66 / 72
「ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました」
5 うっかりと
しおりを挟む二人並んでゆったりとしていた。
「そろそろ風呂に入って、さっぱりしたいな」
アランが立ち上がり、風呂場を見に行った。たくさんの布が天井から下がっていて、壁が少ないのは気候が熱い国ならでは。風通しが良い。
「広い風呂場だ。触ってみたら、良い湯加減だった。一緒に入るか? ルカ」
「う――ん。明日の式典で使う、資料の整理したいから先に入ってくれる?」
きっとお風呂場も素敵なんだろうけど、仕事の準備もしないとな。
「そうか。では、先に入る」
アランは少しがっかりしたようだった。
「ごめんね」
アランに言うと片手を上げて風呂場へ行った。
「資料は……」
荷物の中からカバンを取り出して、資料をテーブルの上に置いた。明日はこの国の観光案内をしてくれると言っていた。来る前にこの国の事を調べたり、アランに聞いたりしていたけどもう一度おさらいしておく。
何も知らない和平大使では印象が悪い。
僕は自分で用意した資料を見て、おさらいしていた。
トントン。
唯一ある、入り口のドアが叩かれた。……誰だろう?
「はい」
僕はドアに近づいて返事をした。すると女性の声が聞こえた。
「お寛ぎの所、申し訳ありません。王が、明日の打ち合わせをしたいと呼んでおります。お時間は取らせないとのことです」
え? 王様が? アランは今、お風呂に入っているし……どうしよう。でも、少しの時間なら大丈夫かな。
「今、行きます」
鏡を見て、身を整えた。アランには置手紙を書いて、テーブルに置く。
「お待たせしてすみません!」
ドアを開けると、この国のメイドさんが待っていた。
「いいえ。ご案内いたします」
ぺこりと頭を下げてから進み始めたので、後について行った。
廊下は部屋側に壁があるけど、外側は窓がなく開放的だ。雨が少ない気候ならではの建物の造りだ。
しばらくメイドさんの後について行くと、地下への階段を降りていった。
「あの、まだですか?」
さすがに心配になってメイドさんに尋ねた。
「着きました。ここです。お入りになって下さい」
階段を降りて突き当りのドア。メイドさんがドアを開けて、中に入るようにと促されて足を一歩踏み入れた。暗くて中がよく見えない。
「明かりをつけて……あっ!?」
背中をドン! っと、強く押されて前に転んだ。とっさに手をついてケガはしなかったものの、膝を打った。
「なにを……、え」
振り向くと、鍵を手に持っているのが見えた。部屋のドアが乱暴に閉められた。
「えっ!? ちょっと!」
ガチャガチャと鍵を閉める音がした。
メイドさんの足跡が遠ざかり、真っ黒な部屋の中はし――んと静かになった。
「え。うそ」
これは……閉じ込められてしまった。こんな単純なことに引っかかってしまった。
「王様……は、いらっしゃらないよね?」
閉じられたドアを見ていたが、立ち上がって部屋の中を見た。真っ暗だ。
「ライト!」
指先に小さな明かりを魔法で灯した。
「うわぁ……」
部屋の中はどうやら物置部屋のようだった。
つまり。僕を部屋に閉じ込めたのは、この国とナルン王国の和平に反対するものか、王様かアランにいい感情を持たない者か、僕に何らかの恨みを持つ者か……。
何にしても早くここから出ないと。明日の式典には出ないといけない。
ガチャガチャと鍵が開く音がした。鍵を開けて入ってきたのは、知らない獣人。熊の獣人だった。
「え? 誰?」
熊の獣人は部屋に入ってきて、いきなりひざまづいた。
「初めまして。私は熊の獣人の、イッサと申します」
初対面の獣人だった。でもなんでこの人が?
「王様はどこですか?」
僕は熊の獣人を睨んで言った。この人が、ここに来るように命令したのか?
冷静に熊の獣人を観察する。何が目的なのか。
「そんなことは、いいですから……私とお話ししましょう」
熊の獣人はそう言い、近づいて来た。
「そんなこと? 王様に呼ばれて、案内してもらって僕はここに来ました。どういうことか、説明をお願いします」
僕は和平大使という使命を持って、この国へ来た。冷静に対処しないと。
和平に反対する者か、何か不満を持つ者か。
「ああ。なんて罪深いお人だ! こんなに私の心を乱しているのに!!」
熊の獣人は僕の足元まで来て座り込み、僕を見上げた。
「えっ!?」
僕はぎょっとして、熊の獣人を見て固まった。
「ルカ様を一目見て、好きになってしまいました! どうか、お情けを……!」
「や、やめてください!」
「ん? 伴侶がいらっしゃるのですか!? 匂いがつけられている! そんな!」
無理やり触れてこようとする大きな熊の獣人に、僕は怖くなった。
身を縮めて力を開放した。
バシ――ンッ!
「ルカ!?」
ドアを蹴破って、アランが部屋に入ってきた。王様も護衛の人も、大勢入ってきた。
「アラン……」
「ルカ、大丈夫か!?」
アランは僕の側に駆け寄って来てくれた。
「これは……」
王様も僕の側に来て、熊の獣人が壁にめり込んでいる状態を見て言った。部屋の壁は崩れていて、ヒビが入っていた。力の加減が出来なかった。
「王様に明日の打ち合わせがしたいと呼ばれて……ここに閉じ込められました」
熊の獣人を吹き飛ばす前に胸元を掴まれて、シャツのボタンが外れてしまっていた。
隠したけれどアランには見つかってしまった。
「どういうことか、説明してもらおうか」
アランは、王様に向かい合って静かに話しかけた。
236
あなたにおすすめの小説
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
炎の精霊王の愛に満ちて
陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。
悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。
ミヤは答えた。「俺を、愛して」
小説家になろうにも掲載中です。
婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。
零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。
鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。
ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。
「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、
「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。
互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。
他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、
両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。
フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。
丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。
他サイトでも公開しております。
当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる
蒼井梨音
BL
箱入り公爵令息のエリアスは王太子妃候補に選ばれる。
キラキラの王太子に初めての恋をするが、王太子にはすでに想い人がいた・・・
僕は当て馬にされたの?
初恋相手とその相手のいる国にはいられないと留学を決意したエリアス。
そして、エリアスは隣国の王太子に見初められる♡
(第一部・完)
第二部・完
『当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている』
・・・
エリアスとマクシミリアンが結ばれたことで揺らぐ魔獣の封印。再び封印を施すために北へ発つ二人。
しかし迫りくる瘴気に体調を崩してしまうエリアス……
番外編
『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子の胸に抱かれる』
・・・
エリアスを当て馬にした、アンドリューとジュリアンの話です。
『淡き春の夢』の章の裏側あたりです。
第三部
『当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします』
・・・
精霊界の入り口を偶然見つけてしまったエリアスとマクシミリアン。今度は旅に出ます。
第四部
『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子といばらの初恋を貫きます』
・・・
ジュリアンとアンドリューの贖罪の旅。
第五部(完)
『当て馬にした僕が、当て馬にされた御子さまに救われ続けている件』
・・・
ジュリアンとアンドリューがついに結婚!
そして、新たな事件が起きる。
ジュリアンとエリアスの物語が一緒になります。
エリアス・アーデント(公爵令息→王太子妃)
マクシミリアン・ドラヴァール(ドラヴァール王国の王太子)
♢
アンドリュー・リシェル(ルヴァニエール王国の王太子→国王)
ジュリアン・ハートレイ(伯爵令息→補佐官→王妃)
※たまにSSあげます。気分転換にお読みください。
しおりは本編のほうに挟んでおいたほうが続きが読みやすいです。
※扉絵のエリアスを描いてもらいました
※のんびり更新していきます。ぜひお読みください。
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる