BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

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「ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました」 

5 うっかりと

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 二人並んでゆったりとしていた。
 「そろそろ風呂に入って、さっぱりしたいな」
 アランが立ち上がり、風呂場を見に行った。たくさんの布が天井から下がっていて、壁が少ないのは気候が熱い国ならでは。風通しが良い。

 「広い風呂場だ。触ってみたら、良い湯加減だった。一緒に入るか? ルカ」
「う――ん。明日の式典で使う、資料の整理したいから先に入ってくれる?」
 きっとお風呂場も素敵なんだろうけど、仕事の準備もしないとな。
 「そうか。では、先に入る」
 アランは少しがっかりしたようだった。
 「ごめんね」

 アランに言うと片手を上げて風呂場へ行った。
「資料は……」
 荷物の中からカバンを取り出して、資料をテーブルの上に置いた。明日はこの国の観光案内をしてくれると言っていた。来る前にこの国の事を調べたり、アランに聞いたりしていたけどもう一度おさらいしておく。
 何も知らない和平大使では印象が悪い。
僕は自分で用意した資料を見て、おさらいしていた。

 
 トントン。
 唯一ある、入り口のドアが叩かれた。……誰だろう?
「はい」 
 僕はドアに近づいて返事をした。すると女性の声が聞こえた。
「お寛ぎの所、申し訳ありません。王が、明日の打ち合わせをしたいと呼んでおります。お時間は取らせないとのことです」
 え? 王様が? アランは今、お風呂に入っているし……どうしよう。でも、少しの時間なら大丈夫かな。
「今、行きます」

 鏡を見て、身を整えた。アランには置手紙を書いて、テーブルに置く。
 「お待たせしてすみません!」
 ドアを開けると、この国のメイドさんが待っていた。
「いいえ。ご案内いたします」
 ぺこりと頭を下げてから進み始めたので、後について行った。

 廊下は部屋側に壁があるけど、外側は窓がなく開放的だ。雨が少ない気候ならではの建物の造りだ。
 しばらくメイドさんの後について行くと、地下への階段を降りていった。
 「あの、まだですか?」
 さすがに心配になってメイドさんに尋ねた。
 「着きました。ここです。お入りになって下さい」

 階段を降りて突き当りのドア。メイドさんがドアを開けて、中に入るようにと促されて足を一歩踏み入れた。暗くて中がよく見えない。
 「明かりをつけて……あっ!?」
 背中をドン! っと、強く押されて前に転んだ。とっさに手をついてケガはしなかったものの、膝を打った。
 「なにを……、え」
 振り向くと、鍵を手に持っているのが見えた。部屋のドアが乱暴に閉められた。

 「えっ!? ちょっと!」
 ガチャガチャと鍵を閉める音がした。
メイドさんの足跡が遠ざかり、真っ黒な部屋の中はし――んと静かになった。
 「え。うそ」
これは……閉じ込められてしまった。こんな単純なことに引っかかってしまった。

 「王様……は、いらっしゃらないよね?」 
 閉じられたドアを見ていたが、立ち上がって部屋の中を見た。真っ暗だ。
「ライト!」
 指先に小さな明かりを魔法で灯した。

 「うわぁ……」
 部屋の中はどうやら物置部屋のようだった。
つまり。僕を部屋に閉じ込めたのは、この国とナルン王国の和平に反対するものか、王様かアランにいい感情を持たない者か、僕に何らかの恨みを持つ者か……。
 何にしても早くここから出ないと。明日の式典には出ないといけない。

 ガチャガチャと鍵が開く音がした。鍵を開けて入ってきたのは、知らない獣人。熊の獣人だった。
「え? 誰?」
 熊の獣人は部屋に入ってきて、いきなりひざまづいた。
「初めまして。私は熊の獣人の、イッサと申します」
 初対面の獣人だった。でもなんでこの人が?

 「王様はどこですか?」
 僕は熊の獣人を睨んで言った。この人が、ここに来るように命令したのか?
冷静に熊の獣人を観察する。何が目的なのか。

 「そんなことは、いいですから……私とお話ししましょう」
 熊の獣人はそう言い、近づいて来た。
「そんなこと? 王様に呼ばれて、案内してもらって僕はここに来ました。どういうことか、説明をお願いします」
 僕は和平大使という使命を持って、この国へ来た。冷静に対処しないと。

 和平に反対する者か、何か不満を持つ者か。

 「ああ。なんて罪深いお人だ! こんなに私の心を乱しているのに!!」 
 熊の獣人は僕の足元まで来て座り込み、僕を見上げた。
「えっ!?」
 僕はぎょっとして、熊の獣人を見て固まった。
「ルカ様を一目見て、好きになってしまいました! どうか、お情けを……!」
 
 「や、やめてください!」
「ん? 伴侶がいらっしゃるのですか!? 匂いがつけられている! そんな!」
無理やり触れてこようとする大きな熊の獣人に、僕は怖くなった。

 身を縮めて力を開放した。
バシ――ンッ!
 
 「ルカ!?」
 ドアを蹴破って、アランが部屋に入ってきた。王様も護衛の人も、大勢入ってきた。
 「アラン……」

 「ルカ、大丈夫か!?」
 アランは僕の側に駆け寄って来てくれた。
 「これは……」
 王様も僕の側に来て、熊の獣人が壁にめり込んでいる状態を見て言った。部屋の壁は崩れていて、ヒビが入っていた。力の加減が出来なかった。
 「王様に明日の打ち合わせがしたいと呼ばれて……ここに閉じ込められました」

 熊の獣人を吹き飛ばす前に胸元を掴まれて、シャツのボタンが外れてしまっていた。
 隠したけれどアランには見つかってしまった。
 
 「どういうことか、説明してもらおうか」
アランは、王様に向かい合って静かに話しかけた。
 
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