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7 王女殿下と木精編
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ザワザワしていた会場がいつの間にか静まり返り、会場にいる全員がデルティ殿下に注目する。
探るような好奇に溢れた視線にも、相変わらず警戒するような視線にも、デルティ殿下は捕らわれることなく、自分のやるべきことを行い始めた。
すーーーーーーー
視線を一点に集中させ、大きく息を吸い込み胸を膨らませると、一気に吐き出す。
「その一まずは自分の魔力を感じて鳩尾からおへその下辺りの場所に集めるその二自分の身体をスープ鍋のように見立てて鍋に集めた魔力を大きなさじでぐるぐるとかき混ぜるその三ぐるぐるぐるぐるただひたすら無心でかき混ぜているとそのうち魔力がどろどろしてきてとろみがついてくるその四とろみがついた魔力を指先から細く細く伸ばして細い魔力で使いたい魔法の魔法陣を描くその五描いた魔法陣にさらに自分のとろみがついた魔力を注いでいくその六注ぎきったところで一瞬息を止め魔導語で使いたい魔法を唱えるその七必要に応じて魔法陣を維持する以上」
よしっ! 一気に言い切った!
いやいや、重要なのは言い切った言葉の方じゃなくて。
デルティ殿下は、言葉通りに言葉の内容を実行して、言い切ると同時に完遂させたのだ。
見事、見事にここまで成長した!
それなのに。
私の隣からはやや渋めの声。
「あれはどうにかならなかったのか?」
何を言う!
あの早口言葉があるから、デルティ殿下はテンポよく魔法陣の高速展開が出来るようになったんじゃないの!
あのデルティ殿下が、魔法陣の高速展開を習得するだなんて。まるで奇跡、夢のようなことだというのに!
「ルベラス魔導公殿、涙ぐんでる場合ではないぞ。まだ魔法陣の段階だ。前置きの言葉は長かったが」
「良いじゃないですか! あそこまで出来るようになるの、本当に、凄く凄く大変だったんですよ?」
前置きの言葉が長いのも、私が涙ぐむのも、どちらも別に大したことではないはずなのに、いちいち引っかかるようなことを言われると、なんだかムカついてくる。
大声で言い返してしまったのは、そういった諸々のことが原因だった。
大人気ないとは思うけど、今回の場合はムカつくことをわざわざ言ってきた方こそ大人気ないと、私は感じている。
もう一言、何か言ってやろうかと考えているところに、デルティ殿下の『力のある言葉』が響いた。
「《我が声に応じて芽吹け、木精リグヌム》」
うん、魔導語も頑張って勉強させたんだよ。
特訓の最初の頃は、まさか、魔導語もろくに喋れないとは思わなかったわ。だって、杖の言葉はちゃんと聞き取れていたのだから。定型文だけでなく自由に喋れると思うでしょ、普通は。
と、そのとき。
「魔力が不安定だな」
やや渋めの王太子殿下の声が、私をデルティ殿下に注目させる。
よくよく見ると、魔法陣の魔力展開にムラがある。綺麗に魔力が流れているところと淀んでいるところが出来てしまっていた。
普通の人には分からない程度のものでも、三聖の主にもなると、やはり嫌でも目に付いてしまう。
会場のおおよその人は分からない人たちなわけで、キラキラと翡翠色に輝く魔法陣を見て、感嘆の声を漏らしていた。
「頑張って、デルティ殿下!」
思わず、応援をする声が出る。
ここまで自力で頑張れたんだから、最後まで頑張って、召喚成功のところまでたどり着いてほしい。
祈るような気持ちで、応援の声を挙げると、私に続いて他の声も聞こえてくる。
「頑張れ!」
「王女殿下!」
「あと少し!」
声援を送るのは国内外の招待客の一部。
入り口前の仮主たちは主役を奪われたせいか、冷ややかな視線を送っているし、招待客の残りは変わらず警戒するような視線。
グィィィィィィーン
しかし、声援は確実に、デルティ殿下の力になっていたのだ。
ムラがあった魔力は均一化し、淀みもなくなり、一層、キラキラし始めて。
「うん、いける」
私のつぶやきに王太子殿下も静かに頷く。
そして、
「やったわ!」
魔法陣がふうっと消えると同時に、現れたのは見知った姿。
「《リグヌム!》」
デルティ殿下が魔導語で呼びかける。
その眼には涙が浮かんでいるようにも見えた。
おそらく、自力で呼び出したのは初めてだったのだろう。
状況を理解できないようで、最初はぼーーっとしていたリグヌムの視点が、デルティ殿下の呼びかけでピタッと定まると、
「あ。主! 僕を呼び出せたんだ!」
身も蓋もないことをポロリとこぼしたのだった。
やっぱり。初めてだったんだ。
リグヌム、今まで相当、大変だったんだな。まぁ、仕方ないな。自分で主を選んだんだろうしな。
喜びと同時に頭の痛い事態に、今まで何を教育していたんだか、スロンの王太子殿下に文句を言おうとしたところで、
「ギリギリだったな。大丈夫だと言ってなかったか?」
先を越された。
じーーーっと私を責めるような目で見ている。
あれ?
私、圧ってどうしたっけ?
《主。リグヌムにかるーく圧をかけたままだったぞ?》
《主、あれもこれもとあって、忙しくて忘れてたんじゃない?》
セラフィアスとクラヴィスの指摘に、あ、とようやく思い出す。事後だけど。
「あー、リグヌムに圧をかけてたの、すっかり忘れてた」
うん、今からでも遅くはないな。
パチン
やや渋めの顔の王太子殿下の顔が、さらにさらに渋くなるのを横目で見ながら、私は圧を解除するのだった。
「リグヌム! 喜んでいる場合じゃないわ。分かるかしら?」
突然、デルティ殿下の緊迫した声が聞こえた。
と、次の瞬間、声がかき消える。
三聖の展示室前の隅の方にはアキュシーザがいて、何かの魔法を発動させている。
ふと、アキュシーザと目が合った。
ような気がした。ううん、合うはずがない。こんなに離れているんだから。
「アキュシーザが《遮音》を使ってます」
私は急ぎ、王太子殿下に報告をする。
正確には《遮音》ではないけど、似たようなものだ。薄い水の膜で覆って、音を外に漏らさないようにしているのだから。
「破れるか?」
「え? 破っていいんですか?」
「気づかれないようにな」
無理やり強行突破できないことはないけど。王太子殿下の『気づかれないように』という言葉には、招待客たちに攻防を気づかれないようにしろっていう意味が含まれている。
まったくもって、面倒臭い。
「《クラヴィス、穴をあけて》」
面倒臭いけど、仕方がない。
《任せて、主》
クラヴィスの能力は鍵穴。鍵穴に鍵を差し込んで回せば、閉ざされた扉も開放される。
アキュシーザが作った薄い水の膜に鍵穴を作れば穴が開く。穴が開けば、声が聞こえるようになる。
《解錠!》
細かい理屈は私にもよく分からないけど、クラヴィスは見事に、しかもあっさりと、穴を開けて、空間を開放した。
聞こえてくるのは、クズ男の勝ち誇ったような声だ。
「はははは。これで揃った。木、火、土、金、水。すべての『五界』が」
聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「『五界』?」
「考えてる場合じゃないぞ! 《スローナス、制しろ!》」
王太子殿下が珍しく焦って、手のひら大の魔法陣を展開させると、流れるような動きでスローナスの力を開放した。
会場の招待客が一斉にぼーーーっとし始める。まるで、夢でも見ているような目つき。続いて、招待客全員の頭がガクンと垂れた。
「記憶に残すわけにはいかないからな。それより、筆頭殿を止めないと」
王太子殿下は魔法陣を操りつつ、周りに指示する。
私も備えていた魔法陣をさらに練り上げようとしたところで、クズ男の力ある言葉が響いた。
「《自然の五界よ、巻き上げよ、汝等の力となせ》」
はっとして入り口前を見ると、そこには五強が二人。リグヌムとイグニスだけ。他の三人はいつの間にか、招待客を囲むように会場の縁に散らばっている。
「くっ、逆五芒星ベースの魔法陣か」
「みんなの魔力を吸い上げるつもりだわ」
正が中から外へ放出する正しい力だとすると、逆は外から中へ吸い込む逆さまの力。
クズ男はリグヌム以外の五強に、魔力を与えるため、仮主でもなんでもない人たちの魔力を吸い尽くそうとしている!
「人間をなんだと思ってるのよ!」
私たちはちょうど五芒の外側。五芒の内側にいる人たちは、王太子殿下の魔法陣で半分夢うつつ。逃げることが出来ない。抵抗も出来ない。
これでは魔力を吸い尽くされるのを待っているだけ。
「ダメだ。今、私の魔法陣の解除は出来ない」
「そんなこと言ったって!」
「現状をどう説明するつもりだ?!」
「そうだけど!」
王太子殿下とあわや言い争いになろうとしたその時。
「《リグヌム! 逆回転よ!》」
デルティ殿下の叫ぶ声。しかもしっかり魔導語になっていて、リグヌムに指示を出している。
「《ムチャ言わないでくれ、主》」
「《あなたなら、やれるわ!》」
慌てるリグヌム、でも押し通すデルティ殿下。
「リグヌムへのムチャぶりがヤバい」
そして、
すーーーーーーー
デルティ殿下は息を大きく吸った。
探るような好奇に溢れた視線にも、相変わらず警戒するような視線にも、デルティ殿下は捕らわれることなく、自分のやるべきことを行い始めた。
すーーーーーーー
視線を一点に集中させ、大きく息を吸い込み胸を膨らませると、一気に吐き出す。
「その一まずは自分の魔力を感じて鳩尾からおへその下辺りの場所に集めるその二自分の身体をスープ鍋のように見立てて鍋に集めた魔力を大きなさじでぐるぐるとかき混ぜるその三ぐるぐるぐるぐるただひたすら無心でかき混ぜているとそのうち魔力がどろどろしてきてとろみがついてくるその四とろみがついた魔力を指先から細く細く伸ばして細い魔力で使いたい魔法の魔法陣を描くその五描いた魔法陣にさらに自分のとろみがついた魔力を注いでいくその六注ぎきったところで一瞬息を止め魔導語で使いたい魔法を唱えるその七必要に応じて魔法陣を維持する以上」
よしっ! 一気に言い切った!
いやいや、重要なのは言い切った言葉の方じゃなくて。
デルティ殿下は、言葉通りに言葉の内容を実行して、言い切ると同時に完遂させたのだ。
見事、見事にここまで成長した!
それなのに。
私の隣からはやや渋めの声。
「あれはどうにかならなかったのか?」
何を言う!
あの早口言葉があるから、デルティ殿下はテンポよく魔法陣の高速展開が出来るようになったんじゃないの!
あのデルティ殿下が、魔法陣の高速展開を習得するだなんて。まるで奇跡、夢のようなことだというのに!
「ルベラス魔導公殿、涙ぐんでる場合ではないぞ。まだ魔法陣の段階だ。前置きの言葉は長かったが」
「良いじゃないですか! あそこまで出来るようになるの、本当に、凄く凄く大変だったんですよ?」
前置きの言葉が長いのも、私が涙ぐむのも、どちらも別に大したことではないはずなのに、いちいち引っかかるようなことを言われると、なんだかムカついてくる。
大声で言い返してしまったのは、そういった諸々のことが原因だった。
大人気ないとは思うけど、今回の場合はムカつくことをわざわざ言ってきた方こそ大人気ないと、私は感じている。
もう一言、何か言ってやろうかと考えているところに、デルティ殿下の『力のある言葉』が響いた。
「《我が声に応じて芽吹け、木精リグヌム》」
うん、魔導語も頑張って勉強させたんだよ。
特訓の最初の頃は、まさか、魔導語もろくに喋れないとは思わなかったわ。だって、杖の言葉はちゃんと聞き取れていたのだから。定型文だけでなく自由に喋れると思うでしょ、普通は。
と、そのとき。
「魔力が不安定だな」
やや渋めの王太子殿下の声が、私をデルティ殿下に注目させる。
よくよく見ると、魔法陣の魔力展開にムラがある。綺麗に魔力が流れているところと淀んでいるところが出来てしまっていた。
普通の人には分からない程度のものでも、三聖の主にもなると、やはり嫌でも目に付いてしまう。
会場のおおよその人は分からない人たちなわけで、キラキラと翡翠色に輝く魔法陣を見て、感嘆の声を漏らしていた。
「頑張って、デルティ殿下!」
思わず、応援をする声が出る。
ここまで自力で頑張れたんだから、最後まで頑張って、召喚成功のところまでたどり着いてほしい。
祈るような気持ちで、応援の声を挙げると、私に続いて他の声も聞こえてくる。
「頑張れ!」
「王女殿下!」
「あと少し!」
声援を送るのは国内外の招待客の一部。
入り口前の仮主たちは主役を奪われたせいか、冷ややかな視線を送っているし、招待客の残りは変わらず警戒するような視線。
グィィィィィィーン
しかし、声援は確実に、デルティ殿下の力になっていたのだ。
ムラがあった魔力は均一化し、淀みもなくなり、一層、キラキラし始めて。
「うん、いける」
私のつぶやきに王太子殿下も静かに頷く。
そして、
「やったわ!」
魔法陣がふうっと消えると同時に、現れたのは見知った姿。
「《リグヌム!》」
デルティ殿下が魔導語で呼びかける。
その眼には涙が浮かんでいるようにも見えた。
おそらく、自力で呼び出したのは初めてだったのだろう。
状況を理解できないようで、最初はぼーーっとしていたリグヌムの視点が、デルティ殿下の呼びかけでピタッと定まると、
「あ。主! 僕を呼び出せたんだ!」
身も蓋もないことをポロリとこぼしたのだった。
やっぱり。初めてだったんだ。
リグヌム、今まで相当、大変だったんだな。まぁ、仕方ないな。自分で主を選んだんだろうしな。
喜びと同時に頭の痛い事態に、今まで何を教育していたんだか、スロンの王太子殿下に文句を言おうとしたところで、
「ギリギリだったな。大丈夫だと言ってなかったか?」
先を越された。
じーーーっと私を責めるような目で見ている。
あれ?
私、圧ってどうしたっけ?
《主。リグヌムにかるーく圧をかけたままだったぞ?》
《主、あれもこれもとあって、忙しくて忘れてたんじゃない?》
セラフィアスとクラヴィスの指摘に、あ、とようやく思い出す。事後だけど。
「あー、リグヌムに圧をかけてたの、すっかり忘れてた」
うん、今からでも遅くはないな。
パチン
やや渋めの顔の王太子殿下の顔が、さらにさらに渋くなるのを横目で見ながら、私は圧を解除するのだった。
「リグヌム! 喜んでいる場合じゃないわ。分かるかしら?」
突然、デルティ殿下の緊迫した声が聞こえた。
と、次の瞬間、声がかき消える。
三聖の展示室前の隅の方にはアキュシーザがいて、何かの魔法を発動させている。
ふと、アキュシーザと目が合った。
ような気がした。ううん、合うはずがない。こんなに離れているんだから。
「アキュシーザが《遮音》を使ってます」
私は急ぎ、王太子殿下に報告をする。
正確には《遮音》ではないけど、似たようなものだ。薄い水の膜で覆って、音を外に漏らさないようにしているのだから。
「破れるか?」
「え? 破っていいんですか?」
「気づかれないようにな」
無理やり強行突破できないことはないけど。王太子殿下の『気づかれないように』という言葉には、招待客たちに攻防を気づかれないようにしろっていう意味が含まれている。
まったくもって、面倒臭い。
「《クラヴィス、穴をあけて》」
面倒臭いけど、仕方がない。
《任せて、主》
クラヴィスの能力は鍵穴。鍵穴に鍵を差し込んで回せば、閉ざされた扉も開放される。
アキュシーザが作った薄い水の膜に鍵穴を作れば穴が開く。穴が開けば、声が聞こえるようになる。
《解錠!》
細かい理屈は私にもよく分からないけど、クラヴィスは見事に、しかもあっさりと、穴を開けて、空間を開放した。
聞こえてくるのは、クズ男の勝ち誇ったような声だ。
「はははは。これで揃った。木、火、土、金、水。すべての『五界』が」
聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「『五界』?」
「考えてる場合じゃないぞ! 《スローナス、制しろ!》」
王太子殿下が珍しく焦って、手のひら大の魔法陣を展開させると、流れるような動きでスローナスの力を開放した。
会場の招待客が一斉にぼーーーっとし始める。まるで、夢でも見ているような目つき。続いて、招待客全員の頭がガクンと垂れた。
「記憶に残すわけにはいかないからな。それより、筆頭殿を止めないと」
王太子殿下は魔法陣を操りつつ、周りに指示する。
私も備えていた魔法陣をさらに練り上げようとしたところで、クズ男の力ある言葉が響いた。
「《自然の五界よ、巻き上げよ、汝等の力となせ》」
はっとして入り口前を見ると、そこには五強が二人。リグヌムとイグニスだけ。他の三人はいつの間にか、招待客を囲むように会場の縁に散らばっている。
「くっ、逆五芒星ベースの魔法陣か」
「みんなの魔力を吸い上げるつもりだわ」
正が中から外へ放出する正しい力だとすると、逆は外から中へ吸い込む逆さまの力。
クズ男はリグヌム以外の五強に、魔力を与えるため、仮主でもなんでもない人たちの魔力を吸い尽くそうとしている!
「人間をなんだと思ってるのよ!」
私たちはちょうど五芒の外側。五芒の内側にいる人たちは、王太子殿下の魔法陣で半分夢うつつ。逃げることが出来ない。抵抗も出来ない。
これでは魔力を吸い尽くされるのを待っているだけ。
「ダメだ。今、私の魔法陣の解除は出来ない」
「そんなこと言ったって!」
「現状をどう説明するつもりだ?!」
「そうだけど!」
王太子殿下とあわや言い争いになろうとしたその時。
「《リグヌム! 逆回転よ!》」
デルティ殿下の叫ぶ声。しかもしっかり魔導語になっていて、リグヌムに指示を出している。
「《ムチャ言わないでくれ、主》」
「《あなたなら、やれるわ!》」
慌てるリグヌム、でも押し通すデルティ殿下。
「リグヌムへのムチャぶりがヤバい」
そして、
すーーーーーーー
デルティ殿下は息を大きく吸った。
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