元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている

甘酢ニノ

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#33 謎の美女が連続登場して、俺の敵が急増した件

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 文化祭2日目、朝。
 開店の準備が一通り終わって束の間、のんびりした空気が流れる。
 その間に占いコーナーのブースを掃除しようと扉を開けると、巨大なウサギが床に丸まっていた。
 誰かが狩って来た獲物ではない。ピンクの着ぐるみのウサギだ。

「邪魔」

 ホウキの柄で突くと、ウサギはころりと寝返りを打つ。

「だって……ここ、めっちゃ寝心地がいい」

 ウサギの頭を被っていて顔が見えないが、周は朝の準備をサボってここで寝ていたらしい。

「昨日もそれを着てどこか行ってたのか?」
「宣伝だよ。俺、ちびっ子たちに超モテモテなんだからな!」
「モテモテ」

 俺はホウキを動かしながら繰り返した。
 嘘臭い。
 周は俺の考えを読み取ったように、起き上がって耳を揺らす。
 そして、両手の拳を口元に当てて首を揺らした。

「見ろよ。こんなにキュートなウサギだぞ!なんか言うことあるだろ!ほら、か?か……?」
「か……?可食部が多そう」
「類、お腹空いてんのか?」

 周と話していると、扉が開いてひまりが顔を出した。

「類くん、調理班に借りてホットサンド作ったの。た、食べてくれる……?」

 ひまりに紙に包まれたサンドイッチを差し出されて受け取った。
 食べたことがないけれど、ひまりが作ったのなら安心だ。

「美味しい……?」
「初めて食べたけど、旨い」
「本当!」
「ひまりちゃん、俺のは……?」
「あ、周くんは、春藤さんが何か作ってたよ」
「あー……」

 周が泣きそうな声を出して、教室の方から叫び声と妙な臭いがした。
 そういえば、春藤は調理班に課題を出していたが、彼女自身が料理をしている姿は今日まで一度も見ていない。

「……わかった」

 周が覚悟を決めてブースを出て行く。

「類くんは、今日も一日占いしてるの?」
「ああ、その予定だ」
「あの、午後にミスコンあるの知ってる?」
「知らなかった」
「あのね……」

 ひまりが一度俯いて、何か決意したように顔を上げた。

「類くんに、ミスコン見に来てほしいの」
「ひまりが出るのか?」

 俺は尋ねたが、ひまりはそれには否定も肯定もしなかった。
 ただ、強い決意を込めた瞳で繰り返す。

「類くんに、見てほしいの。お願い。絶対に来てね」

 ひまりはそう言ってブースを出て行く。
 俺は追い掛けて尋ねようとしたが、春藤の手料理を食べた周が倒れて、騒然とした教室はそれどころではなかった。

 ーー

 校内SNSを覗くと、昨日から文化祭の書き込みが増えている。
 その中で、占いコーナーに関する口コミが多かった。

『喫茶店の横の謎の小屋でやってる占い、マジで当たる』
『神レベル。プロ連れて来てるんだと思う。多分、やってるの外部の人間』
『彼氏のこと当てられてビビった。怖い』

 俺は目立つのは、あまり好きではない。
 だが、クラスに貢献できるなら悪くないし、別の目的のために使わせてもらっている。

「悩みは、友人関係だな」

 何人目かの客にそう尋ねると、俯いていた客はぱっと顔を上げた。

「あ、あの……そうです……!」
「最近、親友とケンカをした」
「え、何で……知ってるの……?」
「お前から謝れ。友人を失いたくないなら、プライドを捨てろ」
「……はい」

 客は、涙ぐみながら頷いた。
 喫茶店の方のBGMがRe⭐︎LuMiNaの曲に変わったことに気付いて、さりげなく付け加える。

「もし、どうしても謝りたくないなら、同世代の有名人に相談してみるのが吉」
「同世代の……有名人?」
「ああ、アイドルとかがいい」

 俺が言葉を止めると、ブースの外から聞こえるBGMが少し目立って聞こえる。
 客もアイドルの曲が流れていることに気付いた。

「あの、 Re⭐︎LuMiNa、とか?」
「最近はメンバーが相談に乗ってくれる。違う視点を持つ同姓の意見を聞いてみるのはどうだ」
「なるほど……」

 客は納得していた。
 インスタライブで質問が来ると、ひまりは誠実な回答をして好感度が上がっている。
 対して、ゆめは、メンバーの中でも特に毒舌で知られている。彼女が厳しいことを言うと炎上する可能性が高い。
 ゆめの順位が下がり、ひまりの順位が上がる可能性がある。

「Re⭐︎LuMiNa……わかりました。やってみます!ありがとうございました」

 客は満足そうに立ち去った。

(これで、少しは貢献できるか)

 俺は、小さく息を吐いた。

 ーー

 午後、そろそろ値下げをして売り切ろうという時間になった頃、校内放送が流れた。

『来場の皆様、これより体育館にてミスコンを開催します!皆さん、ぜひご来場ください!』

 ひまりが言っていたミスコンはこれか、と思っていたら、占いコーナーの扉が開いて天音が飛び込んで来た。

「お兄ちゃん!ミスコン見に行こう!」
「なんで?」
「だって、可愛い子が見れるんだよ!しかもタダで!」

 天音にローブを引っ張られて、俺は扉の札を『閉店中』に変えて体育館に向かった。

 体育館には人が大勢いたが、学外の来校者よりも校内の生徒が多い様子だった。
 ステージには、司会の生徒がマイクを手に立っている。

『それでは、ミスコンを始めます! まずは、エントリーNo.1!』

 音楽が流れ、司会の紹介に合わせて参加者が登場する。
 正統派の美人や、可愛い系、様々な子が出て来ては自己PRをしている。
 知り合いの観客が野次を飛ばしていて、明らかなウケ狙いの生徒でも盛り上がっていた。

「うーん……わたしとしては、美人系よりも可愛い系の方が好きなんだけど、No.5の子が可愛かったなぁ……お兄ちゃんは誰が一番?」
「これは、勝敗が付くのか?」
「最後にくじで決めるらしいよ」
「くじ?」
「多様性の時代だからね!本当の一番は、みんなの心の中に……ってことだよ!」

 それはミスコンとして成立しているのだろうか。
 と俺がステージを眺めていると、司会が次の出場者を呼ぶ。

『エントリーNo.12!謎の美女、Hさん!』

 音楽に合わせてステージに一人の少女が現れた。
 それは、ステージで見るアイドルだった。
 学校の体育館がステージに変わる。
 ショッピングモールのイベントスペースでもなく、小さなライブハウスでもなかった。
 数万人キャパのライブ会場だと錯覚させたのは、そのアイドルが持つオーラだった。
 煌びやかなメイクやヘアセットや、ドレスのような衣装もそうだったが、彼女はそのオーラだけで会場を魅了していた。
 しかし、それがこの高校の生徒の強羅ひまりだと気付いたのは俺だけだろう。
 俺の横の天音も、珍しく静かになってひまりを見つめていた。

『わたしは、』

 ひまりの声がマイクを通して会場に響く。
 よく通る声。学校にいる時の震える小声と違って、真っ直ぐ全員に響く音。
 それで、金縛りが解けたように観客がざわめく。

「あの子、誰?」
「めっちゃ可愛いんだけど、あんな子いた?」

『わたしは、兎山類くんに振り向いてもらいたくて、出場しました』

 その瞬間、会場が大きくざわめいた。

「……え?」
「兎山類って、2年の男子?イケメンって有名だけど……」
「ここで告白するってこと?!あんな可愛い子、絶対振れないでしょ!」

 俺は帰りたい気持ちになった。
 目立つのが嫌なのに、ここで告白をされたら俺は衆人環視の中で告白を受け入れなければならない。
 隣の天音が心配そうに俺を見る。が、その目は明らかに面白がっている。
 しかし、ひまりは会場の騒めきを軽く笑顔を見せて静かにさせた。

『わたしは、類くんが好きです。だから、振り向いてもらえる自分になるまで、ずっとがんばります』

 ひまりの言葉に、会場から大きな溜息が漏れる。
 ひまりはアイドルとして満点の笑顔を見せて、ステージから袖に引っ込んだ。
 その後もその衝撃から観客は抜けきらない。

「あんなに可愛いのに、すごい謙虚……!」
「俺だったら、ちょっとでも好意を持たれてたら自分から告るのに……!」
「兎山類か……死ね!」

(なんだか、勝手に俺の敵が増えている気がする……)

『えー……次の方も、謎の美女のようですね……』

 司会が次の紹介をしていると、俺の横にフードを着た小柄な姿が現れて、俺を会場の隅に引っ張って行った。
 俺が占いをしている時に着ているのと同じ、顔が見えないようになっているフードだ。
 フードの隙間から、まだ衣装もメイクもそのままのひまりの顔が覗いた。

「類くん、見てくれた?」
「ああ、見てた」

 俺が答えると、ひまりは笑顔を見せる。
 アイドルのステージで見せるのとは違う、安心しきった素の笑顔だ。

「あのね……わたし……」
『続きまして、エントリーNo.13。こちらも謎の美女、あまねさん!』

 ひまりの言葉を遮って、司会の紹介でステージに出て来たのは、細身で長身の女性だった。
 ひまりと違って大人っぽい雰囲気で会場が静かになる。
 女性がマイクの前で微笑むと、会場は不思議な緊張感に包まれる。

『私も兎山類くんが好きです』

 美女の言葉に、会場に動揺が広がる。

「兎山類は全然系統が違う美人の両方から好かれている……?!」
「そんなにレベルの高い戦いだったの……?」
「わたし、兎山くん狙ってたけど、諦める……」

 そんな呟きに混じって「兎山類、殺す」とはっきり殺害予告が横から聞こえてきた。

「え?え?る、類くん!あの美人さん、誰?!生徒じゃないよね?!来校者の人?も、もしかして、先生?!」

 俺の隣でひまりが混乱している。
 フードを被ったまま慌てるせいで、メイクや髪が乱れている。

「落ち着け」
「お、落ち着けないよぉ!誰?あれ!?」
「あれは、周だ」
「ふぁ!?周くん?!」

 午前中は春藤の料理を食べたせいでお腹が痛いと泣いていたのに、復活したらしい。
 救急車を呼ぶような事態にならなくて一安心だ。文化祭で食中毒事件が起きなくてよかった。

「なんで?!」
「あまねさんって紹介されただろう。周の名前は、『しゅう』じゃなくて『あまね』だ」

 隠しているわけではないが、教師くらいしか本当の読みを知らない。
 俺は妹の天音と同じ読みだということで話の流れで教えてもらった。
 ついでに、名前で女だと勘違いされて気まずくて訂正できずに女のふりをしないといけない時があると聞いて、俺が女声の出し方を教えてやった。

「一時期、放課後に毎日特訓していたが、まだ腕は衰えていなかったか」
「類くん、もしかして放課後に人に特訓するのが趣味なの……?」
「まさか。ところで、俺に告白するのが流行ってるのか?」
「え?う……?」
「会場が盛り上がってたし、最近の流行りなのか?」
「お、おー……うーん……」

 ひまりは難しい顔をして黙り込んでしまう。
 ひまりの答えを待っていると、ピンクのウサギの着ぐるみが隣に来た。

「なー?見てた?俺、美人だっただろ!」

 ひまりと同じように、周は着ぐるみでメイクを隠しているらしい。
 よくわからないがおそらく周は、ひまりがミスコンに出て注目を集め過ぎないように、同じく謎の美女として出場したのだろう。
 それか、単に俺が教えた女声の成果を見せたかったのか。

「類、謎の美女にモテモテで良かったな」

 周が言って、やはり冗談だったのかとわかった。

「ひまりと周のせいで、校内で俺の敵が増えた」
「イケメンはつらいよなー……って、ひまりちゃん、何?」
「あ、あのね……!もー……!もぉー!!」

 ひまりは周をぼこぼこと殴っていた。
 安堵と残念が入り混じった、泣き笑いのような複雑な顔をしていた。
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