リスタート 〜嫌いな隣人に構われています〜

黒崎サトウ

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流されるな(11)

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 ベッドに座ったことで、英司を見る目線が自然と上がる。

 英司は手をちょいちょいと手招きすると、「おいで」と千秋を呼んだ。

 ああ、もうやるのか。千秋は特に反抗することもなく立ち上がると、英司のそばまで寄った。そのまま英司の横に座ると、英司に手をとられ、握られる。

「あの、手を握るのは……え、わっ」

 手を握るのは要求の範囲外だと訴えようとしたら、そのまま引かれて回避することもできず、ぽふっと上半身だけ英司の膝の上に倒れ込んでしまう。

 これは……。まさか、英司に膝枕をされることになるとは。

 横向きに倒れたため、千秋の目の前にはテーブルなどの部屋の様子が見える。しかし、振り返り気味に上を向けば、こちらを覗き込みながら微笑んでいる英司と目が合った。はあ、顔だけは本当に良い。

「なんでこの格好……」

「撫でやすいから」

 嘘つけ、とも思ったが、正直向かい合ってやられるよりマシだ。

 観念したようにまた顔を元に戻すと、英司の大きな手が頭に触れた。軽くわしゃわしゃと撫でられると、今度は髪を漉くように、何度も往復する。

 なんだか、小さい子どもを寝かしつけるようとする時みたいだ。英司は本当にこんなことがしたかったのかとまだ疑問はあるが、撫でられるのが思ったよりも気持ち良くて、問い詰める気持ちも失せてしまう。

「気持ちいい?」

「ん……」

 低く優しい声が耳を撫でる。

 少しうとうとしてきたところで、英司の手が止まって、離れた。あ、もう、終わりか……。

「……あれ、何してるんですか、柳瀬さん」

 何か動き出した英司に気づき、千秋は起きあがろうとした。が、途中で動けないことに気づく。眠い頭が覚める。

「やっぱりこの格好じゃやりづらいから、姿勢変えるぞ」

「え、え?」

 いつの間に、脇の下から回り込んだ腕が、体にきゅっと巻き付いている。

「ちょっ、何してっ」

「こら、ちょっと大人しくしてろ」

 ジタバタと抵抗を試みるが、埃が立つだけで、ちっとも腕から逃げられない。ベッドは壁につくように配置されているが、英司はその壁まで後退していこうとする。

 それについて行くように、英司に抱きかかえられている千秋の体も、後ろからずりずりと引き寄せられる。

 ほんと、何がしたいんだこの人っ…!顔が見えないせいで余計わけがわからない。

 途中もがきつつも、最終的に英司の足の間に収まり、背中に寄りかかる姿勢に落ち着いてしまった。

「はぁ……」

 なんか、今のでどっと疲れたぞ。暴れたから、余計。いきなり技をかけられた気分だ。

 文句言ってやる、と思い立つと、また英司の手が頭の上に乗せられた。さっきみたいに梳くようにして手を滑らせるので、千秋はその手から逃れるように頭を振る。

 いや、なに当たり前のように再開してるんだ。終わったんじゃなかったのか。

「柳瀬さん、もう終わりじゃ」

「ん?俺、まだ満足してないけど」

「え?……あっ」
 
 そういえば「撫でる」の前に「満足するまで」が付いていた。完全に見落としていたことに今さら気づく。

 なんだそれ、それって一体いつなんだ。これも計算済みだったのか、やつは……!ちょっとずるいような気もするが、しかし反論はできなかった。

「でも撫でられるの好きだろ?」

「はっ、好きじゃないですけど?」

「本当かな」

 英司が後ろから顔を覗かせながら、手は動かしつつ煽るように言う。

 千秋も半分振り返って睨んでやると、今度は突然、もう片方の手が顎下に触れた。

「ひゃうっ!?」

「……いい反応だな」

 油断していたせいか、首近くだったせいか、自分でも驚く声を出してしまった。

 理解の追いつかない千秋をよそに、英司の指は猫をかわいがる時のように、こしょこしょと千秋の喉元を擽り始める。

 な、なんだこれっ……?

 意味がわからなくて、さっき抵抗しようとして挙げられた両手が行き場を失う。

「うりうり、かわいいやつめ」

「や、やめっ」

「なんて?」

「これ撫でるじゃな……っ」

「喉を撫でてるだろ」

 そんなの屁理屈だ。たしかに、どこを撫でるかは指定していなかったけど、こんなの絶対ずるだ。

 なのに、そう思って言い返そうとするも、擽られる喉元に意識がどうしても行ってしまい、なんだか上手く喋れない。

「千秋、気持ちよさそー……」

「ぐ、うぅ……」

 引き気味だった顎は、撫でやすいところまで自然と上がり、猫じゃないのに唸りそうになる。こんなの初めてで、感覚に追いつくだけでも精一杯だった。

 英司は少し興奮した様子で、千秋を眺めている。

 頭に置いてあった手が頬にまで滑り落ちてくると、そのままスリスリと撫でられる。ちょうどいい温度の手。これも、気持ちいい……。

「ふ……、……あ」

 ふと喉元から手が離れて、思わず声を漏らすと、
 
「また今度してやるから」

 と千秋の心を読んだように言われたが、別に望んでないですと言おうとして、なぜか慈愛の表情で微笑まれる。その上、また何回か頬を撫でられ、千秋は黙ってしまった。

 今度こそお終いか……と、少し残念に思っているのは自覚したくないが、そう思った時、英司の手が、今度はお腹に触れた。

 あろうことか、服をまくろうとしてくるのだから、千秋は急いで止める。

「ちょっ、なにしてんですか!」

「お腹。これで最後にするから。な?」

「はあ?そんなところ触って何をっ……ヒッ」

 捲るのは諦めたが、裾から潜り込んできた手が、直に千秋の腹に触れる。そして、さわさわと怪しく動き出す。

「ちょっ、これは絶対アウト!」

「ちょっとだけ、ちょっとだけ」

「は、はぁ?」

 そんな顔しといて言うことが変態オヤジだ。

 まあ、でも喉を撫でられるのよりかは、ただくすぐったいだけで大した刺激はない。仕方ないから、英司が飽きるのを待とう。

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