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「ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました」
4 歓迎の宴
しおりを挟むぎゅうううう! と背中まで腕を伸ばして、クーは抱きついてきた。
「ク―? ……いえ、クー殿下。お久しぶりで御座います」
腕をやんわりと外し距離を取って、胸に手を当てて礼をした。人懐っこいクーは、ウサギの国の王子様。失礼があってはいけない。
「ん! もう! そんな他人みたいな挨拶はいいからぁ!」
そう言い僕の膝に乗った。周りの人が、少し騒ぎ出した。
「へへっ!」
甘えてくるクーは可愛いけど、困った……。
「クー殿下、お久しぶりで御座います」
隣に座っていたアランが殿下に挨拶をした。殿下は「わっ!」と驚いた顔をして僕から離れた。もしかしてアランが怖いのかな?
「……アラン殿も元気そうで良かった。ナルン国では世話になったな」
クー殿下はよそいきの声になって、アランに返事をした。
「クー殿下も一緒に座って楽しむがよい」
トラの獣人王はクー殿下に話しかけて、メイドに僕の隣に席を用意させた。アランと僕の間の席。
「ルカ、こっちの果物は美味しいよ!」
クー殿下が、美味しそうなブドウを一粒取って僕の目の前に見せた。
「クー殿下」
まさか皆の前で、殿下の指からブドウを食べるなんてできない。
「殿下、失礼します」
困っていると、ひょいとアランが殿下の指からブドウを受け取ってくれた。
「ルカ、クー殿下からいただいたブドウを召し上がって下さい」
そう言い、僕の手に渡してくれた。
「クー殿下、いただきますね」
僕はブドウを口の中に入れて食べた。
「う、うん」
隙のない……とか聞こえた。殿下の機嫌がちょっと悪くなった。
「美味しいですね。ありがとうございます」
「そうか! 良かった」
微笑んでクー殿下に言うと、機嫌が戻ったみたい。だけどアランは……。表情は変わらないけど、どんなことを考えているか僕にはわかる。
曲芸や、珍しい踊りなど見て美味しい食事を食べて、皆で盛り上がって楽しく歓迎の宴はお開きになった。
「宴はいかがだったかな? ルカ殿」
トラの王様は僕に話しかけてきた。
「はい。とても珍しいものばかりで楽しかったです!」
他の国の文化や食べ物を、初めて知れて楽しかった。
「そうかそうか。良かった。口説けたなら、もっと良かったのだが」
残念そうに王様は僕に言った。アランが王様を睨んでいた。
「まあ、アランの伴侶だしな。あきらめるか……」
「前も、そうおっしゃられていましたよね?」
アランが容赦なく王様に返事をした。
「まあ、可愛い子と話をしたいのは仕方が無いのだ。許せ」
王様はそう言い、近くに居た側近に耳打ちした。
「特別に用意した部屋で、ゆっくり旅の疲れを癒すがいい。また明日はこの国の良い所へ案内しよう」
「ありがとう御座います」
僕達は側近の人に、今日泊まる部屋へと案内された。
「では、ごゆっくりお休みくださいませ」
「ありがとう御座います」
側近の方にお礼を言い、部屋の中に入った。
「わあ!」
ドアを閉めて中に入ると、白い布が天井から吊ってあって部屋を区切ったり目隠しの役目をしていた。
この国では床に厚めのラグやじゅうたんを敷き、クッションをたくさん置いて座って皆でくつろぐスタイルだ。奥まで行くと窓はなく、部屋からテラスへ出て行くと街の景色が見えた。
「きれい……」
部屋の中に風が入ってきて気持ちが良かった。
さすが特別に用意していただいた部屋だけあって、素敵な部屋だった。
「遠くに海が見えるぞ」
アランがテラスまで来て、僕の隣で指をさして教えてくれた。伴侶であり、僕の護衛をしてくれてるので一緒の部屋を用意してくれた。
「え、どこ?」
街並みばかり見ていて遠くの海を見逃していた。
「ずっと向こうだ。街の建物の向こうに光る海が見える」
アランが僕の腰を掴んだ。もう密着しても動揺しなくなった……はず。
「あれが、海」
ナルン王国と違う街並み。獣人国に来たことを実感した。
「海が見たいなら、帰りに寄り道して見に行こうか?」
「え! ほんと? 見たいな」
そう言うと、アランは僕の頬にキスをした。
「あ、アラン!」
僕は突然のキスで動揺してしまった。まだお仕事気分が抜けてなかったらしい。
「このテラスは外だし、お城の庭から見えるよ。仕事で来てるし……控えて、アラン」
顔を上げてアランの顔を見て言った。
「……」
アランは僕の顔をじっと見て言った。
「獣人の国では、伴侶は誰かしっかりと示す必要がある。でないと……」
強い意志のこもったアランの瞳。ちょっと瞳の奥に灯る何か。
「……でないと?」
「……例えば、俺が他の獣人と伴侶になったらルカはどう思う?」
ちょっと考えてからアランは質問してきた。僕は瞬時に、アランの服を両手で掴んだ。
「いやだ! 絶対に、いやだ」
泣きそうになった。僕とアランでは、貴族と平民の差があった。それでもアランは、僕を差別せず伴侶としてくれた。僕自身、アランの隣に立てるように努力してきた。
他の人と伴侶なんて……。
僕が服を握りしめたまま、アランの目を見ていた。アランは驚いたようだったけれど、フッ……と微笑んで僕を抱きしめてくれた。
「俺も同じだ。ルカを、誰にも渡したくない」
僕もアランを力を込めて抱きしめた。
「うん……」
ちょっと力が強くて痛かったけど、嬉しかった。
「隙あれば、狙っている奴がいるしな……」
隙あれば狙っている奴? まさか。
「暗殺的な?」
アランは体を離して僕を見た。
「それもある、が」
アランは僕の肩を抱いて部屋の中へ歩いた。クッションがたくさん置いてある、ソファーの役割の場所に二人で座った。
「……ということで」
コホン! と咳払いをしてからアランは言った。
「積極的に、密着して、見せつけた方がいい。いいな? ルカ」
「う、うん」
僕は、嬉しいような恥ずかしいような気持ちだった。
ただこのことが、後で良かったと思えることになった。
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