運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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7 王女殿下と木精編

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 視線を一点に集中させ、一気に吐き出す。

「その一まずは自分の魔力を感じて鳩尾からおへその下辺りの場所に集めるその二自分の身体をスープ鍋のように見立てて鍋に集めた魔力を大きなさじでぐるぐるとかき混ぜるその三ぐるぐるぐるぐるただひたすら無心でかき混ぜているとそのうち魔力がどろどろしてきてとろみがついてくるその四とろみがついた魔力を指先から細く細く伸ばして細い魔力で使いたい魔法の魔法陣を描くその五描いた魔法陣にさらに自分のとろみがついた魔力を注いでいくその六注ぎきったところで一瞬息を止め魔導語で使いたい魔法を唱えるその七必要に応じて魔法陣を維持する以上」

 さらに、

 魔力を一気に練り込んだ。




 ハァァァァァァァァ




「《リグヌム、逆回転! 巻き上げるんじゃなくて、吐き出す方に!》」

 デルティ殿下の魔導語が、リグヌムに対して鋭く指示を出す。

「なんだと?!」

 ここにきて、ようやく、デルティ殿下のやろうとしていることに気がついたのか、クズ男も自分の魔力を集め出した。

 が、

「うううう、わたくしだって、やればそれなりなんだから!」

 すでにデルティ殿下は練りあがって、言葉を放っている状態。

 しかも、クズ男のアキュシーザでは、デルティ殿下のリグヌムには対抗できない。
 リグヌムの方が格上だし、他の五強と違って正式に主を得ているから。




 ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ




 デルティ殿下なのか、クズ男なのか、どちらなのかも分からない荒い息が、耳に聞こえてきた。

 王宮魔術師団筆頭のクズ男はともかく、デルティ殿下は魔力も気力も体力も限界が近い。

 うん、デルティ殿下がクズ男と対峙する事態はまったく想定してなかったけど、走り込み、させておいて良かったわ。

 突然、


 ガクン


 と、デルティ殿下が片膝をつく。

 ダメだ。さすがにもう限界なんだ。

 ニヤリと笑うクズ男。

 マズい。私はとっさに右手を前に出すと魔法陣を展開させようとして、


 ガシッ


 と、横から右手を掴まれた。

「なんで? デルティ殿下が!」

 王太子殿下だ。王太子殿下が邪魔をしたのだ。
 殿下の突然の行動に混乱する私。
 そんな私に王太子殿下は静かに告げる。

「まだだ。デルティはまだ、やる気だ」

 視線をデルティ殿下に向ける王太子殿下。だけれど、私の右手を掴む殿下の手はわずかながらに震えていた。

 仕方なく、私は右手を引いた。

 引きはしたけど、瞬時に制圧できるよう、魔法陣は余分に用意しておく。

 王太子殿下の言葉通り、デルティ殿下は最後の力を振り絞ってきた。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。《まだよ、リグヌム!》」

 そして、絶叫する。




「逆がダメなら、《巻き上げを止めて!》」




 逆五芒の魔法陣の中にいる招待客たち。

 デルティ殿下の叫びとともに、彼らの魔力が吸い上げられるのが、ピタリと止まる。

 やった、デルティ殿下、一人でやってのけたわ。作戦変更して止めただけではあるけど。殿下とリグヌムがクズ男と他の五強に打ち勝ったのだ。

「お見事!」

 手を叩いて喜ぶ私の隣で、王太子殿下がうむっ、と頷いている。

「ハァ、ハァ、やった、やったわ!」

 入り口前では、クズ男が眉間にしわを寄せてデルティ殿下を睨んだ。

 かと、思ったら、ニヤリと笑う。

 何あの余裕?

 その答えは、デルティ殿下の悲鳴にも似た声で分かった。

「なんで?! 止まったのに!」

 一度、止まったはずの逆五芒の魔法陣が、再び息を吹き返すように、また、動き始めたのだ。
 最初よりはゆっくりだけど、魔法陣内の人々の魔力を吸い上げている。

「当然だろう、ちっぽけな王女殿下。筆頭を務めるだけの力、甘く見てもらっては困るなぁ」

 ふらふらするデルティ殿下に、躙り寄るクズ男。

 デルティ殿下に詰め寄ろうとしたところで、動きを止める。

 専属護衛と、それにトリビィアス殿下が、デルティ殿下の前に立ちふさがって、さすがに腕力では敵わないと判断したようだ。

 ニヤリとした顔を今度はうっとりと表情に変え、自分の魔法陣の凄さを解説する。

「一度できあがった逆五芒陣。吸い尽くすまで止まらないさ。けっきょく、五強の力となるんだ。みんな、喜んで提供してくれるだろ」

 いや、凄いのは魔法陣じゃなくて、自分理論の方だった。

 よくそこまで自己中に物を考えられるよね。と他人事ながら思ってしまう。
 クズだから当然か。良かった、親子の縁、切れていて。あれが実父だなんて、マジ、ないわ。

 あまりの自分理論に、当然、周りから非難の声があがる。

「筆頭殿、ここには他国からの招待客も混ざっている。国家間問題になるのが分からないのか?」

「あのね。勝手に他人の魔力を奪わないでよ。何様のつもり?」

 王族二人に非難されても、痛くもかゆくもないらしい。素知らぬ顔で言い返してくる。

「国家間問題など知るか。五強様々さ。おこぼれに預かろうと集まった輩なんだから、五強の力となれて光栄だろうに」

 そして、再び躙り寄るクズ男。

 今度はアキュシーザも加勢してきた。

 入り口前に残っていた五強の一つ、アクアはトリビィアス殿下とデルティ殿下の間に割り込んで、分断する。

 アキュシーザはデルティ殿下、アクアはトリビィアス殿下と対峙する形で向き合っていた。

「さぁさぁ、お二人とも中に入ってもらいましょうか」

 つまり、魔法陣の中に入って吸い取られろ、という意味だろう。

 ジリジリと魔法陣の中に追い立てられる殿下たち。

 そこへ、

《任せろ、主》

「リグヌム?!」

 アキュシーザにリグヌムが立ち向かい牽制し始める。

 こうなると一番、不利なのはトリビィアス殿下だ。そのトリビィアス殿下を守るように、専属護衛がトリビィアス殿下の方に身体を動かした。

 その隙に乗じて、動いた人物がもう一人いた。

「リグヌム、頑張って! ってちょっと何をするのよ!」

「王女殿下こそ、筆頭様の邪魔をしないでくださいます?」

 今まで、すっかり存在を忘れさられていたダイアナ嬢。
 そのダイアナ嬢が、デルティ殿下につかみかかったのだ。

 すかさず、デルティ殿下が応戦する。

 手と手が組み合って、ギリギリと音でも出そうなほど力強さで、押し合いが始まった。

 ギリギリと力を入れながら、ダイアナ嬢は、口紅にしては赤黒い色の唇をキュッと吊り上げて歪に笑う。


 ギリギリギリギリ


「わたくし、これでも五強の二本持ちですのよ、王女殿下」


 ギリギリギリギリ


「それと馬鹿力は関係ないでしょ」

 でも、この勝負。年下で、しかも魔力を出し切ったデルティ殿下にとって、分が悪い。

 徐々に押されていって、入り口前の段の一番端へ。

 デルティ殿下のピンチに、近くにいる人たちは駆けつけられないし、離れたところで見ている私たちには手が出せない。

 そうした状況で、ダイアナ嬢が渾身の力を込めて大きく体当たりをした。

 あ、

 と思ったときには、


 ドスン


 という大きな音。

 体当たりでもつれあった二人は、大きな音を立てて、入り口前から広場へと落下。

 二、三段といった程度なので、落ちても大ケガには至らない高さ。衝撃はそれほどでもないはずなのに。

 落ちたデルティ殿下は立ち上がろうと腕に力を入れるが立ち上がれない。何度か繰り返し、地面に張り付いたまま動かなくなった。

「もう、これが限界」

 ついに体力も気力も尽きちゃったか。

 そして、運の悪いことに落ちたところは見事に逆五芒陣の中。

「これで終わりだ。王女殿下の抵抗も意外と、もたなかったな」

 悪役のような台詞を吐き捨てるクズ男が、大きく腕を振るうと、逆五芒陣が輝き、魔力の吸い上げがさらに加速して…………

「何っ?!」

 みんなの魔力が吸い尽くされる、というところで、誰かが驚愕する声が聞こえてきた。
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