運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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7 王女殿下と木精編

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 クズ男、正しくは、王宮魔術師団の筆頭魔術師ディルス・リーブル魔導伯が、デルティ殿下、こちらも正しく言うと、デルティウン・グラディア第一王女殿下に対して、不敬にも挑発するような口調で呼びかけた。

 クズな上に不敬な男に、毅然とした表情を返すデルティ殿下。

 と、思いきや、

「これってどうしたらいいの?」

 毅然とした表情は見せかけで、内心はかなりおどおどしている感じ。

 表情に出さないのは最近の王族教育の賜物。うん、頑張ってるよね、最近は。

 とりあえず、私は現況を告げる。

「だから。リグヌムを呼び出しても、呼び出さなくても、どちらにしろマズい状況なんだって」

「リグヌムを呼び出さなければ、杖を扱えない五強の主だと、知らしめることになるな。デルティの評価はだだ下がりだ」

 追い討ちをかけるように、王太子殿下からは厳しい現実が告げられた。

「で、でも、筆頭殿は五強を勢揃いさせたがっているわけよね。ならば、揃わせないのが正解じゃないの?
 わたくしの評価なんて、元々、地に落ちているんだし」

「おぉ、開き直った」

 そう、来るか。そう、考えるか。

 まぁ、いいけど。

 五強を勢揃いさせたがってるクズ男が、大人しくしているとは思えなくて、クズ男がいる方を見ると、少しイライラした様子。

 トリビィアス殿下は困ったようにしているけれど、それ以上はクズ男に介入できないようだった。

 王族なのに、一介の魔術師より弱いってどういうことよ。と思わなくもない。

「おや、どうしました? 王女殿下?」

 ほら。

「もしかして緊張されてますか? 一番、お若いんですから、そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ」

 クズ男のヤツ、わざと声を張り上げてる。

 三聖の展示室の前のこの広場は、元々、声が響きやすい。入り口のところで喋ると普通に喋っても辺りに響き渡るのに。

「ここにお集まりいただいたみなさんの、安全のためにも、ぜひ、リグヌムの姿をお願いいたします」

 そして、最後には脅してきた。

「安全?」

 デルティ殿下が首をひねる。

「バランスが崩れて地盤の魔力が揺らいだ状態が続くと、魔力圧が高まって人間の身体に負荷がかかるからね」

 普通なら魔力圧が高まっても、ずっと圧を加えられてる状態でなければ、それほど影響はない、はず。

 でも今は。

 お披露目会と称して、長々とこの場に留めさせている状況だった。

 突然、焦り出すデルティ殿下。

「それじゃ、リグヌムを呼び出さないとマズいんじゃないの!」

 招待客の方を心配そうに見やる。

 うん、デルティ殿下には自分以外を心配したり思いやったりする気持ちが、多少なりともあるんだよね。

 私は眼を細めて、デルティ殿下の様子を窺っていた。

 我が儘で傲慢で、怠け者でヘタレなところもあって、でも、純粋で思いやる気持ちも持つお姫さま。

 デルティ殿下を見ていると、私の心の中に、とある気持ちがムクムクと湧いてくる。

 妹がいたら、こんな気持ちになるんだろうか。

 デルティ殿下が困ったり傷ついたりしないよう、私の手で、

「鍛えてあげたいわ、もっとビシビシ」

「ルベラス魔導公殿。それは、妹に対する感情ではないぞ」

「えっ」

「どちらかというと、不出来な弟子に対する感情だな」

 くくぅ。ピンポイントで人の心を読んでくるよ、この人。だから、あまり得意じゃないんだよね。

「ま、まぁ。魔力圧他もろもろについては、私がなんとかしてるから。デルティ殿下はリグヌムに集中して」

 私がデルティ殿下に顔を向けて、というか王太子殿下から顔を背けてというか、力強く頷くと、デルティ殿下は一瞬、目をつぶった。

 そして、カッと目を見開くと、そこには迷いのない表情のデルティ殿下がいた。

「呼び出して、弱め合う方向に誘導させればいいんでしょ。やってあげようじゃないの」

 言ってる内容こそ破れかぶれに聞こえるけれど、短期間で特訓したことは必ず身についているはず。

 私は力づけるように、デルティ殿下に声をかけ、手を握りしめた。

「うん。どーんとやってきて。デルティ殿下には三聖と三聖の主が味方についているんだから」

 軽く抱きしめる。

 私より少し小柄で華奢な体格。この細い肩に五強の真の主という重圧が乗っている。それを少しでも軽くしようと、私は肩をポンポンと叩いた。

「ええ、わたくしに出来ることをやってくるわ、全力で」

 デルティ殿下は専属護衛とともに、展示室の入り口前へ。一歩一歩、堂々たる姿で歩いていった。

 そして、

「みなさま、お待たせしました。グラディア王国第一王女のデルティウンです。
 準備が整いましたので、さっそく始めます」

 入り口前の中央で、デルティ殿下が堂々とした姿を崩すことなく声を張り上げる。

「大丈夫、なんだろうな?」

 私の隣には急に心配顔になった王太子殿下、いや、デルティのお兄さんが、そわそわと落ち着かない様子で入り口前を眺めていた。

「自分の妹ですよね? 信じてあげてください」

 こうして、デルティ殿下のリグヌム召喚が始まった。

「では、行きます!」

 私たちは少し離れたところで見守りながら、次の動きに向けて、緊張を高めていた。
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