M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

文字の大きさ
46 / 100

第四十六話 囚われの商人

しおりを挟む
アステリアの港地区、第三倉庫。そこに残されていたのは、リオの麦わら帽子と、卑劣な脅迫状だけだった。
俺の心は、後悔と怒りで焼け付くようだった。俺が、リオを行かせてしまったからだ。彼女の覚悟を信じるなどという耳障りの良い言葉で、自分の不安から目をそらした結果が、これだ。

「……私のせいだ」
「違う」

俺の呟きを、カエデの鋭い声が遮った。彼女は、俺の胸ぐらを掴まんばかりの勢いで、俺の顔を覗き込んだ。
「お前のせいではない。これは、私たち三人の問題だ。リオは、自分の意志で向かった。そして、私たちも、彼女を信じて送り出した。責任は、全員にある」

彼女の瞳は、怒りに燃えていた。だが、その怒りは、俺に向けられたものではない。この状況を作り出したパンデモニウムと、そして、仲間を守りきれなかった自分自身に向けられたものだった。

「だから、今は下を向くな、ユー。お前がそんな顔をしていたら、リオが悲しむぞ。私たちは、あの子が信じた仲間だろう」

その言葉が、俺を現実に引き戻した。
そうだ。落ち込んでいる暇などない。リオが、俺たちの助けを待っている。
俺にしかできないこと。俺が、今、すべきこと。それは、この怒りを、創造の力に変えることだ。

俺たちは宿屋に戻った。時間は、ない。脅迫状には、期限が書かれていた。明日の夜明けまでに、要求に応じなければ、リオの命はない、と。

「盗賊の砦……。アステリアの南にある、廃墟になった砦をアジトにしている、PKや盗賊プレイヤーの根城だ。パンデモニウムの下部組織の一つでもある」
カエデが、地図を広げながら説明する。
「正面から乗り込むのは、無謀だ。砦の中は、迷路のように入り組んでいる上、無数の敵が待ち構えているだろう」

「奴らの要求は、俺が一人で行くこと。そして、創造レシピを渡すこと。ですが、素直に応じるつもりはありません」
俺は、きっぱりと言った。
「レシピを渡したところで、リオを無事に解放する保証はない。奴らは、俺の創造術を奪った上で、口封じに俺たちを消そうとするに決まってる」

「ああ。私も、そう思う」
カエデが頷く。
「ならば、やることは一つだ。潜入し、リオを救出し、脱出する。敵に気づかれず、任務を遂行する必要がある」

潜入。その言葉が、俺の創造の方向性を決定づけた。
必要なのは、火力でも、防御力でもない。闇に紛れ、音を殺し、敵の目から逃れるための、究極の隠密能力。

俺は、アイテムボックスの中から、いくつかの素材を取り出した。
それは、夜の闇のように黒い『黒曜石の粉末』。
音を吸収する性質を持つ、特殊なモンスター『サイレントモス』の鱗粉。
そして、光を屈折させ、姿をカモフラージュする、『カメレオンの鱗』。

「ゴブ、手伝ってくれ」
「はい、マスター!」
俺とゴブは、宿屋の片隅で、最後の希望を懸けた創造を開始した。

カエデは、俺たちが創造に集中できるよう、部屋の外で見張りに立ってくれている。その背中が、とても頼もしかった。

スキル、創造。
ベースにするのは、体が液体に近く、どんな隙間にも潜り込めるよう調整したスライム。
そこに、三つの隠密素材を、絶妙なバランスで配合していく。

イメージするのは、影そのもの。
闇に溶け込み、音もなく移動し、決して誰にも見つからない、究極の斥候。

俺の怒りと、仲間を救いたいという強い願いが、創造の光に注ぎ込まれていく。
それは、今までで最も黒く、そして静かな光だった。

創造の光が収まった時、俺の手のひらには、まるで闇が凝縮したかのような、漆黒のスライムがいた。光を一切反射せず、その輪郭すら曖昧に見える。

【シャドウスライム】
ランク:レア
スキル:ステルス、サイレントムーブ、気配遮断
ユニークスキル:斥候リンク

「できた……!」
俺は、その完璧な性能に、思わず息を呑んだ。
ユニークスキル『斥候リンク』。それは、シャドウスライムが見た光景を、俺の視界と完全に同期させる、究極の索敵能力だった。

俺は、完成したシャドウスライムを、窓の外の闇へと放った。
スライムは、音もなく壁を伝い、屋根の上を滑るように移動していく。その姿は、肉眼ではほとんど捉えることができない。

そして、俺の視界の隅に、新たなウィンドウが開かれた。そこには、シャドウスライムが見ている、夜のアステリアの光景が、リアルタイムで映し出されていた。
まるで、自分が小さなスパイとなって、街を駆け巡っているかのような感覚。

「これなら、いける……!」
俺は、確かな手応えを感じていた。

俺は、カエデとゴブに、シャドウスライムの能力を説明した。
「まず、このシャドウスライムを先行させ、盗賊の砦の内部構造と、リオさんの監禁場所を特定します。敵の配置、巡回ルート、その全てを把握する」

カエデは、俺の言葉に、力強く頷いた。
「見事だ。情報さえあれば、潜入の成功率は格段に上がる」

「そして、作戦開始と同時に、カエデさんには、砦の正面で陽動をお願いしたいんです」
「陽動?」
「ええ。派手に暴れて、敵の注意を全て自分に引きつけてほしい。その隙に、俺とゴブが、シャドウスライムが示した最短ルートで、リオさんの元へ向かいます」

それは、カエデに、最も危険な役回りを押し付ける作戦だった。彼女一人で、砦中の敵を相手にしなければならない。

だが、カエデは、一瞬の躊躇も見せなかった。
「承知した。私の剣が、お前たちの道を作るためのものであるならば、本望だ。敵兵の一人残らず、私がここで食い止めてみせよう」
その瞳には、聖騎士としての、揺るぎない覚悟が宿っていた。

作戦は、決まった。
夜明けまで、あと数時間。
俺たちは、最後の準備を整え、アステリアの南門から、闇に紛れて出立した。

目的地は、盗賊の砦。
囚われの仲間を救い出すため。そして、俺たちの絆を踏みにじった者たちに、痛烈な一撃を与えるため。

俺の胸の中で、怒りの炎が、静かに、そして激しく燃え盛っていた。
パンデモニウム。お前たちが仕掛けた喧嘩、高くつくことになるぞ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。

wakaba1890
ファンタジー
召喚獣。 それは向こう側とされる所から、10歳を迎えた日本人の子供の下に召喚されるモンスターのことである。 初代天皇・神武天皇が日本を建国した際に書かれた絵画には彼は金鵄と呼ばれる金色に輝く鵄(とび)と契約したのが原初となっている。 そして、縄文、弥生、古墳、飛鳥、平安、戦国時代から近代から今に至るまで、時代を動かしてきた人物の側には確かに召喚獣は介在していた。 また、奇妙な事に、日本国に限り、齢10歳を迎えた日本在住の日本人にのみ体のどこかから多種多様な紋章が発現し、当人が念じると任意の場所から召喚陣が現れ、人ならざるモンスターを召喚される。 そして、彼らモンスターは主人である当人や心を許した者に対して忠実であった。 そのため、古来の日本から、彼ら召喚獣は農耕、治水、土木、科学技術、エネルギー、政治、経済、金融、戦争など国家の基盤となる柱から、ありとあらゆる分野において、今日に至るまで日本国とアジアの繁栄に寄与してきた。 そして、建国から今まで、国益の基盤たる彼ら数万種類以上をも及ぶ召喚獣を取り締まり管理し、2600年以上と脈々と受け継がれてきた名誉ある国家職がーーーーー国家召喚獣管理官である。

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

処理中です...