18 / 75
流されるな(10)
しおりを挟む英司は、はぁ……とため息までつくと、千秋の怪訝な表情から感じ取ったのか「いや、」と切り出す。
「金はいいけど、本当は別に何かしてもらおうと思ってたんだけどな」
「はい?」
「まあ、あわよくばの話だけど」
な……な……!
やっぱりこの人、飯の見返りに何か要求しようと企んでたのか!俺の予想は間違っていなかった。食べ始める前に考えたことが当たり、ほら見ろ、と千秋は心の中で得意げに言った。
でも、文脈的にはしてもらおうと思ってた、ということらしい。過去形だ。なら、今は違うということか。
「でもお前のマジで喜んでる顔見たら、そんなことさせるのもなって」
何をさせようと考えていたのかは知らないが、どうやら大好物を目の前にした千秋の喜び具合に、考えを変えたらしい。
そんなにわかりやすく喜んでいたか…?俺。英司から見る千秋と、千秋が思う千秋は、いつも全然違う。
英司は再び、何か要求したい気持ちとそれを憚れられる気持ち、その両方に葛藤させられているようだった。
しかし、今日のことはすでに、前に千秋の手料理を食べた借りを返すことと、約束を守ったご褒美ということで一応落ち着いたはずである。
でも一方で、たしかに、やはりそれだけでは足りないとも思っていた。そもそも、英司が言ったその二つについて千秋は納得できていない。だから、なんだか不完全燃焼というか、そんな感じなのだ。
まず、今日、英司はすごい量の食べ物を買ってうちにやって来た。約束を守るかもわからないのに。そして、とんでもない記憶力と分析力により、千秋の好みを特定し、そのために色々と骨を折ってくれた。店も何件も回ったことだろう。
全て、千秋のために。
それはまるで愛されているようで───とにかく、さまざまなことを合わせて考えると見合っていない。全然対価を払えていない。それはなんだか、対等ではないと思う。
……ああ、だめだ、今俺は、美味しいものを与えられすぎて気が大きくなっているのかもしれない。
だから……。つまり、何が言いたいのかって言うと……
千秋は、勢いで、指を差すようにずいっと人差し指を英司の前に突き出した。でもその手は、すぐに勢いをなくして、するするとテーブルに落ちていく。
「ひ、一つだけなら……」
「ん?」
テーブルに肘を乗せて頬杖をついている英司が、何か言い始める千秋に目を向けた。
「一つだけならっ、……言うこと、聞いてあげなくもないですけど」
思わずぱっと顔を手から浮かせた英司。
「え…………。え?」
これまた珍しい顔で、まさかの千秋の申し出に驚愕するのであった。
ぽかんとしている英司が何も話さないので、間が悪くなり「お、俺ができることだけですけどね!」と慌てて付け加える。
「千秋……いきなりどうしたんだよ」
英司は自分から話に乗って来たことに驚いているようだった。
「お金を払わせてもらえないなら、それくらいしていいと思っただけです。それもいらないって言うなら俺は別に……」
「待て高梨。いらないわけがないだろ」
引き止めるように、英司は先に告げる。
もし無茶なことを要求されたら、断れば良い。さあ、何がくる。掃除か、パシリか、それとも頻繁に飯を作る約束でもさせられるか。いや、それくらいならまだマシだろう。
「お前にできないこと以外なら、何でもいいのか?」
「まあ、基本的には……」
できないの反対はできるだからな。できることはできるに決まっている……と、千秋は当たり前なことを考える。
「なら、お前のこと、満足するまで撫でさせて」
「撫でる?」
こうは言っちゃなんだが、そんなことでいいのか。もっと面倒臭い要望をぶつけてくるかと思ったが、そんなのただじっとしていればいいだけだ。たしかに、黙って撫でさせてやるというのだから、少し、いやかなり屈辱的で恥ずかしいだけで。
「そんなことでいいんですか?」
念の為もう一度確認しておく。
「俺がしたいことだし、いいだろ?」
「柳瀬さんがいいなら、いいですけど……」
少し腑に落ちない部分もあったが、とんでもない要求ではないし、本人が言うなら受け入れるべきだろう。
何が楽しいのかわからないけど、もしかしたらペット的な癒しを求めているのかもしれない。もしそうなら、希望に添えなさそうだが。
英司が「ベッド座っていい?」と聞いてきた。この部屋にはソファがなく、テーブルの横には座布団が置いてあるだけだから、ずっと座っていて体が痛いのかもしれない。
いいですよ、と答えると、そのまま英司はすぐ後ろのベッドに腰掛けた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる