元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている

甘酢ニノ

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#34 ウサギの着ぐるみ越しに、彼女の温度を知った件

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 文化祭終了後、後夜祭が始まった。
 校庭では生徒たちが勝手にライブを始めているが、俺たちのクラスは残った食材を使い切ろうと教室と調理室を行き来していた。
 占いコーナーの撤去は後日やるらしいから、俺はローブを脱いだら片付けが終わる。
 周がまだピンクの着ぐるみのまま忙しそうにしているから、何か手伝うことはないかと近付いてみる。

「類は食べる役でいいよ」
「何か作ろうか?」
「……いや、座ってて。大丈夫」

 周に言われて、俺は調理室の椅子に座る。

「兎山くん、これ作ったの。食べて」
「あたしのも!食べて」

 女子生徒に色々差し出されて、俺は文化祭の間は保っていた笑顔で礼を言って受け取ろうとした。
 しかし、周が俺の腕を引いて立ち上がらせる。

「類、仕事あったわ。教室の方で荷物運び!この着ぐるみも片付けないと」
「伊波、兎山くんを連れて行かないでよ!」
「伊波一人でやればいいじゃんか」
「いいんだよ!あんまり類を甘やかすな!」

 女子生徒からのブーイングを受けながら、周は俺の腕を掴んで調理室を出て行く。
 教室とは逆方向に歩いて、静かになった所で俺の腕を離した。

「荷物運びは?」
「あー、あれは嘘」
「どうして?」
「もう終わったんだし、疲れることしなくていいだろ」

 周に言われて、俺は文化祭中ずっと酷使していた表情筋を緩める。
 話しかけられた時に瞬時に笑顔を作れるようにずっとスタンバイ状態でいて、さすがに顔が凝っていた。

「フジが言ってたけど、売上が予想を上回ったってさ。打ち上げで使うんじゃなくてクラスで大きい買い物しようって」

 周が廊下の窓から校庭を見下ろして言った。
 特設ステージから、俺でも聞いたことがある流行りの歌が下手なギターと一緒に聞こえて来る。

「喫茶店の方は、そんなに客が来たのか?」
「超忙しかったって。余ってる食材も、売り切れないように追加で皆が持って来てくれたやつだし。俺の宣伝のお蔭だな」

 周がウサギの耳を揺らして満足そうに頷いた。
 俺は、この着ぐるみを着た周が、働いている所を見なかった。
 けれど、本人がこう言うのだからそれなりに働いていたのだろう。文化祭委員としても珍しく真面目に働いていたし。

「あと、フジが類は特別功労賞だって。なんか貰えんじゃないかなー?」
「春藤から、あんまり物を受け取りたくないな……」
「わかる。末代まで恩を着せられそう」

 俺が頷いたその時――

「きゃあ!」

 背後で女子生徒が床の段ボールに躓いた。
 転ぶ前にその体を支えると、女子生徒が持っていた缶ジュースの中身が俺の体にかかる。

「うわ……ご、ごめんなさい!!」

 転んだ女子生徒が、慌てて謝ってくる。

「いや、大丈夫だ」

 中等部の生徒のようだ。
 ぺこぺこと頭を下げている生徒から離れて、俺は服を見下ろした。
 胸のあたりが、濡れていてじわじわと下着にまで染みてきている。

「類、着替えた方がいいよ」
「ジャージで来たから、着替えがない」
「え、マジで?とりあえず脱げば?」

 周が軽く言う。

「いや……」

 俺は、一瞬戸惑った。
 服を脱ぐことは避けたい。
 普通の高校生とは全く違う体を晒したくなかった。
 俺が言葉を濁すと、周は一瞬で気づいた。

「あ、そっか。そしたら、脱いだらこれ着てろよ」

 周はウサギの着ぐるみの頭を外して俺に渡す。
 贅沢を言うようだが、これを着て家に帰るのも嫌だ。
 俺の無言の訴えを読み取ったように、周は答えた。

「俺のジャージ持って来てやるから!ちょっと待ってて」

 周は、スポンとウサギの着ぐるみを脱いで、Tシャツとハーフパンツの軽装になって走り出した。
 一人になった俺は、着ぐるみの目を見つめた。
 ピンク色のウサギ。全身を覆って確かに、これなら体を隠せる。

 横の空き教室に入って、濡れた服を脱いだ。
 そして、着ぐるみを着てみる。
 背中が1人では締めきれなかったが、思ったより着心地は悪くない。

「……」

 せっかくだから頭も被ってみることにして、完全にウサギになった。
 視界が少し狭くなるが、絶妙な閉塞感と圧迫感があって落ち着く。
 周が好んで着ていた理由が少し分かった。
 鏡に映る自分を眺めるのに満足して、そろそろ周が戻って来るだろうから教室の外に出る。

「あ、周くん!」

 ひまりの声が聞こえた。
 反射的に振り向くと、ひまりがこちらに駆け寄ってくる。

(……ああ、外からだとわからないのか)

 ひまりは、俺を周だと勘違いしている。
 この着ぐるみはずっと周が着ていたから当然だ。
 訂正するのは間抜けな気がして、俺は黙っていた。

「周くん、春藤さんが呼んでたよ。教室に来て」

 ひまりは俺の腕を引く。
 着ぐるみの姿だと視界が悪いから、ひまりに引かれるがまま廊下を歩いていた。

「あのね……周くん、わたし、ミスコンに出て良かったよ」

 ひまりは、少し恥ずかしそうに笑って言った。

「類くんへの告白は、周くんのせいで冗談だと思われちゃったけど……ううん、怒ってないよ。それで良かったの」

 ひまりは言いながら照れた様子で頬を赤くしていた。
 が、目を伏せることなく瞳は輝いている。

「まだわたし、類くんに釣り合う人間じゃないから。今じゃなくてよかった。いつか、自分に自信を持って……類くんが好きだって、ちゃんと言える時が来たら……もう一度、ちゃんと告白する」

 そう言ったひまりの目は、強く光っていた。

「だから……見守っててね、周くん」

 ひまりは、誤魔化すように冗談めかして微笑んだ。
 ちょうど教室について、春藤が廊下に顔を出す。

「あ、春藤さん。周くん連れて来たよ」

 ひまりが俺を指差す。
 春藤は不思議そうに首を傾げた。

「あれ?さっき、周が着ぐるみ着ないで走ってるの見たけど……」

 春藤が言った瞬間、俺は背後に周がいるのに気づいた。
 ジャージを持って来てくれたところだ。

(……まずい)

 俺はひまりから離れて、周の腕を掴んだ。
 そして、春藤とひまりが気づく前に周を引っ張って、その場を離れた。

「え、ちょっと、どうしたの?」

 周に尋ねられたが、俺は答えられなかった。

 ひまりが俺を好きだと、はっきりと言った。
 今までも、なんとなくわかっていた。
 しかしそれは、嫌われてはないだろう、程度のつもりだったのに。
 こんなにも真っ直ぐに、真剣に好きでいてくれるとは、思っていなかった。

 校舎の裏。
 人がいないのを確認して、俺は立ち止まった。

「類、どうしたんだよ?結構似合ってるから、恥ずかしがることないと思うけど……」

 周が息を切らしながら尋ねる。
 俺はウサギの頭を外して周に渡した。

「暑かった?」
「……何が?」
「だって、顔が赤いから」

 周が不思議そうに尋ねる。
 俺は、周に見られないように顔を隠した。

「どうした?」
「……何でもない」

 なんとかそれだけ答える。
 ひまりの言葉と強い瞳が頭から離れない。何度も何度も繰り返していた。
 この感情が一体何なのかわからない。
 それでも、自分では止められない気がした。
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