M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

文字の大きさ
47 / 100

第四十七話 怒りの創造

しおりを挟む
夜明けまで、残り数時間。俺たちは、アステリア南方に広がる荒野を、ひた走っていた。目指すは、パンデモニウムの下部組織が巣食う、盗賊の砦。

冷たい夜風が、頬を打つ。だが、俺の心は、それ以上に冷え切っていた。リオを傷つけた者たちへの、静かな怒り。そして、自分の甘さを呪う、痛切な後悔。その二つが、俺の中で黒い炎となって渦巻いていた。

「マスター、あれです」
ゴブが、前方を指差した。
荒野に突き出すようにそびえ立つ、黒い岩山。その中腹に、砦はあった。かつては、アステリアを守るための要塞だったのだろう。だが、今や崩れた城壁と、不気味な静寂だけが、そこが無法者たちの巣窟であることを物語っていた。

俺たちは、砦から少し離れた岩陰に身を隠した。
「……ここから先は、奴らの領域だ」
カエデが、低い声で言う。見張り台には、松明の光が揺らめき、時折、武装した盗賊のシルエットが見え隠れしていた。

「始めます」
俺は、懐からシャドウスライムを取り出した。
「頼むぞ、相棒」

俺の言葉に、漆黒のスライムはこくりと頷くように体を揺らし、音もなく闇の中へと溶け込んでいった。
俺の視界の隅に、シャドウスライムの視点が同期される。まるで、自分が鳥になって砦の上空を飛んでいるかのような、不思議な感覚だった。

シャドウスライムは、驚異的な隠密能力で、いともたやすく砦の内部へと侵入していく。壁の僅かな亀裂をすり抜け、衛兵の足元を影のように通り過ぎる。

砦の内部構造が、俺の頭の中に、三次元のマップとして構築されていく。
敵の配置、巡回ルート、罠の位置。その全てが、手に取るように分かった。

「……リオさんを見つけた」
俺は、呟いた。
シャドウスライムは、砦の最上階にある、一つの部屋の扉の隙間から、内部の様子を伺っていた。
そこは、簡素な牢屋だった。鉄格子の向こう側で、リオは、壁に寄りかかってぐったりと座り込んでいる。その手足は、魔力を封じる特殊な枷で繋がれていた。幸い、目立った外傷はないようだが、その顔は、不安と疲労で青ざめていた。

牢屋の前には、屈強な見張りが二人。そして、砦のあちこちには、数十人の盗賊たちが、酒を飲んだり、武器の手入れをしたりしている。

「……内部の状況は、完全に把握しました」
俺は、シャドウスライムを呼び戻すと、カエデにマップ情報を共有した。

「見事だ。これだけの情報があれば、奇襲も可能だな」
カエデは、感心したように頷いた。

「作戦は、予定通り。カエデさんには、正面ゲートで陽動をお願いします。敵の戦力を、可能な限り引きつけてください」
「承知した」

「その隙に、俺とゴブが、この裏手の崖を登り、最上階の牢屋へ直行します。リオさんを救出したら、すぐに合図を送ります。それを確認したら、カエデさんも脱出してください」

「分かった。だが、ユー。お前も、油断はするな。リオを救出した後が、本当の戦いだ」
カエデの言葉に、俺は力強く頷いた。

作戦開始の時間は、夜明け前。敵が、最も油断し、眠りが深くなる時間帯。
俺たちは、最後の準備を整え、その時を待った。

仲間を傷つけられた怒り。それは、俺の創造意欲を、新たな領域へと押し上げていた。
俺は、リオを救出するための、そして、この作戦を成功させるための、新たなモンスターを、この場で創造することにした。

俺は、アイテムボックスから、いくつかの素材を取り出した。
それは、ゴブリンの洞窟で手に入れた『ゴブリンシャーマンの杖』の破片。
そして、闘技会で手に入れた賞金で買い集めておいた、数種類の『魔石』。

「ゴブ、手伝ってくれ」
「はい、マスター!」

スキル、創造。
ベースにするのは、ゴブの魔力と親和性の高い、特殊なスライムの核。
そこに、シャーマンの杖の破片を練り込み、属性の異なる魔石を、複数同時に配合していく。

今までの創造は、一つの特性に特化させるものが多かった。
だが、今の俺が求めるのは、違う。
炎、氷、風、土。複数の属性魔法を、状況に応じて使い分けることができる、万能型の魔法生物。

俺の怒りが、創造の炉の燃料となる。
ゴブの純粋な魔力が、その炎を、さらに燃え上がらせる。
創造の光が、荒野の闇を、一瞬だけ昼間のように照らし出した。

光が収まった時、俺の足元には、二体の小さな魔物が生まれていた。
それは、スライムの不定形の体に、悪魔のような小さな翼と角、そして、生意気そうな笑みを浮かべた、インプのようなモンスターだった。一体は赤く、もう一体は青い。

【ルビー・インプ】
スキル:ファイアアロー、ヒートボディ

【サファイア・インプ】
スキル:アイスニードル、クールダウン

「……成功だ」
俺は、二体のインプのステータスを確認し、確かな手応えを感じていた。
彼らは、一体一体の火力はゴブに劣る。だが、小回りが利き、複数同時に使役することで、多彩な魔法コンボを生み出すことができる。何より、ゴブが詠唱に集中している間の、護衛役として最適だった。

俺のスライム軍団に、新たに加わった、魔法遊撃隊。
怒りが、俺に新たな力を与えてくれた。

東の空が、わずかに白み始めた。
作戦開始の時だ。

「カエデさん」
「ああ」

俺たちは、視線を交わし、強く頷き合った。
カエデは、レイピアを抜き放ち、静かに砦の正面ゲートへと向かっていく。その背中には、一切の迷いもなかった。

俺とゴブ、そして二体のインプは、砦の裏手にある、切り立った崖の下に移動した。
見上げるほどの、絶壁。

「……行きます」
俺は、崖の僅かな突起に手をかけた。

仲間を救うための、決死の潜入作戦。
その幕が、今、静かに切って落とされた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。

wakaba1890
ファンタジー
召喚獣。 それは向こう側とされる所から、10歳を迎えた日本人の子供の下に召喚されるモンスターのことである。 初代天皇・神武天皇が日本を建国した際に書かれた絵画には彼は金鵄と呼ばれる金色に輝く鵄(とび)と契約したのが原初となっている。 そして、縄文、弥生、古墳、飛鳥、平安、戦国時代から近代から今に至るまで、時代を動かしてきた人物の側には確かに召喚獣は介在していた。 また、奇妙な事に、日本国に限り、齢10歳を迎えた日本在住の日本人にのみ体のどこかから多種多様な紋章が発現し、当人が念じると任意の場所から召喚陣が現れ、人ならざるモンスターを召喚される。 そして、彼らモンスターは主人である当人や心を許した者に対して忠実であった。 そのため、古来の日本から、彼ら召喚獣は農耕、治水、土木、科学技術、エネルギー、政治、経済、金融、戦争など国家の基盤となる柱から、ありとあらゆる分野において、今日に至るまで日本国とアジアの繁栄に寄与してきた。 そして、建国から今まで、国益の基盤たる彼ら数万種類以上をも及ぶ召喚獣を取り締まり管理し、2600年以上と脈々と受け継がれてきた名誉ある国家職がーーーーー国家召喚獣管理官である。

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

 神典日月神示 真実の物語

蔵屋
歴史・時代
 私は二人の方々の神憑りについて、今から25年前にその真実を知りました。 この方たちのお名前は 大本開祖•出口なお(でぐちなお)、 神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)です。  この日月神示(ひつきしんじ)または日尽神示(ひつくしんじ)は、神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)に「国常立尊(国之常立神)という高級神霊からの神示を自動書記によって記述したとされる書物のことです。  昭和19年から27年(昭和23・26年も無し)に一連の神示が降り、6年後の昭和33、34年に補巻とする1巻、さらに2年後に8巻の神示が降りたとされています。 その書物を纏めた書類です。  この書類は神国日本の未来の預言書なのだ。 私はこの日月神示(ひつきしんじ)に出会い、研究し始めてもう25年になります。  日月神示が降ろされた場所は麻賀多神社(まかたじんじゃ)です。日月神示の最初の第一帖と第二帖は第二次世界大戦中の昭和19年6月10日に、この神社の社務所で岡本天明が神憑りに合い自動書記さされたのです。 殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。 本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。 日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。 そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。 なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。 縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。 日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。 この小説は真実の物語です。 「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」 どうぞ、お楽しみ下さい。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...