量スライムのコアも、その魔力に耐えきれず、パリン、と音を立てて砕け散った。
「……なっ」
俺は、信じられない光景を、ただ見つめることしかできなかった。
俺の、最後の切り札が。届きうる、最高の一矢が。
彼らの、絶対的な力の前に、いともたやすく、無に帰された。
ワイバーンの翼は、完全に自由を取り戻していた。
そして、その瞳には、今までとは比較にならないほどの、純粋な怒りが燃え盛っていた。
ゼノンが、俺を、まっすぐに見据える。
「見事な一矢だった。賞賛しよう。だが、届かなかったな」
その言葉が、俺の敗北を、完全に決定づけた。
イグニスが、翼を広げる。
その翼が起こした風圧だけで、俺と、MPが尽きたゴブの体は、木の葉のように舞い上がった。
そして、そのまま、意識が、ブラックアウトした。
気づいた時、俺は、選手控え室のベッドの上にいた。
隣では、ゴブが、静かに寝息を立てている。
リオとカエデが、心配そうな顔で、俺を覗き込んでいた。
「……負けたのか、俺は」
「ああ。だが、見事な戦いだった」
カエデが、静かに言った。
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