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第4章
14 私の大切な場所
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アールグレーン公爵領へ旅立つ日がやってきた。
門の前が人の出入りで混み合う時間帯を避け、早朝の出発を選んだ。
近くの農場から、朝一番にやってくる牛乳を積んだ荷馬車すら、まだ通らない。
空気はひんやりとして、濃い霧が道の先を隠している。
そんな早い時間だというのに、私たちの見送りに、ラーシュは起きてきた。
ラーシュは凛々しい顔つきで、背筋を伸ばし、テオドールと一緒に店の前に立つ。
さすが騎士団長だけあって、テオドールは眠気のカケラも見せなかった。
「サーラ様。お気をつけて。ラーシュ様の護衛はお任せください」
「休暇中だったのに、すみません」
「いえ、ちょうど暇していたところです。家でウロチョロされて困ると、妻から言われていたんで、むしろ感謝してます」
テオドールには六人の子供がいて、全員が息子なのだとか。
それも、がっしりした体型の厳つい息子たちらしい。
食べ盛りで、どれだけ食費があっても足りないと言っていた。
それで、私が留守にしている間、店の警備とラーシュの護衛を兼ねテオドールを雇うことにしたのだ。
「そろそろ妻が息子たちに、傭兵でもやって、自分の食費を稼いでこいと命じるところでした」
「スパルタですね……」
テオドールは冗談めかして言ったけど、彼が休暇を取ったのには理由があるような気がしていた。
たぶん長期休暇を取ったのは、ルーカス様が国王代行として権力を振るっているからではないかと思う。
町の噂では――
『サンダール公爵の息がかかった人間しか、王宮を自由に歩けない』
『国王陛下や王妃様の部屋に近づこうものなら、兵士に捕らえられて牢獄行き』
『気に入らない人間は、遠くに左遷か解雇』
などと、今の王宮の現状が語られていた。
テオドールのように、休暇を願い出る人が大勢いるそうだ。
噂の出所は、王宮から実家へ戻った使用人たちだから、事実に近い噂なのではないかと思う。
「テオドールがラーシュといてくれたら、私も安心して留守にできます」
「サーラ様、おまかせください」
「師匠がいない間、弟子として、しっかりお店を守ります!」
「心強いですね。でも、ラーシュ。絶対に無理をしないでくださいね?」
「はい!」
ラーシュは力強くうなずいた。
長く離れるのは心配だったけど、ラーシュ自身が残ると決めたのだ。
まだ見習いとはいえ、ラーシュはすでに魔道具師としてのやりがいを見つけ、仕事に使命感を持っている。
私が戻る頃には、ラーシュは大きく成長している気がした。
「頼みましたよ、ラーシュ」
「ラーシュ、店のことで困ったら、おれが書いたノートを見るんだぞ!」
「はいっ!」
「どうかご無事で!」
私たちと別れに、ラーシュは目を潤ませた。
けれど、ラーシュはぐっと堪えて泣かなかった。
テオドールと一緒に、笑顔で大きく手を振る。
私とフランは、二人に手を振りながら、冷たい霧の中へ向かっていく。
厚手のコートを着た私とフランは、借りた馬車がある王都の門を目指して歩く。
私たちが着く頃には、兵士たちの荷物の検査が終わり、すぐに出発できるようになっているはずだ。
荷物の検査は、無許可で魔石や武器になる魔道具を大量に他国へ持ち込ませないためだ。
その検査に時間がかかり、出入りが増える時間になると、門が混む。
だから、こんなに朝早く出発した。
まだ夜があけていないから、空を見上げると月も星も見えた。
「サーラ。リアム様からなにも連絡がなかったね」
「きっと忙しいんですよ」
サンダール公爵とルーカス様の味方ばかりの王宮で、リアムは大変だと思う。
リアムがどう立ち回っているのか気になっていた。
あのテオドールでさえ、王宮を出たのだ。
よほど、異様な空気に違いない。
「リアム様も一緒に行くって言うかと思ったけどなぁ」
「ああ見えてリアムは第二王子で、宮廷魔術師長ですからね。長期休暇を取って、私の個人的な旅に付き合うなんて無理だと思いますよ」
「うん。そうだけど。いつもサーラのそばに、リアム様がいるイメージだったからさ……」
思えば、リアムの気配はいつもあった。
店にはリアムに連絡できるクラゲ精霊ちゃんがいたし、なにかあれば駆けつけてくれた。
でも、旅に出たらそうはいかない。
「大丈夫。旅の準備は万全です!」
自分に言い聞かせるようにして、フランに言った。
すでにドレスや靴などの重い荷物は馬車の中に積んである。
私が持っているのは、魔道具師の道具が入ったウエストポーチとトランク一つだけ。
この茶色の革のトランクは、王宮を出た時に持ってきたトランクだ。
「王宮を出た日を思い出します。懐かしいですよね!」
「あの時はこんな時間じゃなかったけど……ふぁぁ……。やっぱ眠いや」
フランは眠そうに欠伸をした。
私はそんなフランを眺めて笑った。
あの時と違うのはリアムがいないこと――ただそれだけなのに、心細く感じる。
もうすぐ城門が見えるというところで、私の前に立ちふさがった人物がいた。
夜より深い闇色のコート、黒いブーツ。
『裏の仕事をしてます』と言われたら、納得してしまいそうな目つき。
「遅い」
待たされて寒かったのか、すごく不機嫌そうな顔をしていた。
というか、待ち合わせした覚えはない。
「リアム!」
「リアム様!」
リアムの濃い青の瞳が、私を見ていた。
「ぼんやり空を眺めながら歩くな。転ぶぞ」
「いつから見てたんですか!」
「豆粒くらいから」
「豆? そんなに早く!?」
どうやら、私がこの通りに入った時から監視されていたようだ。
感傷に浸りながら、月を見上げていた私。
それをぼんやりとはどういう……
「あれ?」
「なんだ」
「リアム。今日は宮廷魔術師の制服じゃありませんね」
同じ黒色でも、今日のリアムは宮廷魔術師の制服ではなかった。
黒のコートと黒のブーツは支給されている制服ではなく私物。
ただし、死神を彷彿とさせる禍々しさは、制服を着ている時とほぼ同じで、あまり変化がない。
「休暇を取った。旅に同行する」
「私と一緒にアールグレーン公爵領へ行ってくれるんですか!?」
「最初からそのつもりだ。お前たち二人だけで、行かせるわけにはいかない」
私が頼りないのは百も承知だけど、リアムが今の王都を離れるなんて、絶対無理だと思っていた。
もしかして、リアムはルーカス様が国王代行になったから、暇になったのだろうか。
なにはともあれ、リアムが同行するとわかって、ホッとした。
「リアム、ありがとうございます。一緒に来てくれて心強いです!」
「ああ」
心なしか、リアムの表情が緩んで見えた。
リアムは私のトランクを持つ。
「あっ! トランク……」
「兄上とのルールは、もう必要ないだろう」
リアムの助けを借りないという約束。
あれから、私は宮廷魔道具師になり、国王陛下から自由をもらった。
でも、ルーカス様が国王代行なのだ。
それなのに、ルールがいらないって……?
「行くぞ」
「は、はい……! リアムの荷物はどうしたんですか?」
「もう積んである」
「いつの間に!?」
「お前がぼんやりしてる間にだ」
リアムの憎まれ口は、早朝であっても絶好調だった。
でも、身軽になって、歩きやすくなった。
「馬車に積んであった荷物を見たが、多くないか?」
「お土産を用意したんです!」
「まさか、鍋か?」
「私を鍋だけの女だと思わないでください」
こう見えても、高速泡立て器やみじん切りにする包丁などの便利グッズだって販売しているのだ。
売れ行きはまあ……鍋がダントツだ。
「まだ出回っていない新商品を用意したんです。本当は王妃様へのお礼だったんですけど……」
振り返り、王宮を眺めた。
リアムも同じように王宮を見ていたけれど、その横顔は落ち着き、すべてをわかっているかのような態度だった。
「王妃は兄上の母親だ。心配ないだろう。そのうち会える」
「はい……」
――国王陛下だって、ルーカス様のお父様ですよね?
リアムは国王陛下について、なにも言わなかったから、私はそれ以上、追及できなかった。
「サーラ。前を向いてちゃんと歩け。ほら、見送りが大勢集まっているぞ」
「わかってます……って……見送り?」
前を向き、リアムが指差した方向に目をやる。
王都の門付近に、明るい光がいくつも見えた。
裏通りのみんながランプを手にして、門の前で見送りに立っていた。
――どうして!?
誰もなにも言ってなかった。
「皆さん! こんな早い時間に……!」
オレンジ色の火の魔石が煌々と輝き、いくつも並んでいる。
驚いた私の顔を見て、みんなが笑った――その笑顔に泣きそうになった。
「サーラちゃんが驚いているわよ」
「予想通りの反応だ。昨晩、飲まずに眠って正解だった。あの驚いた顔を見れんところだったな」
「起きれなかったら、私がフライパンで叩き起こしてあげましたよ」
エミリさんやお針子さんたち、ニルソンさんと職人仲間――奥さんと息子さんまでいる。
「びっくりしますよ! 寒くて暗いし、まさか……いるなんて……」
みんなのところへ走って駆けよった。
「サーラさんがね、ちゃんと帰ってくるかどうか、みんな心配になったのよ。実家とはいえ、四大公爵家でしょう……?」
「ヒュランデル夫人……」
白いコートを着たヒュランデル夫人は、冬の妖精のようで、エミリさんと一緒にいた。
市場の奥さんたちも勢ぞろいしている。
「病気や怪我をしないように気を付けるんだよ。危ないと思ったら、すぐに帰っておいで!」
「これ、旅の安全のお守り。みんなでお金を出し合って買ったのよ。貴族が買うような高いお守りは買えなかったんだけど……」
それは、色とりどりの魔石が使われている花の形をした綺麗なお守りだった。
魔物が寄ってこないように、魔石を施した飾りを馬車につける。
魔石のお守りを買えない旅人は、お守りを持つ人に同行させてもらうことが多い。
「とても立派で、綺麗なお守りです」
裏通りの人々にとって、魔石は高価で、魔石を買うのが、どれだけ大変か私は知っている。
「みんな、無事に帰って来てほしいって思っているのよ。だから、元気で戻ってきてね」
「ありがとうございます。絶対に帰ってきます!」
裏通りの人々がうんうんとうなずく。
「サーラちゃん。これもつけていって」
「旅の朝夕は冷えるからね」
裏通りの奥さんたちは、私に耳当てがついた毛糸の帽子をかぶせ、首にマフラーを巻く。
そして、手袋をはめてくれた。
「本当は収穫祭の日に、サーラちゃんへプレゼントする予定だったの。でも、会えないかもしれないから」
収穫祭は農作物を全部収穫し終わった後にあるお祭りで、ヴィフレア王国のすべての町や村で行われる一大イベントだ。
そのお祭りが終われば、本格的な冬がやってくる。
「初めて裏通りの家で、冬を過ごすでしょう? 貴族のお屋敷と違って、魔石に守られてないから、裏通りで過ごす冬は寒いわよ」
「そうそう。市場への道なんかパリパリに凍るの」
「だから、サーラちゃんにマフラーや帽子をプレゼントできたらいいわねって言ってたのよ」
私を驚かそうと、裏通りの奥さんたちが集まって編んでくれたらしい。
「はい。フランくんの分も」
「おれも!? あ、ありがとうございます!」
フランは帽子をかぶせてもらうと、泣きそうな顔で頬を赤く染めて、ぎゅっと帽子を握り締めた。
「みなさん、本当にありがとうございます……」
泣かないでいようと決めてたのに、予想外の見送りと贈り物に、涙がにじんだ。
ふわふわの白い毛糸にピンクのリボンまでつけてくれて、とても可愛い。
フランは瞳の色と同じ水色の毛糸で、シンプルでかっこよくて、これは全部、私たちのために用意してくれたのだとわかる。
「それじゃあ……」
涙をぬぐい、感動の旅立ちをするつもりが――
「その使い古したハンマーは置いていきなさい。優雅さが足りませんよ」
――ハンマーに優雅さって必要ですか?
護身用として、背中に長い柄のハンマーを背負っていた。
このハンマーは大きな岩を砕く時や煙突を【粉砕】するのに役立つ。
「このハンマーは護身用でおしゃれのためでは……えっ!? ファルクさん?」
真っ赤なコートと胸元に白い薔薇。
袖口からブラウスのフリルが覗いて見える。
おしゃれに手抜きなし!
――で、できる!
そして、そこにいたのはファルクさんだけでなく、表通りに店を構える魔道具師たちもいた。
「なぜ、皆さんが?」
「サーラ嬢がアールグレーン公爵家へ戻ると聞いて、止めたほうがいいだろうという話になった」
魔道具師は貴族ばかりだ。
貴族であるなら、アールグレーン公爵家がいったいどんな家なのか、よく知っている。
「……大丈夫です。リアムもいますし、ちゃんと王都へ戻ってきます」
「サーラは無事に王都へ戻す。俺が約束しよう」
リアムを見て、ファルクさんたち魔道具師はうなずいた。
「これは我々からの餞別です。持っていきなさい」
「魔道具師のハンマー!? 芸術品みたいなハンマーじゃないですか? すごく綺麗な細工のハンマーですね」
「サーラ嬢、喜びすぎですよ」
ファルクさんは照れながら、コホンと咳払いをした。
照れたファルクさんを見て、周りの魔道具師たちはにやにやしながら言った。
「細工はファルクの店の専属図案家、ハンマーはニルソン氏に依頼した最上級品。美しいのは当然だ」
「魔石の調整はファルクと我々が手掛けた。こんな贅沢なハンマーはどこにもない」
このハンマーは王都の魔道具店の店主たちとニルソンさんの合作らしい。
ニルソンさんの顔を見ると、黙ってうなずいた。
「ありがとうございます……」
――ニルソンさんはなにも言ってない。私を驚かせるために、内緒で作っていたんだわ。
ハンマーには神秘的な星の文様が刻まれ、魔石がきらめく。
柄の先端には無属性の魔石【探索】がはめられていた。
私が知らない魔石であっても、この魔石のサポートによって、見つけることができるけれど……
「無属性魔石って、すごく高価ですよね? こんな高価なものをタダでもらっていいんですか?」
しかも、【探索】の無属性魔石は宮廷魔道具師たちが未知の魔石を発見するのに使うため、市場にはめったに出回らない代物だ。
ファルクさんや周りの魔道具師たちが笑う。
「前払いの報酬だ」
「戻ってきたら、表通りに力を貸してもらうからな」
「そうだ。ともに王都を盛り立てよう」
――もしかして、私の提案を承諾してくれた?
ファルクさんは表通りの店主たちの説得に成功したらしい。
私がファルクさんを見ると、『そうだ』というように、うなずいた。
「まかせてください! 戻ったら、表通りと裏通りの人たちみんなで商売をしましょう!」
「サーラ嬢、楽しみにしていますよ」
新しいハンマーを受け取り、古いハンマーをファルクさんに渡した。
ファルクさんはリアムにも見送りの挨拶をする。
「リアム様。陛下が選んだ王はルーカス様でないと、皆が知っております。どうか戻られた時には……」
ファルクさんが言い終わる前に、リアムが言葉を遮った。
「ファルク。その先は語るな。お前は多くの弟子を持つ魔道具師だ。危険な橋は渡るべきではない」
「わかっていますが、どうしても納得がいかないのです……」
ファルクさんは声に悔しさをにじませた。
「国王陛下と王妃様が、どうしていらっしゃるのか、我々は心配でならない」
ファルクさんだけでなく、表通りに店を持つ魔道具師たちは、国王陛下が次の王にリアムを選んだ場に居合わせた。
私との魔道具対決で、国王陛下が言った言葉を聞いていただけに、ルーカス様の国王代行に納得できないようだった。
「俺はしばらく王都を留守にする。だが、なにも考えていないわけではない。いつものように仕事に励め」
たとえ、リアムは王でなくても、堂々としていて颯爽とした振る舞いは、ルーカス様より遥かに王に見える。
私はそんなリアムが誇らしく思う――ぎゅっとハンマーの柄を握り締めた。
――リアムのために、私もなにかできたらいいのに。
「サーラ、出発するぞ」
「は、はい!」
――なにはともあれ、私の夢だった旅ができる!
サーラも見ることがなかった外の世界。
「それじゃあ、行きましょう!」
二人の腕に飛びついて、私は笑った。
「うわっ!」
「お前っ……!」
――あ、あれ? 二人が動揺するくらい私の体重は重かった?
なぜか二人は顔を赤くして、『仕方ないな』という顔をしていた。
後ろを振り返り、見送りに来てくれたみんなに手を振る。
「いってきます! 必ず帰ってきます!」
大好きな人たちがいる王都。
気づいたら、私の居場所はどんどん広がっていた。
旅の期待感と同時に、馴染んだ場所を離れる寂しい気持ち――それを笑顔で隠して、みんなの姿を目に焼きつけた。
必ずここへ戻ると誓って――
門の前が人の出入りで混み合う時間帯を避け、早朝の出発を選んだ。
近くの農場から、朝一番にやってくる牛乳を積んだ荷馬車すら、まだ通らない。
空気はひんやりとして、濃い霧が道の先を隠している。
そんな早い時間だというのに、私たちの見送りに、ラーシュは起きてきた。
ラーシュは凛々しい顔つきで、背筋を伸ばし、テオドールと一緒に店の前に立つ。
さすが騎士団長だけあって、テオドールは眠気のカケラも見せなかった。
「サーラ様。お気をつけて。ラーシュ様の護衛はお任せください」
「休暇中だったのに、すみません」
「いえ、ちょうど暇していたところです。家でウロチョロされて困ると、妻から言われていたんで、むしろ感謝してます」
テオドールには六人の子供がいて、全員が息子なのだとか。
それも、がっしりした体型の厳つい息子たちらしい。
食べ盛りで、どれだけ食費があっても足りないと言っていた。
それで、私が留守にしている間、店の警備とラーシュの護衛を兼ねテオドールを雇うことにしたのだ。
「そろそろ妻が息子たちに、傭兵でもやって、自分の食費を稼いでこいと命じるところでした」
「スパルタですね……」
テオドールは冗談めかして言ったけど、彼が休暇を取ったのには理由があるような気がしていた。
たぶん長期休暇を取ったのは、ルーカス様が国王代行として権力を振るっているからではないかと思う。
町の噂では――
『サンダール公爵の息がかかった人間しか、王宮を自由に歩けない』
『国王陛下や王妃様の部屋に近づこうものなら、兵士に捕らえられて牢獄行き』
『気に入らない人間は、遠くに左遷か解雇』
などと、今の王宮の現状が語られていた。
テオドールのように、休暇を願い出る人が大勢いるそうだ。
噂の出所は、王宮から実家へ戻った使用人たちだから、事実に近い噂なのではないかと思う。
「テオドールがラーシュといてくれたら、私も安心して留守にできます」
「サーラ様、おまかせください」
「師匠がいない間、弟子として、しっかりお店を守ります!」
「心強いですね。でも、ラーシュ。絶対に無理をしないでくださいね?」
「はい!」
ラーシュは力強くうなずいた。
長く離れるのは心配だったけど、ラーシュ自身が残ると決めたのだ。
まだ見習いとはいえ、ラーシュはすでに魔道具師としてのやりがいを見つけ、仕事に使命感を持っている。
私が戻る頃には、ラーシュは大きく成長している気がした。
「頼みましたよ、ラーシュ」
「ラーシュ、店のことで困ったら、おれが書いたノートを見るんだぞ!」
「はいっ!」
「どうかご無事で!」
私たちと別れに、ラーシュは目を潤ませた。
けれど、ラーシュはぐっと堪えて泣かなかった。
テオドールと一緒に、笑顔で大きく手を振る。
私とフランは、二人に手を振りながら、冷たい霧の中へ向かっていく。
厚手のコートを着た私とフランは、借りた馬車がある王都の門を目指して歩く。
私たちが着く頃には、兵士たちの荷物の検査が終わり、すぐに出発できるようになっているはずだ。
荷物の検査は、無許可で魔石や武器になる魔道具を大量に他国へ持ち込ませないためだ。
その検査に時間がかかり、出入りが増える時間になると、門が混む。
だから、こんなに朝早く出発した。
まだ夜があけていないから、空を見上げると月も星も見えた。
「サーラ。リアム様からなにも連絡がなかったね」
「きっと忙しいんですよ」
サンダール公爵とルーカス様の味方ばかりの王宮で、リアムは大変だと思う。
リアムがどう立ち回っているのか気になっていた。
あのテオドールでさえ、王宮を出たのだ。
よほど、異様な空気に違いない。
「リアム様も一緒に行くって言うかと思ったけどなぁ」
「ああ見えてリアムは第二王子で、宮廷魔術師長ですからね。長期休暇を取って、私の個人的な旅に付き合うなんて無理だと思いますよ」
「うん。そうだけど。いつもサーラのそばに、リアム様がいるイメージだったからさ……」
思えば、リアムの気配はいつもあった。
店にはリアムに連絡できるクラゲ精霊ちゃんがいたし、なにかあれば駆けつけてくれた。
でも、旅に出たらそうはいかない。
「大丈夫。旅の準備は万全です!」
自分に言い聞かせるようにして、フランに言った。
すでにドレスや靴などの重い荷物は馬車の中に積んである。
私が持っているのは、魔道具師の道具が入ったウエストポーチとトランク一つだけ。
この茶色の革のトランクは、王宮を出た時に持ってきたトランクだ。
「王宮を出た日を思い出します。懐かしいですよね!」
「あの時はこんな時間じゃなかったけど……ふぁぁ……。やっぱ眠いや」
フランは眠そうに欠伸をした。
私はそんなフランを眺めて笑った。
あの時と違うのはリアムがいないこと――ただそれだけなのに、心細く感じる。
もうすぐ城門が見えるというところで、私の前に立ちふさがった人物がいた。
夜より深い闇色のコート、黒いブーツ。
『裏の仕事をしてます』と言われたら、納得してしまいそうな目つき。
「遅い」
待たされて寒かったのか、すごく不機嫌そうな顔をしていた。
というか、待ち合わせした覚えはない。
「リアム!」
「リアム様!」
リアムの濃い青の瞳が、私を見ていた。
「ぼんやり空を眺めながら歩くな。転ぶぞ」
「いつから見てたんですか!」
「豆粒くらいから」
「豆? そんなに早く!?」
どうやら、私がこの通りに入った時から監視されていたようだ。
感傷に浸りながら、月を見上げていた私。
それをぼんやりとはどういう……
「あれ?」
「なんだ」
「リアム。今日は宮廷魔術師の制服じゃありませんね」
同じ黒色でも、今日のリアムは宮廷魔術師の制服ではなかった。
黒のコートと黒のブーツは支給されている制服ではなく私物。
ただし、死神を彷彿とさせる禍々しさは、制服を着ている時とほぼ同じで、あまり変化がない。
「休暇を取った。旅に同行する」
「私と一緒にアールグレーン公爵領へ行ってくれるんですか!?」
「最初からそのつもりだ。お前たち二人だけで、行かせるわけにはいかない」
私が頼りないのは百も承知だけど、リアムが今の王都を離れるなんて、絶対無理だと思っていた。
もしかして、リアムはルーカス様が国王代行になったから、暇になったのだろうか。
なにはともあれ、リアムが同行するとわかって、ホッとした。
「リアム、ありがとうございます。一緒に来てくれて心強いです!」
「ああ」
心なしか、リアムの表情が緩んで見えた。
リアムは私のトランクを持つ。
「あっ! トランク……」
「兄上とのルールは、もう必要ないだろう」
リアムの助けを借りないという約束。
あれから、私は宮廷魔道具師になり、国王陛下から自由をもらった。
でも、ルーカス様が国王代行なのだ。
それなのに、ルールがいらないって……?
「行くぞ」
「は、はい……! リアムの荷物はどうしたんですか?」
「もう積んである」
「いつの間に!?」
「お前がぼんやりしてる間にだ」
リアムの憎まれ口は、早朝であっても絶好調だった。
でも、身軽になって、歩きやすくなった。
「馬車に積んであった荷物を見たが、多くないか?」
「お土産を用意したんです!」
「まさか、鍋か?」
「私を鍋だけの女だと思わないでください」
こう見えても、高速泡立て器やみじん切りにする包丁などの便利グッズだって販売しているのだ。
売れ行きはまあ……鍋がダントツだ。
「まだ出回っていない新商品を用意したんです。本当は王妃様へのお礼だったんですけど……」
振り返り、王宮を眺めた。
リアムも同じように王宮を見ていたけれど、その横顔は落ち着き、すべてをわかっているかのような態度だった。
「王妃は兄上の母親だ。心配ないだろう。そのうち会える」
「はい……」
――国王陛下だって、ルーカス様のお父様ですよね?
リアムは国王陛下について、なにも言わなかったから、私はそれ以上、追及できなかった。
「サーラ。前を向いてちゃんと歩け。ほら、見送りが大勢集まっているぞ」
「わかってます……って……見送り?」
前を向き、リアムが指差した方向に目をやる。
王都の門付近に、明るい光がいくつも見えた。
裏通りのみんながランプを手にして、門の前で見送りに立っていた。
――どうして!?
誰もなにも言ってなかった。
「皆さん! こんな早い時間に……!」
オレンジ色の火の魔石が煌々と輝き、いくつも並んでいる。
驚いた私の顔を見て、みんなが笑った――その笑顔に泣きそうになった。
「サーラちゃんが驚いているわよ」
「予想通りの反応だ。昨晩、飲まずに眠って正解だった。あの驚いた顔を見れんところだったな」
「起きれなかったら、私がフライパンで叩き起こしてあげましたよ」
エミリさんやお針子さんたち、ニルソンさんと職人仲間――奥さんと息子さんまでいる。
「びっくりしますよ! 寒くて暗いし、まさか……いるなんて……」
みんなのところへ走って駆けよった。
「サーラさんがね、ちゃんと帰ってくるかどうか、みんな心配になったのよ。実家とはいえ、四大公爵家でしょう……?」
「ヒュランデル夫人……」
白いコートを着たヒュランデル夫人は、冬の妖精のようで、エミリさんと一緒にいた。
市場の奥さんたちも勢ぞろいしている。
「病気や怪我をしないように気を付けるんだよ。危ないと思ったら、すぐに帰っておいで!」
「これ、旅の安全のお守り。みんなでお金を出し合って買ったのよ。貴族が買うような高いお守りは買えなかったんだけど……」
それは、色とりどりの魔石が使われている花の形をした綺麗なお守りだった。
魔物が寄ってこないように、魔石を施した飾りを馬車につける。
魔石のお守りを買えない旅人は、お守りを持つ人に同行させてもらうことが多い。
「とても立派で、綺麗なお守りです」
裏通りの人々にとって、魔石は高価で、魔石を買うのが、どれだけ大変か私は知っている。
「みんな、無事に帰って来てほしいって思っているのよ。だから、元気で戻ってきてね」
「ありがとうございます。絶対に帰ってきます!」
裏通りの人々がうんうんとうなずく。
「サーラちゃん。これもつけていって」
「旅の朝夕は冷えるからね」
裏通りの奥さんたちは、私に耳当てがついた毛糸の帽子をかぶせ、首にマフラーを巻く。
そして、手袋をはめてくれた。
「本当は収穫祭の日に、サーラちゃんへプレゼントする予定だったの。でも、会えないかもしれないから」
収穫祭は農作物を全部収穫し終わった後にあるお祭りで、ヴィフレア王国のすべての町や村で行われる一大イベントだ。
そのお祭りが終われば、本格的な冬がやってくる。
「初めて裏通りの家で、冬を過ごすでしょう? 貴族のお屋敷と違って、魔石に守られてないから、裏通りで過ごす冬は寒いわよ」
「そうそう。市場への道なんかパリパリに凍るの」
「だから、サーラちゃんにマフラーや帽子をプレゼントできたらいいわねって言ってたのよ」
私を驚かそうと、裏通りの奥さんたちが集まって編んでくれたらしい。
「はい。フランくんの分も」
「おれも!? あ、ありがとうございます!」
フランは帽子をかぶせてもらうと、泣きそうな顔で頬を赤く染めて、ぎゅっと帽子を握り締めた。
「みなさん、本当にありがとうございます……」
泣かないでいようと決めてたのに、予想外の見送りと贈り物に、涙がにじんだ。
ふわふわの白い毛糸にピンクのリボンまでつけてくれて、とても可愛い。
フランは瞳の色と同じ水色の毛糸で、シンプルでかっこよくて、これは全部、私たちのために用意してくれたのだとわかる。
「それじゃあ……」
涙をぬぐい、感動の旅立ちをするつもりが――
「その使い古したハンマーは置いていきなさい。優雅さが足りませんよ」
――ハンマーに優雅さって必要ですか?
護身用として、背中に長い柄のハンマーを背負っていた。
このハンマーは大きな岩を砕く時や煙突を【粉砕】するのに役立つ。
「このハンマーは護身用でおしゃれのためでは……えっ!? ファルクさん?」
真っ赤なコートと胸元に白い薔薇。
袖口からブラウスのフリルが覗いて見える。
おしゃれに手抜きなし!
――で、できる!
そして、そこにいたのはファルクさんだけでなく、表通りに店を構える魔道具師たちもいた。
「なぜ、皆さんが?」
「サーラ嬢がアールグレーン公爵家へ戻ると聞いて、止めたほうがいいだろうという話になった」
魔道具師は貴族ばかりだ。
貴族であるなら、アールグレーン公爵家がいったいどんな家なのか、よく知っている。
「……大丈夫です。リアムもいますし、ちゃんと王都へ戻ってきます」
「サーラは無事に王都へ戻す。俺が約束しよう」
リアムを見て、ファルクさんたち魔道具師はうなずいた。
「これは我々からの餞別です。持っていきなさい」
「魔道具師のハンマー!? 芸術品みたいなハンマーじゃないですか? すごく綺麗な細工のハンマーですね」
「サーラ嬢、喜びすぎですよ」
ファルクさんは照れながら、コホンと咳払いをした。
照れたファルクさんを見て、周りの魔道具師たちはにやにやしながら言った。
「細工はファルクの店の専属図案家、ハンマーはニルソン氏に依頼した最上級品。美しいのは当然だ」
「魔石の調整はファルクと我々が手掛けた。こんな贅沢なハンマーはどこにもない」
このハンマーは王都の魔道具店の店主たちとニルソンさんの合作らしい。
ニルソンさんの顔を見ると、黙ってうなずいた。
「ありがとうございます……」
――ニルソンさんはなにも言ってない。私を驚かせるために、内緒で作っていたんだわ。
ハンマーには神秘的な星の文様が刻まれ、魔石がきらめく。
柄の先端には無属性の魔石【探索】がはめられていた。
私が知らない魔石であっても、この魔石のサポートによって、見つけることができるけれど……
「無属性魔石って、すごく高価ですよね? こんな高価なものをタダでもらっていいんですか?」
しかも、【探索】の無属性魔石は宮廷魔道具師たちが未知の魔石を発見するのに使うため、市場にはめったに出回らない代物だ。
ファルクさんや周りの魔道具師たちが笑う。
「前払いの報酬だ」
「戻ってきたら、表通りに力を貸してもらうからな」
「そうだ。ともに王都を盛り立てよう」
――もしかして、私の提案を承諾してくれた?
ファルクさんは表通りの店主たちの説得に成功したらしい。
私がファルクさんを見ると、『そうだ』というように、うなずいた。
「まかせてください! 戻ったら、表通りと裏通りの人たちみんなで商売をしましょう!」
「サーラ嬢、楽しみにしていますよ」
新しいハンマーを受け取り、古いハンマーをファルクさんに渡した。
ファルクさんはリアムにも見送りの挨拶をする。
「リアム様。陛下が選んだ王はルーカス様でないと、皆が知っております。どうか戻られた時には……」
ファルクさんが言い終わる前に、リアムが言葉を遮った。
「ファルク。その先は語るな。お前は多くの弟子を持つ魔道具師だ。危険な橋は渡るべきではない」
「わかっていますが、どうしても納得がいかないのです……」
ファルクさんは声に悔しさをにじませた。
「国王陛下と王妃様が、どうしていらっしゃるのか、我々は心配でならない」
ファルクさんだけでなく、表通りに店を持つ魔道具師たちは、国王陛下が次の王にリアムを選んだ場に居合わせた。
私との魔道具対決で、国王陛下が言った言葉を聞いていただけに、ルーカス様の国王代行に納得できないようだった。
「俺はしばらく王都を留守にする。だが、なにも考えていないわけではない。いつものように仕事に励め」
たとえ、リアムは王でなくても、堂々としていて颯爽とした振る舞いは、ルーカス様より遥かに王に見える。
私はそんなリアムが誇らしく思う――ぎゅっとハンマーの柄を握り締めた。
――リアムのために、私もなにかできたらいいのに。
「サーラ、出発するぞ」
「は、はい!」
――なにはともあれ、私の夢だった旅ができる!
サーラも見ることがなかった外の世界。
「それじゃあ、行きましょう!」
二人の腕に飛びついて、私は笑った。
「うわっ!」
「お前っ……!」
――あ、あれ? 二人が動揺するくらい私の体重は重かった?
なぜか二人は顔を赤くして、『仕方ないな』という顔をしていた。
後ろを振り返り、見送りに来てくれたみんなに手を振る。
「いってきます! 必ず帰ってきます!」
大好きな人たちがいる王都。
気づいたら、私の居場所はどんどん広がっていた。
旅の期待感と同時に、馴染んだ場所を離れる寂しい気持ち――それを笑顔で隠して、みんなの姿を目に焼きつけた。
必ずここへ戻ると誓って――
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